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ROTELからデジタルパワー素子を使ったボリューム付き小型パワーアンプ(セレクター無しプリメインアンプ)"RDA-06が発売されました。この製品は、約20cm四方、厚さ6cmのRDD-06同サイズのボディーから発熱なしに20W(6Ω)の出力を発揮します。フロントパネルにミニステレオジャックのヘッドホン出力も設けられています。
入力はRCAの1系統でセレクターはありませんが、RDD-06の操作が統合されたカード型のリモコンが付属し音量の遠隔操作が可能です。スピーカー出力端子は、通常のプリメインアンプと同じ本格的なターミナルが使われ、Yラグやバナナプラグに対応します。
RDA-06 |
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音質テスト
まず、音質テストの前にエイジングを兼ねて約4日(100時間)の鳴らし込みを行いました。音を出した当初から最新のデジタルアンプらしい細やかで力強い音が出ましたが、そのサウンドはやや単調でした。3日ほど経過すると細やかさに、艶が加わり音楽を十分楽しめる音質に変わりました。
本格的な試聴を行う前に、3号館Living Listening Roomに設置している主要なスピーカーと接続して「鳴り方や相性」を調べたところ、普段の音質チェックによく使うVienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)とFocal 1028BEとの組み合わせでは、それぞれのスピーカーをそれらしい表情で歌わせてくれました。ちょっとならすのは難しいかなと思いながら、PMC Twenty24を繋いでみましたがBeethoven Concert Grand(T3G)/1028BEよりもマッチングが良い印象でした。
さらにRDA-6のような小型アンプには、小型ブックシェルフ型スピーカーが組み合わされると考え、Kripton KX3P/2やSonusFaber Minima Vintage、Tannoy Autograph Miniとも組み合わせて聞いてみました。その中でKripton KX-3P/2が驚くほどよい音で鳴りました。
この結果からRDA-06とスピーカーの相性を考えてみました。
トランスミッションライン方式の採用で「ウーファーの負担が大きく(音響迷路を満たす空気を駆動するため、ウーファーの負担が大きい)」PMC Twenty24と、密閉型で空気のインピーダンス(抵抗)が高く、やはり「ウーファーの負担が大きい(気密性が高いのでウーファーが動くときに空気が抵抗になってユニットが動きにくい)」Kripton KX-3P/2は「低域がアンプに負担をかける」点が共通します。本来なら小さなアンプではならしにくいこの二つのスピーカーとRDA-06のマッチングが良いのは、RDA-06が搭載するデジタルパワー素子が「低音の駆動力に優れる(低音の歪みが小さい)」ことが有利に働いたためだと考えます。
これらの予備テストの結果を踏まえ、今回はVienna
Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)、PMC Twenty24、Kripton KX-3P/2、AIRBOW
IMAGE11/KAI2との組み合わせで音質のチェックを行うことにしました。
さらにシンプルなアンプほど電源ケーブルの影響を受けやすいことを考慮し、音質アップのチャレンジとして付属の電源ケーブルをAIRBOWとaudioquestの2種類のケーブルに変更し、音がどのように変わるかもチェックしています。
音源は、こういう小型アンプで聞かれることが多いであろう「Pops/歌謡曲」を選びました。
・使用機材
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closer to the music(SFR 357.4003.2) “closer to the music Vol.1” から Chris Jones ”No Sanctuary Here”
Triode TRX-2/TRX-P3Mの試聴の後に同じ条件でRDA-06をテストしましたが、低音の「早さ」はRDA-06がTRX-2/TRX-P3Mを上回り時間的な遅延を感じさせません。低音は量感がやや少ないですが、ギターの音は細かく高域まで倍音がスッキリ伸びます。ボーカルは厚みと重みがやや不足気味であっさりと鳴りますが、リードボーカルとコーラスとの分離はこのクラスとしてはかなり優れています。
さすがにパワー感や高域の伸びやかさには物足りなさを感じるものの、一つずつの音の特長は上手く再現され情報量は豊富です。音の癖もほとんどなく、良い意味でのHiFi(モニター)サウンドです。価格を考えると十分な音質だと思います。
B'z The Best “Ultra Pleasure” から Zero
低音はやはり量感に少し不満を感じるものの、遅れがない(早い)のが美点です。ギター、伴奏、ボーカルの音の違いは良く出ますが、色彩感がやや薄くそのため音色が単調に感じられます。良くも悪くも、良くできたデジタルの音質という雰囲気です。RDA-06の音質を水に例えるなら、温度は冷ため、透明感は高めでやや硬質な味わいです。
しかし、音楽が静的でつまらないかと言えばそうではなく、音は良く弾み聞いているとリズム感に飲まれ色彩の薄さも気にならなくなります。不思議な感覚で
高域のメリハリと鮮度感の高さが音色の薄さを補って、この曲を楽しく鳴らす感じです。
井上陽水 ”GOLDEN
BEST” から ワインレッドの心
録音の良いJ-POPとして、井上陽水「ワインレッドの心」を選んで聞きました。
RDA-06がならす陽水は、透明感が高く、彼の声の独特な高音が美しく再現されます。伴奏のシンセサイザーの漂うような音も繊細です。しっとりとして透明なサウンドはこの曲に良くマッチしています。
エレキベースの音階やリズムセクションも明解に鳴りますが、これでもう少しパワー感(押し出しの強さ)があれば申し分ありません。
「パワー感」が「電源ケーブルの変更」でどれくらいアップグレードするか楽しみです。
PMC Twenty 24 | |||||||||||||||||||||
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closer to the music(SFR 357.4003.2) “closer to the music Vol.1” から Chris Jones ”No Sanctuary Here”
TRX-2/TRX-P3Mの試聴テストでは、Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)よりも低音が出ないと感じたTwenty24ですが、RDA-06との組み合わせでは、Beethoven Concert Grand(T3G)を圧倒する低音が出ます。それに加えイントロのベースの量感、音階の正確さも向上しています。
バックボーカルの厚みと量感も改善しましたが、高域が伸びたからでしょうか?ボーカル(声)はBeethoven Concert Grand(T3G)よりも若干細くなりました。
綺麗で質の高いHiFな音ですが、「明るさ」や「元気良さ」が若干不足気味で、Twenty24をモニター的で精密に鳴らすイメージです。
B'z The Best “Ultra Pleasure” から Zero
低音はやはり良く出ますが、広がりが小さく音場がやや平坦なイメージです。
“Zero”はボーカルが一歩前に出てギターはその後、さらに伴奏はギター後と三層的な立体感で再現されると、ライブのような臨場感が醸し出され気持ちが良く楽しめるのですが、RDA-06は前後方向への広がりがやや浅く、それが原因でもう一歩「ノリ足りない」感触があります。
低音の量感、音の分離感、解像度感などは、この価格帯の平均的なプリメインアンプの水準に達していますから、価格やサイズを考えれば十分に健闘していると評価できます。それを小さなこのサイズで実現しているのは立派だと思います。細部に気になる点はありますが、概ね価格を超える性能を持っていると判断できます。 井上陽水 ”GOLDEN BEST” から ワインレッドの心
ベースはもう少し低音まで伸びて欲しい感じですが、伴奏につかわれるシンセサイザーの漂うような音の再現が優れています。エコーが長く、透明感も非常に高く感じられます。陽水の声も美しく透明ですが、Beethoven Concert Grand(T3G)に比べ線がやや細くなりました。
また、Zeroでも感じましたが、音場の前後方向への広がりがやや浅く、閉ざされた空間の中に音が閉じ込められて鳴る感覚があります。綺麗に鳴っているのですが、Twenty24との組み合わせでは、RDA-06はやや無機的で静的なイメージが強くなりました。
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closer to the music(SFR 357.4003.2) “closer to the music Vol.1” から Chris Jones ”No Sanctuary Here”
KX-3P/2は低音が出にくいスピーカーなのですが、RDA-06との組み合わせでは意外にそれが良く出ます。もちろんTwenty24と比べこのサイズの密閉型の限界はありますが、ある部分までシッカリ出てそこから低音が無くなる「潔さ」が逆に心地よく感じられるほどです。
Beethoven Concert Grand(T3G)、Twenty24ではやや「張りが弱い」と感じた高音も、KX-3P/2のツィーターの良さに助けられて明瞭度、解像度共にかなり向上して感じられます。ボーカルが力を入れた部分、力を抜いた部分、声色を変えた部分の再現性は、今まで聞いた3機種のスピーカーではベストです。
RDA-06とKX-3P/2の相性は良好です。曲が終わって、ギターの切れ味と高音の美しさが印象的でした。
B'z The Best “Ultra Pleasure” から Zero
KX-3P/2で聞くこの曲は、イントロのリズムの弾み感が全然違います。音がぐんぐん前に出て、元気良く鳴ります。ちょっと疲れ気味だった稲葉さんが、エネルギッシュに歌い出しました。Beethoven Concert Grand(T3G)、Twenty24で聞いたのとは、まったく別の曲に感じられるほどです。
KX-3P/2のツィーターの伸びやかさと鮮度感の高さが奏功し、RDA-06の音に「鮮やかさ」を与えるのでしょう。高音が少しチャラチャラしますが断然心地よく、
ROCKがROCKらしく弾けてくれました。
井上陽水 ”GOLDEN BEST” から ワインレッドの心
音調が明るくなり、色気と色彩感が出ます。スピーカーとのマッチングでRDA-06の音は大きく変わりました。
イントロの漂う音に、ほのかな色気が出ました。ベースは静かに沈み、シンバルは深々となります。陽水の声にも太さと色気が出て、Beethoven
Concert Grand(T3G)やTwenty24で聞いていたのと別物の鳴り方をします。
HiFiで細かくすっきりしていますが、ほのかな艶っぽさも感じられます。この音であればデジタルアンプというネガティブな部分を感じることなく音楽を楽しく、そして情緒豊かに聞くことができるでしょう。
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closer to the music(SFR 357.4003.2) “closer to the music Vol.1” から Chris Jones ”No Sanctuary Here”
IMAGE11/KAI2のサイズや周波数特性を考えるとあり得ないことですが、KX-3P/2よりもさらに低音がしっかり感じられます。専用スタンドを組み合わせていることもあるのでしょうが、実際にこの音を聞くと驚きです。
音の広がりやボーカルの表情も鮮やかに再現され、スピーカーが良い、アンプが良い、という個別の評価ではなく、機器の存在を感じさせない実にスムーズで自然な音が出ます。
価格がかなり違うので、比較テストに使うのはどうかと考えたIMAGE11/KAI2ですが、RDA-06との組み合わせでは、今回テストした中でバランスが良く楽しい音で音楽が聴けました。音は細かく躍動感と表現力が兼ね備わり、さらに小型スピーカーならではの自然な立体感と分離感の良さも印象的でした。
B'z The Best “Ultra Pleasure” から Zero
ギターの語りかけるイメージ、ボーカルの表情が俄然生き生きしてきました。イントロの楽器の音、ギターの音、ボーカルの声、それがのすべてが普段聞いている「音」にとても近く、歯切良さや前後方向の立体感も十分です。
意地悪な聴き方をすれば、音の質感が僅かに低下しているのですが、大きく立体的に広がる音場と、鳴りっぷりの良さがそれを補って余りあります。
専用スタンド込みだと10万円を超えますが、改めてIMAGE11/KAI2の良さを実感しました。
電源ケーブル交換・音質チェック
スピーカーをBeethoven Concert Grand(T3G)に戻して、電源ケーブルを聞き比べることにします。楽曲は「No Sanctuary」だけで聞き比べました。
closer to the music(SFR 357.4003.2) “closer to the music Vol.1” から Chris Jones ”No Sanctuary Here”
最初に聞いた時と僅かに印象が異なり、Beethoven Concert Grand(T3G)をさらに良い音に感じますが、それは2機種の小型スピーカーを直前に聞いた事が影響していると思います。人間の感覚は、直前に受けた刺激で大きく左右され、オーディオのリポートはそういういい加減な「人間(私)の耳」で書かれていることを忘れないでください。
IMAGE11/KAI2との組み合わせで「文句なし!」に聞こえた音ですが、スピーカーを元に戻すとやはり大型高級スピーカーの良さが際立ち、IMAGE11/KAI2よりも音が太く情報量も豊富なことがわかります。
最初のイメージと比べバランスが改善し、エネルギー感も向上して感じられました。
AIRBOW KDK-OFC-M/1.85 ¥2,520(税込)
予想通り、コンパクトでシンプルなアンプは電源ケーブルの影響を大きく受けます。
オーディオ用電源ケーブルとしては、最も廉価なAIRBOW KDK-OFC-Mですが、イントロ低音の量感が一段と増えました。また、ボーカルとバックコーラスの分離感も向上し音も細かくなりました。
高音のメリハリが僅かに失われたようにも感じますが、それは音のきめが細かくなり、滑らかさが増したためだと思います。
電源ケーブルの交換で、明かな低音量感アップ、音のきめ細かさアップ、密度感アップ、広がり感のアップが実現しました。
その向上幅は、2〜3割程度だと思います。
audioquest NRG-X2 1.8m \6,262(税別)
KDK-OFC-Mに比べイントロの低音がさらに深くなり、量感も増加します。
またボーカルが発声する瞬間、声が出始めるときの「アタック」が鮮やに聞こえ、ギターの高音の伸びやかさ、響きの美しさもさらに向上します。
付属品ケーブルと比べて、空間の濁りが低減し、音の分離感も改善しました。
しかし、望んでいた「低音のエネルギー感向上」はそれほどめざましくなく、結果として量よりも質の改善が著しく感じられました。
NRG-X2もそれほど高価な電源ケーブルではありませんが、KDK-OFC-Mよりもさらに研ぎ澄まされたHiFiなサウンドにRDA-06をアップグレードしました。
向上幅は、5割程度に達すると思います。
ヘッドホン・音質チェック
Sennheiser |
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最後に愛用のSennheiser HD25-1を使い、RDA-06ヘッドホン出力の音質チェックを行いました。
closer to the music(SFR 357.4003.2) “closer to the music Vol.1” から Chris Jones ”No Sanctuary Here”
ヘッドホンとは思えない解像度の高い低音に驚かされます。高音も歪みが無く美しい音です。
しかし、音楽の情緒や色彩感の再現に重要な「響き」が完全に欠如しています。
スピーカーでもその傾向はあったのですが、リスニングルームのエコー(間接音)やスピーカーそのものが生み出す「響き」がそれを補っていたのでしょう。しかし、ユニットの「直接音」を文字通りダイレクトに聞くヘッドホンの試聴では、RDA-06は驚くほど乾いて無機質な音に感じられます。また、ソースが響きの豊なアナログではなく、PC/ネットワークという「響きのないデジタル音源」なのも悪かったのでしょう、潤いと響きが欠如し、私には砂漠のような音に聞こえました。
その音は正確と言えば正確、歪みがないと言えば、歪みがありません。しかし、「無駄」がもたらす暖かさや情緒もありません。この音では音楽を楽しめないし、ましてPC・ネットワークオーディオとの組合せでは、互いの欠点を増長しかねないと思います。
私ならヘッドホンアンプの音は、解像度をやや落としても(ヘッドホンは耳のすぐ側で鳴らすので、スピーカーで鳴らすよりもアンプの音の細やかさを落とす方が自然なバランスで音楽が聞けます)色彩感や、ヘッドホンで付属しがちな「響き」を補うように音を作ります。RDA-06の音は、ストレート過ぎると思いました。
ヘッドホンアンプとしてのRDA-06の音作りに対し、大きな疑問を感じます。
試聴後感想
エイジング&ウォーミングアップでは、TRX-2/TRX-P3Mのテストと同じようにBeethoven
Concert Grand(T3G)との組み合わせでインターネットラジオを聞いていました。その間ずっと過不足ない、十分に音楽を楽しめる良いアンプだと思っていました。
しかし、きちんと聞いてみると、やはりあまり大型のスピーカーとの組合せは「荷が重いのかな?」と感じられました。音は綺麗なのですが、アンプがスピーカーに振られるのか?ユニットを正確に駆動しきれず、音が歪んでいる印象を受けたからです。
しかし、アンプのテストには低音が出ないという理由で普段は使わない、Kripton KX-3P/2やAIRBOW IMAGE11/KAI2をRDA-06で聞き、改めて小型ブックシェルフ+密閉型のスッキリしたサウンドの良さを再認識しました。
小型ブックシェルフが放つ「素早くストレートな音」は外連味がなく、そのさわやかなサウンドには捨てがたい魅力があります。
スッキリ、凜とした音楽の鳴らし方もまた、楽しいものです。
2014年2月 逸品館代表 清原裕介
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