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EMT JPA66 フォノイコライザーアンプ 音質試聴テスト 評価 評判 販売 価格

EMT TOP

EMT JPA66

Varia Curve Tube Stereo Contorol Center

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イコライザー調整部

フロントパネルのつまみでRIAAカーブを細かく調整可能で、あらゆるレコードにベストのカーブを設定できます。
上段左の写真には、周波数可変のスクラッチノイズフィルターのつまみも写っています。

 

フォノイコライザー回路

昇圧比の異なる2種類の昇圧トランスを搭載した2系統のフォノステージに加え、MM、高出力モノラルカートリッジに対応した合計4系統のフォノ入力を備えています。搭載されるトランスはAIRBOWオリジナルのBV33にそっくりです。

本体リアパネル

4系統のフォノ入力の中で1〜3は、バランス入力にも対応しています。ライン入力はアンバランス2系統のみ、出力は、アンバランス/バランスの各1系統で音量をフロントパネルのボリュームつまみで可変できるので、プリアンプとしてお使い頂けます。

EMT創立66周年記念(Jubilee Series)

Varia Curve Tube Stereo Preamplifier 【管球式 All Curve Drive ステレオプリアンプ】

1940年以来、EMTはプロフェッショナルユーザーの為、優れたブロードキャスト/レコーディングスタジオ用のオーディオ製品を提供してきました。2006年、EMTは創立66周年を迎えました。その記念として、ハイエンドオーディオファイルの為の新型フォノカートリッジJSD5/JSD6を発表しました。それに続き、トップクォリティーのフォノレコード用プリアンプ機器を発表いたします。

JPA66は、EMTの経験豊かなアナログエンジニアリング技術の粋を集め、サウンドエンジニア、多くの音楽愛好者、音楽スペシャリストならびに膨大なレコードライブラリー管理グループからのフィードバックを加え、実際の使用状況において、丹念にチューニング、最適化されました。JPA66は、革新的な技術と使い易さが一体となった、非常に多機能なレコードコントロールセンターとなります。

主な特長

JPA66はEMTの目的である最先端のイノベーションを実証、正確な音楽再生という我々の豊かな伝統を受け継いで、すべてのEMTカートリッジをはじめとして多くのフォノカートリッジにフロントパネル上のファンクションから適合設定でき、最良のサウンドを引き出します。

現代までの大きな音楽遺産であるフォノレコードすべて、SPレコードから1960年以前のLPレコードまでの様々なイコライザーカーブを正確にデコードするターンオーバー調整とハイカーブ調整機能はその素晴らしいコントロール結果にプロのサウンドエンジニアはもとより、多くのレコード愛好家は驚くことでしょう。

JPA66はフォノレコードの制作から再生までを熟知したEMTが取り揃えた極上品質のコンポーネントで組上げられています。細心のエンジニアリング、様々なMCカートリッジに対応した2種類のステップアップトランスを搭載、選別保証された三極真空管ECC803Sで行われる全増幅段、EMT930や927スタジオターンテーブルのような優れた操作性、ユニークな人間工学に基づくデザインにより、貴重なレコードコレクションからアナログならではの美音を浮かび上がらせます。また、フォノレコードだけでなく三極真空管ECC99によるラインアンプはEMTならではの高品質出力トランスを備えCDソースもフォノ同様のグレードで再生、コントロールセンターと呼ぶに相応しいプリアンプとなっています。

主な仕様

・4系統フォノ入力(標準仕様)
  Phono1:中〜高インピーダンスMCカートリッジ用、全てのEMTスタンダードバージョンカートリッジ、その他
  入力ロード/レベル微調整14能(感度/負荷抵抗: mv、200Ω-50%/+100%)

  Phono2:低インピーダンス/低出力MCカートリッジ、オルトフォンその他
  入力ロード/レベル調整可能(感度/負荷抵抗: 0,250 mv、 47Ω -50%/+100%)
  Phono3:MM カートリッジ用または外部MCステップアップトランス経由用、47knマッチング
  入力ロード/レベル調整可能(感度/負荷抵抗:5 mv、 47kΩ -50%/+100%)
  Phono4:高出力(MONO)MC、MMカートリッジ用
  入力ロード/キャパシタンス調整可能
  (感度/負荷抵抗/CAP負荷:5mv(fix)/47kn-50%/+100%、Normal+100/220/330 pF)

・2系統ラインレベル入力:500 mv to 5 volts RMS, 20kΩ(3ステップで内部調整可能)

・全てのステレオ、モノラル(78回転SPを含む)レコードの為の可変イコライザー
  (1)Turnover調整(200Hz〜2kHz)
  (2)hf-Curve調整(Oμs〜75μs/RIAA)
・スクラッチフィルター(50kHz〜3kHz)
・初期のアコースティック録音盤のためのEQバイパススイッチ
・高度に最適化されたサブソニックフィルター回路
  -20dB/10Hz,-30dB/7Hz,-40dB/5Hz(ヒューマンヒアリングを分析して設定)
・フォノ入力用のステレオ/モノラル切替、及びミュートスイッチ
・ゲイン:MM 53 dB; MC 73 dB, Phono 1-3 adjustable +/-10 dB
・周波数特性:10〜40,000 cps +/-0.5dB
・全高周波歪率:0.05%@14 dBu output level
■最大出力:+27 dBu/ 17.40V RMS
  (内部ゲイン切替:LINEレベル0/-6/-12dB、PreAmpゲイン+12/+18dB)
・電源/消費電力:100VAC to 230VAC, 50/60Hz,selectable -20%/+10%、85W
・外形寸法/重量:本体482×145(200foot使用時)x400mm、11kg、電源部/PSU 482X135×235 mm、13.4kg
・使用真空管:ECC 803S type x 6, ECC 99 type x 2
・価格:3,800,000円(税別)(本製品は少量生産の為、完全予約販売となっております。)

(説明文、主な仕様はエレクトリホームページより抜粋)

今年の4月に高精度クロックジェネレーターAntelope Audio OCXの力を借りて、愛機AIRBOW UX1SE/LTDから最高のレコードに匹敵するサウンドを引き出すことに成功してからさらに2ヶ月間、OCXの輸入代理店「プロメディア」から追加で届いたAntelope Audioのアトミッククロックジェネレーター[10M]やBrainstorm [DCD-8]Real Sound Lab Apeq8chバージョン試作機など、進化した最新デジタル機器の想像を絶する音質に文字通り「やられっぱなし」だった。もうレコードは要らない、3号館にあるレコードも邪魔になってきた、そんな思いが脳裏をかすめた時、アナログの頂点を極める最新機器をまだ試聴していなかったことに気がついた。それが、EMT JPA66だ。

JPA66は、EMTの創立66周年を記念して作られた「オール真空管」のステレオプリアンプで、フォノイコライザーは何と4系統も搭載されている。Line入力はアンバランスが僅かに2系統しか装備されないが、その潔さ無骨な外観の恰好よさ、これこそまさに「アナログの頂点」にそそり立つコンポーネントにふさわしい骨太な機器だ。詳しい技術的な説明は、輸入代理店エレクトリのホームページをご覧頂くとして、早速その音質を聞いてみよう。

レコードプレーヤー Nottingham Interspace/HD

カートリッジ Phase Teck P3

AIRBOW'セパレートアンプCU80/Special&MU80/Fine Tune

パワーアンプ  AIRBOW CU80/Special + MU80/Fine Tuned (ボリューム最大で使用)

スピーカー    Zingali1.12

試聴テスト

The L・A・4

PAVANE POUR UNE INFANTE DEFUNTE

 

BUD SHANK

LAURINDO ALMEIDA

RAY BROWN

SHELLY MANNE

The L・A・4 “亡き王女のためのパヴァーヌ”

電源投入直後にレコードを聴いたにもかかわらず、最初からすごい音が出てくる。

ウィンドチャイムの音が素晴らしく美しい。一切の澱みや濁りを感じさせず、レコードを聴いているとは信じがたいほど透明な空間に、しかしレコードでなければ出せない甘美な音色でチャイムの音が空間に溶け込んで行く。そのコントラストの鮮やかさは筆舌に尽くしがたい。

フルートの音には、アナログらしいしっかりした厚みと滑らかさが感じられる。ウッドベースの響きは、これ以上ないと言うほど濃密で木質的。柔らかいフルートの響きと暖かいウッドベースの響きが絡み合い、空間を見事なハーモニーで満たす。

ギターの音は弦の乾いた音とスプルースの美しい響きのバランスが絶妙で、人間が直接弦に触れながら音を出す楽器ならではの「強い説得力(濃密な音色の変化)」が心を鷲づかむ。

アルトサックスもレコードならではの甘く太い音でむせび泣く。

バド・シャンクは再び楽器をサックスからフルートに持ち替え、シェリーマンが奏でる美しく優しいウインドチャイムの音色とレイ・ブラウンの知的で抑えめなウッドベース、ローリンド・アルメイダの甘く美しいギターの響きのそれぞれが見事なハーモニーを奏でながらクライマックスへと曲が上り詰めて行く。

そしてフィニッシュ!すべての響きが無音の空間に吸い込まれて行き、感動の余韻だけが耳に残る。

たった一曲を聴く充実感がこれほど大きいものだとは!L・A・4の演奏がこれほどアーティスティックだったとは!

演奏者に高い緊張感を強いるダイレクトカッティングのレコードでこれほどまでに素晴らしい演奏を残せる名人芸。安易なデジタル編集で簡単にできあがる音楽には、決して求めることのできない「本物の感動」がそこにあった。

ジェシー

 

V:峰純子

P:ハンク・ジョーンズ

B:ジョージ・デュビビエ

D:グラディ・テイト

峰純子 “ジェシー”

このレコードはなぜか好きで、一番良く聞いている一枚に入る。ミュージシャンでは、ピアニストのハンク・ジョーンズだけが日本のJAZZファンになじみ深く、ドラムのグラディ・テイト、ベースのジョージ・デュビビエは、名前がほとんど知られていない。ボーカルの峰純子も、阿川泰子などにくらべてあまり名前の知られたボーカリストではない。でも彼らが集ったこのディスク、特にアルバムタイトルの「ジェシー」を初めて聴いた瞬間からなぜか強く心が引きつけられ、私は一発で峰純子のファンになってしまった。

EMT JPA66で聴く峰純子は、厚みのある暖かい声だ。女性ならではの優しさや包容力、色艶を感じさせる声が大げさではなく生きるエネルギーを与えてくれる。

楽器は、低音の厚みがすごい。

カートリッジにどちらかと言えばやや無機的で日本的な音のするPhase Tech P3を使っているにもかかわらず、まるでEMTのカートリッジを使っているような分厚い濃密な音が出る。しかし、音場に濁りは一切無く、依然として透明感は非常に高い。

厚みがあって、濃密でありながら、透明感も高い音。聴かずとして、そんな音が想像できるだろうか?

楽器の分離は完全で各々の楽器の音色の違い、演奏者の楽音のデリケートなコントロールが見事に再現される。

音の出方や雰囲気が本当に「生演奏」に近いから、音が細かいとか、分離感がよいとか、そういう「オーディオ的なコメント」を書くことができなくなる。

ボーカルは語りかけ、ベースは弾み、ドラムは時に爆発する。ピアノはボーカルに美しく寄り添って鳴る。30年の時を超えて名演奏が目の前に蘇る。ああ、なんて素晴らしい時間だろう!この時間を買うことができるなら・・・。感動はプライスレス。つまらないコマーシャルの言葉ですら、俄に真実味を帯びてくるほどの素晴らしい音でジェシーが鳴った。

八神純子

 

素顔の私

八神純子 “素顔の私”

日本を代表する女性ボーカリストの彼女は、すでに50才を超えた現在もファンが多い。パッと出で長続きすることのない、今のアイドル系ボーカリストとは比較にならない息の長さが、彼女の「ボーカリスト」としての実力の高さを裏付けるが、このレコードの一曲目を聞けばその理由が分かるはずだ。

八神純子の独特の透明な声は、美しい楽器の音を聞いているように心に響く。言葉にならない、ハミングを聞いているだけでも心地よく楽しくなる。J-POPの歴代の女性ボーカリストで、これほどの素晴らしい声の持ち主はそれほど多くはない。残念ながら、今は歌手としての実力よりも「外観」が遥かに重要視されているから、よほどのことがない限り、こんな本格的な歌手が今後輩出するのは難しいかも知れない。

EMT JPA66で聴く彼女の声は透明なだけでなく、訓練を積んだボーカリストらしい厚みと艶が感じられ、良質な楽器のように心にストレートに突き刺さる。

さらに驚いたのは、このレコードにハーモニーとして収録されている男性ボーカルが完全に分離し、そのボーカルのレベルもとても高く聞こえることだ。伴奏のレベルも高く、ミキシングも素晴らしい。J-POPのレコードで「主役のボーカル以外の音」がこれほどの音質で録音されていたなんて今までちっとも気づかなかった。

八神純子がドレスで正装して最高のステージに立って歌っているような、晴れ晴れとした明るい雰囲気が伝わってくる。しかし、このレコードを録音した現場はスタジオに違いないから、ステージに立って観客を前に歌っているように聞こえるのはすこし違うのかも知れない。だが、例えそれが録音の真実だとしてもスタジオで窮屈に謳っているように聞こえるよりは遥かに良いはずだ。

開放的でエネルギーに満ち溢れた、そういう音でJ-POPが見事に鳴る。伴奏の弦楽器の音は、ホールで聞くように美しい。こんな音なら、いつまで聞いても聞き飽きることはない。そして何度と繰り返し聞くことで感動が深まっても、それが色あせるなんて想像することすらできない。素晴らしい音楽は永遠に素晴らしく、感動は常に新しい。

チェリビダッケ
展覧会の絵

 

HQ-AUD-600

チェリビダッケ “展覧会の絵”

JAZZやPOPの試聴でJPA66がどれほど素晴らしい製品であるか、まざまざと感じ取れた。しかし、誤解を恐れずに言うなら音楽の本道「クラシック」は避けて通れない。クラシックを聞かずして機器の評価を下すことなどできない。

第一にクラシックを鳴らすのは、オーディオで最も難しい。なぜなら、楽器の数が圧倒的に多いからだ。録音されて電気信号に置き換えられる音を一本の線とするなら、10台の楽器は10本の線が混ざった波形になる。交響曲では100台近い楽器と、それらがホールで反射した音がマイクに入るから、その波形の複雑さは想像を絶する。さらに一曲の中にこれほど大きな音と小さい音が混在する音楽も他に類がない。それほど複雑で深い音が「たった一本の波形」に収められそれが見事に再現されるのだから、オーディオ(録音)という技術は驚くべき能力を持っている。私は時々それをとても不思議に思う。理屈としては分かっていても、レコードを目の前にしてこの細い一本の溝の中にあれほど豊富な音楽芸術が収められているとは信じられない。そして、その細い一本の線からこれほど豊富な音が取り出せるなんて!すでにそれは私の理解の範囲を大きく越えて、奇蹟と呼ぶしかない。

チェリビダッケの振るオケは、速度が異常に遅いことがある。その極端にゆっくりした演奏のためか、彼は暗く地味な指揮者だと誤解されがちだ。もちろん、決して明るく快活な演奏とは言えないが、彼の振るピアニッシモの静寂が比類しないように、彼の振る演奏に秘められたエネルギーの大きさも比類がないと私には感じられる。

この細い溝のどこにこれほどのパワーを封じ込められるのか?EMT JPA66からは、聞かなければ絶対に理解できないほどの深く厚く重い音で展覧会の絵の低音部が鳴る。さらに驚くべきなのは、チューバの太く重い音が入っても他の楽器の音がマスキングされず完全に分離して聞こえることだ。レコードなのに低音に大音量が入っても、中高音のデリケートな音が一切揺らがない。このふてぶてしいまでの安定感はなんだ!真空管を素子として使っているにもかかわらず、トランジスターアンプを遥かに超える良質な低音と安定感が実現する。中高域の透明感と濁りのない分離感は、真空管らしい美しさを保ったままに!

楽音の一つ一つ、すべてのハーモニーが明確な説得力と深みを持って押し寄せてくる。完璧なオーケストレーションを目差し、それを成し遂げたチェリビダッケの真骨頂が眼前に見事なまでに再現される。すごいなぁ。

ヨゼフ・シゲティー

 

バッハ

無伴奏バイオリン

ソナタ全集

(2枚組)

ヨゼフ・シゲティー “無伴奏バイオリン・ソナタ全集”

この演奏でシゲティーは、ガルネリデルジェスを愛器とし枯れた音を出していた。しかし、若い頃の演奏はまったく違い、常に煌びやかで美しい音をバイオリンから出していた。著名なバイオリン演奏者のナタン・ミルステインのように美しい音をだ。そんな彼が、なぜこれほどまで虚飾を廃した「枯れた音」でバッハを演奏するようになったのだろう?確かにナタン・ミルステインの奏でるバッハ無伴奏バイオリンソナタは、華麗で美しい。しかし、シゲティーを聞いた後では、なぜか軽く感じられる。晩年のシゲティーが演奏するバッハ、その枯れた音には、彼の演奏家人生に等しい重厚さが感じられる。この演奏は、シゲティーの集大成にふさわしい。

シゲティーが奏でる枯れた音と虚飾を廃した弓使いが、バッハの曲に見事にマッチする。空(虚)を極めることが美に結実する「禅の心」にも似た求道的な演奏だ。美が無に繋がって行くようなカザルスの演奏も好きだが、無が美に繋がって行くようなシゲティー的なバッハの解釈も私は好む。演奏のスタイルはまったく逆だが、彼らに共通して感じるのは、すべてのエゴから解き放たれた無心の境地の美しさと静けさだ。

話は少し戻るが、峰純子のレコードをEMTのXSD-15で初めて聞いたとき明らかにテンポが遅く感じられて、思わずストロボスコープでレコードプレーヤーの回転をチェックした。当然回転数は間違っていなかったが、それでもテンポは明らかにゆっくりに聞こえた。JPA66も同じでレコードプレーヤーの回転数をまったく変えていないのに、明らかに「曲がゆっくりになった」ように感じられる。

その後のAIRBOWでの音作りの経験から、音の立ち上がり部分を僅かに遅くすることでそういう「遅延効果」とEMT製品に共通する独特な「音色のコントラスト感の向上効果」が得られることを知った。しかし、カートリッジのXSD-15といい、CDプレーヤーの986といい、フラッグシップのJPA66といい、その絶妙なさじ加減は私の手の届く範囲にはない。私がまだ上手く踏み込めないでいる領域で彼らは易々と音を作る。そのテクニックには、常に舌を巻かされる。

EMT JPA66で聞くガルネリの音は音の出始めの切り込み部分の角が少し丸く、生音に比べるとアタックが明らかに甘くなる。結果として張り詰めた緊張感が少し殺がれる。それは、EMT独特の厚みやコントラストの強さを得たことによる副作用だが、得られた「良さ」と比べれば、失ったのは取るに足りない微細な部分だ。

このレコードと同じマスターから作られたCDを数え切れないシステムで聞いてきたが、バイオリンのビブラートはJPA66が最も細かい。CDで最小と思われたビブラートの中にさらに小さな音の揺らぎ(すなわち、さらに小さいビブラート)が聞き取れる。余韻部分の響きの良さ、バイオリンのコントロールのデリケートさも筆舌に尽くしがたい。

CDでは聞くことのできない音の深み、演奏の美しさがエッセンスとして加えられる。実際のバイオリンの響きは、もう少し硬質だと思うけれど、僅かに肉が付いたこの美しい響きも決して悪くないし、一般的にはこの音が好まれると思う。

バイオリンのソロ演奏を聴いても感じるのは、EMT JPA66再生音の安定感の高さとバランスの良さ。どんな大きさの音が入っても、どれだけ多くの音が入っても、それによって他の音が揺らぐことがない。大木が大地に深く根を下ろし、幹もまったく揺らぐことなく、葉だけが自由に揺らめいている。例えるなら、そんなイメージかも知れないが、これほど音の芯がまったくぶれない安定感のある音を出すプリアンプを他に知らない。

もちろん安定感だけが高いアンプなら他にもあるが、そういうアンプは概して響きが悪く、音が硬かったり、冷たかったり、平面的であったり、無機的な音の製品がほとんどだ。それに対しAクラスや無帰還の製品に多い有機的な音が出るアンプでは、音の芯が不安定になって音像がぼやけてしまったり、音量や音数によって音色がぶれてしまうことがある。JPA66はそのどちらの長所も兼ね備え、欠点は一切引き継いでいない。これがEMTが目差して来た、そして目差している音なのだろう。矛盾を矛盾と感じさせず、長所だけを両立させうる手腕は、見事という他はない。

ヨゼフ・シゲティー

 

バッハ

無伴奏バイオリン

ソナタ全集

(CD/2枚組)

ヨゼフ・シゲティー “無伴奏バイオリン・ソナタ全集” <CD>

デジタルプレーヤーにAIRBOW UX1SE/LTD、クロックジェネレータにAntelope Audio OCXを使いEMT JPA66のライン入力に接続して音を聞く。

レコードと比べると音数が少なく、バイオリンの質が落ちて聞こえる。決して悪い音ではないが、情報量が減ってしまったことが聞き取れるのであまり面白くない。そこでJPA66を使わずにUX1SE/LTDをCU80/Specialに直接繋いでみた。

高域の立ち上がりが早くなり、バイオリンの音にちょうど良い「硬さ」が出た。音色の濃さや音数の多さではレコードに軍配を上げるが、音の正確さ、特にアタックの再現の正確さではUX1SE/LTDがJPA66を明らかに凌ぐ。正確さを旨とする、デジタルの面目躍如だ。

EMT JPA66でレコードを聞くと、響きが多い通常のコンサートホールの中央付近で演奏を聴いているように感じられた。それをCDに変えると小さなコンサートホールの舞台袖、もしくはスタジオで演奏を聴いているように感じられる。音の正確さや楽音の関係の正確さはUX1SE/LTD、すなわちデジタルがEMT JPA66で聴くアナログレコードを凌いでいる。甘美さではレコード、正確さではCD。音楽性は甲乙付けらない。

どちらも素晴らしい。考えられないくらい贅沢な聞き比べだが、それは決して疲れるものではなく、心がワクワクするものだった。その“ワクワク“は、私の筆の勢いからも察して頂けると思う。頂点に君臨するオーディオは、デジタル、アナログにかかわらず、どちらも素晴らしいものだった。オーディオが未来に向けて進歩を続けていることを確信できた比較試聴だった。

試聴後感想

L・A・4が録音されたのは1977年でレーベルはEast Wind、2枚目に聴いたジェシーは1980年の(株)ロブスター企画による録音だ。このジェシーの録音を行ったロブスター企画には、オーディオマニアが皆知るパイオニアが技術提供を行うなど、アナログの全盛・集大成といえる録音の良いレコードだ。

しかし、その2年後の1982年にはSONYからCDプレーヤー第一号機「CDP-101」が発売される。それから「たった30年」しか過ぎていない。しかし、1980年に隆盛を誇った「高音質レコード・レーベル」は、今や生き残ってはいないし、それに取って代わった「CD(デジタルディスクメディア)」ですら、10年先には存在しないだろうと言われている。この30年は、音楽とオーディオにとって何と遠い30年なのだろう。

30年が遠い昔なのはオーディオや音楽だけではない。私たちの「暮らし」もこの30年で大きく変わっている。それはすべて「デジタル」の発明と進歩によるものだ。特にパソコン(デジタル)とインターネットの発展は、人間の文化を著しい速度で根底から変えている。

最も大きく変わってしまったのは「コスト」の概念。インターネットの情報は莫大で、しかも無料で手に入る。10年前なら「安い買い物」をしようとすれば、交通費と時間をかけて一軒一軒、実際のお店を尋ねなければならなかった。それには莫大なコストがかかるから、少しぐらいの価格差をあまり問題とせず商品は売れた。それが今はどうだろう?私たちは「莫大な無料の情報」を利用して一円でも安いショップを探し、希望価格や希望のサービスが得られなければ買い物をしなくなった。結果として仕入れコストが高い小規模なお店や、情報流通の変化に対応できない企業は、皆潰れるか青息吐息になってしまっている。

こんな馬鹿馬鹿しく安易な「最終競争」を引き起こしたのはすべて制御されない情報流通、すなわちインターネットの責任だ。企業はすべからくコストダウンを求められ、結果としてそれが「先進国の深刻な不景気」を引き起こしている。人件費で太刀打ちできなくなった先進国は、情報戦争を仕掛け「投資」や「金融」の市場に利益を求めている。しかし、それもいつまで続くのかは分からない。リーマンショックやギリシャが引き金となったユーロ不安は、現代社会が抱える矛盾とその限界点を垣間見せただけかも知れない。

インターネットによる「余計な情報」の蔓延により、人々は「見なくても良いもの」を見てしまい、結果として世の中がスムーズに成り立つために必要な「寛容さ」を失いつつある。人々は精神を病み、幸せを探している。音楽業界も例外ではない。音楽がデジタルデーターになり、音質を劣化しないコピーが実現した。さらに悪いことにコピーしたデーターを「勝手に譲渡する」不法行為が蔓延している。数千円するCDをたった10分で完全にコピーでき、さらにファイルになってしまえばそれが僅か数秒でコピーでき、知人にメールでも送れるようになってしまえば「それをするな」と言う方が無理な注文だ。だからといって不法行為を擁護するつもりは一切無いが、音楽業界(特に演奏者)の健全な発展を望むなら、コピーや無断譲渡に対し抜本的な規制を行わなければならないのは、火を見るよりも明らかだ。

レコードプレーヤーの試聴記事でなぜこんな話を持ち出すのか?それは、文化というものは「安定した基盤の上」にしか育たないことに気付いて欲しいからである。例えばその基盤がNHKのような国営事業であったり、日本なら江戸時代のように安定した王政であったり、利益を出し続けることが保証された強い企業であったり、とにかく文化の育成と成熟には「安定した強力なパトロンの存在」が不可欠だ。しかし現代社会にそれほど長期安定したパトロンは存在し得えない。

パトロン不在により音楽文化が荒廃している。その結果、変わってしまった最新ベストセラーCDを教えられた私は愕然とした!何とそれは「アニメソング」だったのだ。しかも、それを購入する人達は「中身(演奏)」ではなく「外観(パッケージの絵)」が目的だという。パッケージメディアの衰退を考えれば理解できることとは言え、インターネットによる文化破壊はここまで進んでしまったのだ。しかもそれを元に戻すことはできない。

だが、覆水盆に返らず。過ぎたこと、変わったことを嘆いていても仕方がない。新しい仕組みの中に「新しい文化」を根付かせなければならない。私を中心とした逸品館のスタッフはそのために最新のデジタル機器やPCオーディオにどこよりも積極的に取り組み、ここ数年で音質改善に非常に大きな成果を上げることができた。そのお披露目を6月12日〜13日に東京恵比寿にあるmarantzショウルームでの試聴会で行ったが、いくつかのデモの最中に会場のお客様から、おもわず「すげぇ!」という言葉が聞けた。私が言うのもおこがましいが、その時の音は私もそして誰もが初めて体験する「すごい!」ものだった。このようにデジタルは確実に進歩した。それもここ数年で驚くべき進歩を遂げている。私は誰よりもそれをよく知っている。

デジタルの進化により私の記憶から薄れかけたレコードの音。3号館には千枚近いレコードを所有しているが、実際に針を落としたことのないディスクも多い。そのレコードすべてをデジタルデーターに変換し、適当なデータストレージに保存すれば、利便性と省スペース性は格段に向上する。レコードよりさらに多い軽く三千枚を超えるCDもそのようにすれば、「保管コスト」も大幅に安くなる。つまりデジタルの進歩を突き詰めれば、オーディオはいわゆる「PCオーディオ」へと変遷する。それは避けらない変化であり進歩であるが、PCオーディオという言葉を聞いた瞬間「自分の中で何かが崩れるような強い焦燥感」を感じたのも事実である。

EMTのフラッグシップJPA66を見て、触れてその音を聴くと崩れて行きそうな「何か」の正体がしっかりとつかめる。それは、単なるノスタルジーではない。芸術に触れるとき、音楽を聴くとき、その前に自分自身の集中を高め、心を一段と高い位置に揚げるために欠かせない「作法」がある。

レコード盤を注意深くジャケットから取り出すこと、レコードの穴の周りに「ヒゲ」を付けないようにレコードをターンテーブルに載せること、静かに針を落とすこと。その一連の流れを面倒と厭わず真摯に突き詰めれば、その動作自体を確固たる「高い文化」や「芸術」にまで昇華させられる。心を込めてレコードと向き合えば、「茶道のお手前」のようにレコードから音を出す動作を「作法」のレベルまで高められるだろう。

お茶を呑むという行為よりもそこに至る過程をより重要視する「茶道」と同じように、オーディオにも「音楽を味わうため準備」が必要ではないだろうか?レコードにはそれがある。針を落とすまでの緊張が心をヒートアップし、音楽を聞くための準備となる。だが、ワンクリックで好きな音楽を取り出せるPCオーディオが、はたしてレコードと同じような芸術の領域に至るのだろうか?戦後間もない時代から、レコードで音楽に触れてきたオールド・オーディオファイルが、PCオーディオを好まないのはそう言う理由からではないのだろうか?

確かにそれは「古い考え」かもしれない。メディアとしてすでに前世紀の遺物となりつつあるレコードを聞くための装置という成り立ち、380万円という高価な価格、そのいずれをとってもEMT JPA66は一般的な装置ではない。しかし、その音は紛れもなく本物だ。EMTが長く培ってきた「音作りの文化」、そのすべてがJPA66に凝縮されている。本当の文化財産というものは時間の経過で劣化することはないし、愛好家はそれを劣化させてはならない。時代を経ても人々に愛され続け、より強く輝けるものこそ本物の「文化財産」であろう。そういう意味においてJPA66は生まれながらに名器だし、その名声は時代を経ても変わることはない。

JPA66は、「ただのオーディオ装置」であるが「ある種の文化財産」にまで仕上がっていると感じてしまう。だからこそJPA66を見て、触れて、音を出した瞬間、私はJPA66が「無意味」に欲しくなった。流行を追うのも悪くないし、それなりの快感はある。でもつまらない家電や車、すぐに陳腐化するデジタルカメラやパソコンなどに大金をつぎ込むくらいなら、私は「無意味」なJPA66を心から欲しいと思う。

生命を維持するためにまったく役に立たない「文化」とは、突き詰めれば無意味なものだ。それは食えないし、腹を満たしてもくれない。しかし、そういう無意味なもの無価値なものに「価値を見いだす余裕」こそ、人間が見失ってはならない「人間らしさ」だ。効率化を極限的に求めた行く先には人間性の欠如が待っていると、うすうす気付いているからこそ我々は時として「高価なオーディオ機器」に強く引かれるのだろう。高級時計や一眼レフ、高級車に引かれるのも同じ理由だろう。日常に味わえる「非日常」、無駄を余裕や贅沢さに感じさせられるテイストを持つ製品こそ、真の高級品と呼べるのだ。

JPA66が奏でる音楽を聴いていると、無意味なもの、邪魔なものを排除しないゆとりと大らかさこそが現代社会に最も必要であり、人間が未来に伝えなければならない「文化」なのだと確信する。

2010年6月 清原 裕介

 
 

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