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上級モデルL590AXのテストでは、癖がなくストレートなその音にA590A2からの変化が感じ取れた。L550AXにもそういうやや現代的な音を予想したのだが、その予想は完全に裏切られた。A550AXは前作A550A2と同じ伝統あるラックストーンをしっかり継承している。
A級らしいきめ細かな音で、ボーカルは優しく艶っぽく、ノラ・ジョーンズのため息が聞こえるように雰囲気のある鳴り方をする。ピアノのアタックは若干丸く響きは少しクリーミーだが、それがピアノらしい厚みを音に与えている。
中音が少し先に出て、高音は滑らかで優しく続く。低音はわずかに遅れて、音楽をゆったりと表現する方向に躾けられている。またこの音速の違いが、L550AX特有の豊かな立体感を演出する。高域のレンジ、低域のレンジはさほど広くないが、中域にウェイトを置いてうまくまとめられている。BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)がまるでフルレンジスピーカーのようにバランス良く穏やかに鳴る。体がゆったりと包み込まれるような大人の音。高性能と言うよりは、高音楽性に大きく振れた音だが、こういうまったりとまろやかな鳴り方こそがラックスマンが大切にしてきた伝統のサウンドだろう。ラックスマン・ファンの期待を裏切らない音でノラ・ジョーンズが鳴った。
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この演奏はLos
Angeles Chamber Orchestraが演奏しているが、L550AXで聞くと他のアンプで聞くよりも楽器の台数がやや少なく、ホールのスケールも小さく感じられる。もうちょっと音数が欲しいところだが、音楽の表現には嫌な部分がない。自然で滑らか、音符をすべて「スラー」で繋いだような流れるようなメロディーでバッハが鳴る。
オーディオ的に「音」を聞こうとすると、周波数レンジ感や情報量に少し不満が感じられるが、音楽を聞こうとすると知らない間に演奏と同化し、聞き入っている自分を感じる。国産アンプとしては希有な傾向だ。
全体的には甘く、やや明るく、「のどかな春」を感じさせる雰囲気を醸し、実に心地よく音楽が聴ける。こういう温かく優しい鳴り方を求める音楽ファンは決して少なくないはずだ。もし性能一本槍の硬い音、平面的な現代サウンドに辟易されたなら、L550AXをチョイスすると気持ちがぐっと楽になるはずだ。
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おおよそL550AXに相応しくないソフトとして、このFutureを選んだ。中音は力があるが、独特な響きを伴い違和感がある。ボーカルは滑らかで艶めかしいが、安室らしい元気な感じがしない。低音は押し出しもあるが、かなりウェットで重い。デジタルシンセの音がアナログシンセのように甘く響きを伴い、POPS/ROCK的な弾ける感じがなく、大げさに言うとちょっと演歌がかって聞こえるような感じだ。
聞いていて不愉快な感じはしないし、音楽としてもまとまってはいるが、スパイシーなカレーがお子様カレーのように甘くなってしまった。美味しいけれど、音楽のジャンルが変わっている。
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Focal
1028BEと550AXの相性は、BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)よりも良い。
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)との組合せでは、やや甘口に過ぎた部分が1028BEでは改善され、より自然な感覚で演奏を聴けるようになった。
ピアノのアタックは打撃感がきちんと出る。ウッドベースの分離も良くなった。ギターの切れ味も鋭くなり、キ〜ンというギターらしい味わいがきちんと感じられる。ドラムのブラシワークもリズミカルで良い感じだ。ボーカルの子音がクッキリして発音が英語らしくなり、ノラ・ジョーンズが演歌歌手から本物のJAZZボーカルへと変化した。
レンジの広い高性能スピーカーを組み合わせたことで、再生周波数帯域が広くなりオーディオ的に聞いても納得できるサウンドでノラ・ジョーンズが鳴る。だが音が良くなったからといって、音楽がつまらなくなってしまったらそれは本末転倒だ。しかし、安心してよい。Focal 1028BEとL550AXの組み合わせは、相当なグッドバランスで実に美味しくノラ・ジョーンズを鳴らす。
BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)から比べると、ステージへグッと近づいた音だ。ベールが何枚も剥がれて、ミュージシャンに近づいた音でノラ・ジョーンズを聞けた。このバランスは。オーディオの一つの完成形に近いかも知れない。
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今までに様々なアンプを組み合わせて1028BEを鳴らした経験から言うと、L550AXは1028BEを「鳴らし切っている」とは言い難い。BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)と比べるとかなり情報量は増加したものの、まだ絶対的な音数は少なく感じられるからだ。
それでもBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)から1028BEにスピーカーを変えたことでバイオリンとチェロやコントラバスの分離は明確になり、各パートの音符がハッキリと見えてきた。複雑に絡む音や響きのバランスは絶妙でとても心地よく心が引き込まれるサウンドだ。情報量が少ないと知らなければ、この音で全く文句は出ないだろう。スピーカーを変えてもL550AXのバランスの良さは、そのまま生かされた。
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スピーカーをFocal
1028BEに変えたことで空間がすっきりとし、見通しが良くなる。高域のちゃらちゃらした感じ、ちょっとうるさい感じが出てくるが、それに伴ってドラムやベースの音が「止まる」ようになる。
低域がもやもやして締まらないときに「低域の駆動力」を疑う人が多いが、それは間違っている。例を挙げて説明しよう。太鼓をティンパニーのように「柔らかいもの(フェルトを巻いたバチ)」で叩けば、ド〜〜〜ンという柔らかく広がる低音が出る。同じ太鼓を和太鼓のように「硬いもの(木のバチ)」で叩けばドンという引き締まった音が出る。ギターの場合は爪を立てずに弾けば「柔らかく響く音」が出るし、爪を立ててきちんと断弦すれば「鋭く透明に響く音」が出る。吹奏楽器も「タギング」をきちんと入れることで音の明瞭度が上がる。これらはすべて「アタック=高域」が音をハッキリさせるからだ。だから、低域を締めたければ高域を改善しなければならない(波動ツィーター)。
スピーカーを変えたことでL550AXの高域は改善し、高音の切れ味と低音の引き締まり感が大きく向上する。演歌のように聞こえたPOPSが、きちんとPOPSとして聞けるようになる。このソフトでも1028BEとL550AXの相性は非常に良いことが確認できた。
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低域が膨らみがちになるTurnberryとL550AXの組み合わせでJAZZが鳴るとは思わなかったが、これが意外に良かった。その理由を説明しよう。Tannoyの低域が膨らむのは使いこなしが難しいからだ。上手く鳴らすと意外に良質な低音が出せることはあまり知られていない。
Tannoyを上手く鳴らすためには「ホーンの癖」、つまりその指向性の強さ理解する必要がある。レーザーセッターを使うのが最も簡単に問題を解決する方法だが、それを使わない場合も左右どちらかを鳴らしながらセッティングを詰めるのは必ずやって欲しいと思う。Tannoyほどセッティングに敏感なスピーカーは、他にあまり見かけないからだ。
Turnberryのホーンの切れ味の良さが、L550AXの高域の緩さをうまく緩和して、1028BEで感じたような「グッドバランス」な音が鳴るようになる。子音の強さは1028BEほどではないが、発音は英語っぽくなりボーカルの実在感がぐんと増す。オーバダビング録音されたハーモニー部分の分離も非常に良好で、耳に心地よい。Tannoyで懸念される低音の緩さは、エンクロージャーの共鳴がわずかに多く感じられるが、BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)よりは良質で適度にウェットに感じる程度だ。ピアノは音色が鮮やかで、重厚感も心地よい。楽器とボーカルの分離も抜群。分離した音が重なってハーモニーを奏でるという、理想的な音のバランスが実現する。
やや牧歌的なイメージでJAZZが少しカントリー調になるが、ノラ・ジョーンズの音楽自体そういう傾向があるのでそれも悪くないだろう。Turnberryからなかなか良い感じで、ノラ・ジョーンズが聞けることに驚いた。
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低域が少し不足することを除けば、ほぼ完璧に近いバランスでヒラリー・ハーンが聞ける。もちろん、オーディオ的な耳で聞けば低域が曇る、高域の伸びやかさが足りないなどの不満を感じるかも知れない、しかし、現実(生)のコンサートと比べるならば、今聴いている音の雰囲気は限りなくそれに近い。
高域は少しベールがかかったように感じることがあるが、ホールの最上級の席に座るのでなければ大体こんな感じだ。低域もやや量感が少ないが、それは音量をあまり大きくしていないせいもある。音楽ファンでTannoyを選ばれるお客様が多く、特に弦楽器(バイオリンなど)を演奏する方はTannoyを選ばれることが多い。今鳴っている音を聞いていると、それが納得できる。客席で聞いているシンフォニーのイメージにとても近い音が出ているからだ。
確かにスケールは小さくなっているのだが、バランス良く精密に縮尺されているので頭の中でそれを拡大すれば原寸大の演奏を想像するのは容易いことだ。日本のアンプは音楽性に欠けると言われ、オーディオ機器は海外製品が少なくない。しかし、L550AXは良い意味で例外だ。オーケストラレーションをこれほど美しく、完璧に再現できるアンプはそれほど多くない。
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低音はしっかりと出る。今回組み合わせたスピーカーの中で最も量のある低域が出る。しかし、ボーカルはまるでマスクを掛けて歌っているように曇ってしまう。楽器の音はそれほど悪くないのだが、ボーカルがあまりにもひどすぎる。
ノラ・ジョーンズの声は全く問題がなかったのに、Futureの安室の声がマスク越しになるのがとても不思議だ。まあ、その曇った声さえ我慢していれば「聞けない」ということはない。ミスマッチングの見本のような音で聞きたいとは思わないが、これしかなければ聞いていたいという音で意外に嫌な感じはしなかった。