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イースタンサウンドから、前回テストしたRCF AYRA5の小型モデルAYRA4が発売されました。AYRA4は4インチのRCF社製オリジナルウーハーを搭載し、低域用に35W、高域用に20WのクラスABタイプを内蔵する、AYRA5の一回り小型のモデルです。AYRA5との違いはAYRA5よりも一回り小さい4インチのRCF社製ウーファーを搭載する部分のみで、アンプの出力や入力などの機能は同一です。仕上げは、AYRA5などの上級機と同じくBLACK とWHITEの2色からお選び頂けます。
AYRA4の主な仕様
ユニット:25mmソフトドーム・ツィーター、100mmグラスファイバー・ウーファー | |
周波数特性:60Hz - 20kHz(-3dB) | |
最大音圧レベル:104dB(1m) | |
指向性:110°x70° | |
アンプトータル出力:55W / 低域 35W・高域 20W | |
入力端子:RCA、TRS、XLR 各1系統 | |
入力感度:-2dBu | |
クロスオーバー周波数:2100Hz | |
キャビネット材質:MDF | |
寸法(HxWxD):225x145x203 mm | |
重量 :4.4kg | |
付属品:ACケーブル、日本語マニュアル |
AYRA4試聴には、AIRBOW SA8005 StudioのRCA出力をRCFの低価格6chミキサー、L-PAD6(Live PAD 6)を組み合わせて使いました。
L-PAD6は、メーカー希望小売価格\25,000という低価格ながら、6ch(モノラル2ch+ステレオ2ch)の入力と、トーンコントローつなどが備わる本格的に使えるミキサーに仕上げられています。
L-PAD6の主な仕様
入力
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その他の機能:2Track IN-OUT、16種類のプリセットDSPエフェクター、48Vファントム電源出力 他 | |||||
寸法(HxWxD):75x195x275 mm | |||||
重量 :1.375kg | |||||
付属品:ACアダプター(18V AC 1000mW)、日本語マニュアル |
L-PAD6の入力は、業務機なのでフォンプラグです。RCAケーブルを接続するには変換アダプターが必要です。AYRA4の入力は、RCA/XLR/標準フォンプラグが備わりますので、RCAケーブルをそのまま接続できます。
テストの概要
今回はAIRBOW SA8005 StudioとRCF L-PAD6の接続には、AIRBOW MSU-Mighty/1.2m+変換フォンプラグを使用し、L-PAD6からはRCA-フォン変換プラグ+ベルデンマイクケーブルを使った自作RCAケーブル2mという接続で音質を評価しました。
音源は、iPod Touchに収録したWAVファイルを使い、接続にはaudioquest USB Diamondを使っています。
Marantz SA8005 Studio | |
208,000円(税別) | 生産完了品 |
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音質テスト
AYRA4は試聴準備のため、L-PAD6を含めたテスト用機材を使った状態で6時間ウォーミングアップを行いました。ウォーミングアップには、iPodにWAVファイルで収録したJ-POPを使いましたが、その中から聞いていて「音が良い!」と感じた曲を試聴に選んでいます。
矢野顕子“スーパーフォークソング” から「Player」
この曲はCDのライナーノーツに書かれているように、比較的小さなホールで矢野顕子さんが弾き語りをしているところを、最小限のマイク構成で収録されたものです。このCDの録音には、多くのJ-POPのようなコンプレッサーが使われておらず(使われていても僅か)、ダイナミックレンジが自然で良くできたクラシックソフトのように弱音が綺麗です。
鳴らし始めは少し音が濁っていたAYRA4ですが、L-PAD6と共に1時間ほど鳴らすと霧が晴れるように音が澄み切ってきました。
イントロのピアノの音は重厚で、グランドピアノらしい複雑な音色の美しさが見事に再現されます。
この曲にかかわらず、AYRA4+L-PAD6の奏でる「ピアノの音」と「ボーカル」は特に素晴らしく感じられます。たぶん、それらの音源が必要とする再生周波数帯域(高域が10kHz程度で良好な音質が得られる)が、やや狭めなことが奏功しているのだと思います。
2Way+パワードという構成の利点が、帯域の狭い音源で最高に発揮されるのでしょう。驚くほど良い音質でこのソフトが聞けました。
DOUBLE / Ballad Collection Mellow (初回限定盤)(DVD付) 「ストレンジャー」
スピーカーとミキサーを合わせて10万円を大きくした回るシステムですが、通常オーディオ機器ならスピーカーとプリメインアンプを合わせて20-30万円くらいの音が出ています。Tannoy Reveal402も上級モデルよりも素晴らしい音でしたが、AYRA4もAYRA5よりも音の繋がりが自然で、再現される音楽が驚くほどリアルです。Revear402とAYRA4に使われる4インチ/10cmというウーファのサイズが2Wayパワードモニターのよさを引き出すためのポイントなのかも知れません。
イントロのウィンドベルの音、シンセサイザーの高音がキラキラして美しく響きます。高音はスッキリとかなり上まで伸びているのですが、硬質さがなく滑らかなのが魅力です。ボーカルは音の立ち上がりが早く、声がすっと出て、すっと消えます。楽器の立ち上がりと立ち下がりも同様に素早く、楽器の音色がリアルでリニアです。音の立ち上がりと立ち下がりのリニアリティーが高いため、再現される音に不要な色づけがなく、それぞれの音の特長がきちんと再現されます。の重なりで音が濁らず、生演奏を聴いているように自然でリアルに音が分離します。
この点では、Reveal402も優れていたのですが、プレーヤーをSA8005からSA8005 Studioに変えていること、中間にL-PAD6を使っていることの影響か、より音が滑らかで上質に感じられます。Reveal402がファインコットンの風合いなら、AYRA4+L-PAD6はファインシルクの味わいです。
この程度の価格のシステムで、こんなに違和感なく自然で、音が細かく、表現力に富むのは、音質が厳しくチェックされる業務機ならではと思います。変換プラグや、長尺のRCAケーブル(もしくはフォンプラグシールドケーブル)が必要ですが、このシステムのコストパフォーマンスは驚くべきものです。
orange pekoe”10th Anniversary Best Album SUN&MOON” から「柔らかな午後」
ベースは驚くほど豊かで低い音まで再現されますが、若干膨らみを感じます。ゆったりと膨らみ、少し遅いバスレフらしい低音ですが、量が多くなると(低音が入りすぎると)音が低くなるにしたがって、収束が遅れる(響きが残って音が膨らむ)ので、音場が少し濁ります。それをウォーミーだと感じられれば、それは決して欠点ではないのですが、他の曲での澄み切った表現を知っているだけに、ちょっと残念に感じます。ここは「価格」の限界として、目を瞑りましょう。
この曲は音源毎に収録したトラックを、ミキサーで混ぜているためか、音の広がりがやや窮屈で不自然に感じられるのですが、AYRA4は持ち前の「楽器やボーカルなどの音の特長が綺麗に分離して再現される能力」を生かしてその鳴りにくいソフトを結構楽しく聞かせます。
ここまでに特徴的な録音のボーカルソフトを3曲聴きましたが、AYRA4+L-PAD6は破綻することなく、それらを見事にまとめて鳴らしました。このソースに対して「鷹揚な性格」は、スタジオモニター製品では、イースタンサウンドが輸入しているMusikelectoronic社の製品に共通するものを感じます。
Violin Concertos (Hybr) (Ms) Hilary Hahn, Bach, Laco, Kahane
いつも書いていますが、このソフトは「鳴らしにくい」ソフトです。それは、マルチマイク録音の影響で音場が重なり、空間イメージが混濁するからです。しかし、AYRA4+L-PAD6の良い意味での「鷹揚な性格」は、このソフトを実に魅力的に鳴らします。
音質の「分離感/HiFi感」が強いより本格的なHiFiなシステムでは、マルチマイクによる音場の濁りが強く出るこのソフトですが、AYRA4+L-PAD6は、「音質がほどほど」なのでその「問題点」を暴きません。
また、Reveal402にも共通するユニットとアンプが直結される(パッシブ・ネットワークが介在しない)パワードスピーカーならではの「優れたレスポンス/瞬発力の高さ(立ち上がりの早さ)」が弦楽器の切れ込みを実に鮮やかに再現するため、立ち上がりの部分での音の差が大きいバイオリン、チェロ、コントラバスの音色の違いを鮮やかに描きます。音の収束も早く、バイオリン・チェロ、コントラバスの3部構成の弦楽器のパートがきちんと分離・融合して再現されます。
AYRA4+L-PAD6は、高級機でもなかなか再現しにくい交響曲の複雑な「ポリフォニックの構造」をきちんと再現します。100万円を超える高価なオーディオ機器でも、なかなかこう上手くポリフォニックを再現できるものが少ないので、この価格でそれが実現するのは理屈抜きに”すごい”と思います。
ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より チェコ・フィルハーモニー管弦楽団, ノイマン(ヴァーツラフ) / 第2楽章
音質劣化の原因になりやすい「パッシブ・ネットワーク」を使わないパワードスピーカーは、価格よりも遙かに細かい音が出ます。また、ネットワークやキャビネットの共振(アンプを内蔵するためキャビネットが重く、小型パワードスピカーは比較的共振しにくい)も少ないため、空間の見通しがよいのも長所です。
多くの場合、ヒラリーハーンのバッハコンチェルトとノイマン・チェコフィルの新世界を聞き比べると「かなりの音質差」が感じられます。それは、録音に依存する問題なので避けられないのですが、AYRA4+L-PAD6は例外的にこの二つの録音を「どちらも良い音」で鳴らします。
交響曲の再生でも、J-POP系のソフトで感じた「再生周波数帯域の狭さ」が良い方向に働いているのでしょう。耳が敏感な音色の帯域(中音域200-10kHz程度)は驚くほどリニアに再生しますが、立体感(方向性、空間イメージ)を司るそれよりも高い周波数帯域(15kHz以上)、は緩やかにロールオフしているためマルチマイク系のソフトでも空間が混濁しにくく、音楽の美味しい部分だけが上手く再現されているのだと思います。
生演奏を聴いているような良い雰囲気で、新世界を聞くことができました。
試聴後感想
前回テストしたTannoy Reveal402に比べて、ウーファーが一回り大きいRCF AYRA5には少しオーディオ的な違和感がありました。
しかし、今回テストしたAYRA4+L-PAD6は、Reveal402に勝るとも劣らない素晴らしいサウンドでした。Tannoy Reveal402のテストと違い、AYRA4には音量を調節できる(3系統のセレクターとしても使える)L-Pad6を追加しているため、合計は少々お高いのですが、メーカー希望小売価格\25,000(税別)という低価格にもかかわらず、できちんと使い物になるサウンドを実現しているL-PAD6も大したものです。この価格でもオーディオ用の簡易プリアンプとして十分使える実力を感じました。
低価格業務機器の実力は、多くの場合低価格のオーディオ機器のそれを大きく上回ります。それは厳しいプロの現場で通用する音質と機能が磨き上げられているからです。オーディ機器に比べると接続できるケーブルの種類(変換が必要)が異なり、また特殊なデザインですが、それを厭わなければ下手なオーディオ機器を購入するよりも遙かに低価格で、なおかつ素晴らしい音質で音楽が楽しめます。趣味性は高くありませんが、コストパフォーマンスは抜群です。
前回テストしたTannoyと今回テストしたRCF AYRA4の音質はほぼイコールですから、価格が安いTannoy Revear402はコストパフォーマンスでRCF AYRA4を上回ります。しかし、AYRA4はReveal402よりもさらに小型でデザインが良く、仕上げも白/黒の2色から選べます。スピーカーは長く付き合う製品ですから、少しエクストラを支払っても「気に入った外観」のモデルを選ぶのも大切だと思います。
今回の試聴にはReveal 402のテストで使ったMarantz SA8005のカスタムモデルAIRBOW SA8005 Studioを使いましたが、SA8005よりも緻密で正確なその音質を確認できてほっとしました。Marantz SA8005も素晴らしいCDプレーヤーですが、AIRBOW SA8005 Studioはそれがブラッシュアップされ音質と味わいがさらに繊細です。SA8005を水道水に例えるのは恐縮なのですが、そう例えるならばAIRBOW SA8005 Studioはミネラルウォーターのようでした。
こんな安いパワードスピーカーをイベントでご紹介することはなかなか難しいので、もし「安くて飛び抜けて良いものが欲しい!」と感じられたなら、逸品館まで聞きにいらして下さい。Tannoy Revear402もRCF AYRA4もL-PAD6も常設展示しています。
2014年5月 逸品館代表 清原 裕介
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