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Luxman L507uX2 marantz PM10 プリメインアンプ 音質 比較 評価 レビュー 試聴

トランジスター 真空管プリメインアンプ 音質比較テスト

 Luxman(ラックスマン) L507uX2

  

 marantz(マランツ) PM10

  

 AIRBOW(エアボウ) PM10 Ultimate 、 Stingray Ultimate

  

2017年6月に発売された”L507uX2”を購入時に比較されそうなライバル機、marantz PM10、そしてそのカスタムモデル AIRBOW PM10 Ultimate、真空管プリメインアンプのAIRBOW Stingray2 Ultimateと聞き比べました。

各モデルの概要

Luxmanから、2012年8月に発売された”L507uX”の後継モデルとして2017年6月に発売されたのが、最大出力220W(4Ω)、110W(8Ω)のAB級トランジスタープリメインアンプ”L507uX2”です。

Luxman L507uX2 メーカー希望小売 480,000円(1台・税別) (メーカーホームページ

 

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前モデル”L507uX”からの主な変更点は、電子制御アッテネーター「LECUA」が、88ステップのLECUA1000にグレードアップされたこと

Luxmanオリジナルの低歪み出力回路 ODNFのバージョンが3.0から4.0へグレードアップされ、歪みがさらに低下したこと、

プリアンプ部の出力にC−900uに使われているディスクリート・バッファアンプが追加され、さらに出力抵抗や配線取り回しなどの変更により、ダンピングレートが205から260へと向上したことなどです。

最大出力は変わりません。

入出力端子も変更なく、RCAライン×4,XLR×2,フォノ(MM/MC)×1、テープ入出力×1、セパレート入出力×1です。スピーカー出力×2、ヘッドフォン出力×1です。リアパネルにあった、サービスコンセントは廃止されました。
消費電力は、最大300W、無信号時86Wで同一。サイズは、440/177(178)/454mmでほぼ同一。重量は、23.9kgから25.0kgへと約1kg増加して、価格は43万円から48万円と5万円のアップです。

 

marantz PM10 メーカー希望小売 600,000円(1台・税別) (メーカーホームページ

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marantz PM10は、2017年2月、セパレートアンプの持つ優れた3つの資質、「大出力と圧倒的なスピーカー駆動力」
「フルバランス回路」「独立電源(プリアンプ/パワーアンプL/パワーアンプR)」を一筐体に統合するという課題に挑み、それを実現した新世代のフラッグシップ・プリメインアンプです。

パワーアンプ部には、Hypex社のスイッチングパワーユニットを4台使った、左右独立フルバランス(BTL)回路を採用し、4Ωで400W、8Ωで200Wの最大出力を実現しています。

Luxman L507uX2との比較では、ボリュームコントロールに、0.5dbステップの高音質電子ボリュームICが採用されること。バッファアンプには、marantz伝統のHDAM回路の最新バージョン、HDAM-SA3が採用されること。出力回路にD級BTLが使われるところなどが違っています。

入出力端子は、RCAライン×3,XLR×2,フォノ(MM/MC)×1、テープ入出力×1、とRCAライン入力が1系統少ないほか、L507UX2にあったプリアウトがなくなっているかわりに、最大4台までのPM10を連動させられる、F.C.B.S.(Floating Control Bus System)が採用されています。

スピーカー出力×2、ヘッドフォン出力×1は同一ですが、PM10では入出力端子に純銅削り出しの高級品が使われるなど、端子のグレードが違います。消費電力は、最大出力は270Wとほぼ同じですが、無信号時消費電力は42WとL507uX2の約半分になっています。スイッチングアンプの搭載で、発熱も少ないのがPM10の特徴です。

サイズは、 440×168×453mmと高さが10mmほど低いことを除けば、ほぼ同一。重量は、21.5kgと25.0kgのL507uX2よりも約3.5kg軽くなっています。価格は60万円と、L507uX2から12万円のアップです。

 

AIRBOW PM10 Ultimate 販売価格 780,000円(1台・税別) (メーカーホームページ

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AIRBOW PM10 Ultimateは、PM10のパーツを約150個変更して、その音質を高めたカスタムモデルで、価格は78万円です。

 

 

AIRBOW PM10 Ultimate 販売価格 830,000円(1台・税別) (メーカーホームページ

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今回の比較試聴では、この2台のトランジスターアンプに加えてAIRBOWの真空管プリメインアンプ Stingray2 Ultimateを加えています。AIRBOW Stingray2 Ultimateは、出力管にEL84(6BQ5)を8本使った、パラレルプッシュプルの回路を搭載し、3極管接続で最大出力18W(5Ω)、ウルトラリニア(UL)接続で32W(5Ω)の出力を持ちます。

ボリュームには、真空管アンプとしては珍しくPM10と同じような電子ボリュームが使われ、左右バランス調整などが可能となっています。プリ部には、12AT7、ドライバー段には6414が使われています。

入力端子は、RCAライン×3、テープ入出力×1、サブウーファー出力×1です。スピーカー出力は、1系統。ヘッドフォン出力×1で、操作しやすい大型のリモコンが付いています。消費電力は、最大300W、無信号時85WでL507UX2とほぼ同じ。
サイズは、475/188/350mmと幅広く、奥行きが短くなっています。重量は、7.8kgと軽量です。
試聴環境

 AIRBOW MNP-i5 Roon 販売価格 480,000円(税込み)現金で購入)・(カードで購入

 AIRBOW HD-DAC1 Special 販売価格 180,000円(税込み)現金で購入)・(カードで購入

 Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G) (現金で購入)・(カードで購入)・(中古で探す

ソース(音源)には、AIRBOWネットワークプレーヤー「MNP-i5 Roon」をチョイス、搭載する「roon」と「HQ Player」の連動でCDから取り込んだWAVファイルを「88.2KHz/24bit」にアップサンプリングして、AIRBOW HD-DAC1 SpecialにUSB入力して出力したものを使っています。スピーカーは、聞き慣れている「Beethoven Concert Grand(T3G)」を使いました。

今回の比較試聴は、YouTube 逸品館チャンネルでもご覧いただけます。

※YouTubeにアップロードしている「音」は、それぞれのアンプの出力にBeethoven Concert Grand(T3G)を接続し、Beethoven Concert Grand(T3G)で音を聞きながら、マイクを使わずスピーカー出力信号をサンプリング(DA変換)したものです。スピーカーを接続することで、アンプはインピーダンス変動や逆起電力など影響を受けます。ダミーロドではなく実際にスピーカーを繋ぐことで、より「実際に近い音質」が収録できます。

テスト概要のご説明動画

試聴ソフト (CDからリッピングしたWAVファイルを使用)

リザ・フェルシュトマン演奏のバッハ・無伴奏バイオリンソナタ。SACDハイブリッドソフトのCD層の音声をリッピングして使いました。

録音に優れるXRCDで「ボーカルソフト」を集めたベスト盤。Vol3.から、セーラKが弾き語りで歌う「ビンセント」を聞きました。

シンセサイザーも伴奏に使われるPOPS系のソフト。アマンダさんの独特な声の太さや甘さ、シンセサイザーの音がどのように再現されるかがポイント。

アナログレコード後期の優秀録音盤がCD化されて発売されたディスク。美しい峰純子さんの歌声とジャズトリオの伴奏のマッチングが聞き所。

オーディオマニアなら誰もが知る「ノイマン+チェコフィル」の「新世界より」から、第2楽章を聞きました。

今回の比較試聴では、通電からしばらくするとかなり音質が変化する”L507uX2”の特性を考慮して、L507uX2のみ「通電直後」の音と「24時間の十分なウォーミングアップを行った後」の音も比較しました。このような入念なテストを行う理由は、今までに聞いたLuxmanアンプの多くが、通電開始から30分〜2時間でかなり音質が変化することを経験していたからです。

Luxmanのアンプは、1時間ほどの通電(ウォーミングアップ)で音が「ぼやける」モデルもあれば、逆に音が「クッキリする」モデルもあります。店頭での試聴の際は、この点を考慮していただければ、より正確に音質を判断していただけると思います。

音質評価

 Luxman L507uX2(通電直後)

バイオリンの音は艶があって良い感じです。音の広がり(立体感)も十分で、価格を考えればとても良いという感じです。

 Luxman L507uX2(ウォーミングアップ完了)

L507uX2は、前モデルのL507uXに比べてシャープで、音の輪郭がクッキリしています。音がハッキリするウォーミングアップ後は、音源(演奏者)までの距離が近くなったように感じられました。
バイオリンの滑らかさには変化が感じられませんが、輪郭がクッキリすることで直接音が強くなり、相対的に間接音が少なくなりました。

ウォーミングアップ完了後も、最高域がほんの少し伸び足りず、「艶やかさ」はL507uXよりも後退しているように感じられました。大きな癖がない音から現場のニュアンスがそのまま伝わり、目を閉じれば奏者の体の動きすら思い浮かべられるところは、とても良いと思いました。なぜならば、演奏の「現場が見える」のは、音楽ファンのためのオーディオアンプに欠かせない条件だからです。L507uX2は、それをクリアしています。

 marantz PM10

スイッチングアンプという言葉から連想するのは、「ざらざらとしたいかにもデジタルチックな音」、「厚みのない薄っぺらな音」です。けれど、それは初期のスイッチングアンプの問題で、技術が進歩した今のスイッチングアンプには当てはまりません。

PM10を真空管アンプと比べると。さすがにほんの少しだけ音が「粉っぽい」感じがするかも知れませんが、L507uX2とは対等な「十分に滑らかな音」が出ていると思います。
演奏を着色して変えてしまわないものの、楽器の音色は少し変化した(バイオリンは高域が伸びたりなかった)L507uX2と違い、PM10の音は驚くほど「均一」です。

そこで、marantz歴代アンプの中でも「飛び抜けたフラットな音質」を実現しているPM10の音作りについて、「D&M シニアサウンドマネージャー 澤田龍一氏」に確認してみました。

すると、「A級/AB級トランジスター・プッシュプルアンプで不可避の「ゼロクロス歪み」が、スイッチングアンプでは発生しないため、アンプの直線性(リニアリティー)は、それらよりも高いので音の癖は少ない。」という回答が得られました。

それを実感させる、スムースで自然な音が出ています。
また、これまでのスイッチングアンプの音質上の欠点は、素子の応答遅れによる「レイテンシー歪み」や、高域をカットするためのコイルによる「高域の鈍り」が原因でした。PM10では素子の作動周波数が高められたため、問題点がほぼ完全に解消しています。
バイオリンは、音が立ち上がって(バイオリンが鳴り始めて)、音が消えるまでの流れに一切の引っかかりがなく、驚くほどスムースです。前フラッグシップモデルPM11 S3で感じられた、どこかの帯域が強調される、あるいは音の立ち上がりがわずかに遅れる、という癖も完全に解決しています。
再生される周波数レンジは広く自然で、ほとんど生音と違和感がありません。音の広がりは自然です。しかし、弱音部分でのS/N感が完全ではないため、ホールの広さやホールの響きの良さまでは感じ取れません。ただし、このクラスのプリメインアンプでは、良く出来ている方だと思います。
演奏の再現は、きわめてまじめです。特別に上手く聞こえるわけでもなければ、生演奏よりも下手に感じられるわけでもありません(生を聞いたことがないのでたぶんですが)。
今まで聞いたmarantzプリメインアンプの中で最も自然な音。良い意味で虚飾のない音。それがPM10だと思いました。
 AIRBOW PM10 Ultimate

聴感上のS/N感、高域の伸びやかさが向上し、marantz PM10(ノーマル)で若干感じられた「粉っぽさ」も完全に消えました。
バイオリンの音に艶が出て、音の粘りも伝わるので、奏者が「弓を止め、楽譜の休符を演奏する様子」までハッキリ感じ取れます。
先に試聴した、Phasemationの真空管セパレートアンプと比べると、さすがにそこまでの音は出ませんが、L507uX2やPM10で感じた「薄いベール越しに演奏を聞いているようなもどかしい感覚」が消え、奏者(楽器)とリスナー(自分)を隔てるものが何もなく、ダイレクトに対峙しているイメージに変わりました。

弱おんぶの表現も大きく向上し、「ホールの空気感やホールの大きさ」が伝わるようになってきました。
PM10 Ultimateは、PM10(ノーマル)の透明感、細やかさ、滑らかさが大きく向上しています。
 AIRBOW Stingray2 Ultimate

Stingray2 Ultimateの音はきめ細やかでバイオリンの音がとてもみずみずしく美しく、演奏されるホールの響きの良さまで伝わります。

再生周波数レンジやとの細やかさ、S/N感のような「聞こえる部分」ではなく、楽器の色彩感や音色の変化などから伝わる「音の質感」が、真空管アンプとトランジスターアンプで明らかに違って感じられます。

Stingray2 Ultimateもその例に漏れないのですが、さらにリザ・フェルシュトマンが演奏するバッハ無伴奏曲の抑揚の大きさと、時間の流れ方が全く違ってきました。

無機物が有機物に変わったような感覚、あるいは、金属的な音が木質的になった感覚に加え、均一に流れていた時間に「ゆらぎや間」が生み出される感覚を覚えます。
機械仕掛けの音に命が宿りました。

音質評価

 Luxman L507uX2(通電直後)

全体的な雰囲気は良い感じですが、ギターは低音が膨らみ、ボーカルも子音が少し濁って声が鼻にかかります。
細部の描き方が十分ではないため。ギターとボーカルのマッチングのイメージがやや薄くなり、弾き語りの曲に聞こえないのが少し残念です。

 Luxman L507uX2(ウォーミングアップ完了)

暖まると音の切れ味が良くなって、高域がクッキリします。ギターの高音にしっかりと隈取りが出たことで、低音が止まるようになり、過剰な胴鳴りや低音の膨らみ感がかなり緩和されました。
けれど高域の輪郭(隈取り)が強くなりすぎたことで、細かい音まで聞こえすぎるようになりました。ギターを操作するタッチノイズ、ボーカルの子音が強くなりすぎて演奏がやや雑になり、語尾も荒れて聞こえます。
ギターとボーカルのマッチングも、もう少し密に鳴って欲しいと思いました。

 marantz PM10

ギターは胴の響きが少なめで、「芳醇な音」とは言えない感じです。高音も少しですが、ざらつきが感じられます。

ギターの切れ味や音色の鮮やかさはもう少し欲しいと思いましたが、ボーカルとギターの分離感やボーカルとギターのマッチングのイメージは、ほぼ完璧で、この曲の弾き語りらしい雰囲気はとても良く出ています。

不満点は、高音が完全には抜けきらないため最低音部の響きが少し緩くなる(Vienna Acousticsの癖もあります)ところです。

けれど、それは先に聞いたPhasemationの370/500万円のセパレート真空管アンプと比較してしまうからです。逆に、それらと比べて大きな不満が出なかったということが、「PM10の基本性能の高さ」を証明しています。

 AIRBOW PM10 Ultimate

アンプをPM10 Ultimateに変えると、ギターの音色(トーン)が変わりました。

PM10(ノーマル)では、少し気になった「ギターの高音のざらざらした感じ」や「高い倍音が抜けきらない感じ」が見事に解消し、高級ギターらしい金属的な硬質な響きと上質な木の響きの甘さが両立した良い音が出てくるようになりました。

ボーカルも、L507uX2やPM10では表現しきれなかった、細部のディティールまで完全に再現され、セーラKさんがギターを抱えつま弾いている様子が見て取れるようなリアルな音になりました。
また、PM10(ノーマル)で聞くこの曲は、良い演奏には聞こえるものの、どこか自動演奏されている、あるいはデジタル音を再生しているという感覚を引きずっていたのですが、PM10 Ultimateはそれを、生演奏をダイレクトに聞いているというイメージに変えました。
PM10 Ultimateのサウンドは、完璧にバランス取りされたレーシングエンジンのように、音の出方に雑味や重さがなく、すっと音が出てくる感じです。音の立ち上がりも早く、ギターやボーカルがより力強く聞こえます。
PM10(ノーマル)の音調は残しながら、それがさらに上質になっています。
深みのある暖かい音で、Vincentが鳴りました。

 AIRBOW Stingray2 Ultimate

同じソースを聞いているとは思えないほどに、ギターの音が美しく響き、余韻が体を包み込みます。セーラKさんの声も全然違っています。セーラKさんが、この曲を愛でながら、しっとりと歌っている様子がとても良く伝わってきました。

音質評価

 Luxman L507uX2(通電直後)

シンセサイザーの音は透明でアマンダさんの声は良い感じに鳴っています。分離感にも優れています。音場の広がりは少し小さめで、この曲がチャーミングに鳴っている感じです。
 Luxman L507uX2(ウォーミングアップ完了)

ウォーミングアップが完了すると、シンセサイザーの低音が太くなりました。ボーカルもボリューム感が向上していますが、高域にはまだ少し濁りが感じられます。
こちらから聞きに行かなければ、そつなく鳴っている感じです。こちらから聞きに行けば、かなり良い音に聞こえますし、演奏の雰囲気も伝わってきます。
この曲はもう少し透明感が高く、すっきり鳴るのが私の理想ですが、L507uX2はそれよりも曲調がやや暗く、パーカションも少し重い感じです。音はクッキリしていますが、演奏のメリハリがもう少し効いて欲しい感じです。
 marantz PM10

Phasemation真空管アンプに比べると、音が少しくすんで感じられます。ベールがかかっていると言い換えても良いですが、それはどうしても価格に開きがありすぎるせいで、その部分を除けば十分に検討しています。
シンセサイザーやボーカルの「イメージ」は、この曲を様々なシステムで何百回と聞き比べた「ど真ん中」にあります。

他のこのクラスのプリメインアンプは、ほとんどがメーカーやモデル固有の「味わい(癖)」を感じさせますが、PM10にはそれがありません。今回試聴した、Luxman L507uX2に関わらず、他の国産メーカーAccuphaseやEsotericなどには必ず「個性的な音」を感じます。良い意味で「個性の少ない」PM10は、そういう部分が他の国産メーカー品や従来のmarantzアンプと少し異なっています。伴奏とボーカルの関係性はとてもニュートラルかつ正確です。

無個性な音ですが、決して無味乾燥な音ではありません。PM10から心の琴線に届く音が出せるかどうかは使い手次第だと思いますが、60万円という価格を考えれば、PM10はとても基本性能の高いプリメインアンプ、セパレートアンプに近いアンプに仕上がっていると思えます。
 AIRBOW PM10 Ultimate

イントロ部分のシンセサイザーの透明感、量感と響きの長さが大きく変化します。
アマンダさんのボーカルにもしっとりした艶が出て、まるで別人が歌っているようにすら感じられるほどです。
パーカッションの「木質感(木を打ち付けて音を出している感じ)」も、しっかりと伝わります。

PM10とPM10 Ultimateで聞き比べる「Dreaming」はCDとSACD、あるいはノーマル音源とハイレゾ音源ほど、細やかさと透明感の違いがあります。周波数帯域の両端がロールオフせずに真っ直ぐ伸びて静寂感が向上し、音場が透明になって空間の隅々まで見通せるようになりました。
シンセサイザー(伴奏)とボーカルの分離感も向上し、あらゆる音が美しく層状に分離しながら重なって、美しい織物のようです。倍音が一切重ならずに再現され、その倍音が隅々まで美しく重なって、えもいわれぬ美しいハーモニーを形成している様子がきちんと伝わるようになりました。
音調はPM10よりも若干明るめになり、ゆったりリラックスした優しい雰囲気で、Dreamingが甘美に鳴りました。
 AIRBOW Stingray2 Ultimate

高域はすっきりと伸び、響きは鮮やかで透明です。青天井に突き抜けてゆく、シンセサイザーの音を聞いているだけでも気持ちが晴れ晴れとして、気分がよくなります。
シンセサイザーの抑揚と響きの美しさ、アマンダさんの声の質感は、真空管アンプならではの素晴らしさが存分に発揮され、独特な透明感と美しい響きに体が包まれ、そのまま眠ってしまいそうになるほどです。

音質評価

 Luxman L507uX2(通電直後)

ピアノはタッチの強弱が少し伝わりにくいですが、音色は美しく、ボーカルも艶やかです。L507uX2の音は、この曲にとてもマッチしていて、ラックスらしい「甘さ」、「艶やかさ」がほどよく醸し出されて、とても良い感じです。
 Luxman L507uX2(ウォーミングアップ完了)

イントロのピアノの音が「いろいろな音が一斉に鳴っている」ように聞こえます。本来は、音の高低や弦の太さの違いによって、もう少し音の立ち上がりに差が出て、複数の音が分離しながら混じり合って美しいハーモニーを形作るように聞こえるはずです。

すでにYouTubeにアップロードしている、Phasemation CA1000/MA1000の動画とL507uX2を比べていただければ、アンプの違いによる「ピアノの音の差」ははっきりわかると思います。
L570uX2の音に深みがもう少し欲しいと感じるのは、音の重なり部分の分離が少し甘く、音が混じってしまうからでしょう。
しかし、それはPhasemationの何百万円もするセパレートアンプと比べてしまっているからで、48万円という価格を考えれば、楽器の色彩感(音色の変化)やボーカルの表情などは十分良く出ていると思います。
 marantz PM10

Phasemation真空管セパレートアンプと比べると、PM10の「ピアノ」は、ほんの少し人工的な音に感じられます。低域は良いのですが、高域のプレゼンスがわずかに足りないからでしょう。
アマンダさんの声でもそう感じましたが、峰純子さんの声も実年齢よりも「わずかに若い感じ」がします。

PM10の良いところは「ピアニストとボーカルの息の合った感じ」が実に自然に醸し出され、良い味わいで再現されることです。いくら音が良くても、「音と音の関係性」が疎になり、あるいはそれが破壊されてしまうと、肝心の演奏の味わいが消えてしまうからです。PM10は、marantz渾身のフラッグシップ・プリメインアンプにふさわしい、音楽表現力を持っています。

Phasemationセパレート真空管アンプ(370/500万円)と同じ演奏を聞き比べても、それが「つまらない」と感じられることはありません。もちろん、音質は及ばないので、同じライブを少し悪い座席で聞く感じですが、演奏の良さは、しっかりと伝わります。
 AIRBOW PM10 Ultimate

ピアノはアタックの立ち上がりが早くなり、タッチの強弱がハッキリしました。
ボーカルは「透明感の高さ(音の濁りの少なさ)」、「きめ細やかさ(小さい音までハッキリ聞こえる)」が向上し、峰純子さんの声の質感が際立ってきます。「楽器の色彩感(音色の変化の大きさ)」も向上しています。

PM10 Ultimateのトランジェント(過渡特性)は、ほんの少しスローかも知れません。けれど、逆にそれが「録音の粗」を上手く隠してくれて、ゆったりと音楽を聞かせる方向に働きます。

最高のカートリッジで聞いた峰純子さんのレコードと比べると、ほんの少しだけ「すっきりとした透明感」には欠けますが、出てくる音は相当レコードに近いイメージです。
ゆっくりと優雅に流れる時間に乗って、Here's That Rainy Dayが鳴りました。
 AIRBOW Stingray2 Ultimate

ハットするほど美しく響くピアノの音と、思わず息を止めて聞き入るほど艶やかなボーカルに感動します。
優雅にゆっくりと、豊かな時間が流れて行きます。
命のないデーターに魂が吹き込まれ、止まっていた時間が再び動き出す。そんなイメージで「Here's That Rainy Day」が鳴りました。

音質評価

 Luxman L507uX2(通電直後)

イントロのトランペットの音は、もう少し厚みとパワー感が欲しい感じです。
弦楽器も量感は若干不足しがちですが、48万円のプリメインアンプということを考慮すれば十分納得できる量感はあります。
L507uX2が良いのは、演奏に暖かい血が通って聞こえるところです。物理的な音質は、さすがに最高級のアンプには敵いませんが、出せる音の範囲で「演奏の雰囲気」を旨く醸し出すことができます。この点で音がやや無機的に感じられることがある、AccuphaseやEsotericなどの製品とLuxman製品の音作り方向性の違いがハッキリと感じられます。
 Luxman L507uX2(ウォーミングアップ完了)

電源投入直後には不満を覚えた、トランペットの厚みと力感不足は、ウォーミングアップにより解決しました。弦楽器を含め、全体的に楽器の数も増えたように感じられます。
ボーカル系のソフトでは、少し表現が表面的に感じられることがありましたが、「新世界より」では十分深い音が出ています。
最後に聞いたこの曲で、L570uX2の実力を再確認できました。

 marantz PM10

イントロのトランペットの音量は実に「リニア(自然)」に変化します。実はアンプを通った後の楽器の音量感をリニアに変化させるのは、かなりの腕がないと難しく、この点で国産品は海外製品に及ばないことが多かったのですが、PM10は国際的に見ても、変化が実にリニア(自然)な製品だと感じます。再現する音のスケールに狂いがないPM10は、この演奏の持ち味である「精緻さ」を見事に再現します。

この曲で「良いな!」と思ったのは、ピアニシモからフォルテに変化していくその「動きの大きさとスケールが、驚くほどリニアなことです。国産製品では、この部分がなかなか難しく、違和感を覚えることが多かった(PM11 S3もそうでした)のですが、PM10は良くチューニングされ、音楽を等身大で再現してくれます。S/N感にも優れています。
さすがにピアニシモ以下の小さな音の再現は限界があり、空気が動くような音にならない雰囲気までは再現しきれませんが、それでも耳をこらし、心を開いて聞けば、生演奏を聞いている時とほとんど変わらない雰囲気で「新世界より」を聞くことができました。
 AIRBOW PM10 Ultimate

ベースモデルPM10の良さを引き継いだ癖のない自然な音です。

150個以上のパーツを交換した効果は伊達ではなく、PM10では表現しきれなかった「無音部」がしっかりと再現されます。音は聞こえないけれどそこには何か気配が残っている、そういう有機的な静寂の中から静かに音が立ち上り、再びそこへ消えて行く。この部分は、ノーマルのPM10では再現出来なかったところです。最大音量から無音部までの変化と、緩急を繰り返す時間の流れに一切の淀みや切れ目(停滞感)がなく、粛々と演奏が流れて行きます。
オーディオ的虚飾が感じられないのが少し物足りなくもありますが、PM10 Ultimateのこういう知的で深い鳴り方は、ノイマン・チェコフィルのこの演奏にとても良くマッチします。
新世界に旅立つ人々を4K映像+サラウンドで見ているような感覚で、演奏に深く浸ることができました。
 AIRBOW Stingray2 Ultimate

真空管アンプの音は、聞き比べたトランジスターアンプと何が違うのでしょうか?
それは滑らかさと響きの美しさ、そして命が通っているという確かな実感です。
目を閉じれば、そこはコンサート会場の一番良い席に陣取って音楽を独り占めする「自分」がいます。Stingray Ultimateは、「新世界より」をとても深く、芳醇に鳴らしました。

総合評価

 Luxman L507uX2

Luxman L507uX2は、ウォーミングアップ前後でかなり音が変わります。暖まる前の音は、Luxmanらしいクリーミーなサウンドですが、十分に暖まると高音がクッキリして低音の量感が増えます。

ウォーミングアップを兼ねて、様々な曲を聴きましたが、前作L507uXに比べ全体的に「メリハリが強い」のが印象的でした。アコースティック系の楽曲は上手く鳴りますが、録音の悪いPops系の楽曲では、メリハリが効きすぎて演奏が雑に、うるさく感じられることがありました。
また、細かい部分までスィートに聞かせてくれたL507uXに比べると、uX2は細部の「調和」やや雑に感じられることがありました。生音をよく知っていて、アンプの出音をそれと比較して聞ける(耳が良くトレーニングされている)方には、その部分では前作L507uXの方が良かったと感じられることがあるかも知れません。だからといって、L507uX2に音楽を改変するような悪い癖は一切なく、「音楽をより身近に聞かせてくれるイメージ」は、Luxmanの伝統をしっかりと踏襲されています。
L507uX2は、超エキスパート向きという感じではなく、一般向きにチューニングされているように感じられました。
 marantz PM10

PM10の音質は、「HEGEL プリメインアンプ最上級モデル」に近いイメージでしたが、それよりは少し明るいようです。

また。艶やかさではHEGELが勝ると思いますが、低音の再現力はPM10がそれを上回ります。
Marantz製品という枠、60万円という価格の中では、PM10は非常に良く作られていると思います。marantzはPM10にプリアンプと、2台のパワーアアンプを納めた「セパレート構造を目指した」と説明していますが、marantzが目指したクォリティーは、間違いなく実現していると思います。
癖のない自然なサウンド、「スピーカーの影響(逆起電力の影響)」も受けにくいスイッチングアンプの組み合わせにより「スピーカーを選ばないという長所(スピーカー対応性の広さ)」も含め、現在発売されている50万円付近のプリメインアンプの中では、ほぼ最高点を与えても良いと思います。
 AIRBOW PM10 Ultimate

元々良く出来ているPM10のパーツをさらに150個も変更して音質を高められた、PM10 Ultimateは、プリメインアンプという枠を超える音質を実現しています。

今回の4台のプリメインアンプと同時に聞き比べた、Phasemationのセパレート真空管アンプと比較すると、PM10 Ultimateは、音の変化の大きさや鮮やかさという部分では、若干及ばないところがありますが、PM10 Ultimateの持つアナログ的な滑らかさや暖かさはトランジスターアンプ、スイッチングアンプの枠を超えています。
非常に低い音から、突き抜けるような高い音。聞き取れないような小さな音から、スピーカーが追従しないほどのフォルテへの移行など、「音の運動のスケール」は、真空管よりもリニアに再現されます。
派手さを感じさせないその音は、今までのアンプと「全然違う!」という感はないかも知れませんし、「新しい音!」という感じしないかもしれません。けれど、あるべき音を本来のまま再現し、粛々と音楽を奏でる「黒子」に徹するこの安定感に「新しい世代の高性能アンプ」の長所を感じます。
PM10 Ultimateは、ゲイン・オブ・ワイヤーという言葉を彷彿とさせる、高純度・精緻な音です。

 AIRBOW Stingray2 Ultimate

Stingray2 Ultimateは、物理的な耳に聞こえる音ではなく、伝わってくる感動や音楽性にトランジスターアンプとの大きな違いが感じられました。もちろん、再現される音は今回テストしたプリメインアンプの中でも最も細かく、響きの美しさや分離感、広がり感にも優れ「音質」でもトップランクだと思いますが、そういう「質的」な部分よりも、「音楽の表現力」すなわち、心をぐっと鷲掴む感動の大きさと豊かさで、確実にトランジスターアンプを上回ったからです。

出力は、Triode接続で18Wですが、スピーカーの能率が極端に低くなければ、ご家庭で十分な音量が出せるでしょう。事実このアンプを、100名以上収容できる「音展2017」の会場で使いましたが、音量に不満はありませんでした。

今回聞き比べたアンプでは、Phasemation CA1000/MA1000のセットに最大の感銘を受けましたが、Stingray2 Ultimateはそれよりもずっと安い価格で、同じ雰囲気を醸し出してくれる良いアンプに仕上がっていると思います。

今回同時にテストした、AIRBOWPM10 Ultimateとは、価格も近く良い意味で対照的な存在感を持っているように感じます。

2017年7月 逸品館代表 清原裕介

   

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