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TeacからReference 501 Seriesと名付けられた、小型で高品質なオーディオシステムが発売されました。この製品は従来の少しチープなTeac製品のイメージから大きく踏み出し、外観的にも機能的にも最新のオーディオコンポーネントらしく仕上がっています。その気合いの入り方はカタログからも伺えます。
いかにもオーディオマニアが好みそうな小型高性能に仕上げられた501 Seriesには「オーディオ専門メーカーのような高音質への独自のこだわり」が随所に感じられます。それもそのはず、今回の501 Referenceの設計開発には、"Esoteric"が携わっているからです。
TeacとEsoteric。近くて遠かったこの二つのブランドの設計統一が実現したのは、EsotericとONKYOの資本提携による合理化が大きく関与していますが、ビジネスの経緯はさておき、Esotericの息がかかったReference 501 Seriesは、従来のTeac製品と異なる次元のオーディオ品質に仕上がっていると予想されます。
そこで今回、Reference 501 Seriesの中からヘッドホンアンプを除く3モデルの音質チェックを行うことにしました。
Teac UD-501 メーカー希望小売価格 ¥110,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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音質テスト
Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
PCのOSは「Windows7pro」。音源はCDをリップしたWAVEファイルと試聴機に添付されてきたDSD音源を使いました。
接続にはaudioquestの最高級USBケーブル USB Diamond2を使いました。
UD-501のUSBインターフェイスは、Luxman DA-06と共通のものが使われています。添付の専用ドライバ−、専用再生ソフトも基本は同じものが使われています。DA-06では時間の関係で"DSDファイル"の音質がテストできなかったため、UD-501は"DSD"から音質チェックを開始しました。
最近、PCオーディオでSACDを超えるスペックを持つ"DSD/5.6MHz"の音質が話題となっています。そこでその音質を最大に生かすために、PCからUD-501までデジタル信号をDSDのまま入力するため、UD-501専用ドライバーと専用再生ソフト「Teac HR Audio Player」をPCにインストールしました。
DSDの音質
UD501で聞くDSDの音は、同一音源をWAVE(PCM)で収録してある比較用音源に比べ、きめが細かく滑らかでPCMデーターの再生とは明らかに異なるアナログ的な雰囲気で楽曲が再現されることが一聴してわかります。DSDはPCMよりも「アナログの音に近い」と言われていますが、その理由はPCMとの「記録方式」の違いにあります。PCM方式は、音の変化を横軸:時間、縦軸:電圧(音の大きさ)のグラフに当てはめて、それを絶対的なポジションとして「点」で記録します。再生時には、「点」に分解された音を線で繋ぎアナログ信号に変換します。DSDはPCMのように音の変化を「絶対的な位置」で記録するのではなく、前の音対しどれだけ大きいか、小さいかというような「相対的な変化」として記録します。波の変化を直接記録するDSDは、その方式がPCMよりもアナログ録音に近いと言われています。今回聞けた音は、まさにそれを裏付けるような滑らかで連続的な変化を感じとれる音です。
しかし、PCオーディオでは「再生ソフト」による音の差が無視できません。そこでさらなる音質アップが実現するかどうか確認するため、再生ソフトをKORGからリリースされている"Audio Gate"に変えて同じファイルを再生してみました。するとHR Audio Playerでは感じられなかった、音としては聞こえない雰囲気の濃さや空気感までが再現され、プレーヤーソフトによる音質の違いをハッキリと聞き取ることができました。
ピアノは打鍵音(アタック)がいかにもフェルトを張ったハンマーがスチール(ピアノ線)の弦を叩いているような「芯のある柔らかな音」で再現されます。響きも滑らかに広がります。高域の透明感はUD-501の限界で薄いベールがかかったように少し曇っていますが、シルキーなその曇り方はソフトフォーカスの写真を見ているように心地よい種類なので欠点とは感じられません。比較音源のWAVEファイルの再生では、高域が明らかにもやもやして物足りないと感じたのとは対照的です。
音の密度感(情報量)も豊富です。この音を聞かされたら、DSDに飛びつきたくなる気持ちも分かります。
とここまで書いてUD-501のインジケーターを見ると「PCM
44.1kHz」と表示されているではありませんか!
なぜならばDSDがネイティブ(そのまま)でUD-501に入力されて再生されるのは、専用のTEAC
HR Audio Playerを使った場合だけで、UD-501専用ドライバーが対応しないAudio
GateではDSDファイルはPCMに変換して出力されていたからです。つまり、Teac
HR Audio PlayerでDSDをネイティブのまま入力するよりもAudio
GateでPCM 44.1/24bitに変換して入力した方が「明らかに音が良かった」というややこしい結果になりました。
そこで目の前で起きているいることをきちんと確認するため、まず複数のデジタルオーディオファイルをTEAC HR Audio Player(DSDネイティブ)とAudio Gate(PCM変換)で聞き比べてみました。
同じDSDファイルを聞き比べると先に書いたように、DSDで出力されるTEAC HR Audio PlayerよりもPCMに変換されて出力されるAudio Gateの方が音が細かく、空間の広がりや雰囲気も濃く出ます。次にAudio Gateの機能を使ってCDをリップした44.1kHz/16bitのWAVEファイルを"176.4kHz/24bit WAVEファイル"とDSD最高音質の5.6MHzのDSFとWSDファイルの3つに変換し、TEAC HR AudioPlayerで試聴しました。すると明らかにAudio Gateで聞く"元音源"のPCM 44.1kHz/16bitファイルより細かい音が出なくなり、レンジも狭くなりました。ファイル的にはアップグレードしているにもかかわらず、音が悪くなったのです。
そこで再生ソフトをAudio Gateに変えて、変換しないWAVE(44.1kHz/16bit)ファイルを含めた4つのファイルを聞き比べました。
PCM同士では、ファイルをハイレゾの176.4kHz/24bitにアップサンプリングすることで細かい音の再現性が若干向上するように感じられました。
元音源をDSD/5.6MHzに変換したDSFファイルでは音のエッジが滑らかになりましたが、細かい音が僅かに聞こえなくなったようにも感じられました。
最後に元音源をDSD/5.6MHzに変換したWSDファイルを再生するとDSFよりも音が細かく、透明度も向上して感じられました。また、DSFに変換されたファイルではオリジナルのWAVE 44.1kHz/16bitファイルと比較しても、明らかに細かい音がしっかりと再現されていることが分かりました。ただし、どちらのDSD音質のファイルもAudio Gateでは再びPCM 44.1kHz/24bitに変換されてUD-501に入力されていることを忘れないで下さい。
序盤のテストが随分長くなりましたが、結果としてUD-501では「ファイルがPCMか、DSDか?」という差よりも「再生ソフトがTeac HR Audio Playerか、KORG Audio Gateか?」という再生ソフトによる音質の違いが遙かに大きいという予想外の結果が得られました。しかし、「音質」ではなく、音楽が心に入る感覚を比べると、細かい音が出ないにもかかわらず「何も加工を加えないCDをリップしただけのオリジナルWAVE 44.1kHZ/16bitファイル」が最も演奏者の動きや気配が自然に伝わるように感じました。そこで、音源をCDをリップしたWAVE(44.1kHz/16bit)に変えてさらに深く音質を探ることにしました。
CDをリップしたWAVE(44.1kHz/16bit)の音質で再生ソフトにより音質の違いをチェック
Holly
Cole Trio アルバム"Don't Smoke in Bed."からTennessee
Waltz(テネシー、ワルツ)
この曲を使ってTEAC HR Audio PlayerとKORG Audio Gate、そして普段使っているWin Ampの3つの再生ソフトの音質の違いを比べました。
・Teac
HR Audio Player
出だしのハーモニカはスムーズで響きが柔らかく、立体的に広がります。ボーカルは暖かい音ですが、高音がもやもやして少し鼻に掛かった声に聞こえます。
ピアノは高次倍音が伸びきらず、ハンマーがフェルトで覆われたような音に聞こえます。
どうやら、このソフトを使うと高域が特定の周波数帯域からマスキングされて(何かに消されて)いるようです。このような音が出るときは、高周波ノイズが完全に取り切れていないか、あるいはデジタル処理の段階で高域が歪んでしまうか、いくつかの理由は考えられるのですが、いずれにしても高域が曇っていることに間違いはありません。しかし、この程度の軽微な高域の伸びたりなさは、低価格の機器では常識です。少なくとも10万円を切る実売価格を考慮すれば、これでも十分な音質だと思います。
Teac HR Audio Playerを使うと高域の質に少し疑問を感じますが、音質に致命的な癖や欠陥を感じる程ではありませんから、高域が伸びきらないフルレンジスピーカーで演奏を聴いているイメージで音楽は十分に楽しめました。
・KORG
Audio Gate
DSDファイルの再生でも感じたことですが、TEAC HR Audio
PlayerとKORG Audio Gateで聞く「同じ音源の音質」は驚くほど違っています。
ハーモニカの音は透明感が増し、高域が綺麗に伸びきります。高域の曇りが取れた結果として演奏者がハーモニカの音を変化させる様子が細かく伝わります。
ピアノも高域が綺麗に伸びたことで低域の重厚感がきちんと再現され、高級な楽器の音が聞けます。
ボーカルもホリーコールらしい子音のクッキリ感が再現され、プロボーカリストの声の美しさと表現力の豊かさがきちんと再現されます。この声なら、OKです!
TEAC HR Audio Playerで鳴っているUD-501の音を数万円のCDプレーヤーに例えるなら、再生ソフトをKORG Audio Gateに変えた時のUD-501の音質は10万円を超えるCDプレーヤーです。再生ソフトを変えるだけで、UD-501の音質は驚くほど一気に向上します。
・Win
Amp
Win Ampで聞くホリーコールの音質はAudio Gateと大きく変わらないように思いますが、もしかするとAudio
GateがWin Ampを少し上回っていたかも知れません。楽器の分離感はAudio
GateがWin Ampを上回っていたかも知れません。しかし、Win Ampは、高域がAudio
Gateよりも明瞭でさらに高い周波数まで自然に伸びている印象でその場の空気感や演奏の「間」がより明確に伝わり、演奏の躍動感と表現の深みが増して感じられます。Win
Ampは音が出てから消えて行くまでの時間が長く感じられ、楽器や声のコントロール(音の変化)がより繊細で深く伝わります。
Audio
Gateで聞く「Tennessee Waltz」は特上のステージで演奏されているように聞こえましたが、Win
Ampではそれが「Live House」的なイメージに変わります。Win
Ampでは、ホリーコールが不特定の聴衆ではなくリスナー一人だけのために歌っているような感覚に変化します。いつも使っていて聞き慣れているせいかもしれませんが、私にはWin
Ampの音が合っているようです。Win
Ampで聞くと、音楽が自然に体にしみこんでくる感じです。JAZZ、特にスローなボーカル曲ならWin
Ampがしっくり来るでしょう。それに対して音質と分離感で勝るAudio
Gateは、アップテンポなインストメンタルなJAZZならWin
Ampより楽しく音楽を聞かせてくれそうです。残念ながら純正のTEAC
HR Audio Playerは音が悪く、使わない方が良いと思います。
再生ソフトをWin
Ampに固定してデジタル・フィルターのポジションによる音質の違いをチェック
Holly
Cole Trio アルバム"Don't Smoke in Bed."からTennessee
Waltz(テネシー、ワルツ)
・アップコンバート>OFF-ON
DFフィルターのアップコンバートを「ON」にすると、音場の濁りが軽減され透明感が増して見通しが良くなります。細かい音もハッキリして、解像度感が向上します。ソフトフォーカスな音のピントをよりシャープに合わせた感じです。音の輪郭はほんの少しぼやけますが、ボーカルの表情はOFFが豊かで自然です。ONにすると声が少し固くなり(音の濁り/膨らみが取れるため)表情がほんの少し単調になりました。
・デジタルフィルター カーブ
Sharp
響き・余韻が短くなり、音がさっぱりします。表情もさっぱりします。
Slow
ひびきの濁りが取れて、音場の見通しが改善します。不自然さもほとんど感じられません。OFFかSlowはどちらを使うか、難しい選択です。
FIR
今回の音質テストに使いました。
UD-501
総合評価
今回は様々な方向からUD-501の音質テストを行いました。その中で最も大きく音が変わったのが「再生ソフト」です。再生ソフトは、レコードプレーヤーのカートリッジに匹敵するほど、PCオーディオでは重要だと感じました。また、UD-501が搭載する様々なデジタルフィルターの設定による音の変化は、フォノイコライザーアンプのイコライザーカーブの設定よる変化に似ている印象を受けました。
UD-501とWin
Ampを組み合わせて、HDDに取り込んだ様々なCDの楽曲を聴いてみました。
UD-501最大の長所は、PCオーディオにありがちな「痩せた音」ではなく、暖かみと立体感のある音が出ることだと思います。特にボーカルは厚みがあり、滑らかで「肉感」が感じられます。エネルギーバランスは、頂点が少し丸い三角の「おにぎり型」で、聴き疲れしません。
高音は明瞭度が高く、滲みも少なくスッキリしています(Teac
HR Audio
Playerでは良くありません)。音質感や高音の伸びがもう少し欲しいと感じましたが、電源ケーブの変更などで改善が見込めると思います。機能は豊富で、設定の変更で音が変えられます。また、標準ソフトだとDSDをネイティブで再生できますが、そうするよりもソフトをAudio
Gateに変えてDSD>PCM変換でUD-501に入力する方が明らかに音が良かったのが不思議です。購入しても標準ソフトは使わないことをお薦めします。
音の癖は少なくジャンルを選ばず音楽を楽しませてくれますが、表現は少しあっさりしています。また、電子楽器とアコースティック楽器では、不思議とアコースティック楽器に魅力が感じられ、マスターがアナログ時代の音源がデジタルマスター時代のそれより「美味しく(味わい深く)」鳴りました。10万円を切る実売価格を考えると、この音質は十分だと思います。少なくとも数年前に発売されていた10万円弱のヘッドホンアンプ付きUSB DACと比べるとUD-501は長足の進歩を遂げていると思いますし、この音であればPCのヘッドホン出力と比較するまでもなくUD-501を使う方が音質が優れていると分かります。今回はUD-501に相応しいとは思えない、audioquest USB Dimond2という非常に高価なUSBケーブルを使用しましたが、そのケーブルを使うとTeacの20万円クラスCDプレーヤー相当の音は出るように感じました。
「PC=ミスがない」という論拠からPCオーディオはCD/SACDよりも音が良い、あるいはSACDを超えるDSDファイルが一番音が良いという評価や論説を度々目にします。しかし、今回のように「充実した再生環境」で実際に音楽を再生すると、それらがすべて「意味のない空論」に感じられます。
オーディオは理論(考え/想像)通りに音が出ません。それは「理論」自体に大きな欠陥があるからですが、理論を盲信し自説を曲げたくないがあまり「例外を認めない」のは愚かなことです。そんなことをしているようでは、技術は進歩しません。また、新製品を一台でも多く売るため、雑誌を一部でも多く売るために「事実を曲げて煽動する」のはさらに愚かなことです。そういう「愚かな虚言」を信じて振り回されないようにご注意下さい。
PCオーディオの音源は「CDをリップしたファイル」で十分な高音質が得られることを保証します。また、ハイレゾやDSDがそれを上回るという「保証」はありません。重要なのは技術や理論ではなく、聞こうとするソフトです。いくら良い機器を使っても「演奏者がきちんと良い音を出し心に伝わるもの」がなければ、それは「音楽」として伝わりません。「何々だから、音が良い」というオーディオ的こじつけに目をつむり、心を開ければ音楽はもっと饒舌に語り始めます。感動は機器が生み出すのではありません。感動のないソフトが、心を動かすことはありません。
最近のテストから、PCオーディオ最大の魅力は「よりよい音を出すこと」ではなく、「CDプレーヤーよりも遙かに簡単に音を変えられる」ことだと分かってきました。CDプレーヤーの音を変えるにはケーブルや置き台など限られた方法しかありませんが、PCオーディオなら「再生ソフトの選択」、ソース(音源)の「フォーマット変換(アップサンプリング)」など様々な方法で音が変えられます。オーディオの大きな目的の一つである「自分の音を作る楽しみ」において、PCオーディオはCDプレーヤーを大きく上回ります。CDプレーヤーの登場でやや狭まった感のあるオーディオの楽しみは、PCオーディオで再び大きく広がるに違いありません。
UD-501をLuxman DA-06と同じ環境でテストした後、Reference 501 SeriesのCDプレーヤー PD-501HRとデジタルプリメインアンプAI-501DAを組み合わせて聞いてみました。
Teac PD-501HR メーカー希望小売価格 ¥86,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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Teac AI-501DA メーカー希望小売価格 ¥110,000(税別) (この製品のご購入はこちら) |
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音質テスト
Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
Come Away With Me (Hybr) ・ Norah Jones
CD・アンプ共に初見のため聞き慣れた「ノラ・ジョーンズ」を選んで試聴を開始しました。
電源を投入し音が出た瞬間からウォーミングアップの必要性を感じさせないほどきちんとした鳴り方をします。特にこれほど小型のボディーでありながら、大型プリメインアンプと同じような量感の低音が出ることに驚かされました。
ノラ・ジョーンズの声は、癖がなく滑らかで耳当たりよく鳴ります。ドラムのリズムには、ゆったりとしたタメが感じられますが音が遅れているわけではありません。ベースやピアノの音も癖が少なく、価格を超える質感を感じます。良く整った過不足ない音で、やはり過不足ない表現力でノラ・ジョーンズが鳴ります。しかし、そこに高級オーディオに通じる楽しさや色っぽさを難じるかと問われると返答に窮するのも事実です。
善し悪しは別として、Triodeの真空管アンプでノラ・ジョーンズを聞けば、Triodeの味わいを感じます。LuxmanにはらLuxmanのAIRBOWにはAIRBOWの味わいがあります。しかし、501 Seriesにはそれを感じません。非常に上質で細かい音ですが、人工栽培で作られた最高級の「野菜」を食べている感じです。出てくる音に傷はなく綺麗ですが、有機的な味わいが感じられません。良い音ですが、心の上を素通りして行く感じです。
では冷たい音なのか?と聞かれればそうでもありません。価格を考えると十分以上に上質でレンジも広く、音楽をこちらから「聞きに行けば」しっかりとそれに応えてくれます。しかし、その音は「一定の枠を出ない優等生」に思えます。
この価格で購入できる「音楽再生装置」としては十二分な価値を感じられますが、「趣味のオーディオ機器」としての魅力はあまり感じないというのが正直な感想です。高度なコンピューターが作り出した「間違いのない高音質」。そういう印象でノラ・ジョーンズが鳴りました。
PCのOSは「Windows7pro」。音源はCDをリップしたWAVEファイルと試聴機に添付されてきたDSD音源を使いました。
接続にはaudioquestの最高級USBケーブル USB Diamond2を使いました。
Come Away With Me (Hybr) ・ Norah Jones
次に演奏したディスクをPCにWAVEでリップしたファイルをUSBで直接AI-501DAに繋いで音を出してみました。USB接続には、audioquest
DIAMOND2を使っています。
音が出た瞬間に中低音の厚いと安定感が増しているように感じます。高音の伸びやかさや透明感は、PD-501HRに少し劣っている感じがありますが、楽音やボーカルの説得力は一枚上手に感じ色彩感も豊富です。ドラムのブラシワーク、ピアノのアタック(打鍵感)の動きや強弱に力強さがあり、そのリアリティーは確実にPD-501HRを上回ります。
トータルの音質的は若干落ちた感じがありますが、逆に音楽の表現力や演奏の有機的な感じではPD-501HRをAI-501DA/USB入力が上回っているようです。少なくともノラジョーンズの声はより魅力的に感じられました。
しかし、それがaudioquest DIAMOND2という非常に高価なUSBケーブルを使った効果であることは否定できません。技術が進み「歪み感」が減少して高音質になればなるほど、ケーブルなどのオーディオ・アクセサリーによる「味付け」が必要になってくるのかも知れません。PCによるシミュレーションで作り出される「超低歪み」の「無色透明なサウンド」にオーディオアクセサリーという調味料で「自分なりの味を付ける」のは、意外に合理的なのかもしれません。オーディオ製品の歪みが減って不純物のない純水に近づいたため、オーディオ・アクセサリーで「ミネラル分」を補給するという考え方です。
ヒラリー・ハーン デビュー! バッハ:シャコンヌ ・ヒラリー・ハーン
ジャンルを変えてヒラリー・ハーンの「バイオリンソロ演奏」を順序を変え、USB接続(PD-501HRは使いません)から聞いてみました。
ノラ・ジョーンズ同様、非常に癖の少ない美しい音でバイオリンが鳴ります。しかし、同時に「伝わってくるもの」が希薄なのも変わりません。
原因を考えてみると、高域のプレゼンス(きらびやかさ/音の輝き/鮮やかさ)が少し不足していることに気がつきました。音的にはきちんと伸びているのですが、楽器の倍音を聞くとバイオリンの超高域がマスキングされた、あるいは超高域倍音(高次倍音)の響きをミュートしたような感覚があります。量的にはごく僅かなので気がつきにくかったのですが、そういうプレゼンス(きらびやかさ/音の輝き/鮮やかさ)が少ないことが演奏を単調に感じさせ、音の変化をこぢんまりさせているのです。
音は良いけれど、表現力がやや不足。それがこのソフトを聞いた感想です。ただし、価格を考えれば立派な音です。少なくとも、十分に「従来のこの価格帯のピュアオーディオ機器」のレベルには達しています。
次にヒラリー・ハーンのCDをPD-501HRにセットし、AI-501DAとアナログ接続して聞いてみました。接続には、AIRBOW MSU Mightyを使いました。
PD-501HRを使うことで高域の伸びやかさ見通しの良さはハッキリ向上します。バイオリンの弦と弓のこすれる音、直接届く音とホールで反射して届く音。その違いはUSB入力よりもハッキリと聞き取れます。ノラ・ジョーンズで感じたのと同じようにPD-501HRの音質は、AI-501DAのUSB入力を明らかに上回っています。
しかし、やはりノラ・ジョーンズで感じたのと同じく、音質の向上に伴った演奏の躍動感や表現力の向上が得られません。美しく心地よい音ですが、心にグッと来る印象は薄めですが、今回聴いた楽曲が「バッハ」と言うこともあってこういうさっぱりした単調な音でも音楽は十分に楽しめました。
ヒラリー・ハーンのバッハソロでは、総合的にPD-501HRがAI-501DAのUSB入力を上回ったという印象です。
高音の細やかさと動きの正確さ、低音の重量感はこのクラスの平均を大きく凌駕しています。
スピーカーから遠く離れると高音が少し不足する感じがしますが、通常のリスニングルームの広さではまったく問題にならないでしょう。
低域がきちんと駆動され制動されるので、リズムセクションがしっかりと奏でられます。高音は細やかさ分解能共に高く、収録されている多重録音がきちんと分解されて再現されます。
しかし、ガガの声は少しハスキー(歳を取った感じ)で押し出されるようなエネルギー感も弱めで、ROCKらしい弾む感じは少し弱く感じます。
全体的な印象はノラ・ジョーンズとほぼ同じですが、エレクトリックな音源が多用されるガガの楽曲がシステムにマッチしているように感じました。
USB入力に変えてガガを聞くと「音の揺るがない感じ」、「タイミングの正確さ」がPD-501HRを上回る様に感じられます。ガガの声も若返って張りが出ます。
若干高音の最後部の伸びやかさと細やかさは失われていますが、エネルギー感や躍動感でAI-501DAのUSB入力は、PD-501HRのアナログ接続に勝っているように思います。演奏の雰囲気もPD-501HRのややけだるく鳴っているだけの感じから、リズムが弾んで体が動き出す感じに変わります。
PD-501HRを使った場合の音と、USB入力を使ったときの音質ははそれぞれ一長一短で甲乙付けがたいのですが、個人的にはUSB入力の方が音楽の躍動感と表現力が大きいように感じました。しかし、それはPD-501HRの価格に匹敵するほど高価なUSBケーブル、audioquestのUSB DIAMOND2の効果なのかも知れません。
最後にPD-501HRに試聴機付属の「DSDファイルを記録したDVDディスク」をセットして聞きました、このディスクには同じ曲がDSD/5.6、DSD/2.3、WAVE/192、WAVE/44.1の4通りのフォーマットで収録されています。そこでそれぞれのファイルを頭の部分だけ聞いて、簡単に音質のみを比較しました。
DSD/5.6>DSD/2.3>WAVE/192>WAVE/44.1とデーター量の増加に比例して音質が改善し、楽器とリスナー間のベールが1枚ずつ剥がれて行く感じがあります。しかし、その量は非常に僅かです。
オーディオ的な興味を持って「頭で聞き比べれば」それぞれのファイルの音質差は、看過できないほど大きく感じられるのかも知れませんが、音楽を聞き流す程度の聴き方であれば「それを指摘されなければ分からない」程度だと思います。少なくともファイルのデーター量ほどの差は、まったく感じられませんでした。
音声にかかわらず、最近の「デジタルデーター圧縮技術」は大きく進歩しデーター量が数倍違ったとしても、昔のオープンリールの「19.5/38(1/2)」やVHSテープの「標準モード/3倍モード(1/3)」のようにデーター量減少に比例するほどの大差はなくなっています。今回付属しているディスクでは、特にその印象が強くフォーマットによる音質差は、いまや「ある程度の高級機を使う限り、音楽鑑賞に致命的な影響は及ぼさない」と考えています。
その証拠ではありませんが「高音質ソフト」に対するこだわりよりも、好きな音楽へのこだわりの方が遙かに大きく、また装置も刹那的な最高音質を狙うよりも、標準的な録音のソフトをよりよく聞かせる装置を好みます。昔は、直球型音質追求機器を好んでいたこともありましたが、加齢と共に様々な音楽をより広く聞くようになった結果、音の良い機器よりもソフトを生かせる機器をより重要視するようになりました。逆に音質を疎かにしてまで音楽性のみを追求するのは行き過ぎですが、何でもかんでも音質にこだわる雑誌やメーカーあるいは一部のオーディオマニアの主張と、逸品館がお薦めする製品や試聴リポートの内容が一致しないことがあるかも知れません。どちらを参考になさるか、もしくはどちらの意見もうまく取り入れられるか、お客様自身の感覚を大切にしてお選び下されば幸甚です。
最近DSDが聞けなければオーディオ機器は時代遅れ。DSDでなければ音楽が楽しめない。そのような意見が聞こえてきます。それが最大のセールストークになるのかも知れませんが、あまりにも偏狭な考えに思います。音楽はもっと自由で壮大な芸術です。ジャンルや音質の壁を越え、その楽しさを謳歌させてくれる機器、それが理想のオーディオ機器という考え方は、デジタルの進歩と共により明確になったように思います。
また、そういう視点からPC/ネットワークオーディオを見ると、やはり従来のデジタル(CDプレーヤー)にはなかった「簡単に音を変えられる」という新たな魅力が浮かび上がってきます。現在、Linuxをベースに「オーディオ用OS(音質に特化したOS)」をiCAT Ink.が開発しています。私もそれに協力していますが、ハードウェアーを一切変更することなく、OSのパラメーターを変えるだけで音質が大きく変化することに驚いています。これからの時代は、ハードウェアーではなくソフトウェアーで音を選ぶことになるのかも知れません。
雑誌やメーカー、評論家がまだ知らないすごい未来がすぐそこまでやってきています。その未来では、オーディオの楽しみはさらに大きく開花します。あわよくば「ソフト業界」も従来にも増して素晴らしい録音の素晴らしい音楽を送り出して欲しいものです。採算が取れなくなってから、良いソフトが出てこないことだけが気がかりです。確かに蓄積された膨大なソフトをすべて聞くにも、人生は短すぎます。しかし、時には「新しいもの」への渇望を覚えるのが人間です。だから、DSDを聞いてみたいと強く惹かれるマニアを責めることはできません。責められるのは、それを「食い物」にする連中です。
2013年4月4日 逸品館代表 清原 裕介
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