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Triodeから発売された、純Aクラス・ハイパワー真空管プリメインアンプ「TRX-88PP」とEARから発売されたヨシノトレーディング設立5周年記念真空管プリアンプ「864 Signature Edition」の音質テストを行いました。
TRX-88PPの概要
Triode TRX-88PPは、純Aクラス50W/Chのハイパワーを持つプリメインアンプです。メーカー希望小売価格は\380,000(税別)とTK88パラプッシュ回路を備える真空管アンプとしては比較的低価格に設定されています。外観色は、最新のTriodeモデルと同じ深みのあるエンジ色です。また、音質改善の決め手となる電源と出力トランスケースの分離(電源とアウトプットトランスを収納しているカバーを独立化)、ワイヤレスリモコンの装備(音量調節のみ)、MMフォノイコライザーの搭載(トランジスター方式)、高/低トーンコントロールが採用されています。
KT88を8本搭載するため発熱は大きく、またボディーも大型なので設置場所は選びます。
無信号時の消費電力は、実測では315Wとカタロ口よりもかなり大きく、あまりエコではありません。上面に真空管のバイアス調整用のメーターとボリュームを備えます。
アルミ削り出しのケースを採用した豪華なリモコンとOFCの高品質電源ケーブル(AIRBOW KDK-OFCと同じ物)が付属します。
Triode(トライオード)製品のご購入お問い合わせは、経験豊富な逸品館におまかせください。 |
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音質テスト結果
AIRBOW SSS-2013 音源はCDをリップしたWAVEファイルをつかいました。
スピーカー: BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)
届けられたTRX-88PPをまず3日間(夜間は電源を切っています)聞き、音質が安定していることを確認しテストを行いました。
B'z The Best “Ultra Pleasure”(2CD+DVD) B’z
Love Phantom
TRX-88PPには、こういうパワフルさと立体感を兼ね備えた曲が素晴らしくマッチします。
イントロのストリングスは後方に広がって展開し、ボーカルは滑らかでパワフルですが、若干声に曇りを感じます。このあたりに真空管をパラレルで使った癖を感じます。ギターは切れ味が抜群で、響きも美しく良い音で鳴ります。
純A級パラプッシュで真空管を動作させている魅力が低音の力強さに出てきます。ドラムは真空管らしく少し遅れますが、それの僅かに重く湿った感じがリズムに絶妙な「タメ」を与え、音場に立体感を醸し出しました。
ZERO
続いてZEROを聞きました。イントロ部分のギターの音に「重さ」と「密度」があります。しっかりとギターのボディーが感じられます。ボーカルのシャウトする部分の抜けの良さも心地よく、後からずんずん押してくるベースの音も魅力的です。音にならない低音の圧力までも再現される真空管プリメインアンプは、それほど多くないと思います。
今まで聞いたTriodeのアンプの多くは、高域に僅かなざらつき感がありました。それが原因で最高域が曇っていたり、高域がざらついてシンバルなどが薄っぺらく聞こえたのですが、TRX-88PPにはそういう高域のざらつきは感じられません。ただ、二つの真空管の出力を合成する(二つの真空管の響きを一つに合わせる)ときに避けられない響きの僅かなブレの影響を高域の濁りとして感じ、全体的に音の密度が僅かに薄く感じたのだと思います。
宵のひととき
ウッドベースの重みと厚み感が抜群で、お腹にずしんと響きます。アン・バートンの声は僅かに若く、Triode独特の高域のメリハリが少し強い部分が出ています。
ピアノも高域の響きが僅かに硬質で、響きが硬く感じられます。この曲はバラッドですが、悲しさが少し薄く情緒が心を上滑りしてしまう感じがあります。
その僅かな「好き嫌い」を除けば、音質としてはこの価格帯の真空管プリメインアンプとして上々だと思います。明るく、晴れやかな音質です。
My
Foolish Heart (試聴したのは完全版ではない、普通のアルバムです)
ピアノのアタックに僅かな強調感を感じます。シンバルも僅かにざらつきますが、全体的な音質は非常によいと思います。
楽器の位置関係や音の広がりがとても自然で、2本のスピーカーの間にステージが出来上がります。アン・バートンでも感じたのですが、明るめの音は「ビル・エバンス」独特の陰りを好む方には、曲の沈み込みが少し足りないと感じられるかも知れません。
しかし、ピアノの質感、シンバルの質感など、音そのものの自然な味わいはTriodeアンプの中ではベストかも知れないと思うほど優れていました。価格は2倍近くしますが、TRV-88SERとは価格差以上に「音の格差」があるように感じました。
ヒラリー・ハーン
デビュー! バッハ:シャコンヌ ヒラリー・ハーン
バイオリンの音が鮮やかに上方に抜けて行きます。
雲一つない青空のように澄み切った若々しく元気な音で奏でられるこの演奏にはTRX-88PPの持つ「明るさ」がとてもよく合っています。
弦の張りある音とバイオリンらしい響きの豊かさのバランスが絶妙で、オーディオで音を聞いているという違和感をほとんど感じることなく、音楽に集中できます。
自然で癖がないTRX-88PPは、高域に硬さや荒れを感じることが多いTriode製品の中で頭一つ分以上完成度が高いと感じます。良い音です。
音の広がりや各楽器の分離感、バランスにはまったく問題がなく良い音で鳴ります。
しかし、この曲だけではなく試聴したソフト全体に感じるのは「音が少し薄い」ということと「音の質感に若干の不満がある」ということです。
その原因は"B'z:ZERO"の試聴コメントにも書いたように、パラレルで動作させる二つの真空管の「響き」が完全に一つにならないからだと思います。
やはり高域の鮮度感や透明感は、一本の信号を一本の真空管で増幅する「シングルアンプ」がTriode製品では勝っているようです。
しかし、TRX-88PPの持つ圧倒的な中低音の厚みと重量感はシングルアンプには望めませんから、お聞きになるソフトや組み合わせるスピーカーとの相性を考えながら、アンプを選べばよいと思います。
今回テストしたTRX-88PPは、「パラプッシュ」という方式通りの「中低音の厚みと力感」と「パラプッシュ」の欠点を感じさせない「中音の滑らかさと高音の透明感」を持っていましたから、発熱・消費電力・サイズ・ご予算に問題がなければ、TRV-A300SERやTRV-88SERよりもお薦めです。とくにTRV-88SERと比べた場合、高域はほとんどイコールですが中低音は圧倒的にTRX-88PPが勝ります。
EAR 864 Signature Editionの概要
逸品館が最高に評価する真空管プリアンプ「EAR 912」は、音楽の生命感と躍動感をナチュラルな響きの中で表現する事のできる稀有なプリアンプとしてプロスタジオのマスタリング用コントロールセンターとして世界規模で評価を確固たるものとしています。
この「912」の前身となった「864」は90年代後半に登場し、音楽的な描写の美しさとコストパフォーマンスの高さで人気を博しましたが、後継モデル「868」の登場により惜しまれながらその役目を終えました。
EAR 912の特徴的技巧と言える「真空管ートランスカップリング」の回路構成を採用した「864」をわずか15台の限定生産ではありますが、創立5周年を迎えたヨシノトレーディングとEARから日本のみなさまへ感謝の気持ちを込めてお贈りする特別プレゼントとして「864 Signature/シグネチャー」のネーミングで装いも新たに復刻発売されました。
「864 Signature Edition」は、このモデルのためだけに新たにリファインを施した出力トランスが採用されたパラヴィチーニ/EARサウンドのアイデンティティーとも言える「真空管ートランスカップリング」のライン出力段とMCカートリッジ用にパラヴィチーニがデザインしたEARオリジナル昇圧トランス、カソードフォロワー出力段で構成されるNF型RIAAイコライザーが組み込まれたフォノ回路が搭載されています。
ラインレベル4系統&フォノ1系統のアンバランス入力、また入力トランスを介したバランス入力端子を1系統設け、様々なソースからの音楽を美しく、楽しくそしてナチュラルに響かせる「864 Signature Edition」は、デジタルアナログを問わず、これぞまさに「EARサウンド」とも言うべき唯一無二の鮮やかなアナログ音質をご堪能頂けます。
特別限定モデル「864 Signature/シグネチャー」は、通常ゴールド仕様のコントロールノブを特別にプラチナ仕様としフロントパネルには「Signature Edition」のロゴと、設計者である「ティム・デ・パラヴィチーニ」のサインを奢り、まさに特別仕立ての価値あるエクステリアを纏います。
昨今、益々需要の高まるアナログ/ヴァイナルによる音楽再生。愛聴盤から新たな発見をされたいアナログ・エンスーの方も、久しぶりにアナログ再生に興じたい方も、もちろん初めてのアナログ再生を楽しみたい方にも自信を持ってお勧めするプリアンプです。もちろんCDやその他ソースからの音源も、EARならではのしなやかで艶やかな芯のあるサウンドがご堪能頂けます。
864 Signature Edition 販売価格 ¥398,000(税込) 生産完了モデル |
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<明るい>
- - - * - - - - - <暗い> |
<柔らかい> - - - * - - - - - <硬い> | |||||||||||||||
EAR(イーエーアール)製品のご購入お問い合わせは、経験豊富な逸品館におまかせください。 |
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音質テスト結果
AIRBOW SSS-2013 音源はCDをリップしたWAVEファイルをつかいました。
スピーカー: BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)
先に試聴したTriode TRX-88PPにEAR 864 Signatureを接続し、音質がどのように変化するかテストしました。
ヒラリー・ハーン
デビュー! バッハ:シャコンヌ ヒラリー・ハーン
高音の伸びやかさと艶やかさが明らかに改善し、空間の濁りが減少、音場の広がりも大きくなりました。
さすがに912ほどの劇的な変化は感じられませんが、質感・解像度感共に明らかな改善を感じます。
864 Signatureの追加により高域が少し細く感じられます。エネルギーバランスが少し高域寄りになるのは、EAR全般の傾向だと思います。しかし、その高域の細さがデリケートなバイオリンの質感をより強く醸し出すでそれは魅力でもあるのだと思います。
コンサートマスターと伴奏のバイオリンとの対比の鮮やかさが増し、コントラバスとバイオリンの質感の違いも明確になりました。
プリアンプを追加することで、音のバランスが整い演奏が端正に整理されるだけではなく、曲の流れそのものも改善し演奏が流麗に聞こえます。
864 Signatureの追加によりオーケストラの技量が一段上がったように感じられ、演奏の説得力が増しました。
Triode TRX-88PPで感じていたアン・バートンの声の癖(明るすぎる感じ)がほぼ消えて、バラードらしいしっとりとしたムードが出てきます。
それでもTRX-88PPの影響で曲調はまだ若干明るいのですが、声の深みと情緒深さが増して音楽の質感と演奏の説得力が大きく向上します。また、TRX88PPで感じられたTriode的な「荒さ」や「や「薄さ」が864 Signatureの追加によりほぼ完全に消し去られ、楽器の音が深まります。
自然で深みのあるこの音を聞いてしまうと、プリアンプを外すことは考えられないと思います。
B'z The Best “Ultra Pleasure”(2CD+DVD) B’z
高音の質感が改善され、ストリングスの艶と切なさ説得力が俄然冴え渡ります。それぞれの音の個性が美しく描き出されるこの音を聞いていると、まるで違う曲と言って差し支えないほどドラマチックです。
864
Signatureを追加することで高音と低音の「ミスマッチ感」が緩和され、僅かに遅れを感じた低音の速度が上がります。ただし、高音が伸びた分に比例して、中低音の厚みが後退しました。リズム感、躍動感、情緒感は深まりますが、パワー感のみ若干削がれた感じです。
しかし、それぞれの音の分離感と細やかさ、説得力が大きく向上するので、音楽を聞く楽しさは明らかにアップしました。
2013年6月 逸品館代表 清原裕介
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