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音質比較テスト
AET EVO-1302S/F , Primary F500 ・ AIRBOW HCR-ACF/EVO2
※AIRBOW NA8005 Studioは開発テストのためボンネットを外してあります。
AETから"EVO-1302S"、"EVO-1302F"の2種類のケーブルが発売されました。
AETにはこの2モデル以外にすでに発売されている"Primary F500"を加えた3モデルが「メーカー希望小売価格 \3,600/1m切り売り」の同価格でラインナップされています。ただし、新製品の"EVO-1302 Series"は2芯なのに対し、Primary F500はBi-Wire対応の4芯ですから、2+1モデルという表現が正確なのかも知れません。
EVO-1302SとEVO-1302Fの違いは「線材の太さ(直径)」にあります。下写真をご覧頂ければお分かりになると思いますがEVO-1302S(Standard)に比べてEVO-1302F(Fine)にはかなり細い線材が使われています。一般的に線材を細くすると高域が細かくなる反面、中低音の力感が弱くなる傾向があります。SとFは線材の直径が違うほか、外皮の色が区別のため変えられていますが、その他の構造や材質は同一です。
EVO-1302S | EVO-1302F |
同メーカー、同価格で3つも製品があれば、お客様がどれを選べば良いのか困られると思います。そこで今回はそれぞれの特長を確かめるべく、AETがOEM生産を行っているAIRBOWの旧モデル"HCR-ACF/EVO"と新モデル"HCR-ACF/EVO2"を加えた5種類のスピーカーケーブルの聞き比べを行いました。
試聴に使ったスピーカー
Musikelectoronic ME25 | |||||||||||||||||||||||
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試聴に使ったネットワークプレーヤーとアンプ
AIRBOW NA8005 Studio |
TEAC AG-H600 |
208,000円(税込) | 120,000円(税別) 販売価格\39,800(税込) |
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音質テストの概要
ソースはAIRBOW NA8005 StudioにiPod Touchを組み合わせ(接続はaudioquest USB-Diamond・音源はCDから取り込んだWAVファイル)、アンプには一般市販品からTEAC AG-H600を選びました。スピーカーは音色の良いモニタースピーカー Musikelectoronic ME25を使い、スピーカーケーブルを交換して音質を比較しました。
ケーブルは切り売りを逸品館で端末加工したものを使いました。AETのEVO-1302S/Fも感性も出るが発売される前にテストしたため、端末加工を逸品館で行いました。そのためAETが発売するEVO-1302 Series とは端子が異なります。また、すべてのケーブルは接続の利便性を考えて、バナナ端子-Yラグ(スペードプラグ)の構成になっています。方向性はアンプ側(バナナプラグ)→スピーカー側(Yラグ)です。作った時期が違うので長さも少し不揃いです。詳しくは下記の表をご覧ください。
ケーブルはエージング(鳴らし込み)で音が変わります。逸品館で販売しているAET/AIRBOWのケーブルは、事前に特殊な信号を72時間以上流しエージング処理を行った状態で販売しています。今回試聴したケーブルは、すべて「エージング済み」もしくは「十分使い込んだケーブル」を使いましたが、エージング処理直後のケーブルははまだ完全な音質を発揮できず、使い込んだ状態よりも音が「やや若く(硬く)」感じられる事があります。AIRBOW HCR-ACF/EVO2、AET EVO-1302(S/F)はまだそういう状態でした。この3本のケーブルは試聴直後と試聴完了後では少し音が変わりましたので、その点を考慮してレポートを判断して下さるようお願いいたします。
AIRBOW HCR-ACF/EVO (5.5m) |
AIRBOW HCR-ACF/EVO2 (4m) |
AET Primary F500 (4.5m) |
AET EVO-1302S (4m) |
AET EVO-1302F (4m) |
\1,500(1m) | \1,800(1m) | \3,600(1m) | \3,600(1m) | \3,600(1m) |
並行2芯/小判型 | 並行2芯/小判型 | 対向4芯/丸型 | 対向2芯/丸型 | 対向2芯/丸型 |
AET:UFP-HSR audioquest:SG-BFA(旧型) |
AIRBOW:F5.5/6CR audioquest:BFA |
AET:UFP-HSR audioquest:SG-BFA(旧型) |
AET:Banana-HG(完売) AET:UFP-HSR |
AET:Banana-HG(完売) AET:UFP-HSR |
音質比較の対象として逸品館で最もよく売れた、AIRBOW HCR-ACF/EVO(AET OEM生産モデル) \1,500/1m切り売りを基準に選び、パワー感/バランスに関する項目を「高音、中音、低音、躍動感、総合性能」で、音質感/雰囲気に関する項目を「 音色感、広がり感、透明感、明瞭感、解像度」のそれぞれ5つに分けて、基準ケーブルを「5点」として、比較したケーブルを相対的な採点とコメントで評価しました。
Last Live at “DUG” /Grace Mahya 「Root 66」
Dangerous Michael Jackson ”History” 「Thriller」
"Bach Violin Concertos" / Hilary Hahn, Laco, Kahane (Hybr) (Ms)
(逸品館お薦めソフトの情報とお買い上げは、逸品館 Amazonストアがご利用いただけます)
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「Root 66」 |
「Thriller」 |
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中低音にしっかりとした厚みが感じられる、たっぷりした穏やかな鳴り方をします。 楽器の音色の変化が鮮やかで、楽器やボーカルのニュアンスが心地よく伝わり、ギター、ボーカル、シンバル、トランペット、ベース、etc...。それぞれが魅力的な音で鳴ります。 良い意味でのまったりとした「緩さ」が、ソフトや機器の粗を暴きません。 |
前後左右方向への音の広がりが大きく、立体感に優れています。角の鋭い電子音でも音の輪郭があまり立たず、すっと無音に溶け込むような音の消え方が自然です。 ベース音は太く豊かですが、少し緩い感じがあります。ただ、低音が膨れて僅かに遅れることで音楽のリズム感と立体感が強まるので悪いことではないと思います。 ボーカルと伴奏の分離は標準的。温色は少し明るく、流れるような躍動感と、肩肘張らない自然な音で楽しくスリラーが聞けました。 |
弦楽器の分離がやや甘く、バイオリン、チェロ、コントラバスの分離が完全ではありません。 音の広がりもやや限界があり、小さなスピーカーが鳴っている感じが付きまといます。 しかし、これはスピーカーケーブルの問題ではなく、現在の販売価格が僅か4万円のレシーバーTEAC AG-H600の限界だとお考えください。 解像度感や分離感に若干不満がありますが、全体的には十分納得できる良い音でヒラリー・ハーンのコンチェルトが聴けました。 |
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AIRBOW
HCR-ACF/EVO 総評 |
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「Root 66」 |
「Thriller」 |
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HCR-ACF/EVOからモデルチェンジして価格が\300/1m高くなったEVO2ですが、その内容はかなり「進化」しています。線材は同じですが、巻き方が変わり、絶縁材もより良い物に変更されたため、ケーブルの強度(変形強度)がかなり上がりました。 ケーブルが「強化」された効果が楽器の「反応の早さ」に現れます。音のエッジが引き締まって、音の木目がはっきりと細かくなり、パワー感、レスポンスも改善、良い意味での緩さが魅力的だったEVOと比べ引き締まり、凜としたその音はAETの上級モデルのサウンドに近いイメージです。 ベースはかなり太く感じたHCR-ACF/EVOよりもさらに太く、ドラムもより低く伸び、低音を前に押し出すパワー感が出て、かなり良くなっています。 ただ、かなり使い込んだHCR-ACF/EVOと比べてエイジング(使い込み)がまた不十分なのか、少し音の輪郭が立ちすぎるように感じる事がありました。 |
音の広がりはあまり変わらないか、あるいは少し少し小さくなったかもしれません。しかし、一つずつの音がクッキリして定位感が向上し空間内の音の密度がかなり濃くなりました。 添付が緩いEVOと違いEVO2は低音が遅れず、前に押し出してしっかりとリズムを刻むので、演奏がさらにアップテンポに感じられます。 ボーカルと伴奏の分離感、コーラスの部分の分解能力が向上し、演奏との一体感やライブ感の好き嫌いはともかくとして、はっきりと「音が良くなった」ことが分かる音質です。 |
HCR-ACF/EVOではやや不明瞭だったコントラバスのパートがEVO2では、きちんと聞こえるようになります。これは低音が引き締まり、量感が一段と増した効果です。 不明瞭だったバイオリン、チェロ、コントラバスの分離も明らかに向上しますが、これは高音の反応(レスポンス)が良くなった効果です。 音数の多いこの曲に関しては、ふわりとした雰囲気の好き嫌いはともかくとして、空間の密度感、音楽の運動量、音の動きが大きくなり、全体として音質と音楽の表現力はかなり向上している印象です。 |
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AIRBOW
HCR-ACF/EVO2 総評 音楽を自然体でふわりと聞かせる能力に長けたHCR-ACF/EVOと比べると、EVO2はほんの少しだけ厳しさが加わり音楽をストレートに伝えてくる印象です。 |
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「Root 66」 |
「Thriller」 |
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HCR-ACF/EVO2に比べPrimary F500は中低音がボリューミーでみっちりとした音調です。 低音は引き締まっていたEVO2に比べると少し緩く、暖かく太いその音調はHCR-ACF/EVOにそっくりです。 中低音に若干「ゴム?」の様な柔らかさと膨らみや緩さがありますが、この緩さが開放感と躍動感を演出しています。ややHiFi基調で生真面目に音楽を鳴らすHCR-ACF/EVO2にくらべ、Primary F500は開放的で明るく楽しい音です。 HCR-ACF/EVO2がスタジオの音なら、HCR-ACF/EVOとPrimary F500はライブの音。 肩肘張らない自然体の音でRoot66が楽しく鳴りました。 |
イントロのドアが開く部分で「空気が揺れる」感じが伝わります。 HCR-ACF/EVO2は空気の揺らぎよりも、ドアのきしむ音がより鮮明でした。雰囲気を出すか、音をハッキリ聞かせるか、EVO2とF500には明確な性格の違いが感じられます。 F500の低音は、Root66で感じたのと同じようにThrillerでもHCR-ACF/EVO同様に少し遅れが感じられます。中音も少し膨らみと遅れがあります。 リズムを刻む正確な感じはHCR-ACF/EVO2がF500を上回っていました。 EVOとF500は、一つずつの音をはっきり聞かせるのではなく、リッチに醸し出される全体的なボリューム感と、ゆっくりと身体に伝わるパワー感で音楽を量感豊かに聞かせてくれる傾向です。 |
HCR-ACF/EVO2では分離していた、バイオリン、チェロ、コントラバスのパートがケーブルをF500に変えると再び濁りました。 それはEVO2に比べF500が高音のレスポンスに劣るのと、それが原因で中低音が少し膨らむためです。 しかし、音楽のボリューム感や人間くささ(有機的な感じ)では、F500には真空管アンプに通じるような独特の魅力が感じられます。 EVO2は高性能マイクできちんと録音したイメージ、F500はコンサートを生で聴いているのに近いイメージでこの曲を鳴らし分けました。 |
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AET Primary
F500 総評 EVO2にはAETのハイエンドモデルに通じる「明瞭度の高さ」と「クリアさ」が与えられています。EVO/F500には、聞き慣れた少し緩い一般的なケーブルの持ち味にAETらしい高品質感がミックスされた味わいです。 どちらが良いとは言えませんがその音質は明確に違うので、選択は比較的容易だと思います。 |
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「Root 66」 |
「Thriller」 |
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EVO-1302Sの鳴り方は、EVO2とF500の中間のイメージです。その音はEVO2ほどクッキリしていませんが、F500ほど遅くもありません。 けれどそれはどっちつかずの中途半端なケーブルではなく、リスナーの聴き方を切り替えることで「両方の良さを聞き取れる」と私は理解します。 シンバルは高音が伸びましたが、その分若干細身になりました。トランペットもやや高域寄りです。 ベースは太くドラムもパワフルですが、ピアノの音は一番魅力的に鳴るようになりました。 ライブを高音質に録音したイメージでRoot66が聞けました。 |
イントロのシンセサイザーの音が細かく、ハーモニーが複雑です。 狼の声はそれぞれ「違う個体」が啼いているように鳴らし分けられます。狼の声の違いは前に聞いた3本では気がつきませんでした。 リズムの刻みはそれほど早くありませんが、細かい音がいっぱい聞こえます。しかし、それは明瞭度が上がることで細かい音がクッキリして聞こえるようになったのとは違って、ケーブルでのロスが減少して消えていた音が出て情報量が増えたイメージです。 HCR-ACF/EVO、EVO2、F500の3モデルは、明るく弾む音でこの曲を鳴らしましたが、EVO-1302Sはそれよりも若干抑えめの静かな音調でよりHiFiにこの曲を鳴らしました。 |
バイオリン、チェロ、コントラバスは、綺麗に分離します。ただF500と比べると中低音のボリューム感が少し減りました。決して神経質な音ではありませんが、音が繊細な分少し細い印象です。 音が整理されて細かくなった分、混濁感とボリューム感が減少し、落ち着いた静かな印象でこの曲が鳴りました。 |
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AET EVO-1302S 総評 しかしそれは、躍動感、ライブ感が強いと言う「偏り」が選択肢として明らかだったHCR-EVOやPrimary F500、あるいは音質感が際立っていたHCR-ACF/EVO2と比べて「優等生」ですが、個性が少し希薄なイメージです。 同価格帯の他メーカーのケーブルと比べ情報量(音の細やかさ)はかなり多く、ケーブルとして明らかに上質ですが、もう一歩の鮮やかさとパワー感があれば完璧に感じました。 ただ、全体的に音がちょっと重く、テンポが沈む感じがするのは、エージング不足のためかもしれません。 |
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「Root 66」 |
「Thriller」 |
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EVO-1302FはEVO-1302Sに比べ、音が細やかで表情が繊細です。空間の透明度が高く、一つ一つの音がクッキリ鮮やかに聞こえます。音の広がりも大きく、自然なライブ感が演出されます。 シンバルは若干芯が弱いですが、リズムの刻みが正確なので音楽に心地よいアクセントが付きます。 ピアノの芯の太さはEV-1302SがFを上回りますが、響きの美しさ繊細さでは1302Fが1302Sを上回ります。 ギターは、押しが少し弱い感じですが、キーボードはニュアンスが豊かで音が滑らかです。 洗練された「クール(格好いい)」な印象でRoot66が鳴りました。 |
イントロのドアが開く音は、「バフッ」という空気の動く音よりも「ギーィ」という気のきしむ音が強く出ます。 狼の遠吠えは、1302Sの方が力強く1302Fでは雌が啼いているように少し優しくなります。 リズムの刻みは正確ですが、押しが少し弱い感じです。 EVO-1302Sに比べると音が重い感じは解消しましたが、F500のように明るく弾む傾向とは少し違います。 癖がなく忠実に細かい音まで再現しているイメージで緻密にスリラーが鳴りました。 |
空間の透明度が高く、それぞれの楽器の音がとても繊細に鳴ります。 驚くほど細やかで端正な音ですが、音が細かく滑らかすぎて、押し出しが少し弱く感じられることがあります。 あと少しの艶と色彩の濃さが加われば、完璧な音で鳴るはずです。 たぶん、アンプの実力がここまで(ケーブルが限界までアンプの能力を引き出している)なのでしょう。 |
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AET EVO-1302S 総評 何も足さず、なにも引かない、ケーブルの基本性能が磨き込まれたAETらしい良いケーブルだと思います。 |
スピーカーケーブル試聴後感想
今回はTEAC AG-H600というやや安物のアンプ(失礼)とMusikelectoronic ME25という響きが豊かでややレトロなスピーカーを使ったため、ケーブルとのマッチング/アンマッチングがはっきり出たように思います。
HCR-ACF/EVOの後継モデルとして発売されたHCR-ACF/EVO2はEVOから、がらりと音が変わっています。どちらかと言えば、最近生産を完了したAIRBOW
6N14Gに近い性格を持ち、細かい音まで驚くほど明瞭に再現する能力と、反応の早い高域、パワー感のある押し出しに優れる低域という特徴を持っています。
長時間聞いても疲れる音ではありませんが、聞き流しで音楽を聞くよりもスピーカーの前にドント座ってしっかり音を聞きたいとお考えの方にピッタリ当てはまると思います。価格は、\1,800/1mとAET
EVO-1302/F500の半額ですが、その性能は1/2よりも高くお買い得に感じます。
5モデルの中でAIRBOW HCR-ACF/EVO(生産完了)とPrimary F500の2モデルは、ケーブル自体が楽器のような響きを生み出すことで、音楽性を「盛る(音楽をより饒舌に語らせる)」働きを盛っていました。同時にその副作用として、低音の緩さや高音の反応の遅さによるリズムの緩みが感じられました。この2モデルは、今回使ったME25のような響きが豊かで音楽性の高いスピーカーやアンプとのマッチングに優れ、市販品ではTannoy Prestige SeriesやFocal、B&W CM Seriesなどにも良くマッチするのではないでしょうか?また、AIRBOW HCR-ACF/EVOをお持ちで「その音質傾向を変えないグレードアップ」としてはPrimary F500がお薦めです。
EVO-1302S/Fは、どちらも基本的にはフラットな音質バランスと、きめ細かく透明感の高い高域を持つ癖のない音質に仕上げられています。S/Fは線材の太さで区別され、線材の細いFはSに比べ、高域の透明感と繊細さがさらに磨かれています。クリスタルのような磨き込まれた高域の透明感は,このクラスでは他に類を見ません。Fよりも線材が太いSは、優れた高域の表現力というEVO-1302 Series共通の良さを持ちながら、Fよりも中低域のパワー感が強く仕上げられています。これらの2モデルは、ハイレゾ対応を謳うような最新スピーカーやコンポに良くマッチすると思います。
2014年8月 逸品館代表 清原裕介
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