最近大型家電メーカーのAVに関する広告は、BD(ブルーレイ)が主役になっています。映像だけならまだしも音質に関してもBDは、従来のどんなメディアよりも優れていると宣伝されています。しかし、実際に聞いてみるとその音は期待していたほどではなくがっかりしました。そして大きな怒りがこみ上げてきました。
レコードを抹殺したのは誰ですか?世の中にあんなに大量に出回っていたレコード。それに記録された音楽。私たち音楽ファンにはレコードへの様々な想いがあり、ファンが作り上げた文化が確かに存在しました。それを「金儲け」のためにあっさりとゴミ箱に捨てたのは誰ですか?恥ずかしいことに、一度捨てたゴミを拾ってお金儲けを企んだのは誰ですか?企業倫理として正しいと思いますか?
ここのところBDの音質についてメーカーや評論家は、声高々に5.1ch録音で「ロスレスだから(非圧縮)」とか「192Khz/24bitで収録できるから」などと、その音質がまるで「空前」であるかのように宣伝を繰り返しています。しかし、「192Khz/24bit」の音質はSACDやDVDオーディオですでに実現し、CDを遥かに超えていたにもかかわらず普及しませんでした。それはなぜですか?
それらの音がCDよりも格段に優れてはいなかったからです。私の知る限り(すくなくともAIRBOW製品では)、DVDビデオソフトの音質はCDを確実に上回ります。PMC/2chであったとしても、圧縮されたドルビーデジタルやdtsのサラウンド信号であったとしてもです。BDがそれを越えていたら、私は新しい世界が広がると諸手を挙げて歓迎したでしょう。しかし、そうではありませんでした。
CDを導入した、あるいはSACDやDVDオーディオを導入した当初の広告を忘れ、またもやBDで同じ広告を繰り返すメーカーは、いったい何を考えているのでしょう?完全に消費者を馬鹿にしています。またもや!の大嘘をこんなにも高い立場から堂々と言い切るのは、どういうつもりでしょう?これでは広告に名を借りた「プロパガンダ」ではありませんか!こんな力任せの情報操作は企業倫理として許されることではありません。そしてそれに乗っかる雑誌や評論家もまったく同罪です。
レコードを作りそれを聞ける環境を作ったのは、確かに企業かも知れません。でも、それを消費することで花を開かせたのは、私たち消費者です。その消費者の気持ちを踏みにじり、嘘の広告(CDはレコードより音が良いとされた)をしてまで新しい製品を売り込もうとする、その傲慢さに変わりはありません。
利益追求のため「嘘」を力任せに正当化しようとする「企業の姿勢」が私の怒りの対象です。せめてもの抵抗に私は、メルマガでBD(ブルーレイ)の音質が思った程よくないと書いたのです。
私の怒りの矛先は、決して企業そのものではありません。彼らなくしては、私たちの豊かな暮らしは存在しないのですから。では、批判はこれくらいにして「フォーマットによる音の違い」と「機器による音の違い」を実際に検証してみましょう。
オーディオの目的とは?
「BDの音が良い」というのは、フォーマット(データー形式)による音質を示します。「レコードとCD、CDとSACDの音が違う」と言うのも同じ意味です。これに対し、同じCDソフトが演奏する装置によって音が変わるのが「製品(装置)による音の違い」です。オーディオという趣味は、そういう「フォーマット」や「製品」による音の違いを統括して工夫を凝らし「いい音を聞く努力」を行うことです。
機械好きなオーディオマニアは時として「音質向上の原因(手段)」について細かく言及し、分類することがありますが、それはオーディオ本来の目的とは異なることです。目的はあくまでも「音を良くする=音楽を少しでもいい音で楽しめるように努力する(結果を求める)」ことで、手段にこだわることではありません。とはいえ「手段の研究」も行わなければ、効率的に音を良くすることもできません。「結果」と「手段」が上手くバランスすると楽しみはより大きくなるはずです。
今回はSA8003/PM8003にAIRBOWのCC4001/Special、PM15S1/Masterという製品を交えて、一枚のディスクから取り出せる音が「どのように変わるか?」のテストを行いました。
デジタル回路でも音は変わる
「録音〜再生」=「空気の振動をマイクでとらえ、スピーカーで再び空気の振動に戻す」。それがオーディオのすべてです。このプロセスで「失われる音」が少なければ少ないほど、良い音が聞けると一般的には考えられています。しかし、実際には再生のプロセスで録音されていない音が生まれ、それによって生演奏よりも再生演奏のほうが「音が良くなる(演奏が上手く聞こえる)」ということもあります。
私たちがもっぱら音楽を聞いているのは「CD」です。CDには音楽が「デジタル信号(PCM信号)」で記録されています。CDプレーヤーはディスクに記録されたデジタルデーターを読み取り、DA変換によってそれをアナログ信号に変換します。このデジタル〜アナログ変換のプロセスでは、音の変化は理論的には生じないはずですが、ここでも何らかの変化が生じ、音が変わります。極端な例では、音楽編集に使うハードディスクのメーカーを変えても音は変わりますし、接続するケーブル(fire-wireやUSB)でも音は変わります。
プレーヤーでなぜ音が変わるのか?
「プレーヤー」に必要とされるのは、記録された信号を「ロスなく」取り出すことと、それを「ロスなく増幅」することです。抵抗や配線、コネクターでのロス、増幅素子の感度、そういう「パーツの質の高さ」が要求されます。高性能なプレーヤーには、ロスの少ない高価なパーツが多用されるので価格が高くなります。レコード針の信号を復調・増幅する装置を「フォノイコライザーアンプ」と呼び、高価なものは100万円を超えます。CDプレーヤーにもDAコンバーターが出力した信号を復調・増幅するフォノイコライザーに近いアンプが搭載されています。高価なCDプレーヤーには高価なアンプが搭載されます。
一般的にはあまり知られていませんが、この「復調」では、「実際に録音されていない音」が生成される事があります。例えば「レコード」では、一本の針で左右の音を拾うために右chの音が左に、左chの音が右に混じることが避けられません。これをクロストークと呼びますが、それが発生した状態でスピーカーから音を出すと、あたかもセンタースピーカーを置いて中央部の定位を増強したような「疑似センタースピーカー効果」が生じます。レコードでは、クロストークという録音時にはなかった音が作り出されることで、再生音が生よりも良くなることがあるようです。CDとレコードの「音の広がりの違い」は、このクロストークの有る無しによる部分が大きいはずです。実際にミキサーを使って、このクロストークの量を増減して「中央部分の定位の変化」を調べた結果、この考えはほぼ間違いないことが確認されました。
デジタル回路でも「実際に録音されていない音」が作り出されます。最近はあまり表に出て来ませんが、一時CDに収録されていない「20KHz以上の音域(帯域)」を擬似的に作り出す回路が話題をさらったことがありました。DENONのアルファプロセッサ−、VICTORのK2プロセッサー、PIONEERのレガートリンク、などがそうです。これらの回路は「量子化によって失われた信号をもう一度作り出す」ことを目的としています。足りない部分を補う信号を作り出すこの仕組みを「補完(補って完全にするという意味にとると分かりやすい)」と呼んでいます。
最近、TVや映画で「画質の悪い写真」をパソコンで処理し「見えなかった細かい部分を見えるようにする(人の顔や、車のナンバープレートなど)シーン」を見かけることがありますが、これが「補完技術」によるものです。音声も正しく「補完」すると、収録されなかった「細かい音が聞こえる」ようになります。
この「補完」を20KHz以上の高い周波数に行っていたのが、先に紹介したCDプレーヤーに搭載されていた技術です。当時はまだ「補完」の技術が未熟であったため、機械が作り出す音は不自然でした。しかし、それから10年以上の年月が流れデジタル音声処理が飛躍的に進歩した結果、この「補完」によって作り出された音の不自然さが消え(作り出される音が正解に近い)、その結果CDからSACD並の音が出せるようになったのです。
このようにフォーマットがプアであってもプレーヤーが優れていれば、フォーマット以上の音を取り出すことも不可能ではありません。
アンプでなぜ音が変わるのか?
アンプはプレーヤーから受け取った信号をスピーカーを駆動できるレベルに高める役割を持っています。アンプに求められるのは、可能な限り細かい電気信号までスピーカーで音に変換する能力です。プレーヤーとアンプを繋ぐケーブルのグレードを上げると細かい音まで聞こえるようになりますが、それはケーブルの中で微少信号が失われなくなるからです。
ケーブルなどの回路の中で「音が消えないようにする(ロスをなくす)」のは、プレーヤーにも求められたことです。アンプがプレーヤーと違うのは、アンプが信号を伝えるスピーカーには「慣性」という物理的な力が働くことです。回路の中を流れる電流と違って、スピーカーのユニットは動かすと「さらに動き続けよう(慣性)」という力が働きます。また重量があるために、ユニットは瞬時には動かせません。ユニットを入力された信号に忠実に動かすためには、動きにくいユニットを動かし、動いているユニットを止め、次の動きを与えなければなりません。
このアンプの動力の元になるエネルギーを発生するのが電源回路です。そのためアンプの電源は強力である方が望ましいとされています。瞬時に必要なだけの電力を回路に送ることができる、ノイズの少ないクリーンで強力な電源が理想です。しかし、低価格のアンプではコストの問題で、このような「理想的な電源」を搭載することができず、制動・駆動力の限界が低くなり、スピーカーに搭載されるユニットの重量が大きくなりすぎると大きな歪みが発生(ユニットが忠実に動かなくなる)します。これが大型スピーカーを駆動するためには、それなりのアンプが求められる理由です。
現在販売されているアンプには「トランジスターアンプ」、「真空管アンプ」、「デジタルアンプ」の3つの方式があります。この中で圧倒的に歪みが大きく、スピーカーの駆動制動力にも劣る真空管アンプの音が良いとされるのは、どういう理由でしょう?
これもレコードに発生したクロストークと同じ考え方で説明が可能です。一般的にプレーヤーと同じようにアンプも「音のロスを減らす」事しかできないように考えられていますが、例えば真空管アンプでは増幅素子(プレートやグリッド、カソード。特にカソード)が振動することで音にエコーが付加されます。トランジスター・アンプでも増幅素子が僅かに振動し、音に新たな個性が生じますが、真空管アンプに比べるとその「量」はごく僅かです。発生した「エコー」は、カラオケでエコーを聞かせるとボーカルが広がって心地よく聴けるのと同じような感覚でリスニングルームに音を広げ、録音されていなかった「ホールトーン」を生み出します。
ウェスタンの300Bが名球と呼ばれるのは、それが発生する「エコー(響き)」が美しいからです。中国製の300Bとウェスタンの300Bを指で弾いてその響きを比べれば、ウェスタンと中国球の音の違いが分かるはずです。真空管マニアは真空管の「型番」でその音を分類しますが、私はそれは間違っていると考えています。真空管を分類するときに必要なのは「真空管の響き(作り)」であって、型番ではないからです。
このアンプで発生する「エコー」は真空管やトランジスターのような増幅素子のみならず、電源部の振動でも発生します。インシュレーターを変えると筐体の振動モードが変わるので、振動に敏感なアンプは音が大きく変わります。
スピーカーでなぜ音が変わるのか?
スピーカーはアンプから入力された信号によって空気を振動させ、電気信号を音に変換します。内部が見えないプレーヤーやアンプに比べて、スピーカーは「見た目通り」なので理解し易いと思います。
スピーカーに付いている大きなユニットからは低音が、小さなユニットからは高音が出ています。それぞれの感度が高く(敏感)、入力された電力に対しリニアに動く(歪みが少ない)のが理想のユニットです。
スピーカーは「ユニット」で語られることが多いのですが、忘れてはならないのが「エンクロージャー(箱)」の存在です。バスレフ・スピーカーやバックロードホーン・スピーカーでは箱そのものが「ユニット」の延長ですから、その影響の大きさは想像できると思います。しかし、密閉型のようにエンクロージャーから音が出ていないように感じられるスピーカーでも「箱の音」の影響を大きく受けています。
先ほど真空管は「響きを作る」と言いましたが、スピーカーのエンクロージャーはユニットと常に共振し、さらに盛大な「響き」を生じています。エンクロージャーで生み出される「響き」が「いいか?」・「悪いか?」でスピーカーの善し悪しはほぼ決まると言っても過言ではありません。ユニットやネットワークばかりを重要視するアマチュアが作ったスピーカーの音質がメーカー製品に敵わないのはそのためです。
またプレーヤーやアンプの歪みを測定すると小数点以下の小さな数字になるのに対して、スピーカーの歪みは数十%を大きく越え、それらとは比較になりません。そのためメーカーは、スピーカーに関しては歪みを発表しません。カタログデーター(スペック)とは、このようにメーカーが消費者を欺くために作っているでたらめな指標です。騙されないようにして下さい。そして歪みの最も大きいスピーカーこそ、音質に最大の影響を与えます。いい音を出そうと思うなら「良いスピーカー」を使わなければなりません。それが最も重要です。