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(その他の音質テストはこちら) (Reveal 402 音質比較テストはこちら)
スピーカーにはアンプが入ってない「パッシブ型」とアンプを内蔵する「アクティブ型」の二つがあります。私達が親しんでいるのは、アンプを内蔵しない「パッシブ型」ですが、業務用途には「アクティブ型」が重宝され数多くの製品が発売されています。私達に馴染みが深いTannoyもですが、実は業務用スピーカーメーカーとしても家庭用に引けを取らない(それよりも大きい)売り上げを誇り、良質なアクティブ型スピーカーをラインナップしています。今回ご紹介するのは、驚くほど音が良いアクティブ型スピーカーとして逸品館がお薦めしてきたTannoy Reveal Seriesの新型、402 502 802の3モデルです。このReveal Seriesのパワードモニタースピーカーは、家庭用Tannoyの輸入代理店「Esoteric」ではなく業務用のエフェクターなどを取り扱う「TC Japan」が輸入代理業務を行います。
では最初にアクティブ型(アンプ内蔵型)スピーカーの利点について説明します。
アクティブ型スピーカーはキャビネットにアンプを収納しスピーカーユニットとアンプが直結されています。そのため結線による音のロスがパッシブ型よりも遙かに少さく、細やかで明瞭度が高い音が出ます。また高域・低域ユニットにそれぞれの音を振り分けるために必要な「ネットワーク」に、パッシブ型とは異なる「アクティブネットワーク(エレクトロニック・ディバイディング・ネットワーク)」が使えるため帯域分割も高音質に行えます。
「アクティブネットワーク」に付いて説明します。「アクティブネットワーク」は、増幅アンプ(パワーアンプ)に入る前の「ラインレベル(数ボルト程度)」の信号を分割する帯域フィルターで、電力と電圧の低い信号を取り扱うためプリアンプに搭載されるのと同じ高音質の増幅(分割)回路(多くの場合オペアンプが使われます)が使えます。帯域を分割するために必要なフィルター回路も、容量の小さいコンデンサーと容量の小さい抵抗で構成できるため回路がコンパクトで部品コストも有利です。また帯域分割フィルター回路部にレベルコントロールを追加するだけで、音質を損なわない「トーンコントロール回路」が設けられます。
これに対し、私達が使っているパッシブ型スピーカー(アンプを内蔵しないスピーカー)に使われるネットワークは、パワーアンプが増幅した後の大電力・高電圧の信号を分割するために、大型のコイルと大型のコンデンサーが必要になります。スピーカーの最大入力が大きくなればそれに比例して、ネットワークも大型になり高価です。さらに部品が大きいと振動の影響も受けやすくなるため、B&WやTADなどの高級スピーカーは、スピーカーの底(台座)部分にネットワークを分けて搭載するなどの工夫が必要になります。
このようにパッシブ型よりもアクティブ型の方が、効率/合理性が高く安くて良いスピーカーが作りやすくなります。さらにパッシブ型スピーカーの場合、低音がキャビネット「箱」の大きさに比例するのに対しアクティブ型の場合は、アンプで低音を持ち上げる(アンプで低音を強制的に出す)ことによりキャビネットサイズを超える低音を出すことが可能です。小型で低音が出て音が良くコストも安いと良いことずくめのアクティブ型スピーカーですが、主に「音が変えられない(アンプを選ぶ楽しみがない)」などの理由でオーディオ市場では、あまりお目にかかりません。しかし、嗜好性の高い高級スピーカーならまだしも10万円を下回るスピーカーの場合、パワードスピーカーの技術的・コスト的なメリットはパッシブ型を遙かに超え、オーディオマニアが驚くほど音の良い製品が見つかることがあります。「普通のオーディオの形」にこだわらないのなら、これらの低価格で音の良いパワードモニター スピーカーを音量を可変できるLINE出力に繋ぐだけで「最も低価格で、最も良い音」が実現します。逸品館がお薦めしてきたTannoyのパワードモニター Reveal Seriesはその一つです。今回テストするのは。2014年に発売された後継モデル、NEW Reveal 402/502/802の3モデルです。
今回はさらにイタリアの業務用モニタースピーカーメーカー「RCF社」の同価格帯の製品AYRA5も試聴しました。「RCF社」は1949年、イタリア北部ロマーニャ州レッジョ・エミリアで誕生したリボンマイクの設計・製造を行う小さな会社でした。やがてトランスデューサー(パワードスピーカー)の製造を手掛けたRCF社は他のメーカーへのパーツ供給で知名度を上げ、自社製スピーカーのクリアでバランスのとれたサウンドは世界で高く評価されました。現在RCF社は大型ライブ会場用のSRシステムから商業用設備向けスピーカー、会議システムまで幅広いシリーズを持つ総合オーディオメーカーへと成長し、 PA/設備のマーケットでは世界でも絶対的なリーディングカンパニーとして支持されています。このRCF製品の輸入はMusikelectoronicやThorens製品でおなじみの「イースタンサウンド」が行っています。RCF社のパワードモニターには、「AYRA Series」と上級モデル「MYTHO Series」がありますが、今回は低価格帯モデルのAYRA Seriesから「5」を選んで聞きました。
製品の概要
パワードモニタースピーカーには100Vの交流電源(アンプの電源)とLINEレベルの音声信号を入力して使います。Reveal 402の後部写真をご覧ください。この構造はサイズの大きい602/802共通です。電源は、100-120V/200-240V(50/60Hz)に対応し、±1.5dBの高域切り替えスイッチが付いています。
入力はモノラルの標準フォン、/XLRとステレオのミニフォンジャックに対応し、ミニステレオフォン入力のみLink出力からスレーブ出力され、簡単にスピーカーを増設できます。ステレオ入力された信号は、ポジションスイッチで「右/左」を選び出力します。
テストの概要
今回のテストでは、 最も簡単な音量可変のプレーヤーとして「iPod Touch(第4世代)」のヘッドホン出力を使い、Reveal にミニステレオケーブルを使って音を出しました。さらにiPod TouchとiPod TouchをSA8005に接続し、そのヘッドホン出力をミニステレオケーブルでReveal 402に繋いで聞き比べました。接続に使ったのは、Revealに付属する約1.9mの電源ケーブルと、約4.9mのミニステレオ・フォンケーブルです。音源は「WAV」でiPod Touchに取り込んだ音楽ファイルを使っています。スピーカーのボリュームを最大にすると、送り出し機のボリュームがほとんど上げらず音が悪くなりやすいため、スピーカーのボリュームは12時の位置に合わせて試聴を行いました。
ミニステレオ入力が装備されないRCF AYRA5には、ミニステレオフォン出力をRCAに分離し、ベルデンのマイクケーブル使って作った自作のRCAケーブルでそれを延長してスピーカーに接続しました。
Marantz SA8005 | 付属品 | |
129,500円(税別) | 1.0m:3,800円(税別)・3.0m:8,700円(税別) |
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音質テスト
始めにiPod Touchとを直接ミニステレオフォンケーブルでReveal 402に接続して音を聞きました。続いてiPod TouchをSA8005に接続し、ヘッドホン出力にミニステレオフォンケーブル接続しiPod ダイレクトの音と比較しました。接続にはRevealに付属する約1.9mの電源ケーブルと、約4.9mのミニステレオ・フォンケーブルを使っています。iPodに「WAV」で取り込んだ音楽ファイルを使い、402のボリュームは12時の位置に合わせています。
DOUBLE / Ballad Collection Mellow (初回限定盤)(DVD付) 「ストレンジャー」
こういうムードのあるボーカルを聞くと「iPod Touch」の音作りは本当に上手いと感じます。解像度をさほど欲張らず、高音は無理に伸ばさず中域にウェイトを置き、エコーは少し多めにしてゆったりと音楽を生かせます。Reveal 402はアクティブ型スピーカーらしく明瞭度が驚くほど高く、高域がクッキリしています。そういう音の出方が「ヘッドホン」と共通するので、ヘッドホンで音楽を聞くために作られたiPod Touchと見事にマッチングするのでしょう。
Reveal 402はシンセサイザーの高音に色があり、美しくキラキラと輝くように鳴ります。ボーカルは説得力があり、色っぽく切ない声で鳴ります。低音楽器にはサイズを超えるボリュームが感じられ、音階やリズムもシッカリ出ます。音量を上げすぎると、低音が少し膨らみすぎますが家庭で聞く音量であればやや膨らんでいる方が聞きやすいので、それはほとんど問題にならないはずです。
アンプ、CDプレーヤー、スピーカーの総額「20万円」くらいの音は十分に出ました。こんなに簡単なのに、音楽を心ゆくまで楽しめるのは本当にすごいと思います。色彩感と表情に乏しいPC/ネットワーク・オーディオで音楽を聞いている方に、是非試して欲しいiPod+402の組み合わせです。
Holly Cole Trio / Don't Smoke in Bed 「I can See Cleary now」
ウッドベースの音がしっかりと前に出ます。ピアノの音には実在感があり、プレーヤーのタッチがそのまま音質に反映されています。ボーカルは強く訴え、説得力があります。なんだか涙が出そうなほど「美味しい音」でホリーコールが鳴りました。こんなに安くていい加減なシステムから出る、想像を遙かに超えるこの音質の素晴らしさは、聞いてみないと絶対信じられないと思います。
すでにかなりの時間とコストをオーディオに投資している「マニア」の皆さまにはあまり聞かせたくないかも知れません。中途半端な中〜高級品に抱く夢が儚く消えかねません。
Compact Jazz / Billie Holiday 「Cheek to Cheek」
この曲は1957年の録音ですが、ちっとも古く聞こえません。まるで最上級のレコードを聴いている聞いているように滑らかで、きめ細かくムードのある音で鳴ります。Reveal 402の高域と低域の優れたユニットの繋がりが見事に生かされ、フルレンジスピーカーを聞いているように自然で深みのある音が出ます。
レコードで聞き慣れた「ビリーホリデイ」の声が、こんな簡単なシステムで見事に蘇りました。
ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より チェコ・フィルハーモニー管弦楽団, ノイマン(ヴァーツラフ) / 第2楽章
サイズの限界があるのである程度は諦めなければなりませんが低域は十分に出て、厳かな第2楽章のイントロの圧力感と広がり感が見事に再現されます。
クラリネット/ファゴットの音は甘く、木質的な色を感じます。弦楽器も綺麗に分離して団子になりません。各楽音の描き分けも見事で、本格的な交響曲が織りなす「ポリフォニック」の構造がきちんと展開します。色彩の変化と楽曲の運動が美しく調和し、素晴らしい音楽へと昇華する様子が感じ取れます。
こんなに簡単で、こんなに安いオーディオシステムで本格的に交響曲が聴けました!
iPod TouchをSA8005にUSB接続し、SA8005のヘッドホン出力とReveal 402を接続しました。
DOUBLE / Ballad Collection Mellow (初回限定盤)(DVD付) 「ストレンジャー」
高音に細かさと切れ味が出て、色彩感がいっそう鮮やかになりました。音の細やかさ分離感も大きく向上し、低音も良く出ます。
少し「かわいらしい」感じがあったiPod ダイレクト出力から、「より本格的な大人の音」に変化しました。オーディオ的にはこちらの方が正しく、細かく、情報量が豊富です。音質の改善に伴い音楽的な表現力も増加しました。けれど、iPodダイレクト出力が持っていた「魔法のベール」のような、ソフトフォーカス感が薄れて、夢の世界から現実の世界に引き戻されたようなムードがを覚えます。
夜の夢が朝に消えるような一抹の寂しさは感じますが、音は断然良くなりました。
Holly Cole Trio / Don't Smoke in Bed 「I can See Cleary now」
double/ストレンジャーと違ってホリーコールでは、SA8005を使う方が音楽に説得力が出ます。ソフトの録音(再生機器のターゲット)と使われる楽器の音の違いが、HiFiなSA8005の音にマッチするのでしょう。
ボーカルは子音が強くなり、彼女らしい「サ、シ、ス、セ、ソ」がやや立った声になります。ピアノは打鍵の瞬間が明確になり、響きが引き締まりました。ウッドベースも膨らみが消えて、リズムの刻みが正確さを増しました。家庭料理がレストランの料理に昇格したように、佇まいがキリリとしました。
でも、より私の感情を強く揺さぶったのは、iPodダイレクトの「ラブリー」な音の方です。音質と雰囲気の濃さが必ずしも一致しないのは、オーディオの面白く悩ましいところです。
Compact Jazz / Billie Holiday 「Cheek to Cheek」
このディスクに収録された曲ではありませんが、「Cheek to Cheek」はトム・ハンクスが主演した「グリーンマイル」の後半クライマックス、黒人死刑囚の「コーフィ」が最後の望みで「映画」を見せて貰う場面で使われています。死を目前に控えた「コーフィー」が映画を見ながら、「天国はあんなに楽しいところ何だろうか?」とつぶやいて皆の涙を誘う場面です。
iPodダイレクト出力のムーディーな音で「Cheek to Cheek」を聞いているとその場面が鮮やかに脳裏に浮かび上がったのですが、SA8005ヘッドホン出力の音は細かく綺麗。「端正」なその音を聞いて脳裏に浮かぶのは、華やかで豪華なステージ上で歌う「ビリーホリデイ」。同じ曲ですが違うプレーヤーで聞くと、その印象ががらりと変わりました。Reveal 402は、その二つのムードを見事に描き分ける力を持っていました。
ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より チェコ・フィルハーモニー管弦楽団, ノイマン(ヴァーツラフ) / 第2楽章
少し重々しく冷たく暗いまだ明け切らない朝のムードだったイントロが、すでに明るくなり始めた朝のムードに変わりました。同じ夜明けの雰囲気でも時間的に、30分から1時間くらいの開きを感じますが、今までオーディオ機器の聞き比べでそういう印象を持ったのは初めてです。
SA8005ヘッドホン出力はiPodダイレクトに比べて佇まいがより整然とし、理知的な厳かさが強くなります。レコードに雰囲気が近かったiPodダイレクトに比べると、SA8005ヘッドホン出力はいつも聞いているHiFi機器の音です。
最新デジタル機器であるにもかかわらず、レコード時代の面影をその音に残すiPod Touchの音は魅力的です。国産コンポの多くや、SONYウォークマンとは明らかに異なる音の世界です。
接続ケーブルを付属品から、audioquest MINI1 2XSTMに変更し、ソース(音源)を再びiPod Touchに戻しました。
DOUBLE / Ballad Collection Mellow (初回限定盤)(DVD付) 「ストレンジャー」
iPod Touchのあのなんと言えないムードはそのまま残しながら、音質は大幅にアップしました!音が重なった部分では、「こんなに沢山の音が入っていたのか!」というピュアな驚きさえ感じました。
ボーカルと楽器の音が大きく向上し、細やかさが大きく向上した音が部屋いっぱいに音が広がります。前方だけからしか届かなかった音が後方からも回り込み、音に身体が包み込まれました。
ケーブルの交換で音質が向上するだけでなく、演奏がとても美しくチャーミングに変化しました。感動に身体ごと持って行かれそうなほど、魅力的な音でストレンジャーが鳴ります。価格を抜きにして、これは絶対的にとても良い音です。
ソース(音源)をiPod Touchから、iPod Touch+SA8005に変えました。
いつも高価な機器で聞いている音とまったく同じ音です。
iPodダイレクト出力+付属ケーブルのような曖昧さや甘さは完全に消え、一つ一つの音の計算され磨き込まれた美しさや、プロボーカリストとしての正確な表現力が強く感じられるようになりました。
まだ、iPodダイレクト+付属ケーブルの「妖しさ」への憧れは完全に消えていませんが、音質表現力共に大きく向上したこの「良い音」を否定するのは、高音質オーディオそのものの否定になります。バランスとしては少し「背伸びをしている」感じがありますが、音質を比較しやすいHiFiなこの音(iPod Touch+SA8005)でこの後の試聴を行うことにしました。
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DOUBLE / Ballad Collection Mellow (初回限定盤)(DVD付) 「ストレンジャー」
イントロの高音の色彩感が402に比べると僅かに薄くなり、ボーカルは402よりもやや太く穏やかに感じます。低音には余裕が出て、402よりも低い部分までシッカリ出ます。しかし、リズムの切れ味や弾ける感じは402が502を上回っていました。
実はこの試聴リポートを書くまでに、402と502を数日かけて徹底的に聞き比べました。最初、音の繋がりも402とほとんど変わらず良好で、低音と中音にボリュームが出る502が402よりも魅力的に感じたのですが、502を数日聞いた後402を聞くと、最初に書いた印象がとてもクリアになったのです。802も聞きましたが結論を先に述べると、私はReveal Seriesで最も音が良いのは402だと思います。最大の理由は、高音と低音の「頭」が揃い良くできたフルレンジのようにすべての帯域で音が自然なことです。402はシリーズ中で音が出る瞬間、たぶん1/1000秒かそれ以下で起きる音の変化に素早く追従するため、音色の濃さや変化の量が502よりも鮮やかで多いのです。この二つ点に於いて402は価格を抜きにして、出色のスピーカーだと断言できます。生楽器のような鋭いレスポンスを持ち、フルレンジのようにボーカルを鳴らす402の魅力は、大ヒットし続けているAIRBOW IMAGE11/KAI2に通じます。
402を聞いていなければ502も素晴らしいスピーカーです。低価格にもかかわらず、驚くほど豊かな低音が出ますし、低音と高音の繋がりも自然です。音色の変化もシッカリ出ます。ただ、声が中心の音楽では402の素晴らしい仕上がりに、やや引けを取ってしまうようです。
Holly Cole Trio / Don't Smoke in Bed 「I can See Cleary now」
この曲では402よりも中低音がリッチで、大人のムードを持つ502の良さが引き立ちます。
イントロのウッドベースは低音がより深く伸びて、自然な空気感が醸し出されました。ピアノは打鍵感と余韻のバランスが変わり、ゆったりと流れるように聞こえます。ボーカルは表現が少し控え目になり、楽器との調和感が強くなります。
あくまでもボーカルが主役で伴奏が脇役という鳴り方をした402に比べると、502はそれぞれが主役を代わる代わる演じている印象です。ゆったりとした大人のムード、やや抑えめの静かなムードでホリー・コールが鳴りました。
Compact Jazz / Billie Holiday 「Cheek to Cheek」
502は中域にやや強いところがあるのか、イントロのトランペットが402よりクッキリと一歩に出ます(後でカタログを見るとツィーターが402とは違っていました)。ボーカルは膨らみが少なくなって、少しスッキリあっさりします。
この曲ではレコードらしい音だった402と、最新デジタルの音を出す502の差を強く感じます。402よりもムードはやや薄いですが、明瞭度と音の細やかさが増加しリファインされた最新録音ディスクを聞いているような心地よい高音質感が演出されます。
低音が良く出る502を聞いていると、まるでそこそこのサイズのトールボーイ型スピーカーで音楽を聞いている気分になります。ビリーホリデイの後にカンターテドミノが鳴りましたが、教会のスケール感や天井の高さがしっかり出る素晴らしい音の広がりと、透き通る透明感の高さに驚かされました。
ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より チェコ・フィルハーモニー管弦楽団, ノイマン(ヴァーツラフ) / 第2楽章
低音が豊かに鳴ったことで各楽器のエネルギーバランスが整い、楽曲のスケールが一段と大きくなりました。ステージ後方で静かになるコントラバスの連続した響き、重なり合うことで独特な豪華さが生まれる管楽器の響き、抜けてくるようなクラリネットの響き、それらのバランスが実に整然として美しく、良いオケの最高の演奏を聴いているムードに浸れます。特に弱音部での解像度感の高さが抜群で、音が小さくなっても楽器の数が減りません。
かなり高価なオーディオ機器でもこれほどの音質でこの曲を鳴らせるのは難しいと言うことを考えると、iPod Touch(CDならなおさら良い)+SA8005+audioquest MINI1+Reveal 502の組み合わせが、これほどずば抜けた音質を低価格で実現することに驚愕します。
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DOUBLE / Ballad Collection Mellow (初回限定盤)(DVD付) 「ストレンジャー」
通常2Wayスピーカーはウーファーが大きくなると音が悪くなるので、正直802にはまったく期待していませんでした。しかし、イントロの高音、ボーカルの声を聞く限りウーファーの大口径化によるデメリットは最小に抑えられているようです。
低音は、402/502とはまったく次元が違う量感と低さを持ち、まるでサブウーファーを追加したように感じられます。聞こえなかった中〜低音が再現されると音の細かさや、空間の情報量も一段をアップします。低音ユニットの口径が大きくなるとユニットのストロークが小さくなりユニットの移動による音の歪みが小さくなります。そのメリットが「低音の余裕感」を醸し出しているのでしょう。
しかし、キャビネットの巨大化に伴う「反射波」の増大により、自然な音の広がりは阻害されています。また、802ではツィーターが一段と奥まって設置され、ホーン効果が出て高音がホーン型スピーカーのように強く遠くまで飛ぶようになっていますから、それも自然な音の広がりを阻害するのでしょう。
802はホーン型スピーカーに近い印象です。少し大きめのリスニングルームで音量を上げた使いたい場合や、音がクッキリしている方が望ましいホームシアターユースなどには802がベストマッチしそうです。もちろん、本来の業務用(SRスピーカー)としての能力も高いと思います。
Holly Cole Trio / Don't Smoke in Bed 「I can See Cleary now」
802を使うとアコースティック楽器で奏でられるこの曲が「電気増幅(PA)」を使っているような音で鳴ります。多くの日本人は「生音」で音楽を聞くケースが少ないので、この音で違和感を覚えないと思いますが、生音と再生音を聞き比べる「癖」が付いている私や、ご自身で楽器を演奏される方であれば、それを「違和感」と感じるかも知れません。
慎重に楽器の倍音を聞くと、ウーファーの最上限とツィーターの最下限の帯域に「エネルギーのディップ(その部分だけ倍音が抜け落ちているように)」が聞き取れます。しかし、それを802の欠点というのは、あまりにも酷だと思います。このディップが生じるのはTannoyも重々承知なはずですし、802はそれを上手く抑えています。この問題を解決するには、スピーカーを3Wayにアップグレードしなけれなりませんが、そうすると当然価格が大幅に上昇します。
Compact Jazz / Billie Holiday 「Cheek to Cheek」
この曲は一つのマイクもしくは非常に少ないマイクで収録されているため、ステレオ録音盤よりも「音の広がりが自然」に感じられます。
モノラル録音がステレオよりも自然に音が広がるということに、疑問を感じる方も多いと思います。なぜならば、モノラルで得られない広がりを実現するために生まれたのがスタレオだからです。しかし、マイクの数が少ないモノラル録音は収録されている音源の位置関係が正しく、音の精度(関係の正しさ)ではステレオを上回ります。ただ一般に使われているオーディオ機器のほぼすべてがステレオ録音に対応するため、「2本のスピーカー」から音を出しモノラル本来の自然さを損います。アンプにバランスボリュームがあれば、モノラル録音ディスクを一本(片方)のスピーカーで聴いてみてください。ストレオにはないモノラルの魅力に気付けると思います。
802はキャビネットからの反射波が大きく、モノラル特有の自然な音場感が上手く再現されません。音質もややダルで、ビリーホリデイがただのおばさんに声に聞こえます。帯域が狭く、情報量が少ないモノラル録音では、「どれだけ多くの音が出せるか」ではなく「どれだけ正確な音が出せるか」が合否の分かれ目となりますが、この点で802は、502や402に敵いません。モノラルを鳴らすと、802は普通のスピーカーです。
ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より チェコ・フィルハーモニー管弦楽団, ノイマン(ヴァーツラフ)
音量、音質共に十分ですが、やはり音の広がりが上手くありません。
402/502では身体が包み込まれるように音場が大きく広がりましたが、802は前方で音楽が鳴っています。楽団の前後方向の位置関係も浅くなり、すべての音が一歩前に出ます。これはやはりキャビネットの反射の影響か、もしくはツィーターを疑似ホーン化したデメリットでしょう。802のメリットは音が細かく遠くまで飛び、明瞭度が高いことです。
今回試聴に使った「ノイマン・チェコフィル、新世界」はワンポイント録音ディスクですが、一般的にはこのような録音が行われたディスクは非常に少なく、多くのディスクは802のような「空間が上手く再現できないシステム」にあわせて「マルチマイク録音」がなされています。グラムフォンのような「空間イメージが濁っている」ディスクを再生すると、802は良い音が出るのではないでしょうか。
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AYRA5にはミニステレオ入力が備わっていないので、ミニステレオフォン-RCA変換が可能なMINI1を使い、それをベルデンのマイクケーブルを使って自作したRCAケーブルで延長してSA8005ヘッドホン出力と接続しました。
DOUBLE / Ballad Collection Mellow (初回限定盤)(DVD付) 「ストレンジャー」
型式番号の5が低域ユニットの口径を示すことから分かるように、RCF AYRA5の大きさはReveal502と同じです。Reveal 502はTannoyらしく「キャビネットの鳴きを音作りに使って」いましたが、AYRA5はキャビネットの鳴きが小さく、音の歪みがほとんどありません。低音の収束も早く502に迫る量感を持っていますが、膨らみは502よりも小さく、この点もRevealよりHiFiな印象です。音速は素晴らしいレスポンスを持っていた402よりは遅いですが502よりも早く、色彩感も402よりもやや薄く502よりは濃く感じられます。
音楽的な表現が多かったRevealのレポートとは違って、分析的に音を聞いたレポートを書けるのは、AYRA5の音が明るいにもかかわらず比較的冷静な部分を持っているからです。
後でカタログを見て気づいたのですが、RevealとAYRAの音の違いのほとんどは「コーン紙の材質 Reveal/紙ベース、AYRA/クラスファイバー」によるものでしょう。AYRAのウーファー(ミッドロー)はRevealよりも引き締まっていて、よけいな響きが少ないからです。
正統派のモニタースピーカーという印象で、ストレンジャーが鳴りました。
Holly Cole Trio / Don't Smoke in Bed 「I can See Cleary now」
表面が光沢に仕上げられているためなのか、キャビネットの材質はRevealと同じMDFにもかかわらず、イントロのウッドベースの響きに僅かに樹脂的(プラスティックのような)感じがあります。ピアノの響きにも同じ傾向があり、有機的な響きの良さを感じさせてくれたRevealとの違いを感じます。
私は繋がりが自然でレスポンスの早いReveal 402を好みますが、ほとんどの場合ここまで神経質に音を聞き分けられる方はいらっしゃらないので、RCF AYRA5もReveal同様にとても音の良いスピーカと感じ取って頂けるはずです。
そのスタイリッシュな外観、やや冷静でストレートな音、イタリア製品にもかかわらずAYRAは「情」よりも「理」に訴えます。音楽と少し距離を置き、冷静かつ客観的に演奏を聞きたいとお考えの人には、RevealよりもRCF AYRA5が合うと思います。
Compact Jazz / Billie Holiday 「Cheek to Cheek」
HiFi一辺倒の製品でこの曲を聴くとと、情けなくなるような悪い音(ディスクの古さを感じる音)が出てがっかりさせられるのですが、AYRA5はほんの少しだけそういう性格を持っています。良いものは良く、悪いものは悪く、スピーカーが音や音楽を着色しないという部分ではAYRA5がRevealを大きく上回ります。
ひとくちにモニタースピーカーと言っても、PMCのように正確無比な音を出す製品から、Musikelectoronicのように色彩感の濃い楽しい音を出す製品まで実に様々なキャラクターがあるのですが、AYRA5はどちらかと言えばPMCに近いタイプです。家庭で音楽を楽しむなら、もう少し「サービス製品が旺盛」な方が楽しくて良いと思うのですが、PMCらしい凜とした音も魅力的なので、RevealとAYRA5は性格が違うという判断でよいと思います。
ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より チェコ・フィルハーモニー管弦楽団, ノイマン(ヴァーツラフ)
演奏・録音共に優れているこのディスクはAYRA5の長所を実に上手く引き出します。AYRA5は目の前で行われている生演奏を聴いているムードを持つReveal 402とは違い、レコーディングルームで録音された音を聞いているという雰囲気でこのディスクを鳴らします。音の細やかさやレンジ感は明らかにReveal
Seriesを上回り、「良い音(後で詳しく書いています)」のスピーカーであることは純然たる事実です。
その垢抜けたスタイリッシュな外観、癖なノイストレートな音は、ジャンルや価格が違いますがRCFと同じイタリアメイドのSonusFaberの最新モデルに通じるところを感じました。
試聴後感想
最初に書きましたように、パワードスピーカーは私達が日頃慣れ親しんでいるパッシブ型スピーカーにない魅力を持っています。復唱になりますがアクティブ型(アンプ内蔵型)スピーカーには、帯域分割を行うネットワークが低価格で高音質に設計できること、アンプとユニットの接続にロスがないこと、さらにアンプとスピーカーを一体型として合理的に正しい音が作れるというパッシブ型にない大きなメリットがあります。その結果、同価格のアクティブ型スピーカーはパッシブ型よりも音質が優れるケースが多く、特に低価格ではその差が圧倒的なものとなります。
一般的に家庭用として売られているアンプ内蔵スピーカーは安易に作られた製品が多くその限りではありませんが、業務用としてプロが現場で厳しくその力量を判断し、さらに価格も重要視される低価格帯のパワードモニターには、目を見張るほどの音質を実現している製品が少なくありません。今回テストしたTannoy Reveal SeriesもRCF AYRA5もその例に漏れない良いスピーカーでした。
ただし、業務用機器は「大きな音量」で使うことを前提に作られているため、無音時に「ノイズ」を発生するものが少なくないので業務機を家庭用に使う場合には、この点注意が必要です。そこでスピーカーに耳を近づけて、それぞれのモデルのノイズを聞いてみました。無音時のノイズは、802>502>402>AYRA5の順に小さく、Reveal 402の残留ノイズ(無音時のサーという音)は、反響の良い静かな部屋からスピーカーから1m程度離れていても僅かに聞こえる程度なので、あまり問題にはならないとと思います。しかし、効率(出力)の高い502/802は402よりもノイズが大きく、ノイズを嫌う方は事前にノイズの大きさを確認するなどの注意が必要です。RCF AYRA5はSA8005ヘッドホン出力とケーブルの質の関係で少し「ジー音」が出ましたが、AYRA5のボリュームを絞るとほとんどノイズが消えましたから、スピーカーそのものはほぼ無音だと思います。
4機種を聞き終えて、どれも特長がありよいスピーカーだと感じましたが、私のお薦めは「Reveal 402」です。402の生音に近い自然な音で音楽を聞いていると、100万円を超えるような高価なスピーカよりも402の方が音が良いのではないだろうか?という疑問を感じるられかも知れません。それくらい「402」は良くできています。3万円(ペア)を切るという価格は、驚きを通り越して呆れるほど安いです。可変出力のミニステレオフォン出力を使うのであれば接続ケーブルも付属品で問題なく使えますし、iPodやCDプレーヤーのヘッドホン出力、あるいはTVの可変出力と402を繋ぐだけで家庭用オーディオ機器の常識を覆す安さで、驚くほどの高音質が実現します。502/802は402よりも自然な感じは落ちますが、それに引き替えて再生帯域と音の細やかさが向上します。質よりも量が欲しいときには、これらのスピーカーをお選びください。
RCF AYRA5は後発メーカーということもあり、Tannoy Revealよりも「明らかに高音質」に仕上げられている印象です。癖がなくフラットで響きも少ないAYRA5の音は、私達が普段聞き慣れているHiFi機器の音により近い印象です。高音質と好印象が上手くバランスしているAYRA5は、雰囲気だけではなく音質にもこだわられる派のお客様にピッタリです。接続に普通のRCAケーブルが使えるのもオーディオマニアにはメリットだと思います。
ここで少し私がReveal 402を特に強く推薦する理由を説明したいと思います。私は音楽だけではなく、川の流れる音、風の音、波の音な度「自然音」を好んで聞きますが、それは自然の音を聞いているとストレスが消えて心が軽くなるからです。
音と私達の心はとても密接な関係があります。心を心理状態と言い換えても良いのですが、私達は嫌な音を聞き続けると気分が悪くなります。また個性的な音を聞き続けると、心がそれに感化され感情が偏ります。言葉以前、私達は動物と同じように「鳴き声」でコミニュケーションしていました。その名残から私達の感情は感情は音と切り離すことができず、音は私達の心にダイレクトに影響するのです。
都会に住んでいる私達は、日頃様々な「人工音」に曝されています。また多くの音楽は不必要に喜怒哀楽を煽り、心を安めません。そういう音に触れ続けていると心にストレスがたまります。疲れたり、元気がなくなったり、鬱と言われる症状の多くは少なからず「悪い音」、「嫌な音」を聞き続ける影響があります。人間社会が作り上げた歪な価値観を持たない、赤ん坊や小さな子供は鬱になりません。天真爛漫な彼らは、常に「幸せ」を感じているのではないでしょうか?しかし、残念なことに成長と共に教育という名称で、間違った価値観を植え付けられ、社会に出るとなおさらそれが正当化されることで、次第に心は不自由になり、幸せを感じることが少なくなります。
こんなときに自然音を聞くと「心が無の状態」にリセットされ、精神的なストレスや後ろ向きな気持ちから解放されませんか?私は自然に触れることで、心が自由を取り戻せるように感じます。大自然に触れられない時には、「自然の音」を聞くことでストレスが発散されます。ストレスを発散してくれるのは「自然の音」ばかりではありません。ストレスのない音で奏でられる音楽も同様です。
60年代のジャスやラシックにそれを感じることが多いのですが、当時の音楽は「戦争の恐怖から解き放たれた喜び」に満ちあふれています。Reveal 402のように「自然さを損なわない音のスピーカー」でそういう音楽を聞くと、雄大な自然を前にしているように心がリセットされます。その瞬間を大事にしたいから、私は「自然な音」のスピーカーを好むのだと思います。
話は難しくなりますが、私が考える「良い音」と「自然な音」の違いを説明します。
最近私はデジタルをアナログに変換するプロセスについて次のように説明します。デジタル化される前の音は「連続した電気信号(曲線)」です。この曲線と「点」に分解したものが「デジタルデーター」です。記録されたデジタルデーターを音に変換するには、「点と点を繋ぎ曲線に戻すための変換回路」が必要です。この回路が「DA変換回路」です。もし、この回路が「点と点を直線で結ぶだけのもの」であれば、デジタル化された点が細かければ細かいほど生成される線は、元の曲線に近くなります。しかし、この回路が「点と点を直線ではなく元々の曲線を正確にトレースできる能力」を持っているならば、点が多少粗くても元の曲線を復元できます。この考えを人間の聴覚と脳の働きに当てはめます。
人間の耳は、マイクのように連続して音を聞いているのではありません。音をいくつかに分解して「デジタルデーター」のように簡略化して脳に送っています。脳は耳から送られた「デジタルデータ−(以下刺激と言います)」をその創造力で復元して「意識に音」を生み出します。私達は夢の中でも音を聞きますが、それが意識に届く音を「脳が作っている」証拠です。先ほどのデジタルデーターとDA変換回路の考えにこれを当てはめると、良い音を生み出すためにより大切なのは「デジタルデーター=物理的な耳の良さ」ではなく、「復元回路=脳の働き」がより重要なことが分かります。つまり脳の「補正/補完」能力が優秀であれば、プアな音からも素晴らしい音楽が聴き取れるのです。
すでになくなったオーディオ評論家の「五味康祐」氏は、難聴で補聴器を使わないと音が聞き取れないにもかかわらず、メーカーの技術者よりも正確に「音の違いを言い当てた」ことが知られていますが、これこそが「脳の働きの重要性」を示しています。リスナーが沢山の音を聞き、覚えている生音の記憶が多ければ多いほど、「測定的には悪い音」でも「頭の中ではよい音に変換」されます。私の言う「耳のよさ」とは、単純に高周波数の正弦波を聞き取れる能力を示すのではありません。乏しい刺激から、完全な音を生み出せる「脳の力」すなわち「音を聞き取る脳の力」の事を示すのです。
加齢により耳の物理性能が衰えても、経験が豊富な音楽家(指揮者)は音を正確に聞き取り素晴らしい演奏をします。それは彼らの「耳の良さ(脳の経験値)」が常人に比べてずば抜けているからです。しかし、この「音を正確に聞き取る能力(音を聞き分ける経験値)」が高くなればなるほど、同時に「間違った音」への違和感が強くなります。「耳のいい人」は間違いを聞き分ける能力も同時に高く、常人から見れば理解できないほど不自然な音に対し敏感なのです。
「良い音」とは、測定的に優秀な音です。波形が細かく、周波数レンジが広く、耳で聞くと「細かい音まではっきり聞こえる音」が「良い音」です。良い音を生み出す経験値が少ない(良質な生音をあまり聞いたことがない)人は、このような「データー的に優れた音を良い音」と感じます。また、機械(測定器)は「絶対値」で音を判断するので、音は細かくレンジが広い方が有利です。経験値の少ない人の場合、音響スペックと聞こえる音の良さは一致するはずです。
しかし、人間は「絶対値」で音を聞くのではありません。「相対値(相対感覚)」で音を判断します。これを視覚に置き換えて説明します。例えば1mと99cmの直線を並べると、誰でも99cmが短いと分かります。では1mと99.9cmではどうでしょうか?その差は随分分かりにくいと思います。次に1cmと0.9cmを考えてください。これは容易に0.9cmが短いと分かります。しかし、どちらの場合も「誤差は1mm」ですが、それを「比較すること」でより明確に感じ取る能力が人間の「相対感覚」です。これを聴覚に置き換えた場合、音が細かくなればなるほど(比較する対象のスケールが細かくなればなるほど)、再生される音と生音の僅かな違いに「違和感」を生じるようになります。つまり「耳の良い(経験の深い)」リスナーは、音が細かくなればなるほど(良い音になればなるほど)、僅かなずれで違和感を生じやすくなるのです。
話をまとめます。音を聞き分ける経験が豊富になればなるほど、相対感覚は鋭くなります。つまり、経験を積んだ耳(間違いを聞き分ける能力が高い耳)にとっては、基準となる音が細かくなればなるほど(音が良くなるほど)、「僅かな音のずれ(不自然さ)」も認識できるようになるのです。逆に基準となる音が「悪い(粗い)」のであれば、僅かな音の違いを認識できません。つまり耳の良い人にとっては「良い音」ほど「違和感」があり、「悪い音」ほど「違和感」が小さくなるのです。話が難しくなりましたが、耳の良い人が違和感なく音楽を聞くためには、「絶対的な音の良さ」よりも「相対的な音の正確さ」がより重要です。
スピーカーを大きくし、複雑にすれば「良い音」が出ます。しかし、その状態で「相対的な音の精度」を保つことは至難の業です。しかし、スピーカーを小さくして「再生レンジを限定」すれば「相対的な音の精度を容易に高める」ことが可能です。フルレンジスピーカーの音が自然に聞こえるのは、こういう理由です。
私は経験的に「耳が肥えて」いるので、絶対的な量よりも相対的な質を重んじます。だから、シリーズで最も小型のReveal 402を好むのです。AIRBOWが唯一販売しているスピーカー、IMAGE11/KAI2は小型密閉型ですが、それは何よりも「相対スケール、質」を重要に考えているからです。これ以外の私が音を決めているAIRBOW製品も、「相対スケールの精度」をチューニングにより高めているので、「自然な音」を好まれる熱心な音楽ファンに評価して頂けるのだと思います。良い音よりも、質の高い音のコンポで音楽を聞くと、生音を聞かなくても耳は成長します。心も成長します。聞く音を選ぶことは、とても大切なことです。
2014年4月 逸品館代表 清原 裕介
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