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TEAC ティアック TN-5BB、PE-505

denon デノン DP-1300 Mark2、DL103

ortofon オルトフォン 2M/RED

新製品 TEAC ベルトドライブ・レコードプレーヤー TN-5BBとダイレクトドライブ・レコードプレーヤー DENON DP-1300 Mark2にTEAC フォノイコライザーアンプ PE-505を接続し、MMカートリッジ ortofon 2M/RED、MCカートリッジ DENON DL-103を使って聞き比べました。和紙製ターンテーブルシート TEAC TA-TS3-UNのあるなしもチェックしています。

再燃した「アナログブーム」は留まるところを知らず、今やレコードを聞いたことがない世代にも広がっています。

けれど、1980年に絶頂を迎えていたアナログ文化にとどめを刺しておきながら、いまさらアナログを再発する大手国内音響メーカーの製品は信用できるのでしょうか?当時よりも良い音質に仕上がっているのでしょうか?数値化できない「音質」や「音色」などオーディオ機器の「味わい」の伝承は、途切れなく行われているのでしょうか?

残念ながら、答えは「No」です。実際にVicterでハイエンドのアナログ製品を開発していた技術者は部門の解散後、Phasemationに移籍し、ハイエンドなアナログ機器の開発を続けています。

多くのメーカーが「当時の技術の継承するスタッフが不在」という難儀を抱える中、YAMAHAは過去の技術者に広く助言を請うなどの方法で、満を持してGT-5000を蘇らせました。けれど、このような「こだわり抜いた製品開発」が大企業の中で許されることは、ほとんど例外で再発される復刻モデルのほとんどが当時の音とはかけ離れた製品、言い換えるなら「仏作って魂入れず」なモデルになっています。

そもそもオーディオという製品は、過去から現在に至るまで「価格と音質が比例しない」と大きな問題を抱えています。さらに「使い手で劇的に音が変わる」という不確定な要素も加わって「音質の是非を検証する」ことが、非常に難しいのが現実です。

例えば、私がMCカートリッジの定番として誰もが知る「DENON DL-103の音はそれほどでもない」と言えば、マニアから大きな反発が起きることは必至です。けれどDL-103は頂点ではなく、価格を考えれば頑張ってはいますが、現代のMCカートリッジとしては中庸な音質でしかありません。

「間違った風評をきちんと正す」ことなしに、レコードがデジタルよりも良い音で鳴ることは絶対にあり得ません。当時を知る私としては、今の「間違いだらけのアナログ」に正しい情報を打ち込むことで、変な方向への流れを少しでも変えて行きたいと考えています。

※少し前に10万円以内「エントリークラス」でデジタルとアナログの音質を比較していますので、参考にして下さい。

今回チェックするのは、TEACから新発売されたベルトドライブ・レコードプレーヤー「TN-5BB」と多機能トランジスターフォノイコライザーアンプ「PE-505」です。聞き比べるために、ベルトドライブ・レコードプレーヤーとして、ほぼ同価格帯のDENON「DP-1300 Mk2」を用意しました。

カートリッジは、MMカートリッジとしてTN-5BB 附属の「ortofon 2M/RED」、MCカートリッジとして定番の「DENON DL-103」を聞き比べました。さらにターンテーブルシートが附属しないTN-5BBにTEACの和紙製ターンテーブルシート「TA-TS30UN」を使った聞き比べも行っています。

この聞き比べとは直接関係しませんが、現時点での逸品館のリファレンスアナログシステムで同じレコードを聞いたときの音質も、合わせてアップロードしています(準備中)。

TEAC TN-5BB メーカー希望小売価格 OPEN 実売 17万円程度(税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要

36mmの高密度MDFに12mmの人造大理石を組み合わせ、不要な共振を排除したベースに20mm無垢アクリル製のプラッターを組み合わせた、ベルトドライブ方式のレコードプレーヤーです。

プラッター(ターンテーブル)には、20mm厚の無垢のアクリルが使われ、スリップ防止のため表面はサンドブラスト加工が施されていますが、通常のゴム製ターンテーブルシートを使うプレーヤーと比べるとレコードが滑りやすく、横着にプラッターを回転させながらレコード表面をぬぐおうとするとレコードが空回りしました。もちろん、レコードを回転させたまま表面をぬぐうのはプレーヤーにも良くないことですから、TN-5BBに関わらずそういう使い方はおやめ下さい。
33/45/78回転に対応し、電動式のアームリフターと、SAECと共同開発したナイフエッジ式S字型トーンアームを搭載します。
オートリフターを搭載するなど便利な反面、スイッチやノブの質感アームの精度感もカタログ写真ほどではありません。見た目の質感は従来モデルのTN-570からそれほど大きく向上していないような印象でした。今回比較したDENON DP-1300Mk2はすこし高価ですが、その質感はTN-5BBを明確に凌ぎます。サイズの問題もありますが、オーディオ機器としては最も「目立つ位置」に置くプレーヤーですからから、ご購入をお考えの場合にはネットの写真だけで判断せず「実機の確認」をおすすめします。

TEAC PE-505 メーカー希望小売価格 OPEN 実売 17万円程度(税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要

TEACが505シリーズでこだわりを持つ「フルバランス回路(バランス入出力)」を備えることで高いS/N比を実現し、さらに負荷容量の4段切替、負荷抵抗の6段切替、RIAAカーブ3種切替、カートリッジインピーダンス測定、カートリッジ消磁など「マニア垂涎の機能」を満載したフォノイコライザーアンプ。聞き比べでは、これらの各種調整機能、バランス入力は音質向上に効果を発揮しました。

気になるポイントは、メーター照明の明るさ切り替え(照度調節)を「インバーター制御」で行うため、厳密には「消灯」もしくは「最大輝度」以外では、若干S/N比が低下する恐れがあることや、低価格で多機能を実現するため、これらの機能の切替やコントロールを「マイコン」で行うところです。折角のピュアアナログに高周波ノイズの発生源となるマイコンを用いるのはどうかと思ったのですが、確認すると作動時以外マイコンは「スリープモード」に入って発生するノイズはほぼゼロになると言うことでした。実際の試聴でも、照度調節も含めて高周波ノイズの悪影響はほとんど感じられませんでした。

ortofon 2M/RED メーカー希望小売価格 13,000円(税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要
ortofon 2Mシリーズは、妥協のないエントリーモデルとして作られています。スタイラスチップの動きを余すところなく忠実に信号へと変換するために、円柱状のマグネットをカンチレバーの直線上に配置し、左右均一に配置されるpole pinとの距離を最適な位置に配置することで、ひずみの少ない高音質を実現します。このオルトフォン・オリジナルの磁気回路は、2Mシリーズすべてに採用されています。2M/Redはこの磁気回路に接合式楕円針を組み合わせています。

DENON DP-1300 Mark2 メーカー希望小売価格 220,000円(税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要

DP-1300MKIIは、スピーカーに使われる高密度なMDFをベースに天然木突板セミグロス仕上げを施した、美しい総天然木キャビネットが使われる、ダイレクトドライブ方式レコードプレーヤーです。

芯ズレの無い高精度な回転を実現するため、モーター内部に設けたスリットを通過する光パルスの間隔で制御するクォーツロックサーボを使う「ハイ・トルクモーターダイレクトドライブ方式」が採用され、動時間〜0.3秒以内で規定回転に達します。

ハウリング特性を高めるために裏面全体にシリコンラバーでデッドニング処理が施された、直径331mmのハイブリッド二重構造大型アルミダイカストターンテーブルが採用され、高精度で制御されるモーターとの組み合わせで安定した回転を実現します。

高感度のユニバーサルタイプトーンアームは、6mmの範囲で高さ調節が可能な大型アルミダイカストベースに載せられます。カウンターウェイト部にはラバーによるデッドニング処理が施され、不要な共振を排除します。

プレーヤーを支えるインシュレーターは、外部振動に対して理想的な減衰特性を持つ大型インシュレーターが採用されます。

DENON DL-103 メーカー希望小売価格 41,600円(税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要

DL-103はFMステレオ放送用としてNHKとの共同開発により1964年に完成したムービングコイル形ステレオカートリッジです。

独立した2 チャンネルムービングコイルの採用で、広い再生帯域とフラット周波数特性、均等な左右感度差を目標に設計されています。極細のピアノ線で支えているワンポイントサスペンション方式の振動系を採用し、ぶれの少ないステレオイメージと歪の少ない優れた再生音質を実現、さらに軽量かつ堅牢な二重構造のカンチレバーの採用によりすぐれたトレース能力を発揮するなど日本製MCカートリッジの「原器」と呼べるモデルです。

しかし、最新のカートリッジと比較すると「針先が丸針」など、設計の古さは否めません。この歴史的なカートリッジを最新のレコードプレーヤーとフォノイコライザーアンプ組み合わせて、どれくらいの音質が発揮できるのか調べてみました。

試聴環境

今回の「聞き比べ」には、すべてのユニットが同一の材質(ケブラー)で作られているスピーカー、Focal Spectral 40thにAIRBOW波動ツィーター CLT-5を組み合わせたスピーカーシステムを使いました。これは、ヤマハ GT-5000の試聴会で使われていた同一コンセプトのスピーカーYAMAHA NS-5000(すべてのユニットがザイロンで作られている)とアナログの相性が抜群に良かったことから、ピュアアナログの「質感(味わい)」の純粋さを完璧に引き出すには「ユニット間の音色差の小さい=同一の素材でユニットが作られている」スピーカーが最適と考え、ケブラーユニットで統一されるSpectral 40thを選びました。

しかし、さすがにケブラー振動板のツィーターでは「切れ味」が物足りないく感じたので、それを補うために「AIRBOW CLT-5」を併用すると、これが実に素晴らしい音質を発揮してくれたのです。10年以上にわたって試聴レポートを書くために使ってきたスピーカー「Beethoven Concert Grand(T3G)」に変わるモニタースピーカーとして、このセットに今後も活躍してもらう予定です。

スピーカーを駆動するためのアンプには、レコードをより素直な音質(過剰に音が良くならないようにするため)でチェックする目的で、AIRBOW PM7000 Specialをライン入力で使いました。

Focal Spectral 40th(40ペア限定) メーカー希望小売価格 960,000円(ペア・税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要

最高品質の素材を使用したシンプルなネオレトロ・スタイルを特徴する、Focal Spectral 40thは、40周年記念モデルとして企画された特別な限定モデルです。日本国内では僅か40ペアだけが輸入されました。

最高の直線性と明確で正確なサウンドを確保するために、すべてのユニットにはFocal独自の黄色のK2 Powerサンドイッチコーン(アラミド繊維)が採用され、ダイナミックなハイパワーハンドリングを可能とする3ウェイバスレフ型スピーカーです。

ウォールナットで仕上げられたサイドパネル、マットグラファイトブラックをベースにハイグロス・ラッカー仕上げ洗練されたフロントバッフルで構成されるキャビネットは、ハイクオリティーな仕上がりを持っているだけではなく、厚さ5cm (1.97インチ)の極厚フロントバッフル、内部の仕切り板が平行にならないガンマ構造のキャビネットデザインを採用し、ハイエンドスピーカーに求められる高剛性と自然な減衰を可能にしています。

としたスピーカーです。

最新世代のM字型インバーテッドドームツイーターは、驚くほど滑らかで繊細なサウンド、高効率、そして最適なパワーハンドリングを実現し、さらに特定の部品を使用して周波数範囲を広げた最新の音響フィルターは、Powerflowベントシステムを採用することで、より深い低音を実現ています。

癖がなく、自然な音質のSpectral 40thは、あらゆるジャンルの音楽をどんな音量でも楽しく聴かせてくれます。

AIRBOW CLT-5 販売価格 175,000円(ペア・税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要

トライアングルやシンバルのような楽器が高音を発するときは、ツィーターのような薄い膜が高速で往復振動するのではありません。バイオリンなどもそうですが、楽器の高音は楽器の表面が「さざ波のように波打つ」波動モーションによって発生します。

金属が波動モーションで振動するとき、その速度は音速を超える1キロメートル/秒にも及びます。音波は音速を超えると「減衰しなくなる」という特徴を持つため、楽器の音はコンサートホールの隅々まではっきり(クッキリ)と聞こえるのです。

CLT-5は、固有音を持たないカーボンパネルを「波動モーション」で振動させることにより、通常スピーカーからは発生されない(発生していても量が少ない)ハイパーソニックを補うために発明されました。

ネットワークを内蔵するため、お使いのスピーカーとは並列に接続するだけですが、効果は非常に高く高域の明瞭度(アタック成分)が補われることで、高域の再現性が楽器本来の音質に著しく近づくだけではなく、分離の良さや明瞭度、音の広がり、低音の力強さも大きく向上させます。また一般的なスーパーツィーターと違い、発生する音が小さい(能率は75db以下です)ため、スピーカー本体の周波数特性に影響を与えず、またスピーカーそのものの音色(味わい)も変化させることがありません。

AIRBOW PM7000 Special 販売価格 200,000円(税別) (現金で購入)・ (カードで購入

製品の概要

marantz伝統のHDAMを搭載する本格的なプリアンプ部に、フルアナログのディスクリート回路パワーアンプを組み合わせたプリメインアンプです。J-FET入力を採用するフル・ディスクリートのフォノ入力を備えるだけではなく、旭化成エレクトロニクス製 32bit ステレオプレミアムD/Aコンバーター「AK4490EQ」を採用するDACを搭載し、同軸/光デジタル入力だけではなく、ネットワーク、USB、Bluetoothなど豊富なのデジタル入力を装備します。

YouTubeにアップロードしている音は、フォノイコライザーアンプ PE-505の出力をダイレクトにA/D変換(取り込んだ)ものですが、レポートを書くために聞いている音は音を取り込むための装置(USBインターフェイス)を通っていますので、実際の音よりは若干音質が劣化しています。そのためレポートは、実際よりも「やや辛口」になっています。疑問などがございましたら、YouTubeにアップロードしている「生音」でご確認をお願いいたします。

YouTube INDEX

・聞き比べたレコード

・製品と試聴概要の説明

・「MMカートリッジで 聞き比べ」

比較用に曲を短くしたバージョン(TYPE-S) 全曲を聞けるバージョン(TYPE-F)

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MMカートリッジ負荷容量 "220pF"

低音が良く出ることにまず驚かされます。高音は、レコードのイメージからではやや硬く、金属的なフィールがありました。

ボーカルは、高音の抜けが足りず、若干濁りも加わってすこし鼻声に聞こえます。分離もほどほどで、立体感はレコードの標準といった感じでしょうか?

全体的なバランスは、裾野が広がった2等辺三角形で聞きやすい音ですが、高域の透明感と響きの豊かさはもう少し欲しいと思いました。

 ターンテーブルシート"TA-TS30UN"使用、MMカートリッジ負荷容量 "220pF"

ターンテーブルシート"TEAC TA-TS30UN"を使うとボーカルの表情がより細やかに変化し、伴奏との分離感が向上しました。

この曲で気になっていた「高音の刺激感」が抑えられ、硬さがとれてきます。響きも良くなっています。

ピアノの色彩の鮮やかさが向上し、ギターの金属的な響きも良い楽器の音らしくなっています。
TA-TS30UNを使うことで色彩感が向上し、響きが長くなり、空間の濁りが軽減されました。ボーカルが主役のこの曲では、TA-TS30UNを使った方が良い音でした。

 ターンテーブルシートなし(標準状態)、MMカートリッジ負荷容量 "220pF"

この曲でも驚くほど低音が良く出ます。けれど、高音の切れ味が足りないために低音はやや肥大します。また、井上陽水の曲ではそれほど大きな問題ではなかった「高域の抜けの悪さ」が、この曲ではかなり致命的です。

イントロのピアノのアタックが「ぬるく」タッチが不明瞭です。ボーカルも輪郭は「甘く」発音が不明瞭で口の中でもごもご歌っているようです。「CDでは出せない高域が出る」と胸を張るレコードなら、高域がもっと綺麗に伸びるべきです。高域の鮮度の低さが演奏の良さを完全にスポイルしてしまいます。

過去の経験では、「接合針(針の途中に継ぎ目がある)を使うカートリッジ」は、レコードの高周波振動が接合部で弱まってしまうためか、高域が抜けきらないことが多いようです。今回のortofon 2M/REDも接合針を使うので、その悪影響かも知れません。

カートリッジを変更して行う「MCカートリッジでの聞き比べ」で、結果がはっきりするでしょう。

 ターンテーブルシートなし(標準状態)、MMカートリッジ負荷容量 "220pF"

低音は良く出ますが、歯切れが悪いのでリズムが重く感じられます。パーカッションもアタックが甘く、音が丸まっています。

ボーカルと伴奏の分離は良好ですが、すべての音の明瞭度が足りず、それが原因で「音の質感」があやふやです。

組み合わせているMMカートリッジは「ortofon 2M/RED」ですが、推奨される負荷容量は「150-300pF」です。PE-505の負荷容量はそれに合わせて中間の「220pF」にセットしています。負荷容量を切り替えると高域の伸びやかさが変わるため、負荷容量を変えて音質をチェックすることにしました。

 ターンテーブルシートなし(標準状態)、MMカートリッジ負荷容量 "330pF"

低音のリズムが明快になり、ボーカルの音抜けが大きく向上しました。パーカッションもスッキリと鳴り始めます。

同じレコードを聞いているとは思えないほど変化が大きく感じられます。経験上フォノイコライザーアンプの負荷容量切替では、これほど大きな変化を感じたことがなかっただけに驚きです。
シンセサイザーの色彩の鮮やかさも違っていますし、心なしか音量も大きく感じられますが、まだ「演奏が上手に聞こえない」部分には不満があります。

 ターンテーブルシートなし(標準状態)、MMカートリッジ負荷容量 "100pF"

ボーカルと低音が太くなりましたが、パーカッションの切れ味は220pFよりも後退して感じられます。高域の伸びやかさは、負荷容量330pFが良かったようです。

人間の耳は癖があって、特定の曲を繰り返し聞くと「記憶による補完」が強化されて後で聞く音の方が良い音に聞こえる傾向があります。ここは誤解されやすいのですが、人間の聞いている音とはあくまでも「5感や記憶を情報源として脳が作り上げたイメージ」です。夢の中でも音は聞こえますが、この時の音は「耳がきいている音」とは無関係です。イメージを作り上げる「脳の働き」を無視して、音質やオーディオを語ることは出来ません。なぜなら、人間と測定器は「まったく聞こえ方」が違うからです。このような理由から、繰り返し同じ曲で聞き比べた負荷容量音質比較には、やや自信がありません。

それでも、330pFは220pFや100pFよりも高域が伸びやかで、透明感や分離感も改善するように感じられました。そこで確認のため、負荷容量330pFで別の2曲を聞くことにしました。

 ターンテーブルシートなし(標準状態)、MMカートリッジ負荷容量 "330pF"

ピアノの色彩感が鮮やかになりました。ボーカルは滑らかさが増して、透明感と艶やかさが出てきています。

低音はやはりまだ「重い」ですが、ギターの音抜けは改善しているように思います。
それでもやはりこの曲が「良い音」で鳴っているとは言い切れないもどかしさは残りますが、その理由は高音が綺麗に抜けきらないからでしょう。

CDにないレコードの魅力は高音の透明感と艶やかさです。今の音では、その魅力がまだ上手く引き出せていないように思えます。

 ターンテーブルシートなし(標準状態)、MMカートリッジ負荷容量 "330pF"

ピアノの色彩感、ウッドベースの切れ味、ボーカルの滑らかさと透明感が向上することで、2M/REDには330fFの負荷容量がマッチすることが確認できました。

・「MCカートリッジで 聞き比べ」

比較用に曲を短くしたバージョン(TYPE-S) 全曲を聞けるバージョン(TYPE-F)

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "47Ω"

理由はわからないのですが、2M/RED+MMポジションではハムノイズがかなり大きかったので、念のため異なるMMカートリッジも試してみましたが、症状は変わりません。しかし、カートリッジをMCに変えた途端嘘のようにノイズが消えて音が良くなるではありませんか。負荷容量の切替もそうでしたが、MMとMCでこれほど大きな音の差を感じるは、他のフォノイコライザーアンプでは経験しなかったことです。

MCカートリッジでも低音は、やはり良く出ます。けれど2M/REDで感じた「高域の伸びたりなさ」もまだすこし残っています。
不満は完全には消えませんが、「良い音でレコードが鳴っている」と言えるくらいの音にはなってきました。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "47Ω"

イントロのピアノの「鮮やかさ」は、まだすこし物足りません。ボーカルはきめ細やかで滑らかですが、まだ高域がややスモーキー(曇って)なので「この曲らしい哀愁」が十分に再現されません。

試聴環境に「注釈」をわざわざ書いたのは、実は今回の「聞き比べ」が3回目になるからです。1回目の聞き比べでは、高域の抜けがもっと悪く、とても評価できるレベルに達していませんでした。これではインターネットに音質評価をアップロード出来ないので、問題点をTEACteacに伝えると、早々に企画と設計の責任者が逸品館に飛んできて来てくれました。彼らと一緒に聞いたときの音は、正直何の問題もなく「良い音」だったので、違いを尋ねると「私が最初に聞いたPE-505は試作機を生産機に合わせたもので、今回聞いているのは生産機」と、試聴機が違うということでした。最初に聞いたのは何度もやり直しをしているので、もしかすると何らかの不調が合ったかも知れないと言うことでした。最初から完全な機械を送ってくれよ!と思いながら、すべてのテストをやり直しているのがこの3回目なのですが、やはり1回目よりも良いとは言え、2回目の音には全然届かない印象なのです。原因は、録音に使っている「USBインターフェース」しか考えられません。
本来なら、フォノイコライザーから出力される音を直接聞くべき(2回目はそうしていた)なのですが、録音時はまずインターフェイスに入力し、中の回路を通った後の音を聞くことになってしまいます。そのため音の鮮度は若干落ちてるのですが、インターフェイスの影響でこれほど評価が変わるケースは少ないのも事実です(N-01Xの聞き比べでも似たような現象がありました)。
とにかく、そういう理由で「今回のレポート」は、やや正確性に欠ける可能性が高く、実際には「YouTubeにアップロードしている音」が本来の音なので、出来ればそちらの音を参考にしていただければと思います。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "47Ω"

カートリッジをMC(DL-103)に変えたことで、きめ細やかさと色彩感、透明感が一気に向上しました。それでもまた「魅力に欠ける」のは、やはりUSBインターフェイスの影響と「DL-103」が原因なのかもしれません。そもそも40年も以上前に設計されたカートリッジの音質が、現代も通用するものだろうか?

※DL−103の音質は、まだアップロード出来ていませんが「DENON MCカートリッジ全モデルとaudio-technica AT-ART9シリーズ聞き比べ」で確認しています。

満足できるかどうかはともかくとして、現時点でも「TEAC PE-505はMMよりもMCでより良い音が聞けるフォノイコライザーアンプ」ことは違いなさそうです。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω"

DENON DL-103の内部抵抗が40Ωだったので、てっきりPE-505の負荷抵抗戻れと同じにすれば良いと早合点し「47Ω」を選択しましたが、説明書をよく読むと「推奨負荷抵抗:100Ω以上」と書かれていました。TEACの技術者からも負荷抵抗100Ωを試すように指示があったので、負荷抵抗を100Ωに切り替えて聞き直しました。
ピアノの鮮やかさ、高域の伸びやかさが大きく向上しました。音の木目がさらに細やかになって、空気感も伝わります。

ダイナミックレンジが拡大し、音楽のエネルギー感・躍動感は別物のようです。

高域に感じていた不満もほぼ解消して、かなり納得の音になってきました。この段階の音を「YouTubeを使って最初の音」と比べれば、2M/REDとの組み合わせで高域が抜けにくいと主張したことがお分かりいただけると思います。

MMカートリッジの「負荷容量切替」、MCカートリッジの「負荷抵抗切替」は、音質向上にとても有効なので是非お使い下さい。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω"

ピアノの音の「角」が立ち、色彩の鮮やかさ、微妙なタッチの違いがきちんと再現されるようになりました。ウッドベースは切れ味が格段に向上して、やっと「本物らしい音」になってきました。ボーカルは、透明感と表情の細やかさが全然変わります。やっとこの「演奏の良さ」が伝わるようになってきました。

MM/MCの違い、設定の違いで印象は大きく変わりましたが、共通して感じられるのは「低音の豊かさ」です。チープな機器と高級機の違いは「音の細かさや解像度(情報量)」に表れますが、同時に高級機は「しっかりと地面に足がついたバランス」でなければなりません。しっかりした「ボディー(土台)」があってこそ、高級機らしい、きめ細やかさ、滑らかさが生かされるからです。

また、低音がしっかりと再現されることで、楽音の透明感と色彩の鮮やかさ、体が包み込まれるような音の広がりが創出され、演奏が大きく躍動し始めます。

演奏がより感動的に伝わってこその高級機ですが、この段階の音ならそのレベルは確実にクリアしています。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω"

イントロのシンセサイザーの音がまったく違います。凜とした透明感、鮮やかな色彩感。ドラムの音も遅れずについてきます。

パーカーションは「材質感」が伝わルほどリアルで、後ろで鳴る「ストリングス」の感じも抜群です。ボーカルは、もちろんスッキリと抜けています。

ここからの試聴は、プレーヤーとフォノイコライザーアンプの接続を「RCA」から「XLR」に変更します。
 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω" XLR接続

Phasemationが提唱し、最近話題になっている「XLR(バランス接続)」を試しました。レコードプレーヤーにバランス出力が備わっていない場合には「RCA-XLR 変換ケーブル」を使うことでフォノイコライザーとバランス接続が可能になります。古いプレーヤーでも変換ケーブルを用意すれば使えるようになるのはありがたいです。(RCA-XLR5PIN-DIN-XLR

最高音部のピーキーさが緩和され、色彩感が濃くなり、低域の遅れも解消します。
今回聞き比べた中で最もバランスが良く、聞きやすい音です。この音なら、この価格を納得できますし、今回試聴しているシステムを「本格的なアナログシステム」として評価できそうです。

結論として、TEAC TN-5BBとPE-505は「XLR(バランス)」接続し、MCカートリッジを組み合わせて使うべきです。そうすることで本領が発揮されます。それにしても、小さな変更でこんなに大きく音が変わるのは、面白くも怖くもあります。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω" XLR接続

ボーカルの細やかな表情の変化、愁いを帯びた歌い方、ボーカルに寄り添う優しいピアノのタッチ、ウッドベースが奏でる柔和なリズム。演奏そのものの表現力が全く変わってしまいます。この音で聞かなければ、この音で聞けなければ、高級アナログシステムとは言えないし、レコードからこの音が出ないのであれば「デジタル」で十分だと思います。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω" XLR接続

この曲もまったく違う曲に聞こえます。

井上陽水のボーカルがぐっと魅力的になり、プロらしいうまさが引き出されます。伴奏との分離も素晴らしく、低音は膨らまず、遅れず、演奏の全体をしっかりと掴んでいます。こういう滑らかで豊かな低音も、デジタルではなかなか出にくい音です。

唯一「色彩感」だけがデジタルを大きく陵駕しているとは言えないのですが、そもそも「色彩の薄い DENON DL-103」からこれだけの音を引き出せれば十分だと思います。

総合評価

ベルトドライブ方式レコードプレーヤーTN-5BBは、サイズと重さから想像できない豊かな低音が魅力的で、ベルトドライブの悪癖を感じさせない明快なサウンドが特徴です。
PE-505は、様々な機能が搭載され、その機能それぞれに意味があります。過去の経験では、フォノイコライザーアンプの設定でこれほど大きく音が変化したことはありませんでした。興味深い反面、その機能をしっかりと理解して正しく使わなければ「しっぺ返し」を食らうかもしれません。そういう意味では、見た目通りマニアックな製品だと言えるでしょう。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω" RCA接続

試聴の締めくくりに、プレーヤーを変えてみました。

今回聞き比べた「TEAC TN-5BB」はベルトドライブです。交換した「DENON DP-1300 Mark2」はダイレクトドライブです。一般的にダイレクトドライブとの比較では、ベルトドライブの方がより音が大きく広がり、響きも豊かです。しかし、TN-5BBとDP-1300 Mark2の比較では、DP-1300 Mark2がより音が大きく広がり、定位の立体感に優れています。さらにボーカルの滑らかさ、艶やかさ、演奏が盛り上がる部分でのドラマチックな展開(動き)の大きさも、DP-1300 Mark2がTN-5BBを上回るように感じられます。低音は、TN-5BBの方が良く出ますが、DP-1300 Mark2も問題なく豊かな低音を再現します。

特に印象的なのは、ボーカルと伴奏が綺麗に分離するところです。DP-1300 Mark2だと「歌を聴いている」、「歌に聴き入っている」感覚がより強く深くなりますが、物理的な音質(情報量)にはそれほど大きな差がありませんし、また価格も近いのでTN-5BBとDP-1300 Mark2のどちらを選ぶかは、サイズ、デザイン、音色などの好みの違いで案外簡単に決まるのかも知れません。

 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω" RCA接続

曲調は好みよりすこし明るいですが、優しく深みのある感じが醸し出されます。峰純子さんの口の動き(形の変化)が見えるように、細やかにボーカルが変化するのは秀逸です。ウッドベース、ピアノとの調和もTN-5BBよりも一枚上手に感じます。特にピアノの音は「タッチの変化」や、ハンマーが弦に当たってからの音の変化がきちんと再現されるので、生演奏を実際に聞いている感覚が自然にわき上がってきました。
聞き耳を立てると、音の深み、静寂感がTN-5BBよりも僅かにスポイルされているのはやはりダイレクトドライブ?という気もしますが、それでも全体的な雰囲気の良さ、演奏を聞かせる力という部分では、DP-1300 Mark2がTN-5BBを陵駕しているように思えます。大人のしっとりしたサウンドが味わえました。
 ターンテーブルシートなし(標準の状態)、MCカートリッジ負荷抵抗 "100Ω" RCA接続

TN-5BBに比べて、シンセサイザーの音がより複雑になっています。低音は若干膨らみますが、リズムは正しく再現されます。

パーカションはアタックの先端がすこしだけ丸いですが、一音一音の音の違いはより明瞭になりました。
ボーカルは透明感が高く、伴奏からスッと抜けてくる感じも魅力的です。

欲を言えば、確かに逸品館おすすめのNottinghamなどと比べて、透明感や立体感では劣るかも知れません。けれど、使いやすさや安定感など、やはり国産品には捨てがたい魅力がありますし、DP-1300 Mark2のように買ってきて、複雑な調整なしにいきなり100%の音が出てくるところも高く評価できるポイントです。
あまり苦労せずに、アナログの良い音を聞きたいとお考えなら、DP-1300 Mark2は、TN-5BBよりも良い選択になると思います。逆に、XLR接続や精密制御のベルトドライブという最新技術に魅力を感じられるなら、TN-5BBという選択もありだと思います。

試聴後感想

今回聞き比べた「アナログシステム」に対して「絶対的な評価」を下すなら、低音の膨らみや遅れ、ボーカルの魅力などに不満が残るのは事実です。同時にこのあたりが「価格の限界」だとも考えられます。

最近「アナログ関連」の情報が多いことにお気づきでしょうか?

逸品館は、業界の先頭に立って「最先端のデジタルサウンド」を追い求め、PCを使う「リアルタイムアップサンプリング」と言う手法で、SACDを大きく超える音質を実現しました。そのデジタルの進化は、アナログを完全に過去のものとしてしまったのです。だから、私はもう長いこと「アナログ(レコード)」を聞いていませんし、それで何ら不足を感じることはありませんでした。

けれど5年ほど前に、博物館に収めるためレコードのデジタルアーカイブの仕事を依頼されたことで考えが変わります。依頼されたレコードは、かなり「世俗的な歌謡曲」で「それまで最高だと思っていたアナログシステム」で鳴らすと「粗が目立って」とても「良い音でデジタル化できました」という音にはならなかったのです。

けれどそんなレコードからも、実現している最高のデジタルに匹敵するような、それにはない「アナログらしい味わい」を持つ音質を実現することを欲張ってしまったのです。そこから、大変な苦労が始まりました。Phasemationの最高級昇圧トランスとフォノイコライザーアンプの組み合わせに、100万円のカートリッジ「朱雀」を組み合わせると、最高のレコードは驚くほどの音質で再生できましたが、肝心の「対象となるレコード」は、全然上手くなってくれません。レコードの録音や演奏を選ぶようでは、どれほど音が良くても「音楽を聞くための装置としては失格」。それが私の考えですし、納得できない音のまま「ハイできました」と提出することもできません。

納得できるサウンドを求めて重ねきれないほどの試行錯誤を重ね、不十分な録音と、不十分な演奏を「より良い音」で再生するため、様々なカートリッジやレコードプレーヤー、アンプなどを聞き比べ、組み合わせの試行錯誤を重ねた結果、2ケ月ほど前にやっと納得できる音が出せるようになりました。そういう「良い音」をずっと聞いていた直後なので、今回のレポートはどうしても評価が辛口ですが、普通に聞くともっと良い音に聞こえたでしょう。

その反省と、良い音が完成した「証拠」として、現時点での逸品館リファレンスシステムで同じレコードを聞いたときの音質をアップロードしましたので、もしよろしければ参考までに聞いてみて下さればと思います。

2020年10月 逸品館代表 清原 裕介

 

 

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