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レコードプレーヤー マット ターンテーブルシートFunk Firm Achromat 音質 試聴 比較 評価 レビュー 試聴The Funk Firm(ファンク ファーム) アナログ ターンテーブル シート Achromat (アクロマット) 音質テスト イギリスのアナログプレーヤーメーカー「Funk Firm」から発売されている、高音質ターンテーブル・マット(レコードプレーヤー ターンテーブル・シート)"Achromat"の音質テストを行いました。 私が愛用しているターンテーブルシートは、紙とコルクから作られた「Ringmat」です。イギリスで作られるこの製品は、廃業したオーディオ輸入代理店「ハインツ」が20年近く前に輸入していたものです。なんとか日本でも販売できないか、入手ルートを探ったのですが不調に終わり、それに近い製品として目をつけたのが「Achromat」です。 現在発売されているターンテーブルシートは、「振動吸収型」と「振動調整型」の2つに大別できます。 前者の代表的なものは、ソルボセインなど振動吸収に優れた「ゴム(高分子)系」の材料を使うものです。しかし、これらのシートを使ってレコードを聞くと、細かい音まで聞こえるようになりますが、響きがなくなってレコードらしい広がり感や、快活さが失われます。音も暗くじめじめします。 カーボンを使うシートは、含浸している樹脂の量が多いと前者に近づき、少ないドライカーボンでは後者に近くなるようです。しかし、全般的にカーボン製品は高価です。 これらに対し、後者に属するのが「Ringmat」や、今回ご紹介する「Achromat」です。紙や発泡素材を使うこれらの製品は、響きを損なわず不要な共振だけが吸収され、細かい音が出ると同時に、広がり感や透明感、躍動感も向上します。素材がそれほど高くないので、価格は安いですが音は良いと思います。Teacから発売されている「和紙(TA-TS30UN-BW)」を使ったターンテーブルシートも同じ傾向の製品です。AchromatはFunk Firmが厳選した密度の「発泡素材」が使われています。 Funk
Farm製品の特徴は「自然な音」です。それも、ただ癖がなく聞きやすだけではなく、目を閉じるとそこに「演奏者が実在する」かのような、高いリアリティーが特徴です。今回試聴に使ったレコードプレーヤー「Little
Super Deck」も価格帯性能に優れ、高品質なアーム付きで30万円弱の価格です。 Funk Firm(ファンク ファーム) Achromat メーカー希望小売 10,000円(税別) Funk Firm(ファンク ファーム) Achromat2 メーカー希望小売 12,000円(税別) Funk Firm(ファンク ファーム) Achromat SL1200 メーカー希望小売 15,000円(税別)
試聴環境 今回は、Funk Firmがラインナップする"Achromat"3種類すべてを、Funk Firm レコードプレーヤー"Little Super Deck"付属品のフェルトマットと聞き比べてみました。 試聴には、ortofon MCカートリッジ"Q5"とフォノイコライザーアンプ"QUAD QC24P"を組み合わせました。 Funk Firm (ファンク ファーム) Little Super Deck メーカー希望小売 260,000円(ブラック仕上げ・税別) Funk Firm (ファンク ファーム) Little Super Deck メーカー希望小売 280,000円(ウッド仕上げ・税別)・受注発注
AIRBOW PM10 Ultimate メーカー希望小売価格 780,000円(税別)(現金で購入)・(カードで購入)・(中古で探す) Vienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G) (現金で購入)・(カードで購入)・(中古で探す) 今回の比較試聴は、YouTube 逸品館チャンネルで、ご覧いただけます。
試聴ソフト 今回、新たに試聴に加えたレコードは、パイオニアが監修しロブスター企画から発売されていた、オーディオ店の販売になる高音質盤「アン・バートン、Some Other Spring」です。このレーコードは、日本国内のスタジオで「ダイレクトカッティング」で収録されたものです。さらにアマゾンから「キース・ジャレット、ケルン・コンサート(2枚組)のレコードを購入して追加しました。 追加した2枚のディスクは、録音状態に優れるだけではなく、オーディオマニアによく知られていることや、現在もCDやハイレゾの購入が可能なので、ご自宅で「逸品館でレコードを録音したアナログ」とお手元にある「デジタル」を比較していただけると思います。
音質評価
付属フェルトマット レコードらしい滑らかで聞きやすい音です。ピアノは音色が美しく、奏者のタッチの変化がダイレクトに伝わります。ボーカルは滑らかで艶っぽく、子音が適度にクッキリして、発音の変化や抑揚のアクセントがよく分かります。ベースは、太く量感豊かですが、膨らまずに上手く鳴ります。低音は安定し、高音は滑らかに抜けるので、回転してるレコードから音が出ている感じがありません。Firm(ファーム)は日本語で「安定」という意味ですが、まさにそういう音が出てきます。 細かい音もしっかり出て明瞭度も高いのですが、リテイクができないダイレクトカッティングの「緊張感」が良い具合に緩和されるのか、自然と笑顔になれるような音が出てくるところにも好感を抱きました。オーディオの「行き過ぎ感」を感じさせない高音質と自然な感じが見事に両立した音で、Some Other Springが軽やかに鳴りました。
ピアノの響きが引き締まってアタックが硬質になり、良い意味で「タッチの曖昧さ」がなくなりました。音が消えるところでの「静寂感」も高まっています。ボーカルは、子音がよりクッキリして明瞭度と解像度が向上しました。ウッドベースも、輪郭がハッキリしました。一つずつの音がハッキリして分離感が向上し、レコードが高音質盤になったような変化です。
ピアノでは、左手の重厚感と密度感が向上しました。ウッドベースも低音がさらに"ぐっ"と伸び、ボーカルも質感が高まっています。3mmとの一番の違いは、音が良くなっただけではなく「ダイナミックレンジ(音の大きい小さいの対比)」が大幅に向上して感じられるところです。ボーカルが力を抜いたところと入れたところ、ピアノストのタッチの違い、ベーシストの指の動きがとてもリアルに感じられます。
このモデルは厚みが5mmですが、ターンテーブルシート裏側に「Technics SL1200のターンテーブルにピタリとはまるような加工」が追加されています。 この加工のため、表側からの見た目や厚みは変わらないのですが、音質は少し違っていました。 ウッドベースやピアノは、ボーカルと綺麗に分離しながら、完璧に近いハーモニーを生み出しました。
付属フェルトマット 純正マット(付属品)で聞く「Little
Super
Deck」の音には、独特の柔らかさと滑らかさがあります。どこといって突出した特徴のない音ですが自然な感じで、じわりじわりと体の中に染みこんできます。 安心して音楽にどっぷりと身をゆだねられる。それが、Funk Farmの基本的な音色のようです。
デジタルに負けている!と感じていた、付属品で聞くこのレコードの低音の密度感としっかりした感じがデジタルに匹敵するまでアップしました。けれどアマンダの声質は、少し抑えた感じになって、歌っている感じや説得力は純正マットの方が好きだったように思います。 低音と高音がしっかり伸びましたが、純正マットの味わいであった「響きの良さ」は若干後退し、音の純度の高まりに比例して味わいがやや希薄になりました。 純正マットは生演奏の雰囲気、3mmはオーディオ的な高音質感を同じレコードから引き出します。いい音ですが、純正マットで伝わってきた「郷愁」のような哀しさの味わいは薄くなっています。
シンセサイザーの密度感と重量感が、一段と深まりました。アマンダの声は、純正マットよりも暗くなっていますが、表現力は3mmよりも深まっています。見かけはそれほど「吸音」しないように見えるマットですが、以外に制振・吸音効果は高く、音の純度の高まりに反比例して響きの良さが減っているようです。
SL1200は他モデルと違って吸音しすぎる嫌いがなく、響きが付属品よりも長くなり、音も明るくなります。縁をカットしたために響きが増したのか、あるいは材質が異なるのか、どちらにしても音色はSL1200が一番好きです。 3mmと5mmで聞くこの曲には、ごく僅かですが違和感がありました。SL1200には"それ"がなく、演奏にすっと入って行けます。 アマンダさんの伝えたい哀しみ、歌心がダイレクトに心に伝わってきました。
付属フェルトマット 高音は生のパイプオルガンほど鋭くありません。金管楽器の高音も少し控えめですが、良い意味で先端がほんの少しだけ丸くなり、ヒリヒリした神経質な感じが上手く消えています。 コーラスの部分では分離感とハーモニーの混ざり具合の「加減」が絶妙で、とても「いい感じ」に鳴ってくれます。 生演奏と「同等」ではありませんが、生演奏を実にリアルに感じさせてくれます。これでもう一息音色に輝きと、切れ込みに鮮やかさが欲しいですが、その部分は「カートリッジのグレードアップ」で簡単に実現するはずです。 Little Super Deckには、Thorensのレコードプレーヤーほど「盛られた感じ」はありません。「等身大」、「あるがまま」にレコードの溝に記録された演奏を弾き出してくれる、信頼できるレコードプレーヤーという感じです。
純正マットで聞くこの曲は、わずかにカジュアルすぎると感じました。 3mmを使うと音の重心が下がり、やや浮ついていた音がしっかり安定します。余計な響きや濁りだけが除去されるので、この曲らしい「静寂なイメージ」が上手く醸し出されます。コーラスも人数が増えました。 回転しているレコードの「揺らぎ」を全く感じさせない、安定した音でカンターテドミノが鳴りました。
情報量(音の数)が増えました。パイプオルガンらしい重厚なサウンドが魅力的です。金管楽器のハーモニーも美しく、音が切れた部分の静寂感の表現も良好です。女声コーラスと男声コーラスの声色の違いも完璧です。滑らかで潤いのある質感は、やはりレコードならではです。 以前の試聴レポートでも書いていますが、Q5はそれほど「良くない」と思います。けれどそれがここまで良い音で鳴るのは、Funk Farmの実力の高さでしょう。
Achromat、Achromat 2で僅かに足りないと感じていた「高域の明瞭度」がSL1200では出ました。演奏にメリハリがついて、パイプオルガンらしいエネルギー感も力強く、静寂の中からようにすっと立ち上がってくる女声コーラスの入り方も好印象、男女の声色の違いも明瞭です。鋭いパイプオルガンと柔らかい人の声の対比も、見事です。 あまり良いとは思えないQ5をこれほど上手く鳴らすのは、脱帽ものです。
ortofon Q5ではFunk Firm Little Super Deckの実力を発揮しきれないと感じたので、カートリッジをPhasemation PP-500に変更し、カンターテドミノとをもう一度、さらにケルン・コンサートを聞くことにしました。 付属フェルトマット カートリッジを変えると音質が大きく変わり、純正マットでもずっと不満に感じていた「高音の鋭さの不足」が完全に解消されました。パイプオルガンの「勢い」が全然違っています。オルガンの音階の変化、コーラスの分離感、ベールが何枚も剥がれたように鮮烈な音です。 これが、求めていた熱いレコードのサウンドです!
ortofon Q5では、響きが減少し音がやや重く窮屈に感じられましたが、PP-500では余計な響きが減少し、音がしっかりしました。 女性ボーカルでは、沈み込むような深みが醸し出されます。男性ボーカルとの分離もより明確で、それぞれの楽譜の違いが容易に聞き取れました。 演奏の緻密さ、深みも変わっています。 この曲では「パイプオルガンのミスタッチ」があるのですが、そういうミスが、人間的な暖かさを伴うイメージで再現されます。 パイプオルガンが主役の時、伴奏の時のオルガンの音色の違いも明確になりました。 Q5を装着した"Little Super Deck"には、ネガティブに感じられる部分もありましたが、PP-500ではそれがなくなって、良い部分だけがクローズアップされました。
音の出始めのタイミングが正確になり、音量の変化も大きくなりました。音楽を表現するために必要な「情報」がぐっと増えています。 オルガンの「パイプの数」が増えました。パイプの中を通過する空気に、速度感があります。低音と高音のパイプ位置の場所が違うこと(前後の奥行き)まで聞き取れます。金属的なパイプの共鳴と、柔らかな空気の響きの対比も再現され、金管楽器も鋭さと柔らかさが両立します。オルガン奏者のミスタッチも演奏の邪魔になりません。 女声コーラスは厚みが増して、人数が増えたように感じられます。混声部でも男女の声が混ざることで生まれる厚みが表現されました。
当初からずっと感じている「回転しているものから音が出ているとは思えない安定感」があります。デジタルよりも安定して、音が揺れていない、音階が安定している、と感じるこの安定感はいったいどこから来るのでしょう? レコードの剃りやカートリッジの揺れが全く感じられないのは、スタイラスがレコードと確実にコンタクトしているからでしょう。外観や作りは少し「雑」に感じるところがありますが、この精密ななり方はこの価格帯のレコードプレーヤーでは、あまりないと思います。 動画はありません
付属フェルトマット この曲をレコードで聞くのは初めてですが、デジタルとはずいぶんと「音」が違います。 まず、ピアノの響きが多すぎること、高音の響きに「音程の揺らぎ」が感じられること、これは、録音時に何らかも回転ムラが生じていたのかも知れないと思うほどです。響きや倍音の成分もデジタルよりも少なく感じます。この音であれば、私はレコードではなく「デジタル(CDでも十分)」を選びたいと思ったのですが、少し曲が進みキース・ジャレットが一音一音に深い思いを乗せながらピアノを弾いている箇所にさしかかると、「一音の重み」、「一音に凝縮された思いの深さ」がレコードの方がより深く感じられるようになってきました。 キース・ジャレットがピアノと一緒に歌っているところでは、当初に感じた「違和感」など完全に消えて、演奏にぐんぐん引き込まれます。整然と並べられる音階とリズムが見事です。その「並び方」を聞いているだけでも、芸術性の高さを感じずにいられません。 ピアノの音だけではなく、キース・ジャレットの声、足を踏みならす音、すべてが融合し美しい世界を作り上げて行きます。
付属フェルトマットで感じていた「余計な響き」が見事に消えました。 濁りが消えたことで、キース・ジャレットのタッチがより明確に浮かび上がります。 ピアノの音は、まだ不自然に揺れていますが、それが「レコードの揺らぎ」ではなく、ピアノの調律の問題かも知れないと感じられるようになりました。もし、この揺れがアナログ系の回転ムラが原因なら、低音やタッチそのものにも揺れが生じるはずだからです。 約3分が経過すると、演奏の雰囲気が変わります。楽譜を使わず、すべて即興で行われたこの演奏は、3分が過ぎてキーズ・ジャレットの頭の中で構想がしっかりと固まったのでしょうか? 約5分を過ぎ、キース・ジャレットがピアノと共に歌い始めると、演奏の世界観が明らかに変わります。
ピアノの響きの美しさ、倍音の重なりの美しさが変わります。また、打鍵感に「早さ」だけではなく、「重さ」が出ます。 グランドピアノをこれほど軽々と、ためらいなく弾けるのは驚嘆に値します。
ここに来てピアノの高音の音程が揺らぐ感じは、ほとんど感じられなくなりました。 改めて耳を凝らすと、そのゆらぎは録音による揺らぎではなく、ヒアノの中で響きがぶつかり合っていると分かりました。デジタルであまり気にならなかったその揺らぎを強く意識するようになったのは、響きの成分が多く、響きも長いアナログだからでしょう。 ターンテーブルシートをSL1200にすると、音の角が少しまろやかになります。とは言え十分生音に匹敵するほど鋭いのですが、明瞭度がほんの少しだけ低下することで、芸術性が深まり、演奏に奥行きが出ます。 Little Super Deck+SL1200+Phasemation PP-500で聞くこの曲は、直接音と反射音、響きの音量と質感のバランスに優れ、生のピアノをその場で聞いているような印象です。 キース・ジャレットがピアノをころころと転がして戯れるような雰囲気、ゆったりとした左手のメロディーラインと、素早く変化する右手のメロディーの対比も見事です。 試聴後感想 今回、デジタルでよく聴いている曲をアナログで聴きました。 結果、デジタルとアナログのどちらが良いか?は、最後まで結論は出せませんでした。なぜなら、アナログ・デジタルのどちらにも長所と短所が存在するので、甲乙付けがたいのです。 アナログの良さは認めます。それにしかない「魅力」が存在することも。 けれど利便性の高さや、長期にわたって音質が全く変化しないこと、スペースファクターの優位性、そして何よりも「劣化しないこと(傷もつかない)」などの理由で、私はデジタルからレコードに戻ることはありません。 デジタルはアナログ2かなわない。 とか、 ハイレゾでなければ伝わらない感動がある。 とか、 いろいろな技術に明白な優劣を付けようとするのは、それを飯の種にしているメーカーや、それをたわいもない噂話の種にしているマニアだけで十分です。 オーディオは、演奏家の気持ちを伝えてくれれば、それで十分。音の善し悪しは、二の次です。 「どちらの音が良いか?」 そんなくだらない論議に振り回されて、聞くべき音楽。出合うべき名演奏を聞き逃したなら、それほどの不幸、それほどの損失はありません。 2018年3月 逸品館代表 清原裕介 |
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