PM4001/KAI
まず初めにPM4001/KAIでSCM-11を鳴らしてみる。ボリュームは、10時でやや大きめの音だ。
TITANIC
1〜3曲目
中高域は澄み切って濁りが無く、空間が広い。QUAD 11Lクラスよりは、明らかに質が高い。繊細でニュートラルな音調は、PMCの美点と非常に良く似ている。PMCのTB2+、GB1、FB1+とほぼ同等の質感が実現しているのではないだろうか。試聴機で最初に気に入った中高域の透明感は間違いではなかった。音の抑揚もきちんと出る。
私がPMCを好んだのは、ATCはスピーカーの周辺に音がまとわりついて、質感は高く音は細やかでも、どこか開放感に欠けたり、音色が暗く感じられたからなのだが、その悪い印象はSCM-11で完全に払拭された。SCM-11は、私の記憶にあるSCM-10やSCM-20よりも明らかに音が軽く、ATC独特の「暗さ」が消えているのが嬉しい。この製品の従来モデルとの一番の違いは、「音が軽い」、「音離れがよい」と言うことだ。しかし、現ラインナップのすべてのATC製品がこのような音で鳴る訳ではないと思うので、その点はご注意願いたい。
12曲目
出だしのズ〜〜ンという音は、さすがにこのサイズの密閉型スピーカーの限界を感じるが、PM4001/KAIでも十分に鳴り切っている印象がある。これも、ウーファーが動きにくかった印象のあるSCM-10/20とは、かなりイメージが違う。
ただし、PMCのような伸びやかで開放的な低音ではなくて、もっと固まり感のある「面で押してくる」ような、圧迫感のある低音は相変わらずだ。嫌な音ではないが、そこにATC特有の癖が感じられる。
ただし、低域の量は少ないが質は非常に高い。質感には、高い評価を与えられる。
SWING FOR JOY
3曲目
一応、スピーカーの基本性能は十分であると理解できたので、スピーカーの“鳴り”の楽しさをテストする目的で、お気に入りの「EGO-WRAPPIN' / SWING
FOR JOY」3曲目、「A LOVE SONG」を聞いてみる。ボリュームは、ややしぼって9時くらい。普通より、ほんのちょっとだけ大きめの音だろうか。
パーカションの切れ味は抜群。ウッド・ブロック(木魚のような音)の木質的な響きは、とても心地よい。
ボーカルの声は、透明で美しく、伸びやかだが、ほんの少し細身になるようだ。
ベースの音は、量感こそ少な目だがリズムや音階はバッチリ!位置関係は、やや前寄りだ。
サックスは、丁寧に吹いている感じ。良い楽器を使っている音色の良さや、選ばれた良いリードを使っている感じが良く出ている。
多重録音のハーモニーの重なりも美しい。体で感じて楽しむと言うよりは、鑑賞に堪える美しく完成された音楽というイメージに聞こえる。十分に音楽を楽しめる音だが、どちらかと言えばほんの少しだけ分析的な感じがしなくもない。
私の体は、動き出さなけれど、心の奥底にリズムはハッキリと刻まれる。曲のリズムが歯切れ良く弾むというイメージよりも、レガートやスラーで躍動が繋がっているという感じ。知的なサウンドだ。このまま聞いていたい気持ちはあるが、時間の関係でアンプをTRV-35SE/Dynamiteに変える。音量はほぼ同じにする。
TRV−35SE/Dynamite
TITANIC
1〜3曲目
AIRBOW TRV-35SE/Dynamiteは、そのサブネーム通りに鬱憤を爆発的に吹っ飛ばせるような、底抜けのパワフルさが特徴だ。アンプを変えて一聴した瞬間に、TITANICが圧倒的にドラマティックで泣けるサウンドになっているということを感じる。この表現力の大きさこそ、私が真空管アンプに求めたい音なのだ。
懸念された低域は、PM4001/KAIとほとんど変わらないくらい出ている。真空管アンプでも低音不足は、まったく感じられない。
中域の透明感と力感、厚み感、色彩感は大きく向上し、音楽の流れがダイナミックかつ流麗になる。空気感が出て、体が音で包み込まれるような立体感が実現する。音楽の質感と躍動感が一気に高まったような感じだ。
このアンプの組合せでSCM-11は、アンプの音を正確に変換するトランスデューサーとなる。精度が高く、よどみが無く、まったく癖が感じられない。音楽が本当にドラマティックに鳴る。それもモニター的正確さ、客観性をまったく犠牲にしないままに。まるでPMCのお株を奪うようなサウンドだ。記憶にあるTB2+との違いを探る。中高域の透明感と繊細さは、ややSCM-11に分があるように思う。低域の伸びと開放感は、TB2+がその構成(トランスミッションライン)の有利さで圧倒するはずだ。
KRIPTON
KX-3と聞き比べる。中高域の繋がりの良さと滑らかさでは、SCM-11の圧勝だった。バランスが良く、癖がなく、音が深い。逆に低域の歯切れ良さ、素晴らしい切れ味はKX-3がSCM-11を大きく上回る。KX-3は、ウーファーのハイレスポンスな鳴り方が魅力的なスピーカーでSCM-11とは好対照だ。両者の比較は難しく、評価は好みの範疇に入るだろう。KX-3は歯切れ良く、SCM-11はバランスが良い。それが互いの持ち味だ。
12曲目
出だしのズ〜〜ンという音が、深く静かに感じられる。SCM-11の低音が真空管アンプだとトランジスターアンプより劣るのでは?と言う心配は全くの杞憂に過ぎなかったことが確認できた。
そればかりか、逆に真空管アンプのアウトプット・トランスの低域遮断特性とSCM-11の密閉箱の低域遮断特性のカーブ?が上手くマッチしているのか、密閉箱独特の閉鎖的な低域の癖が完全に消えてしまい、低域の量感は足りないものの、すごく自然な減衰で、低域不足をまったく意識しなくなってしまったから不思議だ。
TITANICのような、やや鳴りにくいニュートラルなソフトでさえ、PM4001/KAIに比べて、圧倒的にドラマティックで情緒的に鳴る。映画のワンシーンが一つ一つの曲に合わせて脳裏に浮かんでは消えてゆく。まるでラベルやドビュッシーのように、体の中で音が映像に変化して行くようだ。
これは、もう圧倒的としか言えないドラマの世界にはまってしまう。音の広がりは、プラネタリウムのよう。煌びやかな色彩感は、万華鏡のよう。非の打ち所がないほど素敵な音だ。TRV-35SE/DynamiteとSCM-11の組合せにやられました!という感じ。
ディスクを最後まで聴いていたい気持ちを押して、ソフトを変える。
SWING FOR JOY
3曲目
曲全体のまとまり感が違う。各楽器のパートとボーカルの絡みは絶妙だ。ベースがややゴムまりのように弾む感じで「クン、クン」と押し出してくるが、それはそれで全然悪くない。中高域の透明度、広がり感が素晴らしく、音色が美しい。特に音色の美しさと煌びやかさは、従来のATCではあまり感じられなかった部分だろう。ギターの音色の透明感、色彩感は素晴らしい。
低域の閉鎖感、詰まり感が、ほとんど解消されて(TRV-35SE/Dynamiteとの組合せではほぼ皆無)、中高域、とくに高域の色彩の鮮やかさまで実現してしまって、ペア20万円(税別)は、すごく安いのではないだろうか?この音を価格にするなら、30〜40万円(ペア)でも十分通用すると思う。このお手頃価格?のスピーカーは、従来モデルの倍価格の製品と十分に比較できるだろう。
それにしても、最近(最新)のスピーカーは、コストパフォーマンスが抜群に高い。スピーカーのみならず、近年特に実売20万円強程度までのオーディオ製品の音質向上が著しいと感じられる。それに比べると高級品は、価格ばかり高くなっているような気がするから、50万円を越えるオーディオ製品をお考えの場合でも、このクラスの製品を同時にチェックされることをお薦めする。
最後の締めに、アンプをAMPZILLA+AMBROSIAに変える。SCM-11の持てる力を解き放つために!
AMPZILLA 2000 + AMBROSIA 2000
TITANIC
1〜3曲目
耳に聞こえる音の細やかさや広がり感という部分では、はっきり言ってTRV-35SE/Dynamiteと価格ほどの差があるとは感じられない。しかし、音の細やかなエッジ部分や「佇まい」的な、聞こえない部分の質感には大差がある。車に例えるなら、速度は同じでも片方は「ただ走っているだけ」、もう片方は「走っている過程にドラマ(質感)がみっちり詰まっている」といった具合に音が違う。なんだか、SCM-11というスピーカーではなく、アンプの批評になってしまっているが、それこそがSCM-11の高い実力のなせる技なのだ。つまり、己の個性を際だたせず、アンプを選ばず、アンプの持っている本来の音を再現する。それがSCM-11というスピーカーなのだ。
目差す方向は、PMCと似ている。
AMPZILLA+AMBROSIAの組合せは、完全にSCM-11を鳴らし切る。ユニットを動かし、即座に止めて次の信号を再現する。その反応が見事だ。一糸乱れぬというか、スピーカーの影響をアンプがまったく受けていないかのようにユニットを駆動する。送られてきた音楽信号のままにユニットを駆動し、電気信号を音声に変換する。アンプもスピーカーも素晴らしい!音の純度は、あきれるほど高い。
もちろん、スピーカーのサイズがあるから低音の量感は、足りないし中高音の質感も、もっと上のスピーカーはあるだろう。しかし、ある種「鳴りきった!」、「鳴らし切れた!」という喜びにおいて、この組合せは、絶対的にいい音だし、なにより、私にとってはとても心地よい音だった!
12曲目
最初のズ〜〜ンという音が、ズシ〜〜ンと言う音に変化する。音量的には小さい(少ない)のだが、かなり低いところまで低音が伸びている。スピーカーの低音限界を超える音をアンプが引き出しているのだろう。しかし、不自然な感じはまったくない。鳴りきっているという、オーディオ的な喜びと、自然に鳴っているという高い音楽的な評価が融合し、素晴らしい世界へと昇華して行くイメージ。ニュートラルで美しい。
ややオーディオ的に過ぎる嫌いはあるかも知れないが、私はこういう「やや無機的」な音は嫌いではない。感情に流されすぎることなく、音楽の持つ論理面を深く引き出している。そんな美しい、磨き込まれたサウンドだ。
SWING FOR JOY
3曲目
ボーカルの艶やかさ、声の質感の美しさ、瑞々しさでは、TRV-35SE/DynamiteがAMPZILLA+AMBROSIAをハッキリと上回る部分がある。ギターもTRV-35SE/Dynamiteの音色が魅力的だ。でも、それは音の「一つ一つのパート(部品)」としての評価に過ぎない。音楽全体のSWING感、まとまり感は、AMPZILLA+AMBROSIAが素晴らしい!さすがにSSTのトップモデルだ。製作者のボンジョルノが人生をつぎ込んで出す音は、やはり違う。完全に完成された芸術作品の域に達していると感じさせる。
このソフトによる評価もSCM-11ではなく、AMPZILLA+AMBROSIAの評価になってしまったのだが、どうしても耳がそっちに行ってしまうのだから仕方がない。SCM-11は、それほど寡黙なスピーカーなのだ。このスピーカーで鳴らすと、時にAMPZILLA+AMBROSIAでさえ饒舌だと感じられなくなるときがある。精度は落ちても、もっと饒舌なTRV-35SE/Dynamiteの音をちょっぴり懐かしく感じることもある。絶対的に真面目な音だ。しかし、真面目を極めたある種の素晴らしさに到達している。日本刀に似ているといったら褒めすぎだろうか?
まとめ
アンプやプレーヤーは饒舌でも、スピーカーは、無口な方が良い。原音忠実再生をことごとく駄目だという私だが、やはり「生に近い感覚の音」を望んでしまう。それは、やはり良い生演奏が記憶に残っているからであるし、良い楽器の生の音を知っているからでもある。ただし、誤解を招かないように付け加えたいのだが、私が聞きたいのは音楽であって断じて音ではない。そう断っても、SCM-11の音の純粋さは魅力的だ。そして、その上に音楽までもきちんと再現してしまうのだからすごい。このスピーカーは、安い。そして、ATCにしてはとても鳴らし易い。もし、文句を付けるとしたら、あまりにも無口であることだけだろう。
音楽の表現力においてSCM-11は、ATC特有の低音の癖を除けば、PMCとの差は非常に小さい。強いて言うなら、PMCのほうが音楽に対して寛容で饒舌かも知れない。しかし、ATCやPMCのように研ぎ澄まされた音の頂点に立っている製品だからこそ、少し無口か?やや饒舌か?というほんの少しの差が互いにハッキリ違う個性を与えることも確かなことだ。確実に言えることがあるとすれば、SCM-11のコストパフォーマンス(価格対性能)は、PMCのTB2+よりも明らかに高いと言うことだけだ。結局、音質は好き嫌いで選ぶしかないのだが、このクラスだからこそ、まずは、財布の中身と相談なのである。 少しでも安い方が、ありがたいことは間違いない。