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ortofon anna カデンツァ Cadenza Blue Bronze SPU Synergy Classic GE MK2 2m カートリッジ 音質 評価 比較 試聴 価格 レビュー

 ortofon
anna、Cadenza Blue/Bronze、SPU Synergy/Classic GE MK2、2M Blue/Bronze 音質テスト

その他の音質テストはこちら

先日行った、ortofon Q Series MCカートリッジ Q5/Q10/Q30/Q Mono、旧モデルのMC20 Supreme、SPU Mono、PhasemationのMCカートリッジ PP300
GoldringのMMカートリッジ 1012GXの比較試聴
に続き、ortofonの主要モデルをから、anna(アンナ)、Cadenza(カデンツァ) Blue(ブルー)Bronze(ブロンズ)、SPU Synergy(シナジー)Classic GE MK2、2M Blue(ブルー)Bronze(ブロンズ)を拝借して聞き比べました。

それぞれのカートリッジの主な仕様

 
上左から、SPU Classic GE MK2、SPU Synergy、Cadenza Blue/Bronze、下左から、2M Blue/Bronze、anna。
モデル名 anna SPU Synergy SPU Classic GE MK2 audio-technica
AT-F2
 
希望小売価格(税別) \720,000 \196,000 \103,000 \30,000
 出力電圧 0.2mV 0.5mV 0.2mV 0.32mV
スタイラス Nude Replicant 100 Nude Elliptical Nude Elliptical Nude Elliptical
カンチレバー素材 ボロン アルミ アルミ アルミ
推奨針圧 2.6g 3.0g 4.0g 2.0g
自重 16g 30g(ヘッドシェル含む) 31.5g(ヘッドシェル含む) 5.0g

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モデル名 Cadenza Bronze Cadenza Blue 2M Bronze 2M Blue
 
希望小売価格(税別) \222,000 \186,000 \45,000 \25,000
 出力電圧 0.4mV 0.5mV 5.0mV 5.5mV
スタイラス Nude Replicant 100 Nude FG70 Nude Fineline 楕円針
カンチレバー素材 アルミ ルビー アルミ アルミ
推奨針圧 2.53g 2.5g 1.8g 1.8g
自重 10.7g 10.7g 7.2g 7.2g

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テストの概要

レコードプレーヤーは、カートリッジ着脱の利便性から、生産完了モデルMicro SX1500FV(エアーフロート、バキューム吸着)にSME 3012Rを組み合わせたプレーヤーを使っています。3012Rには、SPU Monoが取り付けられています。

試聴に使ったプリアンプは、TAD C600、パワーアンプはDigitalDomain B1a、スピーカーはTAD E1というかなり豪華な組み合わせです。フォノイコライザーアンプは、AIRBOWの生産完了モデルに昇圧トランス(パートリッジ)を組み合わせて使用しました。

音質テスト
今回の試聴では、前回と同じステレオ盤2枚に加え、モノラルの「シゲティー・バッハ」をステレオカートリッジで聞いてみました。これは、バイオリンのように倍音構造がわかりやすい楽器を試聴することで、カートリッジが発生している「響き(歪み)」がわかりやすいと考えたからです。しかし、試聴リポートをお読み頂ければ分かるように、カートリッジの「左右チャンネルの音の差」を克明に聞き取ることができました。

 
ortofon Cadenza Blue ortofon Cadenza Bronze

Pavane Pour Une
Infante Defunte 〜
LA4

Cadenza BlueはQシリーズと比べて、解像度感は低い感じです。レンジも少し狭く感じます。しかし、イントロ部のウインドベルのきらきらした美しい音、ウッドベースの厚みのある音、シンバルのシンシンという音、あらゆる音が「耳に美しい音」として再現されます。ギターの音も良質で、奏者が良い楽器を使っていることが伝わります。
響きも美しく、聞きたかったアナログの音、求めていたortofonの音にイメージがぐっとに近づきました。
若干音が重く感じたので、芯圧を「適正の2.5g」から微調整することにしました。

聞きながら調整すると、約2.3gで楽器の躍動感と、統一感が向上します。フルートはより軽やかに、ベースも弾みます。低音が若干軽くなりましたが、心地よくストレスなく音が出るようになりました。サックスとギターの良さが印象的です。
前回試聴したMC20 Supremeと比べると音が明るく、歯切れがよいのですが、若干演奏が軽く聞こえます。一つ一つの音をクッキリと描いていく部分では、Q Seriesと印象が重なる部分はあるのですが、雰囲気は断然良くなりました。

Cadenza BronzeはBlueに比べ音の立ち上がりが早く、収束も早い印象です。音がすっと出てすっと消えるので、Blueよりも音の純度が高く感じられます。楽器のアタックもしっかり出て、メローディーの強弱やリズムがはっきりします。

Blue肩の力が抜けた、少しラフな演奏に聞こえましたが、Bronzeでは奏者がタキシードを着ているようなたたずまいが感じられます。それぞれの奏者の印象の描き分けもよりはっきりとして、奏者間の掛け合いのニュアンスがしっかりと伝わります。

明るさ、楽しさという部分では、Blueにも捨てがたい魅力が感じられますが、Bronzeでは音の良さや正確さは格段に向上しています。

ギターでは左手の弦を押さえる様子、ベースも同様に左手で弦をコントロールするニュアンスが出ています。フルートではタギング、サックスではリードを通る息の強さの強弱がはっきり分かるようになりました。
解像度が高くなったという印象はありませんが、細部の精度が上がり音の変化が一段と細かく聞こえるようになって、ステージとの距離がグンと近くなった印象です。

ムソルグスキー
展覧会の絵
チェリビダッケ
ミュンヘンフィル
AUDIOR

イントロのトランペットの音に広がりと深みが感じられます。静かで厳かな雰囲気の中に精密に音が描かれる様子が、チェリビダッケの世界とピタリとマッチしています。

管楽器の音は非常によいのですが、弦楽器の音が少し乾いて聞こえます。響きもにも少し雑味があり、弦の重なりが少し団子になっています。左右への広がりは素晴らしいのですが、前後方向がやや浅いようです。この点はQ Seriesと似ています。

Cadenza BlueがQ Seriesと違うのは、音がない部分「無音部」に音にならずにきちんと雰囲気が出ることです。演奏の合間にQ Seriesで感じられなかった「会場の雰囲気」が出ています。

中域に若干、音の分離が甘く団子になる部分があるのですが、プレーヤーやトーンアームとの相性だと思います。質量が軽く、感度の良いトーンアームと組み合わせれば、さらによい音が出ると思います。

とにかく音楽を「描く」能力では、Cadenza BlueはQ Seriesとは比較にならない高い能力を持っているように、私は感じました。少なくとも、安心して音楽が聞けます。
また、2枚のレコードを聞き比べた印象では、クラシックに良くマッチするカートリッジのように感じました。

イントロ部の管楽器のハーモニーの精密さ、複雑さが一気に向上しました。弦楽器のパートには、まだわずな濁りを感じますがほとんど気にならないレベルに改善しています。

左右への広がりは若干狭くなったかも知れませんが、前後方向への広がりが改善したので音の広がりが真円に近づき、生演奏をホールで聞くのと違和感がなくなりました。

弱音部、無音部での雰囲気も一気に濃くなり、音の広がりの正しさと相まって、まるで生演奏を聞いているような錯覚に陥ります。
カートリッジが何かを「サービス」しているような感覚はまったくありません。レコードの溝に刻まれた音楽を、淡々と再現します。その寡黙なカートリッジの仕事ぶりが、チェリビダッケの演奏ととても良くマッチします。いい音です。

 

ヨゼフシゲティー

バッハ
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ 

モノラルレコードをステレオカートリッジで聞くと、音が濁るのであまり聞かないのですが、バイオリンのソロ演奏は「カートリッジの素性」を探りやすいのでそれを承知で聞いてみました。

高音2本の弦は非常に鮮やかで、響きも美しく再現されます。3弦の音は響きに髭がついて少し濁ります。4弦はそれよりもさらに濁りが大きくなります。高音弦だけを弾いているときはとても良い音なのですが、低音の2弦を奏でるパートでは音が濁り団子になります。これは、チェリビダッケのオケを聞いていたときと全く同じ印象です。

カートリッジ本体か、もしくはトーンアームと何かが干渉して響いている印象です。この部分をうまく処理することが出来れば、低減を強く引く部分での「がさつな感じ」が解消すると思います。

音色や響き、音の広がりには優れているので、この共振を取り除くことがCadenza Blueをより良く使いこなすためのポイントになるのではないでしょうか。

ガルネリらしい音が聞けます。シゲティーの枯れた魅力、一音一音の「重み」が伝わります。Blueで気になった低減部の濁りもほとんど消えて、複数の弦を一度にならした部分での透明感と表現力が大きく向上しています。

まだ、若干部分によっては「音の乱れ」を感じることがありますが、全体のまとまり感、精緻に組み立てられた晩年のシゲティーの良さがきちんと出ます。

この音ならば、安心して、納得してこのレコードを聴くことが出来ます。CDと比べて色彩の鮮やかさ、高音の甘さ、雰囲気の良さに「レコードらしさ」が感じられる良い音でした。

お気に入りのMC20 Supremeと比べても音が鮮やかで、曖昧さが少なく、音質・音楽性ともにそれを凌駕する印象です。

Annaを試聴した印象

イントロのウインドベルの音がシャープで色彩感が濃くなっています。ただ、出力電圧がかなり低いので昇圧トランスの巻き線比を変えました。 また、カートリッジの自重が重くサブウエイとをつけた影響があるのかも知れませんが、音の出がやや渋く音が重く、暗い印象です。 アンプのボリュームを上げてみましたが、Cadenza Bronzeに比べても細かい音が出にくい印象は変わらず、雰囲気もかなり薄くなりました。 価格は上がったのですが、音質はそれに伴わず、雰囲気は若干落ちたように感じます。Q Seriesのテストでもそうでしたが、カートリッジとプレーヤー、トーンアーム、フォノイコライザーアンプには、かなり強烈な「相性」があるのかも知れません。カートリッジは、事前に試聴して購入することが難しく、アンナのように高価な製品の導入は、かなりリスキーな一発勝負になるでしょう。 

やはりこの曲でも音の出方が「渋い」印象です。音は出ているのですが、力がなく、音がない部分での雰囲気も全く感じられません。音の広がりもCadenza Bronzeに比べて半分以下に小さくなりました。 こんなつまらない音では、アンナをきちんと鳴らせていると思えないので、試聴を打ち切ることにしました。

 
SPU Synergy SPU Classic GE MK2

Pavane Pour Une
Infante Defunte 〜
LA4

一音が出た瞬間にアンナを聞いてもやもやしていた気持ちがすっきりしました。音のエネルギー感が全く違っています。楽器の音が生きています。演奏者はなんて楽しく、楽器を奏でているのでしょう。それが心へとしっかり伝わります。
確かにCadenza Bronzeと比べSPU Synergyは、音の細やかさでは劣ります。また、ギターやウッドベースの高次倍音やドラムやシンバルのアタックは角が若干丸くなっています。しかし、中音から低音にかけての厚みを感じる豊かな音響きは、私がortofonに求める音です。

ギターの音の鮮やかさ、音色の美しさもCadenza Bronzeには叶いませんが、SPU Synergyには、Thorensの安価なプレーヤーに共通する「レコードを聴いている」という安心感があります。

Synergyの素朴な音は、MM型のカートリッジ比べて格段に音がよいとはいえないかもしれませんが、響きの芳醇さや甘さ(特にこの響きの甘さが素晴らしい!)にSPUならではのすばらしさが感じられます。サックスがもっとも木管的に鳴ったのは、SPU Synergyでした。

昔レコードしかなかった時代の「厚みのある芳醇な音」でレコードが鳴る!なんて心地よいのでしょう。ortofonはこの音でなければ!!

ストレートアームが増え、ヘッドシェル一体型のSPUを取り付けられるトーンアームは少なくなっていますが、SPUを聞くためだけにトーンアームを選んでも後悔しないほど、素晴らしい音でLA4が聞けました。

SPU Classic GE MK2は、Synergyに比べ音がより細かく繊細な印象です。またワイドレンジで、音質が少し現代的になりました。左右のセパレーションも向上しています。SPU Synergyの色気にカデンツァの高性能が加わった印象ですが、ワイドレンジになった分中低域が薄くなりました。
いつも通り、価格をあまり念頭に置かず試聴していたのでClassic GE MK2とSynergyの価格が2倍も離れているとは思いませんでした。そう思わせるくらいSynergyとClassic GE MK2の音質は、価格ほど離れていません。しかし、その雰囲気感は価格以上の差が感じられます。

音はそれほど違わないのに、雰囲気が全然違うのです。Synergyのカタログを読み、即座にその理由が分かりました。Synergyには、最新モデルと銘打って高価に売られるカートリッジとは異なる「歴史・経験」が紡ぎ出す最高の味わいがあります。

オーディオ機器の価格がうなぎ登りに高くなっている昨今、私はSPU全般の価格が驚くほど安いと感じます。でたらめに高い最近のカートリッジの中では、逆にSPUは「不当に安い」とさえ感じられます。

ムソルグスキー
展覧会の絵
チェリビダッケ
ミュンヘンフィル
AUDIOR

楽器から発せられた響きが、コンサートホールにさざ波のように静かに、そして精密に広がってゆく様子がしっかりと伝わります。

音の細やかさ、粒子の細やかさはCadenza Bronzeに譲りますが、演奏に何とも言えない滋味が加わり、人間的な暖かい感情がより強く伝わるのがSPU Synergyの良さです。この濃密でとろけるような味わいは、事前に「Maid in Denmark」の文字をカートリッジに見つけたからではないはずです。

楽器が重なる部分での分離感や、楽器個々の分離の鮮やかさもCadenza Bronzeには僅かに及ばない印象ですが、演奏の雰囲気の濃さ、展覧会の絵らしい「怖さ」がSynergyがとても良く出ます。

静かなパートに大音量のパカッションが入る部分や、ピアニシモからフォルテへの移行がスムースかつ素早くて、ストレスを感じさせず一気に音が「爆発」します。この弱音部と大音量部の対比の鮮やかさもまた見事です。

曲間部分で観客席がざわめく様子、楽パートの楽器の距離感、フォルテで拡大しピアノで縮小する音場空間のスケール、あらゆる部分がリニアです。「本場」で作られたortofonの直系の子孫であるSPUには、私がそれと感じる絶大なる信頼感と安心感が脈々と宿っていて、胸が少し熱くなりました。一生の間に一度もでいいから、レコードはこういう音で聞いて欲しいと思います。

SPU Classic GE MK2は、ホールの響きが細やかで美しいのですが、Synergyと比べると「密度」が薄く感じられます。LA4と同じくこのディスクでも耳に聞こえる音ではなく、心に伝わる「雰囲気・ムード」の濃さの違いを感じます。

Classicは音質や音の広がりには優れているのですが、色彩がやや薄く、Synergyにくらべると色彩がモノトーンに感じられるほど、音の厚みや響きも若干薄く感じられます。

Synergyでは「ブラボー!」な演奏が、GE MK2では「上々の出来」になってしまいました。

先によいものを聞いてしまうと、次に聞く製品の評価が不当に低くなってしまうため、テストは出来るだけ価格の「安いもの」から聞くことにしているのですが、型式番号で順序が分かる他のカートリッジと違い、二つのSPUの型式番号と価格の関係を事前にきちんとチェックしていなかったためGE MK2の試聴が後になったことが災いしています。

絶対価格10万円のカートリッジとして、SPU Classic GE MK2は実力以上の音質を持っていることは間違いありませんので、くれぐれも誤解なきようお願いいたします。

ヨゼフシゲティー

バッハ
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ 

SPU Synergyで聞くこのモノラルレコードの音は、デジタル化されたCDを最高級のCDプレーヤーで聞く時と非常に近く、まずそのことに驚かされました。

また、CadenzaやAnnaでも気になった「左右の音のばらつき」が皆無です。左右の音が見事に一致しているので、ステレオカートリッジでモノラルを鳴らしても、音源が中央にピンポイントで定位します。
これは左右の巻き線と、カンチレバーをはじめとする「カートリッジの駆動部」の工作精度が非常に高いからでしょう。

カートリッジの製造では、コイルを巻く工程がもっとも難しいと聞きます。わずかなテンションの違い、わずかな巻き線の乱れが音質に大きく影響するからです。SPU Synergyの音からは、熟練工が一つ一つ心を込め丹念にこのカートリッジを作っている様子が伝わります。

Annaに使われる高価なマテリアルや針先形状、そういったものはSynergyには使われていないかも知れません。しかし、それを超える「熟練の極み」がSPU Synergyにはあります。絶対的には20万円と高価ですが、私にその価格は望外に「安い」と感じさせる納得の音質がSPU Synergyには備わっていました。

これは、芸術作品と呼ぶに相応しい、素晴らしいカートリッジです。

Synergyでは中央ピンポイントに結ばれた音像が、若干左右に膨らみ音のぶれが感じられます。あまり「これ」という考えなしに選んだモノラルレコードですが、これほどカートリッジの「左右の音の差」を克明に描き出すとは考えていませんでした。

Cadenzaと比べてSPU Classic GE MK2の音は素直で、いい意味での「重み」が音や響きに感じられます。しかし、Synergyが見事に描き出した、シゲティーの枯れた音の中にある「ほのかな艶」が再現されません。音や構造はとても美しいので、あとわずかな「艶」が再現されれば完璧です。その「艶」のあるなしが、GE MK2とSynergyの違いでしょう。

SPU Classic GE MK2の音をSynergyと比べるのはアンフェアなので、先に聞いたCadenzaとの比較を書いてみます。Cadenza Blueと比べてSPU Classic GE MK2は圧倒的に音が良く、Bronzeと比べると解像度感はわずかに譲りますが「力強さ」では勝ります。また、複数の低弦を強く弾いた時の、音の濁りはBronzeと同じくらいです。

Cadenza、SPUを総合的に批評するならば、左右の音質差はCadenza Blueが最も大きく、Cadenza BronzeとSPU Classic GE MK2は同じか、GE MK2がやや優れている印象です。唯一、Synergyだけは完璧です。

また細かい音の出方は、SPU Classic GE MK2はCadenza Bronzeにやや劣りますが、エネルギー感が強く骨太なのは好印象です。価格を考慮するなら、SPU Classic GE MK2のコストパフォーマンスがもっとも優れています。

 
ortofon 2M Blue ortofon 2M Bronze audio-technica AT-F2

Pavane Pour Une
Infante Defunte 〜
LA4

価格は圧倒的に安いのですが、MCカデンツァと比べて、それほど音質が劣る印象がありません。音楽的な表現力は、向上しているようにすら感じられるほどです。
中低音は太く、高音は反応が早く、ストレスを感じさすにすっと音が出ます。シンバルのリズムの刻みも正確です。ウッドベースも粘り強く、柔らかさもありCadenza Blueよりは音がまとまっていて好印象です。さすがにサックスは、少し乾いて聞こえますが、素直で安心できる音です。出力電圧が高いからでしょうか、パワー感が向上し、音に力がみなぎります。

MMカートリッジはMCカートリッジに比べて振動系が重いので、音の細かさの再現性では不利ですが、構造がシンプルなため工作精度も違いで音に不要な色や癖がつきにくく、全般的にMCよりも音楽が素直に再現されるように思います。

2M Blueは、さすがにGOLDRING 1012GXほどの色気や、色彩の鮮やかさは感じられませんが、同価格帯のシュアーは、確実に上回る印象です。

2M Blueに比べてフルートの音の鮮やかさが大きく向上します。MC Cadenzaのように、フルートそのものの「音の良さ」までは再現されませんが、奏者がタギングを入れながら実に巧みにフルートを操る様子は克明に伝わります。

ドラムも音そのものはやや乾いているのですが、強弱やリズミカルな様子は手に取るように伝わります。

ベースやサックス、ギターの音も少し乾いていますが、2M Blueに比べて色彩が豊富で反応もより早く、演奏の細かいニュアンスまでしっかりと再現されます。

 明るく快活な音でLA4が楽しく鳴りました。

AT-F2は、振動計の軽いMCカートリッジらしく、2M Blue/Bronzeと比べて色彩感が豊富です。

フルートの音も軽快で明るい音ですが、中低音の厚みが薄く、躍動感、力強さに物足りなさを感じます。

価格が全く離れているので、他のMCカートリッジと音質を比較すること自体が無茶なのですが、事前に「いい音」を聞いているので不満が出るのはある程度仕方がありません。

しかし、MCらしく音の細やかさはMMを明らかに超え、場宇豊漁は先に聞いたCadenzaに近く感じます。

力強さと低音の量感物足りなさを除けば、かなり検討していると思います。

ムソルグスキー
展覧会の絵
チェリビダッケ
ミュンヘンフィル
AUDIOR

イントロのトランペットがきちんと後方から聞こえます。ウッドベースの音も後方から前方に広がるように聞こえます。低い音が後方で、バイオリンがその前方に位置する「あたりまえ」の配置に楽器が並んでいます。また、ピアノで空間が小さく、フォルテでそれが大きくなる様子もキチンと再現されます。この「あるべき音があるべき位置に配置される」のは、交響曲やクラシック系のソフトでは非常に重要なことです。2M Blueの空間再現能力(定位感)は、非常に優秀です。

ただし、MCカートリッジに比べて、音の数がやや少なく色数もやや不足するので、演奏が少し単調に聞こえます。このあたりがMMカートリッジもしくは、2M Blueの限界でしょう。

交響曲では、少し情報量が不足気味でしたが、LA4のように楽器の数が少ない演奏では、MMで十分という印象です。

 

イントロのトランペットの響きが2M Blueに比べて明らかに長く尾を引き、チェリビダッケノこの曲らしい演奏のテンポも一段とゆっくりに感じられます。

弦楽器のパートも音の厚さ(弦楽器倍音の複雑さ)がかなり向上しました。音場もより大きく広がり、会場の雰囲気も感じられるようになりました。

2M Bronzeブロンズは、2M Blueに比べ格段に音が細かく、色彩感が鮮やかです。 ピアノからフォルテへの移行も素早く、瞬時に淀みなく音量が上がるのは聞いていて気持ちの良いものです。

耳を澄ませば、確かにMCカートリッジにくらべ音の数がやや少ないこと、また倍音構造も若干単純に感じらるのですが、音量のスケールと倍音構造が正確に再現されるので、チェリビダッケの意図すること、その特徴はMC Cadenzaよりも伝わります。

このレコードはダイナミックレンジが非常に広いので針圧が狂っていると、トレースせずフォルトで音が割れやすいのですが、そのシビアな部分も音を歪ませることなく見事にトレースしました。

GOLDRING 1024GXと比べると2M Bronzeは、音の艶やかさ・色彩感が少し単調に感じますが、癖の少なさ、音の正確性ではそれを上回るように感じられました。

イントロのトランペットの静かな入りかたの表現は、中々のものです。管楽器のセクションでは、楽器の数がやや少なく音が寂しい感じがしますが、不自然な癖はありません。また、中低音も若干少ないのですが、なんとか許容できる範囲です。

バランスに優れた2Mと比べてAT-F2の音質は全体的に線がやや細く、高音が少しヒステリックです。ピアノからフォルテへの移行も、少し苦しい感じがします。

AT-F2の良さは、音に不自然な癖がつかないこと、MMよりも音が細かく、色彩が鮮やかなことです。欠点は、中低音がやや薄く、音の力が足りないことですが、価格を考えれば十分な性能だと思います。
少なくとも今回テストしたCadenzaの2モデルが約20万円、AT-F2が3万円という価格差を考えれば、価格以上に音がよいと思います。

では、価格の近い2M BlueとAT-F2のどちらを買うかということですが、音質こそAT-F2が上回りますが、私がレコードに求めるデジタルを超える音楽の雰囲気の良さと、パワー感のリニアリティーの高さで勝る2M Blueという選択になると思います。

ヨゼフシゲティー

バッハ
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ 

この演奏は、見違えるように素晴らしい音で鳴ります。

2M Blueはバイオリンの音が力強く、倍音関係が正確です。細い線が無限に重なることで、美しい景色を醸し出すチェリのオケとは違って、「バイオリンソロ+晩年のシゲティー+バッハ」の演奏はそれほど多くない「太い線」で勢いよく描かれます。もちろん、太い線の裏側には「さらに細かい倍音構造」が存在し、その必要性もあるのですが、この演奏の場合「音楽の基礎を構成する倍音の関係」さえしっかりと再現されれば、演奏の重要な部分はほとんど伝わるのです。

2M Blueは、MC Cadenzaよりもよりも価格が安いにもかかわらず、遙かに音の精度が高く、また左右の音質差も小さいため、シゲティーを望外の素晴らしい音で鳴らし、私を驚かせました。

このレコードに関しては、3万円に満たない安価なMMカートリッジが、高価なCDプレーヤーの音を超えられる新鮮な驚きと、新たな価値観が見いだされました。

2M Bronzeは、2MBlueに比べ音が細かく色彩感も豊富ですが、音像が少し大きいようです。

ただし、これは2M Bronzeと2M Blueの特徴的な違いではなく、今回テストに使った個体差、つまりカートリッジの工作精度の公差に依存するように感じます。あるいは、針先形状に違いによるものでしょう。

巌のように地に足がついた2M Bronzeの魅力は若干薄れました。しかし、バイオリンの粒子の細かさ、艶やかさは格段に改善しています。

しかし、全体的に判断すると左右の音の精密なマッチングが音質より重要なモノラルレコードの再現は、2M Blueが2M Bronzeよりも若干優れているように思います。

その違いを除外すれば、あらゆる部分で2M Bronzeは、2M Blueを上回り、約2倍の価格差を音質に忠実に反映していると感じられました

AT-F2は意外に左右の音質差が小さく、音像が中央にコンパクトに定位します。

高音はやはり少しヒステリックですが、中音や低音の濁りはかなり小さく、弱音部のディティールも細かく描かれます。音の変化も鮮やかです。

弦と弓が引っかかる感じ(ニュアンス)のリアルさは、明らかにCDを超える雰囲気を持っています。

音色がやや単調に感じられる部分を除いては、十分な音質でシゲティーを聞くことが出来ました。

試聴後感想  

最近、CDやPC/ネットワーク・プレーヤーの便利さから、レコード離れをしていた私は、アナログ関連商品に積極的な興味がなくなり、こちらからアクションして試聴する機会が以前よりも減っていました。また、アナログ関連新製品の多くが「昔の(私のコレクションしている)アナログ関連製品に比べて心に響かない」こともその原因だったと思います。テストで聞いても楽しくなく、逆にがっかりすることが多くなっていたからです。

前回テストした「ortofon Q Series」もその一つで、それは私のイメージするortofon像とかけ離れていました。しかし、試聴機を借りて悪い評価しかできないなら、今後のビジネス関係にひびが入りかねません。そこで現在のortofonラインナップで可能な限りの試聴機を届けてもらい、本当にすべてのortofon製品の音が変わってしまったのか、確認することにしました。

今回聞いたMC Cadenzaは現在の水準からすれば「許容範囲内(価格なり)」の音質を備えると感じます。2Mは「価格を超える音質」を持っていると感じました。そしてSPUからは「これぞortofon!」と言う音が聞け、前回 Q Seriesを聞いて感じていたもやもやは、完全に解消しました。この音ならお薦めして大丈夫だと思えました。

ここで少し、カートリッジの歴史に触れようと思います。レコードが誕生した当時、現在のような振動を連記に変換するための「カートリッジ」は存在しませんでした。しかし、それでは音量が限られるのでレコードの振動を電気的に増幅する方法が考えられます。そうして生まれたのが、磁石とコイルを使ってレコードの溝から電気信号を取り出す「カートリッジ」です。

当初使われていたカートリッジは、出力電圧の高い「MM型」のみでしたが、増幅装置の進歩に伴い、出力電圧が低くても駆動系が軽く(慣性質量が小さい)、動的な追従性が高い「MC型」が登場します。カートリッジに造詣の深い方なら、MM/MCにもさらに細分化された様々な構造の製品が発売されていることをご存じだと思いますが、ここでは単純にMM(Moveing Magnet)型とMC(Moveing Coil)型とだけ区別し、その特長を書いてみます。

中学生の理科で習ったように、コイルの中で磁石を動かすと電気が発生します。カートリッジとは、この原理でレコードに刻まれた溝(トラック)を針(スタイラス)でトレースし、その振動(動き)を「電気信号」に変換します。この方法についてもう少し細かく説明します。カートリッジにはレコードの溝をトレースするための「針」が付いています。「針」はシーソーのように中間部分が固定され、先端の針の動きが後端に伝わるようになっています。先端と後端を繋ぐ棒状の部分を「カンチレバー」と呼び、カンチレバーを固定する部分を「ダンパー」と呼びますが、今は関係ないので詳しい説明は割愛します。
先端の針の動きは、カンチレバーの後端に伝わります。この部分に「磁石(マグネット)」を取り付け、カートリッジ本体に取り付けたコイルから電気信号を取り出すカートリッジを「MM型」と呼びます。コイルが本体に取り付けられ動かないMM型では、重量(質量)の増加を気にすることなくコイルの巻数を増やすことができるので、出力電圧が高いという特長があります。

 MM型カートリッジ

これに対し、カンチレバーの先端にコイルが取り付けられるMC型では、重量(質量)を小さくするため、髪の毛よりも細い線を少ない巻数で配置しなければなりません。コイルの巻数が少ないMC型の出力電圧は、MM型よりも低いのですが配線が短いため出力インピーダンスが小さく「信号伝達時のロスが小さい」、可動部分が軽い(マグネットよりもコイルが軽い)ためレスポンスに優れるという特長を持っています。

 MC型カートリッジ

しかし、これはあくまでも「設計上の理想」にしか過ぎません。あらゆる工業製品に通じることですが、理想を現実にするための「工作精度」が必要になります。
カートリッジの製作では「コイルを巻く工程」事が最も難しいのですが、巻線がMCよりも太く大型のコアを使えるMM型では、工作精度がそれほど高くなくても比較的安定した品質のコイルを作れると考えられます。また、精密な工作精度が要求されないため生産コストも安く、安価に安定した製品を供給することが可能です。

これに対し、カンチレバー先端の小さなコアにコイルを巻くための「相当な熟練作業」が必要とされるMC型は、製作する人の腕に音質が依存します。今回のMCカートリッジのテストで価格と音質がまったく一致しなかったのは(少なくとも私にはそう感じられました)、例え最先端の材料を使っていたとしても、それをTAD敷く組み立てる技術(組み立てる腕)がなければ、性能に正しく結びつかないと感じたのです。

今回テストした中では、やはりSPUの音質が好ましかったのですが、これは昔からSPUのコイルを選任で巻いていらっしゃる熟練工(女性です)の存在が非常に大きいのではないでしょうか?

SPUは現在も「Denmark」で作られ、製品には「Maid in Denmark」の文字が刻まれます。

現在発売されるortofonでは、SPUだけが本当の意味での後継モデルです。SPU Classic GE MK2の音も高価な他モデルよりも私には好ましかったのですが、特にSPU Synergyの音質には本当に驚かされ、そして近年にない大きな喜びを感じました。その音は、まさしく私が求める音だったからです。試聴後カタログを読んで分かったのですが、SPU Synergyはortofon最後の技術者Windfeld氏が残した最高傑作であり、山中塗りのシェルが使われていると書かれていました。納得です!これこそが本物のSPU後継モデルなのです。だからこそ、オリジナル(一番最初に発売されたSPU)を持っている(聞いている)私の胸を打ったのでしょう。

オーディオ機器は「電子機器」ですから、年々進歩するはずです。確かにデジタル回路はパソコンと同じように、集積度やマザーマシン(工作機械)の精度に依存しますから、技術革新と歩調を合わすように音質が改善するのは当然です。しかし、ローテクノロジーの塊とも言えるアナログ回路はそうではありません。ストラドバリに代表されるように、楽器には古くても音が良い物があります。オーディオ機器にも「ビンテッジ」と呼ばれる、古くても音の良い製品が存在します(ただし現在売られているビンテッジ品がオリジナルのままとは到底思えません。なぜならば、楽器と違い電子機器のパーツには壽命があるからです)オーディオ機器の中で最も楽器に近いのは「スピーカー」ですが、「カートリッジ」も同じように、楽器に近いのです。その理由は、どちらの製品もオーディオ機器の中ではずば抜けて「歪みが多い」からです。オーディオ機器を測定して得られる「歪み」は、入力された信号と出力された信号が「違っている」ことを示す指標です。電気的には、歪みの多い回路よりも歪みが少ない回路の方が優秀です。しかし、オーディオ機器を「楽器」として考えた場合、歪みの少ない機器は「響きが悪い(響かない)」と考えられます。回路や機器が発生する「歪み」を単純に「悪い音」と考えるのではなく、それを「美しい響き」に変換することができれば、出力される信号は入力された信号よりも「より良い音(より好ましい音)」になるのです。ここに一般的な「電気増幅回路」と「オーディオ増幅回路」の根本的な考え方の違いがあると私は考えています。

この考えでもう一度、カートリッジを見直してみます。レコードに触れる針先の形状は、理論的には点接触に近ければ近い方がよいのですが、実際にはそうではありません。理想的にはカッティングマシンの針と同じ形状に近い方が.トレース性能的には優れているのですが、針先が適度な幅を持つことにより生まれる「響き(測定的には歪み)」が音質をより豊かにしています。
また、カンチレバーの材質から生まれる振動、すなわち「カンチレバーの共振(響き)」も再生される音に大きく反映されるでしょう。カンチレバーは必ずしも硬い材質、響かない材質がよいとは限りません。その形状を含め、カンチレバーは「心地よく響く」性能が求められます。この「心地よく響く性能」は、カートリッジのボディーや「ヘッドシェル」にも要求されます。バイオリンが塗料で音が変わるように、ヘッドシェルの「音」も材質や塗膜に音質を依存します。もちろんその形状も響きと密接な関連を持っています。だからこそSPU型シェルはその形を変えず、Synergyは「山中塗り」を採用するのでしょう。より良い音で音楽を再現するためのカートリッジとしての宿命を与えられた「ortofon SPU」を連綿と作り続けた経験からたどり着いた必然が、Synergyに集結しているように感じます。最新の「響かない素材」を使って作られたMC Annaと、心地よい音を求めた「山中塗りヘッドシェル」を採用するSPU Synergyの違いは、まさしく「響き」に対する答え方の違いです。そして、その結果は今回の試聴で明らかです。

優れた楽器が弦の響きをより豊かに深めるように、優れたカートリッジはレコードの溝に刻まれた音をより豊かに深めます。私がもっと大きな衝撃を受けたカートリッジは「初代SPU」ですが、今回試聴したSPU Synergyの素晴らしさはそれに勝るとも劣りませんでした。私は即座に自分自身の分(コレクションにくわえるもの)を含め、SPU Synergyが、今後どれくらいの期間安定して供給されるかをortofonに尋ねます。

SPU Synergyに付けられた20万円という価格は消費者にとっては嬉しいことでしょうが、その性能を考えると不当に安すぎます。私はSynergyが例え50万円でも躊躇なく買います。なぜならば、SPU Synergyは私が今まで聞いた中でも最も素晴らしいSPUだからであり、SynergyこそSPUの素晴らしい歴史を締めくくるに相応しい製品だからです。

ヘッドシェル一体型というネックはありますが、トーンアームやレコードプレーヤーを買い換えても、私はSPU Synergyを使いたいと思います。カートリッジの歴史の中でも燦然と輝く素晴らしい製品が「たった20万円」で手にはいる。こんな機会は、もう二度とないかも知れません。事実、DENONでは熟練工が高齢で辞めたという理由で生産できなくなった「DL103SA」というカートリッジが存在するのですから。間違いなく、Synergyは「歴代のSPUの良さを留める最後のSPU」になるでしょう。こんなカートリッジに巡り会えたことを、私は心から感謝します。

2014年6月 逸品館代表 清原 裕介

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