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逸品館お薦めスピーカー、フランス・フォーカル(Focal)からElectraシリーズに次ぐミドルクラスのスピーカーシステム、Aria(アリア)900シリーズが発売されました。
Aria Seriesの特長
フォーカル社は元来「高性能ユニットを開発」し、それを自社製品に搭載することで高い評価を得て成長してきたメーカーです。これまでもポリグラスに始まり、K2サンドイッチ、Wサンドイッチ、ケブラー、チタン、ベリリウム、アルミニウム-マグネシウムなど数々の優れた振動板を採用してきました。世界には数多くのスピーカーメーカーがありますが、ドライバーユニットまで自社生産するメーカーは少数です。フォーカル社はAria900シリーズのためにまったく新しい素材を使うスピーカーコーンを開発しました。それがAria900シリーズに始めて採用された、グラスファイバーで天然素材のフラックス(亜麻繊維)をサンドイッチした振動板(Fサンドイッチコーン、フレームには誇らしげな“Maid in France”の文字が!)です。
Aria900シリーズはブックシェルフ型の「906」トールボーイ型の「926、936、948」の4製品がラインナップされます。仕上げはブラックハイグロスとウォールナットの2種類でガラスの天板と合成皮革仕上げのフロントバッフルが採用されています。また、見えない背後にまで皮が張り込まれている所などに、Ariaに対するFocal社の熱意を感じました。スピーカーの入力は、シングルワイヤリングです。
「Aria906、926、936」はそれぞれ6.5インチのFサンドイッチコーン採用バス・ミッドレンジを各1基、3基、4基搭載しています。「Aria948」には8インチFサンドイッチコーンのバスドライバー2基が搭載され、ツィーターにはいずれもポロンエッジの25mmTNFアルミニウム/マグネシウム合金製逆ドームトゥイーターが搭載されています。バスレフポートはすべてのモデルでフロントに開口部が設けられ、壁などの影響を受けにくいように配慮されています。トールボーイ型のベース部には独立したプレートが装着され、スパイクとスパイクベースが付属します。
Aria Seriesのラインナップと主な仕様
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音質テスト
今回は、Ariaの中堅モデル926(メーカー希望小売価格 38万円ペア・税別)をイギリスの高性能スピーカー PMC Twenty24(メーカー希望小売価格 54万円〜ペア・税別)と聞き比べました。どちらも逸品館のお薦め製品ですが、Focalがフランスのお国柄を感じさせる情緒的で暖かい音質、PMCは理知的でやや辛口な音質と、その正確は180度違っています。
試聴用アンプには、Marantzの新製品 SA14S1、PM14S1を使いました。
PMC Twenty 24 | |||||||||||||||||||||
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・外観と特長 搭載されているツィーターは高級家庭用モデルのFactシリーズと同じSEAS社との合同開発によるソフトドーム型が採用されていますが、口径は異なります。ウーファーはTwenty 21に140mm、Twenty 22では170mm口径の軽量コーン型が採用されています。このウーファーユニットはTwenty Series専用として開発されています。ネットワークにはPMC全商品に共通する24dB/octの遮断特性を持つPMCオリジナル・クロスオーバユニットが使われています。スピーカー入力端子には高級なものが奢られ、入力はPMCの伝統に従いBi-Wire(Bi-AMP)対応となっています。 そしてPMCならではの「トランスミッションライン」はTwenty シリーズにも採用され、サイズを超える重低音が再現されます。トランスミッションラインの開口部は前面下部に設けられ、設置がやりやすくなっています。 Twentyシリーズではサランネットの取り付けが「マグネット方式」となり、ツィーターとトランスミッションラインの開口部にグリルが設けられ、サランネットを外した状態でも良好な外観と高い安全性を保ちながら音楽を再現することができます。 低音の量感はそこそこですが、膨らまず引き締まっています。高音は明瞭ですが、輪郭に髭が付いたように少しチャラチャラしています。マイケルの声は抑えめで、ニュートラルからやや重い感じです。余計な響きの少ない、無駄のない美しい音でマイケルが鳴ります。 全体的に知的な印象で精密に組み立てられた音楽を聞いている感覚です。弾けるような煌びやかさや派手さはないのですが、聞いていると不思議に身体の奥が熱くなります。車に例えるなら、ドイツ車の乗り味に似ているでしょうか?音はクールですが表現は決してクールではない。決められた枠の外に出ることなく、その範囲内で安心して弾けられる感覚でマイケル・ジャクソンが鳴りました。 ウッドベースの一番低い部分、空気が静かに揺れるような「ウッドベースの胴の音」が出きっていません。スペック上はかなり低い周波数まで再生されるTwenty24ですが、低音が少し軽くまた若干希薄な感じです。セットで40万円強の実売価格を考えるならば、中高音は合格ですが低音はもう少し出て欲しい感じです。しかし、低音が少し薄いのは試聴にPM14S1を使ったのも原因しているかも知れません、 Marantzの新型14S1のセットを他メーカーの製品と比較するならば、音のバランスと音楽のナチュラルな再現性に優れていると思います。 「ステージの大きさ」はもう少し頑張って欲しい感じもありますが、録音に問題のある「グラムフォン」のソフトでこれくらい音が広って、楽器の音がほぐれて鳴れば十分音楽を楽しんでいただけると思います。 コンサートマスターと伴奏、バイオリンとチェロ、コントラバスの対比も正確に再現される理知的で整理された音がバッハという曲に実に良くマッチして、納得の音質でコンチェルトを楽しむことができました。 総合評価 PMC TWENTY24は決して音が明るいスピーカーではありませんが、Marantz 14S1との組み合わせでは意外にそれが明るく快活に良く鳴ります。国産コンポの最も弱い「音楽のバランス」に優れているのが14S1の最大の魅力だと思います。外観の美しさに見合う音の良さと、デザインセンスの高さに見合う音楽的なバランスの良さを合わせ持った良いコンポだと思いました。 Twenty24は、スペックから想像するほど低音が「ゴリゴリ」出てくるスピーカーではありませんが、ゆったりと広がる低音(オルガンや交響曲の低音のような)はスペック通りにシッカリ出てくる感じです。たった170mmの口径のウーファーを使う2Way方式から、ここまで低い周波数を再現できるのはPMCオリジナル技術、トランスミッションラインのなせる技です。 2Wayのまま低域の周波数帯域を広げるメリットは、中高域のきめ細やかさと音質感の高さ、音色の調和の素晴らしさに表れます。下手なマルチウェイスピーカーでピアノを再現すると、各帯域での「楽器の音色」が変わってしまい一体「どのメーカーの楽器が使われているのか?」判別できないことがあります。このようなスピーカーでは音楽が正確に再現されず、生演奏とはまったく異なる感覚で音楽が再現されてしまいます。 その点、帯域分割を一度しか行わない2Wayという方式と、27mmと170mmというユニット口径の近さ(口径が近ければ近いほど再生される楽器の音色が調和しやすくなります)から得られるPMCならではの「精度の高さ」には、何時この製品を聞いても舌を巻かされます。オーディオ機器をあくまでも「録音の正確な再現」と考えるなら、PMCを超えるスピーカーはないと確信します。 |
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Focal Aria926 | |||||||||||||||||||||
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Twenty24とくらべスペックではかなり見劣りするAria926ですが、実際に聴いてみると低音の量感が大きく増してベースが前に出てきます。Aria926だけを聞いているときはあまり意識しなかったのですが、TWENTY24と聞き比べると「バスレフ部分の膨らみ」がはっきりと聞こえます。また中音のやや低い部分に若干の曇りを感じますが、この部分がエンクロージャー(箱)の鳴きが見事に制御されたPMC TWENTY24とバスレフ方式を採用するAria926の違いでしょう。しかし、その膨らみは音質を損ねるほどのものではありません。またこのような良い響きはアンプのラウドネススイッチの働き、音楽のボリュームを増加させる方向に働きますから音量を絞った時に中低音が痩せないという魅力が出ると思います。 マイケルの声はTwenty24とほとんど同じ音量(このソフトは全体的にマイケルの声が小さめ)でぐいぐい前には出ませんが、高音の切れ味と明瞭感はAria926がTwenty24を上回ります。これは、ツィーターの振動板に金属が使われているか(Aria926)布が使われているか(Twenty24)の違いでしょう。もちろんそれぞれ一長一短あり、どちらが良いとは断定しかねます。 全体的な音の出方は構成が似ているB&WのCM Seriesに近い方向ですが、Aria926はB&Wよりも中低音の量感が豊かで(中低音に適度なサービス感がある)、高音もB&Wよりもしなやかで暖かい印象です。 Aria926の奏でる音楽は、フランス料理のようです。「バター」の濃さは中低音のしっとりした量感、香りの良さは高音の切れ味に相当するでしょう。やや濃くねっとりした音ですが、食事と違い音はそう言うものを聞き続けても身体に害がなく、胸焼けもしません。だからこういう脂っこい音は、特性を重視するあまり痩せてしまった音歯科でないスピーカーよりも断然良いと思います。高音が太くまろやかなのも、神経質にならず良いと思います。 マイケルジャクソンを聞いていて、時々「静」と「動」の対比を強く感じます。それはマイケルが時には神経質なまで精密に音楽を組み立て(静)、また時に驚くほどの躍動感(動)でそれを弾ませるからでしょう。この対比の大きさはマイケルならではだと思います。 PMCはマイケルの魅力を「静方向」から、Focalは「動方向」からそれぞれ引き出したように感じました。 Twenty24ではやや物足りなかった、ウッドベースの低音がAria926ではしっかり再現されます。また、低音が増えたことで雰囲気の濃さ、空気感まで感じられます。 Twenty24で聞くノラ・ジョーンズは、ステージで歌っているノラをやや離れた場所で聞いている感覚でした。Aria926ではそれが目の前でライブを聴いている感覚に変わります。SA/PM14S1とTwenty24の組み合わせもそれほど悪くないと思いましたが、Aria926との組合せはそれをグッと上回り、まるで違うCDプレーヤーとアンプを聞いているように感じました。文句なしによい音です。また、この鳴り方から想像すれば、B&WとSA/PM14S1の組み合わせも悪くないはずです。 ピアノの響き方、ノラ・ジョーンズの息吹、そういう「プラスアルファ」が加わった、色っぽく厚みのある暖かい情緒豊かなサウンドでノラ・ジョーンズを艶やかに楽しめました。 明るく楽しい音で、快活にバッハが鳴ります。しかし「箱鳴き」のためなのか、空間の濁り(濁った響き)は、Twenty24よりも若干増したようです。 バイオリンの音はしなやかで優しく暖かい雰囲気です。チェロとバイオリン、コントラバスの対比はAria926をTwenty24が超えていましたが、低音の量感と音の広がりはAria926がTwenty24を凌駕します。ただ、この低音の量感や音場の広がり感は、組み合わせるコンポ(アンプ)との相性や、部屋の広さや環境などのルームアコースティックに大きく影響されますから、今回の評価は「相対的なもの」とお考え下さるほうが安全だと思います。 PMCが明らかにfocalより優れているのは、楽器の倍音の緻密さです。Twenty24で聞く弦楽器の倍音は、まるでパイ生地のようにみっちりと重なり合っているように感じました。それにくらべるとAria926が奏でる倍音は数が少なく、パイ生地がバームクーヘンに変わるイメージです。 響きの密度感もTwenty24がAria926を上回り、価格差とPMCの精度の高さを感じさせられました。しかし、音場の広がり感やコンサートホールの雰囲気は、Aria926の方が「それらしく」再現されるので、どちらが良いと判断することができません。好みやコンポ、部屋の音響特性とのマッチングでお選びいただければと思います。 総合評価 最近一時ほどの「売れ筋」ではなくなったPMCの原因は「デザイン(外観)」が原因ではないかと感じています。それは、58万円(ペア)のTwenty24が2Way 2Speakerなのに対し、約40万円(ペア)の926が3way 4Speakerと見た目の豪華が明らかに違うからです。しかし、スピーカーの性能を考えるとたった二つのユニットから28-25000Hzの非常に広い再生周波数帯域を実現するTwenty24のスペックは、他のスピーカーを圧倒していることがわかります。 例えば、今回比較したFocal Aria 926はよりサイズが大きく4つのユニットを搭載するにもかかわらず、45-28000Hzと再生周波数の下限がTwenty24よりもかなり高くなっています。「低域(再生周波数帯域の下限)」を比較するなら、Aria 926の上級モデルElectora 1028BEhは34Hz、B&W 802Diamondでさえ34HzですからTwenty24がいかに優れたスペックを持っているかわかります。 Twenty24が2Wayの小型トールボーイデザインにもかかわらずこれほど低い周波数まで再生できるのは、PMC独自の「トランスミッションライン」方式を採用しているからです。「トランスミッションライン」とは、キャビネット内部に仕切りを設けることでユニットとキャビネットのサイズを超える優れた低域再生方式ですが、PMCはそれを採用するため角張った四角い形状から逃れられないのです。 トランスミッションライン構造図 結果としてPMCは価格を超える優れた音質を持ちながら、他社製品にように現在のトレンドである曲面を「外観に使えない」問題を抱えます。しかし、柔らかな曲面が流行しつつある一般的なスピーカーの「デザイン有利性」に逆行してまで、2Wayという最小のユニット数での再生周波数帯域拡大にこだわるPMCには、2Wayならではの「小型キャビネット採用による余計な響きの少なさ(音場の透明感の高さ)」と「帯域分割が少ない2Way方式による質感の高さ(録音された音に最も近い音質を持つ)」が魅力です。この他社スピーカーにない独自の魅力を持つTwenty24は、今回の試聴でも磨き抜かれた音の美しさでAria926を圧倒しました。 ではAria926は、Twenty24に劣るのでしょうか? それは、また違っています。 オーディオは絶対性能ではなく、好みで選ぶものだからです。 最近私は「オーディオ機器は響くべきである、オーディオ機器の作る響きは音楽そのものである」と主張していますが、Aria926はこの考えにうまく当てはまります。スペック上の再生周波数帯域こそTwenty24に敵わない45Hzですが、箱が響くことでAria926の「低音感」はTWENTY24を凌ぎ、ウッドベースの音などはよりそれらしくリッチに聞こえました。また、キャビネットの響きに助けられ、音の広がり感や躍動感も秀でています。スタジオモニターとして音楽評価に使うのでなく、家庭用として音楽鑑賞にスピーカーを使うことを考えるならば、Aria926のほうがTwenty24よりも満足度は高くなるでしょう。 Focalと同じ設計思想から生み出された、イギリスを代表するモニタースピーカーB&W製品とAria 926を比較するのであれば、Aria926はよりカジュアルで情緒豊かなサウンドに仕上げられています。これはイギリス人とフランス人の違いが音に現れていると考えられます。理詰めなイギリスの音がB&Wで、リベラルで情緒的なフランスの音がFocalです。また、B&Wよりも明るく楽しい音で音楽を聞かせてくれるイタリアSonus Faberの新製品Venereとの比較では、Aria 926の響き(キャビネットの響き)が、より高密度で上質に感じます。それは、もしかすると”SonusFaber:Maid in China”、”Focal:Maid in France”の差が音に出るのかも知れませんし、あるいはユニットそのものから製造するFocalの技術力の高さによりなせる技なのかも知れません。 逸品館がお薦めするヨーロッパのスピーカーブランド、PMC、B&W、Focalのそれぞれの違いを「布生地」に例えましょう。 PMCは「ファインシルク」、音の表面はきめ細かく滑らかで触れると一瞬冷たく感じますが、それに慣れると懐の深い暖かさも感じられます。B&Wは「ファインコットン」、からりとしてさっぱりした肌触りの良い音でPMCより乾いた音です。Focalは「カシミア」でしょうか、ふわりとした肌触りの軽さを持ち、身体を芯から温めてくれるHOTな音質です。 Focal新旧の比較では、Aria Seriesは従来モデルよりもエンクロージャーの響きが増しているように感じます。大型スピーカーのような大らかでゆったりとした鳴り方はとても魅力的です。名器と呼ばれるスピーカーの一つにTannoy Ardenがありますが、Aria926の中低域のボリューム感と高域の明瞭度感の高さから感じる魅力は、Ardenを上手く鳴らせた音に共通するように思いました。 Aria 926はフランス製品らしく、スイートで色気のあるスピーカーでした。 (この試聴に続けて行った、Marantz SA14S1 PM14S1 と AIRBOW カスタムモデル SA14S1 Master PM14S1 Masterの音質比較を読む) |
2014年1月 逸品館代表 清原 裕介
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