最近の逸品館おすすめ品の多くに「真空管」が使われている製品が多くなってきた。自社ブランドのAIRBOW製品にも久しぶり(AIRBOWとしては初めて)に真空管アンプを加えるなど、真空管が密かなマイブームになっている。
元々「玲」と名付けたオリジナル真空管アンプを発売したり、musical−fidelityのTUBALOGという真空管を使ったDACの改造モデルを発売していたり、あるいは今はなくなってしまったがCOUNTER−POINT社のプリアンプSA5000(ハイブリッド方式、発売時定価100万円)をかなりの台数販売したりと、私は真空管が好きだった。
しかし、とある音楽家の一言が私を変えた。「真空管の音は情緒的だが、立ち上がりが甘く、生演奏とはかなり違っている」。その言葉にショックを受けた私は、生演奏を聴き、生の楽器の音を聞き、それまでただ「心地よさ」だけを求めていた音作りの方向を「音を生の楽器と同じにしよう」とガラリと変えた。機器を改良し、録音を実験し、ほぼ生演奏にイコールという音までたどり着いた。しかし、そこには、それまでのような「楽しさ」は見いだせなかった。
研究の果てにたどり着いた音は、音楽を厳しく鑑賞し、それと対峙する音であっても、それを「楽しめる音」ではなかったのだ。その時、私は「人を幸せにできない音しか出せないならオーディオは止めよう」と真剣に悩み、実際憔悴しきっていた。疲れ果て2chピュアオーディオが嫌になり、サラウンドに逃げた私は、スピーカーが増えたことによる表現力の圧倒的な差から来る「楽しさ」に魅了され、サラウンドに深く傾倒するようになる。ピュアオーディオと同じ「正確さ」をサラウンドに持ち込んだことで、2chから5.1chへとスピーカーの数が2.5倍(プラスアルファ)になった分以上に音は表現力を増し、音楽が生き生きと楽しく聞けるようになった。2chは、コンサートホールの外で聞く音楽なら、サラウンドはコンサートホールの中で聞く音楽。それくらいの圧倒的な差を知った私は、「原音忠実再生は、サラウンドにこそ存在する」と確信し、CDで聞く2chピュアオーディオを否定し「ハイエンドオーディオの終焉」というコラムをステレオサウンド誌に発表した。
そして、それから2年。unison−researchのハイブリッドオーディオ製品(回路に真空管とトランジスターの両方が使われている製品)UNICO P / UNICO CDPを聞いたことがきっかけとなり、2chで追求する「原音追求」と言う方向性に疑問を抱き始めた。さらにトランジスター方式ではあるが、sst incのampzillaとambrosiaのそのあまりにも自由奔放な音作りに触れ、何よりもそれらで聞く音楽の「楽しさ」を知るに至って、自分が目指していた「原音忠実」という考え方が2chピュアオーディオでは「間違いではないか?」と疑わざるを得なくなった。そしてその疑問は、菅野沖彦氏の著書「新・レコード演奏家論」を読んで確信に変わった。オーディオは、生演奏のイミテーションではなく、独自の楽しさを持って良いのだと!舞台と映画を比べることに意味はないのだと!とどのつまりオーディオは、音楽を楽しく聞かせて「なんぼ!」のものなのだと。
ぐじぐじとした思いが吹っ切れたのを境に、心の奥底に封印されていた「何か」が堰を切ったようにあふれ出した。その思いに近い言葉を当てはめるなら、たぶんそれは「情熱」だろうと思う。思いっきり楽しいアンプを作ってやろう!そんな思いから誕生したのが、当初に紹介したAIRBOW TRV-35SE/Dynamiteという真空管アンプだ。このアンプは、私の思惑通り、いやそれ以上に楽しく音楽を響かせてくれる。私の音の好みは、ぐるっと大きな円を描いたが、結局は元の鞘に戻った。
今、私の音の好みは明確だ。まず「楽しい」こと。もちろん、一時は原音追求を目差した私だから、元の音楽を冒涜するほど「逸脱した音」は、受け入れられない。あくまでも「元の素材の味を変えてしまわない」範囲内において「素材をより美味しくしてくれる、旨みを引き出してくれる」そんなエッセンスのつまったオーディオ製品を「良品」と考えている。音楽を料理にたとえるなら、旨いものが限りなく存在するように、いい音も限りなく存在することになる。そして旨さを絶対比較できないように、音の良さも絶対比較することはできない。さらに、個人の好みも入っている。だから、何が一体いい音なのか?それは、自分で探すしかない。私ができるのは「多分不味いもの」をその中から外すだけだ。お客様が遠回りしなくてすむように「悪い音、聞かなくても良い音」を外してゆくだけだ。それしかできることはない。
時々、逸品館の社長は何でも最高だ!と褒めすぎる。特に自社ブランドを褒めすぎるというお言葉を頂戴することがある。しかし、私はそれを悪いことだとは、思わないし、行きすぎだとも思わない。もし、その機器を自分が持っているなら、あるいは購入しようとするなら、それを褒めちぎられて悪い気はしないと思うからだ。私が逆の立場なら、素直に嬉しい。褒められて、褒められて、褒められすぎと言うことはないと思う。だから、オーバーだと言われても、あれもこれも褒めすぎて矛盾があると言われても、私は自分が良いと感じる物を褒め続ける。趣味は、遊びは、楽しい方が良いに決まっている!眉間に皺寄せて音楽を聞くなんて、私にはまっぴらゴメンだ。そんなことをして悩んでいる間に、短い人生は終わってしまいますよ!最近私が傾倒する、イタリア製のオーディオからはそう言う音がする。私は、それを聞いて、その通りだ!と感じた。人生は、楽しむためにあるのだから。
さて、前置きが随分長くなってしまったが、このページで紹介したいアンプは「audio−aero」の製品だ。日本では、unison−researchほど有名ではないが、このメーカーもunion−researchと同じように、真空管アンプやハイブリッド方式のアンプやCDを以前から作っている。もしかするとハイブリッドCDプレーヤーに関しては、unison-researchよりも歴史が古いかもしれない。それくらい老舗のメーカーだ。ところが困ったことにaudio−aeroとunison−researchの輸入代理店が同じ(エレクトリ扱い)なため、unison−researchがヒットしすぎたせいか?同じジャンルで、しかも価格まで近いaudio−aeroが売れなくなってしまったようなのだ。そこで飛び込んできたのが「audio−aeroをまとめてやってくれませんか?」の話である。
昔なら、新しい物、珍しい物好きのオーディオマニアも多くいて「人と違う」というだけで商品が売れた時代もある。でも、最近のオーディオ市場は本当に狂っていて、そういう商品の価格レンジは「高い物」に移行してしまった。少数の(たぶん人にシステムを自慢したいような)オーディオファンが購入するのは「数百万円」単位の商品で、「数十万円」の商品は見向きもされない。2007年度の最高商談金額は、私の聞いたところでは「2億円」だったと言うから、呆れてしまう。私なら、そんな大金があれば小さなコンサートホールを作るか、好きなレーシングカートのためにミニサーキットを作るだろう。間違ってもオーディオには、そんな大金をつぎ込まない。そこまでしなくても「納得できる楽しい音」で音楽を聴けるからだ。
もちろん、それは個人の価値観の違いだから、とやかく言うことではない。とにかく一部のマニアの志向が高級品にシフトした結果、「中途半端な価格」のaudio−aeroは「売れなくなって」しまった。そこで「他店とは違うものを販売することを得意とする?」逸品館に話が回ってきた。これが、今回audio−aeroを聞くことになった、長い長いきっかけである。
今回、特価商材に選ばれたaudio−aeroの製品は、メーカー標準価格が40万円(税別)のプリメインアンプと35万円(税別)のCDプレーヤー。どちらも、回路に真空管を使ったハイブリッド製品である。すでにunison−researchというヒット商品に加え、audio−analogueというそれに匹敵するおすすめ品まで用意している私にとって、そこにさらに同じジャンルの商品が加わるのは、本当はあまり好ましいことではない。隙間の市場はそんなに広くないからだ。
この話は、できれば断りたい。そんな考えを持ちながら、CDを聞き始めた。音は良い、悪くないという第一印象。unico cdと比べても繊細で、芯もしっかりして、上級な音がする。もちろんハイブリッド方式らしく、普通のCDでは、出ない音を聞かせてくれる。でも、驚くほどのインパクトはない。とにかく、断りたい気持ちを抑えて48時間連続で演奏しエージングをすませる。するとどうだろう!?どんどん、透明感が増し、空間が広がり、見通しが良くなって行くではないか。エージングが終わった音は、なかなか素晴らしい。澄み切った草原の空気のように清涼でありながら、体の中に優しく流れ込む音。暖かい太陽の光を全身に浴びているようなunison-researchの音とは、ひと味違う。緻密で透明。それでいて圧倒的に情緒的。明るく陽気で、でもちょっぴり大らかなunison-researchに比べて、情に流されすぎることはなく理知的な面も持ちながら、音楽を明確なシーンを持って聞かせるaudio−earo。それぞれの生まれ故郷の差が音に出る。涙を誘うような、フランス映画ほど暗くはないが、でもどこか少し物悲しいaudio−aeroの音。ものすごく説得力がある大人の音だ。
続いて、アンプを単体でテストした。やはり48時間以上エージングを行う。驚いた。CDよりもアンプはさらに出来がいいからだ。トランジスターアンプでは、到達し得ないほどの素晴らしい透明感、見通しの良さ。真空管ほど「甘く」はなく、トランジスターほど「ドライ」でもない。どちらかといえば「真空管よりの音」だが、真空管の発生する、奇数次倍音とトランジスターの偶数次倍音の比率がうまくあっているのだろう。全く癖や悪癖を感じさせない、素晴らしいバランス。驚くべき高い透明感と、圧倒的な解像力。このアンプは素晴らしい!50万円以下でプリメインアンプを選べと言われたら、このアンプは必ず候補にあげるだろう。その上「まとめてやる」ことで割り引きが大きくなり、販売価格も安くできるのだからなおさら価値がある。
最後に、それぞれが十分にエージングされた段階でプリメインアンプとCDプレーヤーを組み合わせて聞く。これがまた凄い!凄い!本当に素晴らしいの連発で申し訳ないのだが、この音は、実に心地よい。品格も高く、そして非常に細かく情緒的だ。CDからSACDに近いくらいの音が出てくる。価格は全然違うが、ampzilla+ambrosiaの組み合わせにも匹敵するくらいの充実感がある。
audio−earoの組合せで私が感心したのは、まず「透明感」。音に濁りが全くなく、空間にも濁りがない。本当に草原の清涼な空気の中にいるようだ。透明感だけなら、単純にS/Nを追いかけた国産アンプやデジタルアンプでも感じられることがあるが、この組み合わせで圧倒的なのは「空気感が透明」であるということと「情緒的な表現力がずば抜けている」と言うことだ。なぜなら、オーディオは解像度を上げると情緒が出にくく、情緒を追うと解像度感が下がったり、音のエッジが甘くなりやすいというジレンマに陥りやすいからだ。
しかし、この組み合わせはそれが驚くほど高い次元で両立している。とてもじゃないけれど、こんな「安い価格」で聞ける音じゃない。その質感は、最高級レベルのオーディオにかなり近いと思わせられる。
では欠点は?あまり多くないが、ampzilla+ambrosiaのような本格的なセパレートアンプと比べると、当たり前だが低域は、量的には問題はないが若干緩い。高域の切れ味にも若干欠ける。でも、それを補ってあまりあるこの魅力的な中〜高域。わたしは、まだ合ったことはないが、きっと最高のフランス美人はこんな感じなんだろうか?最高のフランス人形を音で表現したような、そんなイメージの音。この製品は「必ず」セットで聞いて欲しい。必ず「セットで購入」して欲しい。これから長い間、これ以上の音に出会うことはあまりないはずだから。
最後の締めに、このセットで「アニパ」を聞いてみる。とてもじゃないが二十歳そこそこの女の子が演奏しているとは思えない。饒舌で、色気があり、そして深みがある。しばらく聞いていると、音楽に乗ってそれぞれのシーン(場面)が映像として頭の中に浮かんでくるようになった。そこで気付いたのが「ドビッシー」。"印象主義音楽"と称される「主観的表現を斥け、激しい情緒や物語性の描写よりも、気分や雰囲気の表現に比重を置いた音楽様式」を重んじたとされているが、私には「音楽と映像を融合させた作曲家」という印象がある。「ラヴェル」との類似性も感じられるその音は、やはり「フランス流」の表現と言うべきなのだろう。「フォーレ」、「ベルリオーズ」もフランスの作曲家だが、Audioーaeroの奏でるサウンドは、私の中の彼らとのイメージとも類似する。
audio−aero。その音は、フランス料理のように味が濃く、ワインのように深みがある。イタリアのように外に開かれるだけではなく、内面にも向いている。そして、フランス語のように日本人の耳に柔らかく、優しく語りかけてくる。こんな素晴らしいアンプとCDの組み合わせが埋もれていたなんて驚きだ。エレクトリは、今後も輸入を続けるそうだから、アフターサービスには問題はない。今回は「処分特価」と言うことで特別な価格で販売するが、今後も価格が折り合えば、販売を続けたい。心底そう願うほど、このフランス美人は魅力的で、私はまったく!やられてしまった。
音楽を料理のようにお洒落に味わいたいとお考えなら、audio−aeroは、素晴らしいお薦め品だ。組み合わせるスピーカーは?ここは一つこだわって、同じフランス製のFOCALを選んでみよう。アメリカ製ともイギリス製とも、デンマーク製とも違う、フランスの風が、あなたの愛聴盤のイメージとリスニングルームの雰囲気を一新することは間違いがない。