■各種コンテンツ ■サービス・キャンペーン ■逸品館運営・外部ショップ ■Twitter・Facebook ■試聴機レンタルサービス ■オーディオ逸品館 MI事業部 オフィシャルサイト |
YAMAHA NS-5000 メーカー希望小売価格 1,500,000円(ペア・税別) 専用スタンド SPS-5000 メーカー希望小売価格 75,000円(1台・税別)
2016年10月7日、YAMAHA NS-5000が逸品館に到着しました。このスピーカーは、YAMAHAが8年を費やして開発を続け、やっと世に出たモデルだけあって、どこに行っても注目の的になっています。私は、「守秘義務契約」を交わした上で、すでに数年以上前からNS-5000を聞いています。今年も銀座にあるYAMAHAのショウルームで開催された「YAMAHAプレミアムショップ合同新製品発表会」でも、しっかりと製品版のNS-5000を聞く機会がありました。 その間、ずっと感じていたのは「NS-5000は、本当に良い音が出せるのだろうか?」という疑問です。特に共鳴管を使うことで吸音材をほとんどなくしてしまった、キャビネットの響き(残留音)は、いつも耳についていました。YAMAHAは、力を入れて開発したと言います。けれど、それを証明できる良い音を私は、今まで聞いていません。今回の試聴会は、その「真実」を確かめる、格好の機会です。果たして「NS-5000」は、良いスピーカーなのでしょうか?それとも、ただの「駄馬」なのでしょうか? NS-5000のために開発された特許技術 NS-5000には、「2つ」の特別な技術が採用されています。 1つは、東洋紡の「ZYLON(ザイロン)」を使った振動板。 もう一つは、YAMAHAお得意の共鳴管を使った、ユニットの背後に発生する音を消す技術です。 ZYLON(ザイロン)を使った振動板 音はその高さに比例して波長が短くなります。高い音を正確に再現するためには、振動板を音が伝わる早さ(振動板の音速)は、早ければ早いほど有利です。現在ハイエンドスピーカーのツィーターに使われる材質は「ベリリウム」もしくは「ダイヤモンド」のどちらかが使われていますが、これは現在地上にある物質で最も音速が早い(ダイヤが最速でベリリウムがそれに次ぎます)からです。 ツィーターが受け持つ帯域以下のウーファーやスコーカーには、それほど早い音速は求められませんが、「ユニットの音色」を合わせるために可能であれば、振動板の材質は同じほうが良いに決まっています。けれど、ダイヤモンドやベリリウムを使う振動板は非常に高く、スコーカーはともかく大きな面積の振動板が必要なウーファーに使うことができません。そこでウーファーには、それに適したカーボンなどの素材が使われています。 YAMAHAは新世代の音楽モニタースピーカーを作る上で、すべてのユニットを「同一の素材にする必要がある」と考えました。幸いなことに、東洋紡から「ベリリウムに匹敵する音質を持つ強強度繊維 ZYLON(ザイロン)」が発売され、YAMAHAは世界で初めてこの「ZYLON(ザイロン)」をスピーカーの振動板に使うことにしました。しかし、ザイロンを使う上で解決しなければならない問題が一つありました。 ダイヤモンドやベリリウムは「板状」として存在できますが、ザイロンは繊維なので「布状」でしか使うことができません。どれほど音速が早くても、それを「布状」に加工してしまえば、繊維と繊維の間の摩擦で音速エネルギーが損なわれてしまいますし、繊維と繊維の隙間から「空気」が漏れてしまいます。この問題に対し、YAMAHAはユニット形状に整形したザイロンの繊維に「モネル合金」を「蒸着」させることで対応しました。つまり、ザイロンの表面を金属(モネル合金)で覆ったのです。通常の繊維なら、金属を蒸着するとその温度で溶けてしまいますが、ザイロンの融点は600度と非常に高いことが、幸いしたのです。
共鳴管の原理を生かした、吸音システム「R.S.チャンバー」 ユニットの材質へのこだわりを解決したYAMAHAは、次にユニットの後ろ側に発生する音を「吸音材を極力使わず、ストレスなく吸音する方法」を考えました。この「吸音材を極力使わない」という考えも、現在ハイエンドスピーカーのトレンドになっていて、B&Wはあの独特な「丁髷」のような吸音管をツィーターの後ろにつけていますし、Focalは「IHL(Infinite Horn Loading)」と名付けた、吸音材を使わないチャンバーを開発しています。 YAMAHAは、ユニット背面に共鳴のピークを長さが異なる左右2本の共鳴管で打ち消すR.S.(ResonanceSurpression)チャンバー(特許出願済)を装着することで吸音材を使わず、ユニット背後に発生する不要な音波の消音を実現したのです。 共鳴管の原理を生かした、ウーファーの動きを阻害しないエンクロジャー R.S.チャンバーの開発(特許出願中)でツィーターとスコーカーの理想的な吸音に対処したYAMAHAは、同じ原理を使ってエンクロージャ内部で発生する「定在波の処理」を考えました。 NS-5000は、最近では珍しい「箱形(レキュタンギュラー)」形状をしています。この形状では、そのサイズ(寸法)に比例する「定在波」が盛大に発生し、低音を濁らせます。そのため多くのメーカーは、平行面を持たずラウンドした形状のエンクロージャーを採用しています。では、なぜYAMAHAは時代に逆行するような箱形エンクロージャーを採用しているのでしょう? その秘密も「共鳴管による吸音システム」にあります。 箱形形状のエンクロージャーでは、発生する定在波の周波数を計算で求めることができます。YAMAHAは、ACP-2などの調音パネルの開発で得たノウハウを投入し、NS-5000のエンクロージャーが発生する共鳴周波数の定在波を効果的に除去するコンパクトなJ字型共鳴管を開発し、それを「アコースティックアブソーバー(特許出願済)」と名付けて、エンクロージャー内部左右各一本の合計2本を採用し、エンクロージャー内部の吸音材をほとんどなくすことに成功したのです。 さらにYAMAHAは、エンクロージャーに対しレーザースキャンによる計測と最新のFEM解析を駆使し、人間の聴覚では検知できないレベルでエンクロージャー内部での残響(箱鳴り)がどのように生まれ、どのように再放射されるかを高精度にシミュレートし、それを効果的に消し去るための補強桟をエンクロージャーに追加する事で、吸音材を使わなくてもスピーカーユニットが発した音が効果的に吸音し、自然な響きのなかに圧倒的なS/N感を再現する独自のエンクロージャーを完成させたのです。 これまで必要だった大量の吸音材のほとんどをなくすことができたNS-5000は、音楽本来の自然な響きを蘇らせることに成功しただけではなく、吸音材を詰めた従来のエンクロージャーに比べてウーファーの高域特性が素直に伸びることで、このクラスのスピーカーとしては非常に珍しい「ウーファーの高域カットを-6dB」とすることが可能となり、8cmミッドレンジとのスムースな音の一体感を実現しています。 試聴環境 今回の試聴は、3号館のデジタルコンサート(奥側の部屋)でカーペットの上に「AIRBOW WFB-4449HD」を置き、その上に「WELLFLOAT WELLDISC」を設置、NS-5000+専用スタンドをスパイクベースを使わずに設置しました。 CDプレーヤーの「YAMAHA CD-S3000」、プリメインアンプの「YAMAHA A-S3000」に加え、真空管アンプ「AIRBOW Stingray Ultimate」とデジタルパワーアンプ「TAD M2500Mk2+C2000」をCDプレーヤー「TAD D1000Mk2」と組み合わせて使いました。
センターに、YAMAHA ACP-2を縦方向に置いています(機材とそのセッティングは、下の動画をご覧ください)。
試聴会後感想 結果を先に述べると「NS-5000」は、「期待に応える力を持っているスピーカー」です。 けれど、NS-5000は「誰がどのように鳴らしても、簡単に鳴るスピーカー」ではありません。 長所は、すべてのユニットにザイロンを使ったことによる「音色の統一感」です。 NS-5000で聴く楽曲は、それぞれの楽器の特徴とその音のデリケートな変化が見事に再現されます。ボーカルも目の前で歌っているようにリアルです。YAMAHAがNS-5000で標榜した「フルレンジスピーカーのような統一感」は、見事に実現しています。 欠点は、「低音の共鳴」と「フロントバッフルからの反射」にあります。 共鳴管を使いエンクロージャーの不要な響きを吸収するシステムは、「理想的な条件下」では、実に見事に働きます。けれど、不規則な動きを繰り返す音楽信号がウーファーに入力されたとき、アンプの制動力が弱いと「ウーファーが不要に動く」ため、特定の周波数が「膨らんで」しまいます。これは、YST方式採用したヤマハのサブウーファーが持つ欠点に共通しています。今回は「AB級アナログアンプ」を搭載するYAMAHA A-S3000、「真空管アンプ」を搭載するAIRBOW Stingray Ultimate、「デジタルアンプ」を搭載する、TAD M2500Mk2でNS-5000を鳴らしましたが、低音が上手く鳴ったのは、デジタルアンプの「M2500Mk2」と真空管アンプの「Stingray Ultimate」でした。A-S3000では、音量を上げると低音が遅れて膨らみ、音場が濁りました。 つまり、NS-5000のウーファーは「正確に止める=デジタルアンプ」か、「無理に止めない=真空管アンプ」が良さそうなのです。もちろん、真空管アンプを使った場合、低音は止まらないので「激しいジャズ」や「ロック」など、ベースのリズムセクションが音楽を決める楽曲との相性は良くありません。けれど、真空管アンプとの組合せではNS-5000本来の持ち味である「開放的な音色の良さ」が生かされ、バラード系のボーカルやクラシックなどは、ストレスを一切感じない心地よい音で鳴ります。 デジタルアンプを組み合わせた場合、低音の膨らみはほとんど気にならなくなり、激しい音楽にも対応します。ただし、注意しなければならないのは「音色の良いデジタルアンプ」を選ぶことです。今回使った、TAD M2500Mk2は「下手なアナログアンプを確実に超える音色の再現性」を実現している優れたパワーアンプですが、初期のデジタルアンプのように「音色が単調な製品」を組み合わせると、NS-5000の良さは発揮できないでしょう。 吸音材を使わないエンクロージャーの採用。反射の大きい平面バッフルの採用。6dBの緩やかなクロスオーバー・ネットワークの採用。これらの特徴は、ビンテッジのフルレンジスピーカーが持っていた特徴とよく似ていますが、NS-5000の音質もまさしくそれに似ています。NS-5000はその旧態依然とした外観通り「現代的HiFiスピーカー」ではありません。 NS-5000は、一人の職人が苦労して作り上げた「人間的な暖かさ」を持っています。そして、音楽ファンの「パッション」に正しく答えてくれます。NS-5000は、YAMAHAが考える「N(Natural)、S(Sound)」を見事に現代に結実させています。このスピーカーが再現するのは、再現しようとするのは「音楽」であって「音質」ではありません。それが、YAMAHAと同じように現代に蘇った「Technics」の製品と全く違うところです。YAMAHAほどの大企業が、こんな「規格外の商品」を作れるとは、通常普通考えられません。それが許されるのは、YAMAHAが「楽器を作るメーカー」だからかも知れませんが、NS-5000の存在は、日本のもの作りの「誇り」とさえ思えるのです。 私は、YAMAHA NS-5000の音に「YAMAHAの熱いパッション」を感じ、とてもうれしくなったのです。 2016年10月 逸品館代表 清原裕介 |
|