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HELICON Seriesの特長
Dali HELICONの特長は、搭載するリボンツィーターにあります。
通常のツィーターは、ドーム型あるいは逆ドーム型なに整形した「球形(丸い)振動板」をコイルで駆動することで高音を発生します。ELACが使うJETは、蛇腹状に折りたたんだ平面の振動板を振動板に取り付けたコイル(配線)で駆動して高音を発生します。Daliが使うリボンツィーターは、薄い短冊形に整形した金属振動板を磁気回路中に配置し、この金属板に直接電流を流して高音を発生します。駆動部がそのまま振動板になっているリボン型ツィーターは、高音を発生するユニットとして最もレスポンスに優れています。しかし、使用できる金属が電気の良導体(例えばアルミ)しか使えない、振動板が平面に近いので指向性が強いなどのデメリットも持っています。
リボン型ツィーターの構造
Dali HELICONはこのリボンツィーターを13kHz以上を受け持つスーパーツィーターとして使用し、13KhZ-3Khzを同一のプレートにマウントしたソフトドーム型ツィーターから再生するハイブリッドユニット(下図)を搭載しています。
HELICONが搭載する、Daliオリジナルハイブリッドツィーター
逸品館は「リボンツィーターの主張が強すぎる」という音質的な理由から、これまでDali製品をあまり積極的に扱ってはいませんでした。しかし、今回、ラインナップが一新され、音質が改善されつつあると主張されるDali製品を見直すため、上級モデルのHELICONを試聴することにしました。
試聴用CDプレーヤには、AIRBOW CD3N Analogue。プリメインアンプにAIRBOW PM11S3 Ultimateを使いました。
AIRBOW CD3N Analogue |
AIRBOW PM11S3 Ultimate |
490,000円(税別) | 565,000円(税別) |
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HELICON 300MK2の従来モデルからグレードアップした入力端子
音質テスト
Last Live at “DUG” /Grace Mahya 「Mona Lisa」
音が出た瞬間から「ツィーター」から音が来ることを感じます。こういう存在感のあるツィーターの鳴り方をオーディオファンは「良い」とすることが少なくありませんが、私は「スピーカーの存在感を消す=生音との違和感を解消する」ことが、優れたオーディオ機器の本質だと考えていますから、その方向から見るのであれば、これは違っています。しかし、生音よりも「より良い音で音を聞く」のもオーディオの楽しみなので、ここはグッとこらえて試聴を行うことにしました。
まず、気になるリボン型ツィーターの気になるポイントを挙げてみます。
・指向性が狭い
Daliの前を移動しながら高音を聞いてみればすぐに分かることですが、Daliが搭載するリボン型ツィーターの許容可聴範囲は垂直で±15度、水平で±30度程度です。ツィーターの位置も明確に分かるので、左右のツィーターとリスナー耳までの距離が変わると容易に音像の形が変わり音が揺れます。私にとってリボン型ツィーターの音は、ヘッドホンを聞いているような圧迫感があります。
・高音が際立ちすぎる
リボンツィーターの存在感が強く、何を聞いても高音が強調されて聞こえます。シンバル、金属を使う楽器は良いのですが、ボーカルなど本来あまり高音がハッキリし過ぎない方が好ましい場合、リボンツィーターだとサシスセソ(子音)が必要以上に強調され、高音が刺さるように聞こえることがあります。
・音色が暗い
金属を振動板に使うためでしょうか。あるいは金属の響き(振動板の共振)が耳に付くからでしょうか、全体的に高音の音色が暗く鉛色です。音色の暗さや重さが原因となって、音楽が躍動しにくい印象です。弾けるような鮮やかさとワクワクするような生命感はありません。
主にこの3点が、私があまりDaliを好きになれない原因ですが、今度は逆にこの欠点を長所に置き換えて書いてみましょう。
・高域特性に優れている
スピーカーの高音が心地よく聞こえる範囲が限定されますが、そのエリア内で聞いていればドーム型ツィーターにはないリボン型独特の解像度と明瞭度の高い高音が楽しめます。
・金属や打楽器のアタックの再現に優れ、明瞭度が高い
シンバル、ドラムなどの打楽器の音が明快に聞こえます。また、楽器の切れ味も良好です。ボーカルは口元が見えるほど、クッキリと高密度なホログラムのような音場が実現します。
・不要に音が明るすぎない
Daliの音色の暗さは、絶対的なものではなく相対的なものです。明るい音が好きな方もいらっしゃれば、暗い音が好きな方もいらっしゃいます。また、お聞きになる曲のジャンルによっても、スピーカーの音色が明るい/暗いのマッチングはあります。これは、欠点ではなく、あくまでも「傾向」です。
では、モナリザを聞いてみましょう。
ギターの音が細かく、弦が振動している(震えている)のがよく分かります。ギタリストが弦をコントロールしている様子が「音の変化」としてよく分かり、音源が近く感じられます。特にパーカッションの音は、明瞭度が高く楽器を近く感じます。響きの収束も早く、音場空間は透明です。
マーヤさんの声は少し細めでスッキリしています。子音がやや強く聞こえるのが耳障りですが、透明感は高く魅力的です。ただし、女性ボーカルの子音の荒れを気になさるのなら、HELICONはお薦めできません。
音は細かいだけではなく密度感も高く、不思議なリアルさがあります。低音も密度感が高く、レスポンスも良好です。低音の量感は、スピーカーのサイズを考えると「これくらいでちょうど」というイメージです。HELICOM300MK2は、ブックシェルフ型としてはサイズがやや大きいので小型トールボーイ程度の低音は十分出ます。
"Bach
Violin Concertos" / Hilary Hahn, Laco, Kahane (Hybr) (Ms)
弦楽器の高音は近くで聞くと生音でもかなり伸びていますから、それを考慮するとHELICONのやや過剰な高音の伸びやかさは弦楽器ではあまりデメリットを生じないと考えます。ただリボンツィーターの金属的な音色が弦楽器の倍音に乗っかって、楽器の弦がすべて「金属製」のイメージになってしまいます。これはあまり頂けません。バイオリン、チェロ、コントラバスのパートは「音程の違い」としては明確に分離しますが、「楽器の音色の違い」はそれほど鮮やかではありません。全体的に楽器の色彩が、ややモノトーン(灰色)がかって感じられます。
高音、中音、低音のレスポンスは乱れることなく、また通常のスピーカーよりも良好です。音楽のリズムの再現性に優れ、速度の変化が明快です。
バッハは基本的に「楽器の音色」に頼ることなく、「音と音の関係」で成立するように作られていますから、楽器の音色の変化の再現があまり得意でないDaliでもほぼ問題なく楽しむことができました。しかし、同じバッハでもDaliの音は文系ではなく、明かに「理数系」の音です。その音は、心ではなく理に、より強く触れてきます。
"Xscape" / Michael Jackson 「Xscape 」
高音の切れ味の鋭さ、ほとんど遅れることなくついてくる低音のリズムと音階。物理特性は優れています。しかし、「色彩感」が薄いHELICONは心に訴えません。音は良いのですが表情がないので、楽器が不調和でうるさく聞こえます。マイケルジャクソンは、聞いていてあまり楽しくない雰囲気でした。
試聴後感想
ウォーミングアップを兼ねて、HELICOM300MK2でグレース・マーヤさんのアルバムを全曲聴きました。最初は、そのクッキリしたHiFiな音に悪い印象はなく、ドラムや金管楽器などのクッキリした感じには好印象を持っていました。しかし、試聴を開始する頃にはその高音がやや耳に付き始め、試聴を終えることには高音過多なその音に疲れてしまいました。
Cabasse IO2の試聴リポートをご覧頂ければお分かりになるように、スピーカーから出てくる音に「心が動かない(なにも感じない)」のなら、試聴リポートが書けません。なぜなら?なにも感じないからです。
HELICOM300MK2のリポートは、マイケルの曲を除き「書くこと」があります。それは、好き嫌いは別にして「感じるもの」があったからです。私はそれを「嫌い」と感じましたが、感性は人それぞれなのでそれを「好き」と感じる方もいらっしゃると思います。そういう意味で、HELICON300M2は、好き嫌いがはっきり分かれるスピーカーだと思います。
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音質テスト
Last Live at “DUG” /Grace Mahya 「Mona Lisa」
キャビネットが大型化されウーファーが増えて低音が出ると、それに引きずられて中高音の印象もがらりと変わることが多いのですが、HELICON300MK2とHELICON400MK2の中高音はほとんど変わらない印象で、楽器のボディーがほんの少し増強された感じです。またウッドベースなどの低音も、サイズの大型化、ウーファーの追加ほどは出ない感覚です。人間は高音と低音を相対的なエネルギーバランスで感じているので、高音のエネルギーが強いDaliでは低音が増強されてもその効果が小さく、結果として低音があまり出てこないように聞こえるのでしょうか。
ギターの音はやはり線が少し細くやや神経質で、ボーカルもマーヤさんの肉付きがあまり感じられず、スリムなイメージです。繊細ですが理知的で、少し神経質な音に聞こえます。曲が進むと低音も出始めましたが、エネルギーバランスがやや高音方な部分、全体的に音が薄く感じる部分は、HELICOM300MK2と共通していました。
ドラムやシンバルは、実物よりも一回り小さいイメージです。音の広がりやステージのサイズも、実物よりもやや小振りです。中高域の質感もさほど変わらないので、スピーカーを300MK2から400MK2に変えた感じがありません。ただHELICOM300MK2にそれなりのスタンドを奢った場合の価格と、HELICON400MK2を購入する金額差はそれほど大きくなりませんから、それを考えると感じられる音質差は「妥当」と思えます。
"Bach Violin Concertos" / Hilary Hahn, Laco, Kahane (Hybr) (Ms)
グレース・マーヤさんのJazzとは違って、この曲ではHELICON400MK2で300MK2よりも増強された中低域による高音の変化が感じ取れます。
HELICON400MK2は短いウォーミングアップで試聴したので、そろそろ低音が出だしたのかも知れません。もしそうならば、HELICON400MK2のグレース・マーヤさんの試聴リポートは、少し違っていたかも知れません。
コントラバスの音量とボリューム感が明らかに増しました。バイオリンやチェロも中音が豊かなり、相対的に高音の伸びやかさがまろやかになりました。
音場の透明感は減少しましたが、音量に伴う空間サイズの変動は大きくなりました。色彩感もやや増して、HELICON300MK2で感じた「暗さ」や「冷たさ」、「重たさ」はかなり解消しています。
もちろんそれでも明るく快活な音ではありませんが、理だけではなく情に訴える部分も感じられ、価格を納得できる音質でヒラリー・ハーンが鳴りました。
"Xscape" / Michael Jackson 「Xscape 」
HELICON400MK2と300MK2を比べると、高音の切れ味がマイルドになっていることが聞き取れます。良い意味でリボンツィーターの存在感も希薄になり、Dali特有の癖は300MK2よりも400MK2で明らかに小さくなっています。
また、それぞれの音がバラバラにうるさく鳴っていたHELICON300MK2に比べると、400MK2の音は遙かに調和が取れており、それぞれの表情も豊かで音楽を楽しめます。
この音質改善は、低音が強化されたことでDali特有の高域よりのエネルギーバランスがやや緩和されたためだと思います。HELICOM300MK2のとんがった部分は、HELICONの魅力であり、同時に欠点でもありました。それが緩和された400MK2は、欠点が緩和されると同時に魅力も薄くなっているように感じられます。
人間とは贅沢なものです。
試聴後感想
ここまでに聞いたHELICOM300MK2、400MK2はかなり「癖」のあるスピーカーでした。こういう「癖」の強いスピーカーは、上手く鳴らすことが難しいのであまりお薦めしないのですが、その「癖」をコントロールすれば、また違う表情を見せてくれることがあります。
HELICON Series 最上級モデルHELICON800M2は今晩一晩たっぷり鳴らして、明日試聴と同時に「鳴らし方」も研究しようと思います。
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音質テスト
試聴前のウォーミングアップを十分行えなかった400MK2の反省からHELICON800MK2は、試聴前に様々な楽曲を使い一晩16時間以上のウォーミングアップを行いました。HELICON Seriesの共通の癖と感じる「高音が強く音が薄く感じる印象」は、ウォーミングアップ前後であまり変わりませんでした。
サイズの割に低音が少なめに感じるHELICONの共通点は、HELICON800MK2も同じです。普通は高域のユニットが同じでもスピーカーのサイズでその印象ががらりと変わる事が多いのですが、HELICONはスピーカーのサイズを問わず中高域の情報量があまり変わらないように感じます。それはHELICON800MK2でも同じです。しかし、スピーカーの音質は「セッティング」で大きく変わるので、HELICON800MK2の試聴ではセッティングでその音をどれくらい変えられるかトライしました。
接続方法比較
Bi-Wire対応のスピーカーをシングルワイヤリングで接続するには、「±両方を上の端子に接続」、「±両方を下の端子に接続」、「±をたすき掛けに接続(2通り)」の4通りの接続が可能です。多くの場合、プラスを高域、マイナスを低域に繋ぐことで音質のバランスが最良となるスピーカーが多いのですが、TADは「±両方を下の端子に接続する方が音が良い」など例外があります。そこでHELICONにはどの接続が適しているか、ケーブル接続からセッティングを始めました。
Last Live at “DUG” /Grace Mahya 「Mona Lisa」
プラス上、マイナス下
ギターの高域がやや細く、ボーカルは子音が強い。エコーが少なく、音が乾いています。艶を感じさせない音がさっぱりしすぎて、脂ののっていない魚のように味気がありません。高域の透明感や解像度は高いのですが、音が弱々しく音楽に生気が感じられません。
低音もあまり出ず、ホール感が感じられません。拍手もパチパチと、観客もやる気のない感じです。
プラス上、マイナス上(両方を上の端子に接続)
ギターの高音に艶と響き、胴鳴りの感じが出ました。ボーカルの子音はやはり強いのですが、唇は湿ってきました。この曲のギタリストと、ボーカルのグレース・マーヤさんは婚姻関係にあるのですが、二人の間に通う情感が出てきました。エネルギーバランスとしてはやはりまだ高域寄りなのですが、バラバラに鳴っていたそれぞれの音に、音楽的な調和が感じられるようになりました。音楽表現としては、かなりの改善です。拍手はパラパラと数は少ないですが、演奏をたたえている雰囲気が感じられるようになりました。
プラス下、マイナス下(両方を下の端子に接続)
「プラス上、マイナス上」と改善の方向性は同じです。しかし、改善の幅が少し大きくなりました。
ギターの音に粘りが出て、ボーカルにはタメと力が感じられるようになります。耳に聞こえる「音」の改善はそれほどではないのですが、音楽のムードや時間の流れる感覚が全く違っています。ただ鳴っているだけの音が、感情を伝える音に変わりました。
ギタリストがギターという楽器を愛でながら奏でている様子が伝わり、マーヤさんがそれ側で聞いているような「音で二人が繋がっているイメージ」が強く、生演奏を聴いているリアリティーが出てきます。
まだ時折「「音の弱さ(音の芯が弱く押し出し感に欠ける)」を感じる事はあるのですが、少なくとも音楽を聞いている集中に入ります。拍手に対する違和感もほとんどなくなりました。続く6曲目のイントロでは、楽器の「抑揚」が明らかに大きくなっていることが聞き取れました。
プラス下、マイナス上
「プラス下、マイナス下」と傾向は同じですが、音の調和感がさらに整います。ギターやボーカルの抑揚も大きくなっています。高域はスッキリと伸び、リボンツィーターらしいキリリとした音で楽器とボーカルを奏でます。しかし、子音は再び少し強くなりました。音質の透明感は最も高く感じられますが、それに比例して人間味は薄れる方向です。
「プラス下、マイナス下」ではHELICONが最もヒューマンな鳴り方をしました。しかし、この接続はモニター的な傾向が強く、演奏の楽しさよりもステージ上の緊張が強くなります。音は良いのですが演奏がやや窮屈な印象で、音楽を楽しんで聞けない印象です。
接続テスト結果
HELICON800MK2へのスピーカーケーブルの接続は、逸品館推奨の「たすき掛け」は、音のバランスが崩れあまり好ましくありませんでした。±の両方を上に繋ぐと、「たすき掛け」に比べて音に粘りと抑揚が出て音楽の表情が伝わるようになります。±の両方を下に繋ぐと改善がさらに大きくなり、今回の接続では±の両方を下に接続することが、最も良いと感じました(下写真)。
スパイクあり/なし比較
接続を最も音が良かった「プラス下、マイナス下」に固定し、ウェルフロートボードに直接乗せているHELICON800MK2に、付属するスパイクを付けてみました。
Last Live at “DUG” /Grace Mahya 「Mona Lisa」
スパイクなしに比べると高域の透明感が増し、硬さも緩和されます。スパイクベースに貼り付けられた「フェルト」の効果なのでしょうか、音の滑らかさが改善された印象です。ただ、人間くささは少し薄れ、ステージ上の緊張感が若干漂うようになりました。
高域・低域がしっかり伸びて音の良さと音楽の表情の豊かさのバランスに優れているイメージですが、個人的には「スパイクなし+ウェルフロートボード/直置き」の人間くささが、最も好みに合っています。スパイクありでは、ほんのちょっぴり他人行儀な演奏に聞こえました。
ジャンパー線比較
接続は「±下」。設置は「ウェルフロートボード/直置き」。次の付属品のジャンパーケーブルを「AET SIN EVO Jumper/banana」に変えてみました。
Last Live at “DUG” /Grace Mahya 「Mona Lisa」
オリジナルジャンパーと比べると、音がよりいっそうきめ細かくなりデリケートな変化まできちんと再現されます。音の密度が向上し、力強さが出てきました。しかし、今までにSIN EVO Jumperをテストしたほかのスピーカーに比べると、その変化はかなり小さいものです。
SIN
EVO Jumperは音質改善効果が大きく、ほとんどの場合一音が出た瞬間に全然違う印象を受けます。HELICON800MK2では「聞き耳を立てると分かるけれど」という小さい変化です。しかし、じっくりと音楽を聞いて行くと同じ水でもより美味しくなったような、音の浸透力に変化が感じられました。
次にジャンパーを「AIRBOW Silver Jumper VT/banana」に変えました。
高音のキツさが緩和され、音に艶が出ます。ボーカルにも暖かさが出て、演奏に血が通ってきました。
高音よりだったHELICON800mK2の音質バランスが改善され、音が自然に聞こえます。子音はまだ強いのですが、自然な発音に聞こえます。ギタリストとボーカリストの絆が強く感じられます。
音の変化はほとんど感じられないのですが、雰囲気感の向上はSIN EVO Jumperを大きく凌ぎます。高音の響きが美しい、自然で雰囲気の濃い音になりました。
CDプレーヤ−、AIRBOW CD3N Analogue / AIRBOW SA14S1 Master比較
接続を±下。セッティングを「ウェルフロートボード/直置き」。ジャンパーを「AIRBOW Silver Jumper/banana」に設定して、接続していたCDプレーヤーをAIRBOW CD3N AnalogueからSA14S1 Masterに変更しまし、CD/SACDの比較試聴も行いました。
AIRBOW CD3N Analogue | AIRBOW SA14S1 Master |
490,000円(税別) | 360,000円(税別) |
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Last Live at “DUG” /Grace Mahya 「Mona Lisa」
CDレイヤー
CDプレーヤーを変えると音の粒子が細かくなり、HELICON800MK2の良さがより一層引き出されます。
CD3N Analogueは音質よりの雰囲気重視の、ある意味で真空管アンプのような好音質に仕上げていますが、SA14S1 Masterは現代のコンポに合わせたHiFi基調の高音質に仕上げています。
CD3N Analogueが持つ「聞こえない音を聞かせる能力」よりも、SA14S1 Masterが持つ「聞ける音を聞かせる能力」がHELICON800mK2の「理系サウンド」には、より良くマッチするようです。
SACDレイヤー
CDレイヤーに比べて「滑らかさ」が向上します。高域の子音の荒さも少し軽減されました。音の木目も細かくなっていますが、その変化は比較的小さなものです。空気感や雰囲気感は、CDレイヤーとそれほど変わらないか、音に耳を取られる分やや薄くなった印象です。CDとSACDの音は、特に大きな差を感じません。
ただSACDでHELICON800MK2はより高音が伸びやかになりましたが、逆にそれが災いしてHELICONの高域過多の印象が強まりました。
"Bach Violin Concertos" / Hilary Hahn, Laco, Kahane (Hybr) (Ms)
CDレイヤー
CDプレーヤーを交換したからでしょうか、弦楽器の音がタイトになりました。高域は驚くほどキラキラと輝きますが、スピーカーからリスナーへ真っ直ぐ音が向かってくる感じです。
リボンツィーターの主張が強くホールの間接音成分のふくよかさがあまり聞き取れなくなりました。大型スピーカーらしく低域も比較的出ているのですが間接音(響き)成分が少ないために音場はそれほど広がりません。また、再現される音場もふわりとしたものではなく、最初の印象通りかなりタイトです。
楽器の音をより明確に聞かせる印象ですが、音楽の生命感や豊かさはそれに比べると乏しく感じます。やはり「理系の音」という印象です。
SACDレイヤー
グレース・マーヤさんのJazzと同じで、SACDにすると高域のキツさが緩和されます。CDと比べて間接音成分も増えて、生演奏のバランスにぐんと近づく印象です。
コンサートマスターの奏でるバイオリンと伴奏のバイオリン、チェロ、コントラバスは、綺麗に分離しますが楽器の音色の違いは再現されにくい印象です。バッハという曲の性格上、この音でも良いと思いますが、ベルリオーズやドビュッシーなどの「楽器の音色の変化が表現に重要な音楽」には、HELICON800MK2はあまりマッチしないと懸念します。
ただCDレイヤーの再生と比べ、SACDレイヤーでは「理系の音」という印象がかなり薄れ、ほぼニュートラルな印象でヒラリー・ハーンが鳴りました。
"Xscape" / Michael Jackson 「Xscape 」
イントロの高音は反応が早く鋭いですがHELICONの下級モデルと比べ、硬い/粗い印象がありません。低音はかなり良く出ます。マイケルの声は、電子的に増幅している印象です。
帯域エネルギーバランスは適正ですが、楽器の音が一度に鳴っている印象があります。表現力のあるスピーカーは、主役と脇役を明確に描き分け、音楽をコントラスト豊かに鳴らすのですがHELICON800M2は音色が薄く音が単調です。なおかつそれらのすべてが主役になった印象で、あらゆる音が一斉に突っ込んできるため、音楽が粗雑でうるさく感じます。
もちろん、今回聞いたHELICONの中では800MK2が、最も良いとは思いますが、HELICON Seriesは音楽の情緒的な部分を表現するのは苦手なように思います。好みの差が大きいと思いますが、私にはリズム感のない理系の人間がRockを歌っているようで、マイケルがなんだかつまらなく聞こえてしまいました。
CDプレーヤー比較結果
Daliの良さを引き出すには欠点を補うような「雰囲気より」のコンポではなく、「音質重視」のコンポを使った方が良さそうです。
CD3N AnalogueとPM11S3 Ultimateの組み合わせから鳴る音楽は、それよりも数倍高価なコンポーネントよりも情緒的で感動的だと自負します。また、SA14S1 MasterとPM11S3 Ultimateを組み合わせて鳴る音楽もまた同様です。しかし、この2機種のプレーヤーには明らかな音の違いがあります。
CD3N Analogueは、ベルトドライブメカニズムの特長を生かした滑らかで暖かいレコード的な音質ですが、SA14S1 Masterはきめ細かく透明感の高いキリリとした高級デジタルプレーヤーの音に仕上げています。そのため組み合わせるスピーカーの個性に合わせて選ばなくてはなりません。
例えばHarbethやStirling Broadcast LS-3/5a、Vienna Acousticsのような「音色/雰囲気重視」のスピーカーならCD3N Analogueがよく合います。B&WやTADのような最新高性能スピーカーには、SA14S1 Masterのほうがよりマッチすると思います。しかし、本当にマッチするかどうかは実際にその場(お客様の場合はご自宅)で鳴らしてみなければ、答えは出ません。
想像や理論で答えが出せないのがオーディオです。ちょくちょくWebで「絶対に正しい!」とか「これがセオリー!」とか、断言するような書き込みを見かけることがあります。他のページにも書いていると思いますが、オーディオで唯一立証できるのは「絶対がない」という事だけです。つまり「絶対」という主張は、100%間違っています。また、そういうことを言う輩は「オーディオの深さ」をまだ知らないのだと思います。
購入前に「正解」が見つかれば安心です。確かに経験を積むことで「正解の確率/精度」を上げることができます。しかし、例外は常に存在します。それをよく知るからこそ、AIRBOWは「貸出試聴機」をご用意しておりますし、主要製品には30日以内の返品保証をお付けしています。それは利益追求のシステムではなく、せめてものお客様への心配りです。もし、私のレポートが「参考になった」と感じて頂けるなら、応援の意味でも「AIRBOW(もちろん安いもので構いません)」を購入して頂けると幸いです。
試聴後感想
HELICON Seriesの特長は、搭載するリボンツィーターの音色に集約されます。
Pioneer、JEMなどから、Daliと同様のリボンツィーターは発売されて来ました。しかし、私はそのすべてに「金属的な硬さ」と「鉛色のような音色の暗さ」を感じてしまいます。しかし、同時にリボンツィーターは通常のツィーターでは出せない、高域の芯の強さなど独自の良さを持っています。シンバルなど金気の音色の再現は、リボンツィーターの最も得意とするところです。また、「ツィーターが鳴っている」という存在感も随一で、「良い音が鳴るツィーターの存在感」を求められる方には向いていると思います。
オーディオの楽しみは人それぞれです。私は「音を聴く楽しみ」からオーディオに入り、いまは「音楽を聴く楽しみ」を追求しています。私が求める音とは「空気」のような存在です。いくら聞いても疲れることなく、自然で機器(電気)の存在が感じられないような音が理想です。もっと言うなら、きめ細かく色彩が鮮やで高密度の音が織りなすプラネタリウム(万華鏡)空間に自分が浮かんでいるようなコンポの鳴り方が理想です(3号館の主試聴室に展示しているTAD Reference Systemで私はすでにそういう「音」を手に入れています)。
今の私の理想と比べるとHELICONは、数世代前のB&Wのように「スピーカーと音の存在」を強く主張する印象が強く、それを好むか?好まないかが、Daliの音を好きになるか、なれないかの決め手になると思います。
2014年7月 逸品館代表 清原 裕介
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