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Triode TRV-84HD Mark2 真空管ヘッドホンアンプ ・ 音質比較テスト
Triodeから6BQ5(EL84)をシングル動作で使う、3W出力のヘッドホン・プリメインアンプが発売されました。前段に12AX7Aを2本使うこの小型アンプがどのような音質なのか、早速テストを行いました。
TRV-84HD Mark2 の概要
Triode TRV-84HD Mark2は、出力管6BQ5(EL84/左右の大きな球)と前段に12AX7A/中央の小さな球)を使う3W出力の真空管ヘッドホン&プリメインアンプです。フロントパネルのトグル型スイッチで切り替えられるLine 2系統の入力と標準ジャック型のヘッドホン出力端子、背面に1系統のスピーカー出力を備えます。
ヘッドホンを差し込んでもスピーカーからの音は消えず、スピーカーの音を消すには電源スイッチの右にあるトグル型スイッチを使います。中央に入力ボリュームつまみを備えています。
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Triode(トライオード)製品のご購入お問い合わせは、経験豊富な逸品館におまかせください。 |
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音質テスト
今回のテストは、Mactone xx-200、xx-550音質テストと同じ機材を使用しました。
音源にはテスト中のDLNAサーバーとAIRBOW SR6007 SpecialをEthernet(サーバー/市販LANケーブル20m/スイッチングハブ/オーディオグレードLANケーブル1m)で接続し、SR6007 SpecialのプリアウトをTRV-84HD Mark2に接続し、TRV-84HD Mark2の音量は最大にしています。
河南スタイル | BAD 25th Anniversary | バッハ・バイオリンソロ | シェーラザード |
Psy | マイケル・ジャクソン | ヒラリー・ハーン | ゲルギエフ指揮 |
なんといっても一番話題の音楽。You Tubeでは見聞きしていてもCDを買って聞くことはあまりないかも知れません。今のK-POPは録音が良く、ジャケットにもお金がかかっていて「リスナーへの愛情」を感じます。金儲け主義で堕落したPOPSとは違います。音の良い機材が使われていることが、音質から伝わります。 | マイケル・ジャクソンの残した音源を最新技術でリマスタリングした(と思います)高音質ディスク。すべての曲の音が優れていますが、7曲目に収録された「Man in the mirror」の音の良さは圧巻です。天井からキラキラした音が降って来た後、マイケルの「肉声」のコーラスが眼前に展開します。素晴らしい音、素晴らしい音楽。 | 一筆書きで描かれたような、まっすぐに迷いのない音で奏でられるバッハのソロ。心が洗われるような澄み切った音色でバッハが奏でられます。 デビューアルバムにして、この完成度。ヒラリー・ハーンの現在の活躍が伺える素晴らしいアルバムです。 |
美しいオーケストラレーションで描かれる甘美な世界観。スペクタクルドラマを見ているように映像が可視かできるほど濃厚に音がぎっしりと詰まっています。 SACD/SACDマルチ/CDの3レオヤーで収録されたこんな素晴らしいソフトがすでに販売されていないことを寂しく思います。 |
音質テスト結果
テスト前に連続10時間以上スピーカー(1028Be)と接続した状態で音を出し、ウォーミングアップを完全終了させました。ヘッドホンは愛用のSennheiser HD25-1を使っています。
Focal 1028Be
このアンプでスピーカーを鳴らすとき一番の問題は、「3W」という限られた出力です。今回組み合わせるスピーカーFocal 1028Beの能率は、91.5dBと比較的高いのは幸いです。スピーカーの能率が高いと、小出力でも大きな音が出せるからです。
どれくらい大きな音が出せるのか、試しに音が歪むまで音量を上げてみました。驚いたことに通常20W程度のトランジスターアンプで鳴らすくらいの音量まで出すことができました。この音量なら、家庭でPOPSを楽しまれるにはほぼ問題ないと思います。
さらに驚いたのは、こんなに小さく小出力のアンプなのにもかかわらず低音がしっかり伸びて、低音の音量も音圧も十分なことです。このソフトには、時折「ド〜〜〜ン」という非常に低い音が入っているのですが、その低い音階までキチンと再現されることに驚きました。
高音は、鋭すぎず丸くなりすぎず、真空管らしい滑らかでスッキリした音で鳴ります。ボーカルは伴奏からクッキリと分離し、楽しく表情も豊かです。
10万円のアンプで鳴らしているとは信じられないくらいのクォリティーの高い音が出ます。Triodeの上級モデルと比較しても、不要な響きの少ない透明度、前後方向の音の広がりと立体感、低音の力強さでまったく引けを取らないと思います。3Wという出力もまったく問題ありません。ハッキリ言って、驚きの高音質です。
若干の問題は、音量を上げると「歪み率が大きくなる」ために、低音が膨らみ音場が少し濁り出すことです。しかし、それはかなりの大音量なので「音場が濁って感じられる」なら、それは音量を上げすぎです。その状態では真空管の負担も大きくなり、寿命にも悪影響を与えるはずです。あくまでも「音が悪くならない範囲」の音量がベストです。
軽量で小出力の真空管アンプは、ウーファーのコーンが重いとダンピング不足で「低音が膨らみがちになる」とされています。3Wの出力では低音は諦めざるを得ないと考えるのが普通です。しかし、TRV-84HD Mark2は良い意味で「例外」でした。
中高域はシンプルなA級増幅を採用するミニチュア出力管を持つアンプの良さが出て濁りが少なく、懸念となる低音や大型スピーカーの駆動に問題がないこのモデルは、Triodeの上級モデルよりも音が良くオススメかも知れません。
ヘッドホン
3Wの出力はヘッドホンには十分すぎるので、スピーカーでは感じられなかった「低音の厚み」が出ます。音の広がりは真空管ならではのストレスを感じないもので、ヘッドホンを付けていることを忘れさせてくれます。
音質の傾向は「真空管らしさ」に溢れています。高域は真空管が生み出す「適度のエコー」の効果で分離に優れ透明感に溢れ、中音は滑らかです。低音は量感に溢れ、ヘッドホンの外側にまで音が広がるように感じます。パワフルで躍動感のある、聞いていて楽しい音です。音量を最大に上げて、ヘッドホンを付けたまま踊り出したい欲望に駆られました。
気になるのは「密度が薄い」ことです。スピーカーでの試聴でも感じたことですが、音の密度感が少し希薄です。透明で大きく広がった音の向こうに「物体が透けている」感じがします。もちろん、この価格のアンプに濃厚さを求めるのが酷というものですが、音があまりにも良いので無い物ねだりになってしまいました。
また高音の音色がほんの少しだけ金属的で「鉄のような音」がまとわりつく感じもあります。しかし、それは絶対的に悪いというのではなく、好みだと思います。この高音の癖は真空管アンプだけではなく、同じく「アウトプット・トランス」を使ったトランジスターアンプ「Mcintosh」でも感じられることがありますから、トランスの癖と考えて良いでしょう。良いところと悪いところを書きましたが、この価格帯では望外の音の良さが実現していることは間違いありません。
Focal 1028Be
冒頭の高音の漂い感、それに続く「指打ちの音」が非常にリアルです。マイケルの声には、表情があり「肉声」のように聞こえます。低音は量感・押し出し感共に十分ですが、やはりすこし「音が薄い」感じがします。この曲はCDをリップしたファイルですが、それが「良くできたMP3ファイル」のように聞こえるといえば、どのような感じか伝わるでしょうか?
バランスが良く、癖がなく、音が広がり、躍動感のある楽しい音ですが、密度感だけは価格を感じさせます。また、パーカッションのアタックにも、もう少し力強さが欲しいと思いました。アタックの芯が少し弱く、輪郭がぶれる感じです。声は素晴らしいだけに、その部分に若干の不満を覚えました。
ヘッドホン
ヘッドホンで聴くと出だし部分の高音の美しさが際立ちます。高音は天井知らずに伸び、エコーの美しさと分離感も抜群です。良く言えばそうなりますが、悪く言うならこれは明らかに「過剰」です。高音が素晴らしく細い輪郭で隈取りされている印象です。低音は低く伸びていますから、下手なトランジスターアンプよりも遙かに広帯域に感じまが、スピーカーと違って耳のすぐ側で音を聞くヘッドホンだから高域のわずかな強調感がより強く感じられます。
このソフトでは細かい音がしっかりと出て、江南スタイルで気になった「密度の低い感じ」はほとんどなくなります。プラネタリウムの中に音がちりばめられたように、美しい広がりの中で音楽が展開されるのは、なかなか気持ちの良いものです。かなり高額なトランジスター方式のヘッドホンアンプでも、こういう音は出ません。良い意味でも悪い意味でも過剰な高域感を持つこと。それがTRV-84HD Mark2の良さであり、限界でもあります。
Focal 1028Be
広がり感、分離感は抜群です。しかし、高域の音色の変化がやや単調なのと、音の密度が若干低いため「高級バイオリンの響きの甘さ」が十分に再現されません。高級な楽器の良さが上手く再現されず、練習用のバイオリンを聞いているようです。
その「質感の物足りなさ」を除けば、非常によい音です。逆に言えば、音が良いからこそ「質感の物足りなさ」をより強く感じてしまうのだと思います。しかし、「生の良い音」を知らなければ、この「質感の物足りなさ」をまったく感じることはないでしょう。入門用と割り切るなら、この音は素晴らしいと思います。
ヘッドホン
POPSの試聴、スピーカーの試聴ではさほど気にならなかったのですが、この曲ではバイオリンの高域があまりにもキツすぎて、数分と聞いていられませんでした。高域がうるさく耳障りで、相対的に低音がまったく聞こえません。完全にアンバランスな音で、ちょっといらいらしてしまいました。
Focal 1028Be
スピーカーの正面から離れたところで聞いているとそうでもないのですが、スピーカーの正面もしくはスピーカーの近距離で聞くと、高域が不自然に持ち上がっていることが分かります。この曲では、テープヒスのような「サワサワした音」が非常に強く出ます。
輪郭の強調感のため高域は分離し音は広がりますが、バイオリンの高域に髭が付きすぎて聞き疲れます。これでは、長時間交響曲を聴くことはできません。
その点を除いては、音は決して悪くないのですが残念です。
ヘッドホン
ヘッドホンで聞くと、より明確にバランスは高域が寄りすぎていることが分かります。しかし、決して中低域の音が足りないのではありません。なぜならば、コントラバスやファゴットの音の量感や太さはキチンと出るからです。管楽器の音も若干高域の強調感はありますが、音を近くに感じるだけでそれほど大きな問題はありません。しかし、バイオリンやチェロの音が出た途端、高域の過剰な髭が気になって、いらいらします。
確かに間近で聞く生のバイオリンの高域エネルギーは、オーディオ機器の比ではありません。しかし、その膨大な高域エネルギーは、うるさいのではなく「快感」です。しかし、TRV-84HD
Mark2で聞く「弦楽器」の過剰な高域のエネルギーは明らかに不愉快です。音量を下げてみてもそれは変わりません。今回の環境や私の好みと著しくマッチしないのでなければ、これは明らかに欠点となりうるアンバランスです。
このアンプの作り手は、弦楽器の音に不満を感じなかったのでしょうか?明らかに行き過ぎていると感じるだけに、その部分は判断に苦しむ結果となりました。
テスト後感想
試聴のウォーミングアップを兼ねてTRV-84HD
Mark2をPC音源と接続し、連続24時間以上J-POPだけをスピーカーで聞きました。スピーカーからやや離れた位置で音楽をBGM的に聞いていた、この時の印象は「これは価格に対して素晴らしい音質のアンプだ!」と言うものでした。試聴を始め、POPSを聞いていた段階ではその印象は揺らぐことはありませんでした。
しかし、ソフトをクラシックに変えてバイオリンの音を聞いたとき、スピーカーの正面でバイオリンを聞いた時、ヘッドホンで「弦のこすれる音」を聞いた時、これはキツイと思いました。高域がささくれて音に耳に突き刺さり、音楽を1分と聞けなかったからです。
その結果を踏まえて判断すると、TRV-84HD Mark2は副作用の強い薬のようなアンプだと言えます。好きなものが大嫌いになる。ある曲では最高だけど、曲が変わると最低になる。この極端な変化をどう感じられるのか?それは、お客様自身がお聞きになって判断なさるのがベストだと思います。
※このテストの結果をTriode代表の山崎さんにお伝えしたところ「貸し出ししたのはプロトタイプなので製品とは音が違うかも知れない.製品はそれほどハイ上がりな印象はない」というお返事を頂戴し、後日「東京からわざわざ製品版の試聴機を携えてご来店」いただきました。早速の製品版を聞いてみると、気になっていた中域の薄さや、高域の耳障りな硬さが見事に払拭された実に心地よく暖かい音質に仕上がっていました。長々とリポートをお読みいただきましたが、製品はこのリーポートよりずっと良い音に仕上がっています。低価格高音質を実現しているTriodeらしい、真心の感じられるTRV-84HDを自信を持ってお薦めいたします。
また、こういうフットワークの軽さと製品に対する真摯な姿勢がTriode製品の品質と音質の良さに繋がっているのだと思います。
2013年2月 逸品館代表 清原裕介
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