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UNISON RESEARCH ユニゾンリサーチ S6 S8 PERFORMANCE パフォーマンス 音質 試聴 比較 テスト リポート


UNISON RESEARCH (ユニゾンリサーチ)
Performance (パフォーマンス) 、 S8/2 、 S6/2
音質比較試聴テストリポート

独自の回路で魅力ある音色を奏でる、UNISON RESEARCH(ユニゾンリサーチ)の興味あるモデル3機種を聞き比べてみました。写真左から、[S6] 、 [S8] 、 [Performance]

Performance

Performance(パフォーマンス)は、KT88を3本パラレルでシングル駆動させた出力40W/chの巨大なプリメインアンプです。その外観はお気に入りのSinfoniaと比べても2倍くらいの大きさで、重量も50Kg!一人で動かすのはかなりの力持ちでないとちょっと難しいほどの超弩級アンプです。

主な特徴及び機能(輸入代理店エレクトリホームページより抜粋)

UnisonResearch社は、過去20年間にAbsolute845やSimplyTwoなど数々のインテグレーテッドアンプ名機をデザインしてきました。インテグレーテッドアンプの設計は単体のプリ/パワーよりも複雑で、シングルシャーシ設計の場合、高感度のゲインステージを電源や出力ステージによる干渉から影響を受けないよう、高度な技術が要求されます。

『Performance』管球式インテグレーテッドアンプは、三極管動作の良さをハイパワーで実現、優美なデザインで包みました。高安定で定評あるKT88出力管を3本パラレルで三極管接続させる新設計の出力トランスによりウルトラリニア構成が可能になりました。パラレル動作時の真空管を安定動作させる回路を加えシングル動作でありながら40W+40Wを出力します。

UNISONでは真空管回路においてもバッテリー供給に限りなく近い電源供給方法を見出しました。真空管の理念を忠実に維持しながら、各真空管にパワーMOS-FETで直流を供給する回路は、トランスフォーマーセカンダリの整流電圧と出力ステージの供給電圧との間に独立のB電圧ステージを置きフィルタキャパシタの負荷電流を調整し、円滑な継続性をもたらします。

もう1つの大きな利点として、信号増幅にかかわるフィルタキャパシタ全体の高効率化があります。本機はシングルシャーシですが、内部回路には入力から電源部まで全く同じ単独のアンプが2つ搭載されたデュアル-モノ構成を採用し、左右チャンネル間の電子的、電気的な干渉を防止しています。

両サイドに大型ラジエータを備え、トップカバーに優雅なカーブを描くステンレスプレートを採用、低熱伝導の「amegnetic」素材は、6本のKT88の下部にある回路を熱から保護し、安定性、音質、全体の信頼性を高めています。またシャーシにはナチュラル・ベジタブルベースのラッカーで仕上げた無垢のイタリアンチェリー材を巧みに配して優雅さ高品位さと同時に金属製シャーシのような共振ダンピングが生じないよう、緻密にデザインしています。この構造によって、マイクロフォニックノイズを受けやすい真空管デバイス自身が生成する不要な共振効果を排除しています。

プリアンプ部及びパワーステージドライバーにはECC83及びECC82双3極管をパラレルで使用し、優れたリニアリティ、低い高調波歪みを実現、出力インピーダンスを下げ、信号ラインのS/N比を上げています。

コントロールはIRリモコン付属で、高精度ポテンショメータ、入力セレクションを行ないます。選択された入力は、フロントパネルにあるLEDで表示されます。入力セレクション及びテープモニタ操作は金メッキ、密封シールドリレーにより、信号パスを最小限に抑え、信号劣化を回避、高い信頼性を維持しています。

真空管アンプの最も重要なコンポーネントである出力トランスはUNISONで精密設計され、ドイツ製の純良なラミネートコアとスイス製高純度リッツ線を使用、電源トランスとともに自社の製造プロセスで入念に組み立てられています。

その他のコンポーネントも厳選の上、真空管ベースに純粋セラミック、基板にヴェトロナイトを採用、無誘導抵抗からフィルタキャパシタまで、高信頼のイタリアItalcond製及びドイツSiemens製を使用しています。回路設計はユニゾンのすべてのアンプを手がけているGiovanniMariaSacchettiが担当しています。

フロントパネルのセレクターやボリュームのノブは、無垢の「amegnetic」ステンレススティール塊から切削加工されており、絹のようななめらかな手触りを味わえます。40W+40Wの豊かな高出力で暖かく優しい三極真空管の世界をお楽しみ頂けます。

製品仕様

■構成:純A級 3-パラレルシングルエンドウルトラリニア管球式インテグレーテッドアンプ

■入力感度:0.14V

■入力インピーダンス:47kΩ/50pF

■入力端子:CD,AV,Tuner,AUX/Phono(Phonoイコライザー必要)

■録音再生端子:in/out各1系統

■最大出力:40W+40W

■出力インピーダンス:4Ωor8Ω

■出力管バイアス方式:セルフバイアス

■周波数特性:10〜100kHz±1dB

■全高調波歪率:0.5%(最大出力時)

■使用真空管:KT88x6、ECC82(12AU7A)x2、ECC83(12AX7A)x2

■消費電力:400W

■電源:ACI00V、50/60Hz

■SimplyPhono用電源出力装備:リアパネル出力端子

■仕上げ:木部:イタリアンチェリー

■外形寸法:W600×D480×H235mm

■重量:50kg

■付属品:IRリモコン

■価格:1,350,000円(税別)

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音質評価

Sinfoinaの上級モデルに心を躍らせながら、AIRBOW SA10/ultimateとVienna Acoustics T3Gを組合せて電源を投入する。この組合せは、P70/P40の聞き比べで使ったのと同じ物だ。

CDプレーヤー  AIRBOW SA10/Ultimate

スピーカー  Vienna Acoustics T3G

通電直後の音は中域に厚みを感じるものの、低域がややどろどろして高域が抜けきらない、鼻にかかったような音だ。ディスクを数枚聞くと高域のもやもやが消え「ちょっと気になる音」が出始める。

 "UVA" EPO TOCT-9148/49 (CD2枚組み)

“UVA(葡萄)”は、デビュー15周年を迎えたEPOが、1995年2月〜3月にかけて旅をした“中南米ツアー”の模様を中心に編集されたMADURA(ポルトガル語で完熟という意味)SIDEと、前後数年間のコンサートのレパートリーに織り込まれた作品を、スタジオライブ(いわゆる一発録音)で収録したVERDE(ポルトガル語で碧いという意味)SIDEにより構成された、2枚組のCD。編集を介さない自然な音楽の流れ、アコースティック楽器と彼女の美しいヴォーカルが心を暖かく癒します。“こんな音楽に出会えて良かった”それを実感させてくれるお気に入りのアルバムです。

彼女の声の厚みに肉声の柔らかさと、マイクを使って増幅した声や楽音の“独特の重圧感(厚み感)”が出る。ギターの分厚い押し出し感(ギターアンプでを増幅した時に感じられる体を押す音)が半端じゃない。

あらゆる音がきめ細かく、そして分厚く聞こえる様は、まるで最高級のV8ビッグトルク・エンジンでスピーカーを駆動しているようなイメージだ。

すべてを圧倒するほどの、もの凄いパワー感が印象的に残った。

CDプレーヤー  AIRBOW SA10/Ultimate

スピーカー  Zingali 1.12

このパワー感を生かすには、やはりスピーカーは「ホーン」しかない!と直感したのでスピーカーをZingali 1.12に変えて同じ曲を聴く。

ボーカルがさらに厚みを増し、これでもかというほどの説得力で語りかけてくる。明らかにちょっと行き過ぎだ。しかし、その「虫眼鏡で唇を拡大して見ているようなオーディオ的感覚」は、決して不愉快なものではなく、どちらかと言えば「快感」・「快音」と呼ぶべき種類のものだ。

EPOを充分に堪能してディスクを変える。

 “ROMANTICO” 南佳孝 VICL-61441

南佳孝の楽曲で有名なのは「モンローウォーク(セクシー・ユー/郷ひろみ)」だと思う。歌手としては、あまり表舞台に出ない彼だけれど、アコースティックな響きを重視した濁りのない彼の生み出す“大人の味わい深い”サウンドは、私のお気に入りの一つ。このアルバムも電子楽器や、複雑な編集なしに作られている。彼は好んで原宿のライブハウス「スィート・ベイジル」でライブを行っている(残念ながら私は、彼のライブを聞いたことがない)から、東京近郊なら一度出向くのも良いかもしれない。スィート・ベイジルは、私が知る中でも音質が抜群によいライブハウスの一つだから。そういえば、EPOも時々スィート・ベイジルでライブをやっていたなぁ。大阪からスィート・ベイジルは遠いけど、足を運ぶだけの価値のある時間に出会える気がする。

低音のこの圧倒的な厚みはどうだ!ビルのガラス窓が震え、窓が枠から外れてしまいそうなほどの空気の震え。低域をブーストしたスピーカーから出る、ライブのあの感覚!重圧感たっぷりのこのすさまじい低域に、真空管ならではの柔らかさとニュアンスの濃い中高音が乗っかってくるから堪らない!

何とも言えない、ものすごく「ゴージャス」な味わいだ。同じゴージャス系のMcintosh真空管アンプですら、これと比べたらオモチャのように感じてしまうだろう。しかし、それはMcintoshの責任ではない。Mcintoshはあくまでも「常識の範囲内」で遊び心を聞かせてくれる。パフォーマンスは「非常識極まりない」。ちょい悪じゃなく、極悪なアンプなのだ!

余りのすごい迫力に圧倒されて、レポートを書くのを忘れてしまった。ギターやベース、ドラムだけではなく、ピアノが聴きたくなってきたから、ディスクを入れ替える。

 “INSOMNIA” 鬼束ちひろ TOCT-24560

デビュー直後から話題になったミュージシャン“鬼束ちひろ”のファーストアルバム。根っからの天の邪鬼な私は、人の噂を信じない。だから、騒がれる新人のアルバムにはめったに手を出さないのだけれど、職業上それが許されないから、話題のアルバムは出来るだけ購入して聴くようにしている。でも、その多くが一枚を聴かない内に、ゴミ箱行きになる(もったいないから、捨てないけれど聴くことはない)。最近、それがとても酷い。ほとんどのアルバムは、一聴にすら値しないようなものばかりだ。“INSOMNIA”も音は良く歌も決して下手ではなかったけれど、曲調の「暗さ」が気に入らなくて、積極的に聴くことはなかった。それでも「ゴミ箱行き」にならなかったのは、どこか心を打つ所があったからだ。気に入らなくてCDラックに戻し、気になってCDプレーヤーにセットして、そんなことを繰り返している内に「彼女の主張」が何となく分かるようになってきた。彼女の歌は厭世的に聞こえるけれど、実は前向きな希望に満ちている。それに気づいたときから、彼女のファンになった。このアルバムジャケットの彼女は「素足」だ。それは靴下をはいて謳うと「声が濁る」ことを彼女が嫌うから。オーディオ機器がインシュレーターやボードで音が変わるように、ヴォーカリストは靴で声が変わる。私は前から知っていたけど、それを「自分の歌」に取り入れている歌手を知ったのは、彼女が初めてだった。そこまで「音=表現」にこだわる彼女だけれど、このファーストアルバムを越える作品は未だ作れていないように感じるのが少し残念だ。

ピアノの厚みがすごい。体を取り巻く空気感、エコー感もすごい。

音が濃い。本当にコンサート会場に居合わせていても、こんなに濃い音は聞けないだろう。

本物を越える「強烈な実在感」だ。それは、言うまでもなく明らかに「オーディオ的に作られた音」なのだが、こういう方向の着色、脚色を心地よく感じる人は少なくないはずだ。私もその一人だ。

私は通常アンプのテストは一人で行う。周りに人がいると、集中が阻害されるからだ。特にとなりで聞き耳を立てられると、たまらなく苦痛を感じる。だから、めったにライブには行かない。もっぱら音楽はオーディオで聴く質だ。

しかし、Performance(パフォーマンス)からはあまりに「面白い音が出る」。これは一人で聞くのはもったいないと、社員を呼んで一緒に聞くことにした。

音が出た瞬間、彼らも驚いている。その圧倒的な厚みと実在感に度肝を抜かれて興奮している。立て続けに、いくつかのソフトをかけてみるが、音楽的に誇張されたパフォーマンスのもつ過剰感と心地よさは変わらない。

このまま騙されている(騙している)のも「幸せ」なのだが、社員が誤解すると困るので私が気づいたPerformance(パフォーマンス)の「嘘」を暴くため、ソフトとシステムを切り替えて「比較」を行うことにする。

比較テスト

比較に用いたシステムは、AIRBOW UX1SE/LTDとCU80SP/MU80FTのAIRBOWトップグレードの組合せだ。

CDプレーヤー  AIRBOW UX1SE Limited

アンプ   AIRBOW CU80 Special MU80 Fine Tuned

アンプ  Unison Research Performance

スピーカー  Zingali 1.12

CD+アンプを換えると同時に、ソフトをそれまで聞いていた「音楽」から「フェラーリのエンジン音(雑誌カーグラフィックのおまけに付いてきたCDシングル)」が収録された「音楽でないもの」に変える。スピーカーはZingali 1.12を変えずに使う。

AIRBOWのアンプで聞くフェラーリF1マシンのエンジン音は、高域に切れ味があって今にも壊れてしまいそうな程刹那的だ。耳を劈くような「切れた高音」が出る。

アンプをUnison Research Performance(パフォーマンス)に切り替えるとどうだろう?音楽ではあれほど圧倒的なパワー感があったPerformance(パフォーマンス)で聴くF1フェラーリのエンジン音には、まったくエネルギーが感じられないではないか!F1ではなく、軽自動車のエンジンが無理をして回っているような苦しい音。こんな排気音はフェラーリではない。AIRBOWシステムと比較すると、高域の明瞭度立ち上がりの鋭さがまったく不足している。

 F−1 Team Lotus PSCR-5042

もう一枚、今度はF1のピットで録音されたロータス(コスワースV8)とピットの音を聞く。

Performance(パフォーマンス)で聞くそれは、ラジオやTVで聞く「マイクと増幅器を通した音」でしかない。現場そのものの雰囲気は、全然伝わってこない。

アンプをAIRBOW CU80SP/MU80FTに変えると、社員の顔色が変わった。本当にピットに居合わせる雰囲気が出たからだ。

圧倒的な高域〜超高域のリニアリティー。工具の触れる硬い金属音もエンジンの爆音も、それらしく再現される。オイルの焦げる臭いまで感じられるほどだ。

Performance 総合結果とAIRBOW比較テスト

この二つのシステムで音が全然違う事が、「F1のエンジン音」という「リニアリティーを試すテスト」で明らかになった。

F1のエンジン音だけではなく、逸品館がお薦めしている「環境の音のCD」でも同じ結果になっただろうことは、想像に難くない。私が社員に「誤解して欲しくなかった」のは、この二つの「明確な違い」なのだ。

今一度アンプをPerformance(パフォーマンス)に戻し、今度は「音楽」を聞く。音楽を聞いている限りパフォーマンスのリニアリティーは非常に高く、その情報量の多さ(音が厚みを持って数多く聞こえる)や、エネルギー感は抜群だ。音の万華鏡の中心にいるような心地よい世界。その世界に見事に騙される。やっぱり抜群の音質だ!

すでにお気づきの方がいらっしゃるかも知れないが「音質評価」ではCDプレーヤーにAIRBOW SA10/Ultimateを使っていたが、F1エンジン音の比較では、UX1SE/Limitedを使った。そこで社員の勉強を兼ね、CU80SP/MU80FTでこの2機種プレーヤーの音質比較を行ってみた。

CDプレーヤー  AIRBOW SA10/Ultimate

CDプレーヤー  AIRBOW UX1SE Limited

アンプ   AIRBOW CU80 Special MU80 Fine Tuned

 

スピーカー  Zingali 1.12

価格が大きく違うので仕方ないが、この2機種の比較も残念ながら勝負にならない。基本的な情報量が全く違うのだ。

 SA10/ULの音は悪くないが「音にならない部分の音(音に隠れた音)」までは再現されない。従って、UX1/SE/LTDで感じられるような「現場にいるような臨場感」までは伝わってこない。

CDプレーヤーをUX1/SE/LTDに変えると、どうだろう?一瞬にして、レースの興奮が心の底からふつふつ湧き上がってくる。毛穴が開くような興奮が体を包む。圧倒的!としか表現できない。

CDプレーヤー  AIRBOW SA15S1/Master

アンプ  AIRBOW PM15S1/Master

さらに社員へのAIRBOW新製品のプレゼンを兼ねて、CDプレーヤーをSA15S1/MATERアンプをPM15S1/MASTERに変えてF1(ロータス)を聞く。

ピットの音がマイクで録音された雰囲気に変わる。音の細やかさや分離感はかなり高いが、中音の厚みや低音の力感が減退するため、相対的に中高音が勝ち気味に感じられ、雰囲気感が軽くなってしまう。実在感が弱い。

 “INSOMNIA” 鬼束ちひろ TOCT-24560

F1を音源に使うことでCDプレーヤとアンプ、それぞれの個性と性能が明確になった。このテストで感じたこと、学んだことの復習を兼ねて、ソフトを音楽に戻してそれぞれを聞き比べる。

F1のような差は全く感じられなくなる。もちろん「価格なりの差」はあるのだが、F1の音で比較するほど“それ(音質差)”が気にならない。絶対的な性能ではなく、それぞれの音調(個性)で音楽を楽しめるようになるからだ。

オーディオは面白い。音楽をソースにする限り、原音と全く異なる歪みの多い音でも、そこで原音が鳴っているとしか思えないほど見事な音で鳴ることがある。スピーカーではタンノイがそうだ。 例えばタンノイ(同軸2wayの昔ながらのモデル)で聴く楽器の音は美しい。しかし、映画の効果音などはこもった音に聞こえ、今ひとつ冴えない音になる。

Unison Research Performance(パフォーマンス)はTANNOYほど極端ではないが、やはりそれと同様に高域の音抜けは褒められたものではない。しかし、それに対して中低域は圧倒的な情報量と厚みを持つ。あるいは高域を減退させたために、低域の情報量が増えたとも考えられる。これは、初期のSACDが高域を伸ばしすぎたために中低域が薄くなったのと真逆の傾向であり、興味深い。

Performance(パフォーマンス)は、ハッキリと饒舌なアンプである。

演奏を生よりも生々しく、生よりも艶やかで華やかに聞かせてくれる。

このアンプには、「人を幸せにする魔法」がかけられている。

絶対的な性能を求めず、その魔法を暴かなければ幸せになれる。しかし、それに抵抗すれば120万円という高価なアンプを購入したことを後悔することになる。

付け加えなければならないのは「ノイズ」のことだ。そう切り出せば、普通「やはりノイズが大きいのか」と想像されるだろう。驚くべき事にパフォーマンスはZingali 1.12という高能率のスピーカーを組み合わせているにもかかわらず、ノイズが一切出ない。

ホーンに耳を近づけても何の音も聞こえないのだ!

もちろんウーファーからのハム音も全く聞こえないから、本当にアンプを繋いでいるかも分からないほどだ。

トランジスターアンプでもこれほどまでにノイズのない製品は、めったにお目にかからない。真空管でそれを実現したPerformance(パフォーマンス)は音のみならず、そういう意味でもすごいアンプだと思う。

S8 U

S8Uは大型真空管845をシングル動作させた出力18W/chのプリメインアンプです。

主な特徴及び機能(輸入代理店エレクトリホームページより抜粋)

『S8/II』管球式インテグレーテッドアンプは、デザインの優美さと、管球シングル出力でありながらダイナミックな躍動感をもつ旧モデル『S8』の電源平滑回路にチョークトランスでなく、新設計の真空管の高圧にも対応した安定化平滑回路(pat.pend.) をディスクリートで構成、定格での連続出力にも全く安定した極めて滑らかな直流変換を達成しています。

UV845 直熱三極管 が持つ素直な力感とその比類ない透明感ある音質を活かした回路設計、その回路構成は、高S/N 比、低損失、高信頼性を備えています。

回路構成に必要な部品は最少でありつつ、効果的で最も質の高い部品を使用しています。基板はパターンに銀箔を使用、配線材には純銀線を使用、そして半田にも銀を含有したものを使用し導体内のストレスを低減しています。

出力段は、名球 UV845 直熱三極管を最もシンプルに活かすシングル構成、NFBの値もバランスのよい12dB、また真空管アンプの最も重要なコンポーネントである出力トランスは、コンピューターを使用して精密設計され、ドイツ製の純良なラミネートコアとスイス製高純度リッツ線を使用、入念な製造プロセスをもって組み立てられています。電源トランスも同様な高品質を誇ります。また、長期間にわたり高品質を維持するため、各パーツは安定度と信頼性を重視して選別されています。

ユニゾンではアンプの設計で最も重要なプロセスは、数多くのジャンルの音楽再生を異なったタイプのスピーカーで行うことだと考えます。『S8/II』は、何百 時間にもおよぶ試聴と改良を経て完成しました。

回路設計はユニゾンのすべてのアンプを手がけているGiovanniMaria Sacchetti、ボディデザイ ンは、イタリアンデザイナーとして名声を得ているClaudio Chiarello が担当しています。

フロントパネルは、無垢のイタリアンチェリー材にナチュラル・ベジタブルベースのラッカーで 仕上げています。そしてネームバッジは、Vicenza の金属加工ワークショップの伝統的手法で精 巧に細工されています。セレクターとボリュームのノブは、無垢のステンレススティール塊から切削加工されており、絹のような滑らかな手触りが味わえます。18W+18W の高出力による豊かさと、管球シングルの暖かさ、優しさが両立しています。

製品仕様

■構成:純A級シングル管球式プリメインアンプ

■入力感度:0.14V

■入力インピーダンス:47kΩ/50pF

■入力端子: CD,AV,Tuner,AUX/Phono (Phono イコライザー必要)

■録音再生端子:in/out 各1系統

■最大出力:18W+18W

■出力インピー ダンス:4 Ω or 8 Ω

■フィードバック(NFB):12dB

■出力管バイアス方式:セルフバイアス

■周波数特性:10-100kHz ± 1dB

■全高調波歪率:0.5%(最大出力時)

■使用真空管:UV845x2、 ECC82(12AU7A)x3

■消費電力:320W

■電源:ACI00V、 50/60Hz

■仕上げ:木部無垢イタリアンチェリー

■外形寸法:W420×D440×H260mm

■重量:30kg

■付属品:IR リモコン、 真空管保護カバー

■価格:780,000 円(税別)

(生産完了しました)

音質評価

スピーカーはZingali 1.12をそのまま使って、845シングル18WのS8/2を聞く。

CDプレーヤー  AIRBOW SA10/Ultimate

スピーカー  Zingali 1.12

 Swing for Joy EGO-WRAPPIN' RDR-1024

通電した直後は低音が足りず高音がやけにシャンシャンした、うるさい音だった。ボーカルの子音はざらつくし、ベースの音は奥に引っ込んでショボショボ鳴っている。なんだこれ?全然良くないなぁ。と思いながら1時間ほどならすと音が変わってきた。Performance(パフォーマンス)もそうだったが、今回送付されたデモ機はほとんど使われていなかったのだろう。そのために電解コンデンサーを始めとするパーツが初期化され、音がこなれるまでに数時間を要したのだと思う。

温まってからのS8/2の音は「まとも」である。Performance(パフォーマンス)のような強烈な個性(癖)はなく、周波数特性も聴感上ほぼフラットな感じに聞こえる。

どちらかと言えばトランジスターアンプの音に近い、P70やP40との類似性を感じさせる音質だ。それでも中域から高域にかけて真空管らしい滑らかさや細やかさを感じさせるが、78万円という価格を私に納得させられる音ではない。悪くはないが、魅力にも欠ける。そんな音だ。これなら私はSinfoniaを選ぶ。

CDプレーヤー  AIRBOW SA10/Ultimate

スピーカー  Vienna Acoustics T3G

う〜ん、これは!?と思いながらスピーカーをT3Gに変えるとどうだろう?出てくる音が、がらっと変わった。

中域から高域にかけてシングル方式の真空管アンプらしい高い透明感と瑞々しい滑らかさが感じられる。

スピーカーのグレードを大幅に落としたのに、出てくる音は明らかに良くなっているのが不思議だ。

低域も充分にパワーがあるし、気になっていた高域のざらつきも消えた。

Performance(パフォーマンス)で感じたのは、出力トランジスターが複数使われる方式のトランジスター方式アンプと同じ「中低域の圧倒的な厚み」である。それと引き替えに、高域にやや濁り(曇り)感を感じるのも素子をパラレル駆動するトランジスター方式アンプとよく似ている。

これに対し真空管を一本/chしか使わないS8/2の音は、出力段が一つのトランジスターで構成される、いわゆるシングルプッシュ方式のトランジスターアンプに似た、スッキリとした透明なサウンドと、見通しの良いクリアな音場が実現する。

その音はあくまでもスィートでチャーミング。T3Gとの組合せで出る、この音なら78万円を正当化できる。パワー感も十分だ。しかし、純粋に“音”で評価するなら、わたしはやはりSinfoniaを推すだろう。

彫刻のような立体的なデザインと、光り輝く大型の真空管。その外観の圧倒的な「存在感」を求めるならお薦めしたい。それがS8Uだ。

S6 U

S6Uはオーディオ用として人気の高い真空管EL34を3パラ動作させた出力30W/chのプリメインアンプです。

主な特徴及び機能(輸入代理店エレクトリホームページより抜粋)

『S6/II』管球式インテグレーテッドアンプは、EL34 使用のユニゾン・リサーチの中でもっともハイパワーな30W+30W をシングル3パラで出力します。

その回路構成は、高S/N 比、低損失、高信頼性を前提に設計されています。回路構成に必要な部品はできるだけ少なく、かつ効果的で最も質の高い部品を使用しています。基板はパターンに銀箔を使用、配線材には純銀線を使用、そ して半田にも銀を含有したものを使用しています。

出力段は、名球EL34 を最もシンプルに活かすシングル構成、また真空管アン プの最も重要なコンポーネントである出力トランスは、コンピューターを使用して設計され、純良なコアとリッツ巻線を使用、入念な 製造プロセスをもって組み立てられています。電源トランスも同様な高品質を誇ります。また長期間にわたり高品質を維持するため、 入出力端子は良質な金メッキを施しています。

ユニゾンではアンプの設計で最も重要なプロセスは、数多くのジャンルの音楽再生を異なったタイプのスピーカーで行うことだと考え ます。『S6/II』は、何百時間にもおよぶ試聴と改良を経て完成しました。その課程の中でNFB の値も10dB に決定されました。

回路設計はユニゾンのすべてのアンプを手がけているGiovanni Maria Sacchetti 、ボディデザインは、ハイエンドオーディオのデザイナー として名声を得ているClaudio Chiarello の手になります。フロントパネルは、無垢のイタリアンチェリー材にナチュラル・ベジタブルベースのラッカーで仕上げています。6本のEL34パワー チューブの保護と同時に熱の危険性を防ぐため、クロームメッキのボンネットが施されています。そしてネームバッジは、Vicenza の金属加工ワークショップの伝統的手法で精巧に細工されています。セレクターとボリュームのノブは、無垢のステンレススティー ル塊から切削加工されており、絹のようななめらかな手触りを味わえます。

静かに音楽を聴くのみでなく、フロアー型の大型スピーカーも朗々と鳴らす実力を誇ります。しかもピアニッシモからクレッシェンドまで管球シングルならではの暖かく優しい響きで音楽空間を包みます。

製品仕様

■構成:純Aクラス管球式プリメインアンプ

■入力インピーダンス: 47kΩ/50pF

■入力端子: CD,AV,Tuner,AUX/Phono

■録音再生端子: in/out 各1 系統

■最大出力: 30W+30W

■出力インピーダンス: 4 Ω ・8 Ω

■周波数特性: 10-100kHz ± 1dB

■使用真空管: EL34 × 6/ECC82 × 2

■全高調波歪率: 0.3% (出力電圧1V 時)

■消費電力: 265W

■外形寸法: W330×D450×H200mm (含突起部)

■正味重量: 25.0kg

■価格: 540,000 円(税別) 生産完了しました。  Unison-research 真空管アンプのご注文はこちらからどうぞ

音質評価

最後にS6/2を聞く。今までのUNISON-RESERCHのこのクラスのプリメインアンプは、音が硬く細かい音もあまりでなかったので、個人的には好みではなかった。その私の見識を覆したのがSinfoniaである。そういう経緯の食わず嫌いもあってS6/2はテストしていなかった。聞くのはこれが最初である。

CDプレーヤー  AIRBOW SA10/Ultimate

スピーカー  Vienna Acoustics T3G

 Swing for Joy EGO-WRAPPIN' RDR-1024

音が出た瞬間、あれっ?と思った。イメージしていた音と違ったからだ。

S6/2の音はシングル方式真空管アンプらしい透明感とプッシュプル方式真空管アンプのような中低域の厚み感が両立したものだ。

ベースは弾力的に弾む。真空管ならではの肉質感の強い音が心地よい。サックスもパワフルでリードだけが鳴っている感じがせず、管全体の音が上手く出る。ドラムは少し湿っぽいがパワー感は十分だ。ボーカルは最も真空管らしく滑らかで適度に艶やかだ。ギターの色彩感も上手く出る。

誤解して欲しくないのは、S6/2は「良くできた真空管アンプ」だということである。多くの真空管マニアがいう「真空管らしい音」というのは、高域が伸びないどろどろした音であると思う。AIRBOWのTRV-35SE/Dynamiteも上下の両端がすっと伸びた、聴感上フラットな周波数特性を持つが故に“そういう真空管マニア”には誤解されることがある。

S6/2の音はTRV-35SE/Dynamiteと同じ傾向のフラットな音だ。トランジスターであると言ってしまえば、それで通じるかも知れない。それくらいフラットで癖の少ない自然な音だ。しかし、やはりトランジスターでは味わえない、滑らかさや艶やかさを感じさせてくれる。

CDプレーヤー  AIRBOW SA10/Ultimate

スピーカー  Zingali 1.12

スピーカーをZingali 1.12に変えて聞く。

T3Gを鳴らしたときにも感じたことだが、やや音が薄い(希薄)な感じがする。密度感が低いと言えば伝わるだろうか?輪郭はあるが中身の細かさが少し薄い感じだ。レコードならそういうことはないのだろうが、初期のCDで感じられた「薄さ」の様なものが少し感じられる。

組み合わせているCDプレーヤーは「CDらしくない音の厚み」で評価の高い、AIRBOW SA10/ULなのでプレーヤーの問題ではない。

音調は心地よく、低音も適度に弾むが、Zingali 1.12を鳴らし切るには「少し役不足」という感じがする。

もちろん絶対的に出ている音は悪くない。ほとんどの人は、この音を聞けば驚くはずだ。

でも最近、本当に空前絶後の良い音に巡り会い過ぎている私には、(特にパフォーマンスを聞いた後では)S6Uの音が薄味に感じられる。

このアンプはもう少し小型で鳴らしやすい(高能率の)スピーカーと組み合わせると良いだろう。TANNOYのスターリングやターンべーリー、あるいはAutograph MINIといった製品や、ウィーンアコースティックならT3G-B程度のスピーカー、PMCならTB/GB/FBなどの2wayモデルが似合いそうだ。QUADも良くマッチするだろう。

癒し系の音を求めるが、特定の音楽だけではなく全般にいい音で聞きたい。大音量でスピーカーを鳴らせないが、暖かくリッチな音で音楽を聞きたい。そういうリクエストにS6/2は、癖のない自然な鳴りで答えるだろう。それを求める人にとって、42万円という価格は決して高くはないものだ。

真空管アンプの音

トランジスターアンプに比べ周波数特性は狭く、ダンピングファクターは小さく、歪み率は大きく、データー的には一切優位性を持たないのが真空管アンプです。しかし、その音はスィートで暖かく、人の心を打ちます。その理由は?なぜ真空管アンプの音は耳に優しいのか?その謎について少し考えましょう。

真空管アンプの音がスィートなのは、真空管の構造に起因すると私は考えています。真空管は、カソードとプレートという「二つの板(筒)状の電極」の間に「グリッド」という「網目状の電極」が入った構造になっています。

詳しい動作の仕組みは省略しますが、真空管の増幅(音作り)は、音声信号を「グリッド」に流し「カソードからプレートに流れる電子をグリッドで物理的(電気的)に制御」することで行われます。

このとき、「グリッド」が物理的な作用を受けて「振動」すれば、その振動はそのまま「音声として増幅」されます。これを実験で確かめるためには、プリアンプの真空管(プリメインアンプの小さな真空管)を指ではじけば、「スピーカーからコンコン」と増幅された音が聞こえることで分かります。

グリッドに音声信号が流れ、カソードからプレートに流れている電流を制御すれば、その反作用としてグリッドに力が加わります。グリッドに力が加わるとグリッドは「音声信号に合わせて振動」します。その「音声信号に合わせた振動が音として再生」されます。これを繰り返すことで、真空管を通過する音声信号には「真空管の信号による変調」が負荷されます。

話を分かりやすくしましょう。石という言葉通りにソリッドで振動する部分がないトランジスターに比べて、真空管アンプの構造は振動に弱く、音楽信号に共振します。 真空管が入力される音楽に合わせて振動すると、その振動が入力された音楽信号に「エコー」となって負荷されます。この真空管が生み出す「音(共振)」がカラオケのエコーのように作用し、音を甘く音場の広がりを大きくするのです。真空管アンプには音響エフェクターが搭載されていると考えられます。真空管を交換すると「真空管で付加される響きが変わる」ため「音が変わる」のです。

真空管にはいくつかの種類がありますが、構造は直熱/傍熱、3極/多極に大別でき、形状はストレートな形状のもの/直感型(EL34など)と曲面を持つもの/だるま型(300Bなど)に分けられます。 真空管が生み出す「美音」は物理的な要素によって生じますから、真空管自体の響きを考えるとその球の特徴が想像できます。

直熱管は、電子が飛び出すカソードにフィラメントが使用されるため、グリッドの振動に加えてフィラメントの振動によって生じる音がエコーに加わります。カソードに使われているフィラメントは細く、さらにある程度のテンションを持って張られているため、それがバイオリンのE線(一番細い線)のように働き、非常に高い周波数で共鳴します。そのため直熱管の音は超高域に独特の癖が生じます。高域の明瞭度が高く、切れ込み鮮やかなのが直熱管の特徴です。

傍熱管はカソードをフィラメントによって加熱するため、直熱管のようなフィラメントをカソードに使う必要がありません。傍熱管のカソードは強度の高い金属板で出来ているため、直熱管に比べ高域の共鳴が小さく、高音に芯が出ます。しかし、直熱管のような鮮やかさはありません。

3極管は構造が単純なため共振の音に濁りがなく、透明感のある美しい音になります。多極管は生じる共鳴が複雑になり、3極管に比べると高域が濁る傾向がありますが、それが独特の厚みを生み出すことがあります。

外観の特徴もそのまま音に出ます。太い球からは太い音が、細い球は高域よりの細い音が出ます。真空管を爪で弾くと「キ〜ン」というような響きを生じますが、その響きが美しければその球の音は悪くないはずです。全く響かない球(6C33C)などはトランジスターのような音しか出ません。中国製の300B(すべてではありませんが)のように「ジャ〜ン」という濁った音が出る球を使うと、アンプの音も濁ったものになりがちです。

同じ形式の真空管は差し替えることができますが、そのアンプが元々使っていた球が「そのアンプのオリジナルの音」です。UNISON-RESEARCHのようにかなり聞き込んで作られたアンプの場合、オリジナル以外の球を使うと音が悪くなることがあるので注意が必要です。

多くの真空管マニアは300B/2A3/EL34/KT88/6L6のように真空管の形式=アンプの音の特徴と考えているようですが、これは明らかな間違いです。同じ300Bでもウェスタンのものと中国のものは、全く異なる音です。またウェスタンでも作られた年代や工場によって音が異なります。それは、真空管の「固有の響き」が材料や構造によって変わるからです。真空管に使われる「ガラスの質や厚み」ですら、真空管の音質は大きく左右されます。それが、中国球とオリジナル球の音の違いになって現れているのです。真空管自体の「製造コスト」は大きく変わらないはずですから、中国製の真空管の中で300Bが「特に高く売られている」のは、私にはまったく納得できないことです。

私が考える「真空管による音質の特徴」は、こんな感じです。例外もありますし、この考え方が正しいという保証もありません。ましてや、いかなる場合にでも「想像(妄想)」によって、アンプの音を決定づけることは大変危険です。あくまでも参考としてお考え下さい。

しかし、今回テストした3台のアンプは、この考え方に上手く当てはまるようです。

UNISON-RESEARCHの使うKT88は、いわゆる「だるま型」と呼ばれる丸みを帯びた形状をしています。この球を使ったUNISON-RESEARCHのアンプからは、その見た目通りの「太い音(特に中低域が太い)」が出ます。また、同じ球を多く使えば、その傾向は増長されます。

Sinfoniaは、実に球らしい中域の厚みと低域の押し出しに魅力があります。

同じKT88をより多く使っているPerformance(パフォーマンス)は、その傾向がさらに増長されています。少し行き過ぎた感じがありますが、その逸脱した感じが独特の魅力を生み出しています。

S8/2は「すらっとした845」の見かけ通り、フラットな音を出します。大型の球なのでパワー感があります。

また、直熱三極管の特徴で高域の切れ味が爽やかで、ギターなどの切れる音(アタックの部分)やハープの断弦音の鮮やかさは特に魅力的です。

ボーカルは輪郭が強調され定位感(口が小さくまとまる)や、唇の動く様子を虫眼鏡で拡大したような強調感が生まれます。この「音が近くに感じられる」という、オーディオ的に強調された音質が魅力的に感じられます。

S6/2は「長さと太さのバランスの良いEL34」らしい、清楚な音が出ます。大きな癖を感じさせず、トランジスターにはないほのかに甘い真空管の音が感じられます。嫌みのない音のアンプです。

代表的なUnison Researchの真空管アンプはこれですべて聴きました。

その結果、一番最初に気に入ったSinfoniaが個人的なベストであることに変わりはありません。それに対し、最も可能性を感じるのはPerformanceです。それ以外の製品も上手くまとまって個性的でしたが、これでなきゃ!と惚れ込めるのはSinfoniaとPerformanceでした(どちらも同じ形状のKT88を使っていたのは、偶然ではないかも知れませんね)。

あとがき

今私は、「歪みのない均一な音の出るオーディオなんて面白くない」とハッキリ感じています。一枚のディスクから千差万別の音を出せるのが、オーディオの面白さだと確信するからです。しかし、この「確信」に至る道程は、険しいイバラの道でした。

昔、私が疑問に感じたのが、「音が変わる」なら「音楽も変わる」のではないかと言うことでした。音楽は音で心象を伝える芸術ですから、音が変わることを恐れるのは当然のことです。多くの技術者も「原音忠実再生」こそ、オーディオの「正しいゴールである」と考えているようです。

しかし、マイクで収録した音楽をスピーカーで再生するという「乱暴な方法」に於いて、「原音忠実再生」を求めること自体が間違っているのではないでしょうか?確かにアンプやCDプレーヤーの歪みは、レコードに比べて非常に小さくなっています。でもスピーカーの歪み率は?マイクの歪みは?それらは数十%を越えています。つまり、収録され再生される音の「数割」が、すでに「歪み」なのです。その上、スピーカーから出る音が直接耳に届くのは「たった数割」で、残りは部屋の反射音や残響音なのです。

これらを含めて考えた場合、いったい「現場の音」の中のどれくらいの「割合の音」が、「原音に対し忠実に再生」されているのでしょう?それを考慮した上でも、原音を追求する「科学的な意味」があると考えられるでしょうか?オーディオに於ける音楽再生をとことん追求して考えた結果、私には「原音忠実再生」こそ馬鹿げた技術のマスターベーションだと思えるのです。

音楽と絵画を対比して考えましょう。例えば、画家は「固定された色の光」でその作品が鑑賞されることを意図して絵画を描く色を選んだでしょうか?決してそんなことはないはずです。時間と共に「名画の色」は、変化していないでしょうか?元と同じ色であるはずがありません。ではなぜ?どんな光の下で見ても、時代によってその色が色あせても、名画の感動は変わらないのでしょうか?

感動が変わらない理由を、私は「絶対的な感覚(測定できる絶対値)」ではなく「、相対的な感覚(人間が最も得意とする、くらべるという感覚)」に鍵があると考えています。つまり「色彩」も「音色」も絶対的な「数値」ではなく、それぞれの「相対的な関係」が保たれていれば、感動は歪まずに伝わるのだと思うのです。

話を音に限定するなら、「早い音と遅い音」、あるいは「鋭い音と丸い音」、「明るい音と暗い音」、そういう私たちが音の中に感じる「様々なコントラスト(様々な対比」の「バランス(スケール)」が、一定に保たれていれば「音楽(感動)は歪まずに伝わる」と思うのです。

これに対し、今回あえて試聴に使った「F1の音」で明らかになったのは、「絶対的な音質」の重要性です。F1のエンジンのように「他の何かとの比較で鋭い」、あるいは「硬い」と感じられるのではなく、その音自体が「絶対的な鋭さ」あるいは「通常あり得ないような硬さ」を持っている「特別な音」の場合には、その音の持っている物理特性の「絶対的な特徴(相対的ではない)」が再現されない限り、人間にはその音が「嘘くさく」聞こえてしまうと思うのです。

多くの場合、音楽表現において「絶対」は意味を持たないと考えられます。なぜなら、「五線譜」という音楽の表記自体が「絶対的」なものではないからです。その証拠に、多くの西洋音楽は「楽器を変えても」音楽の内容が大きく変わることがありません。バッハの楽曲は、その好例だと考えられます。

しかし、一部の民族音楽の中には「楽器を変えることができない音楽」が存在します。ガムラン、ケチャ、ターラ、アフリカの民族音楽は、楽器の種類を変えて演奏が成立するでしょうか?それは不可能です。これらの音楽は「五線譜」ではなく、遥かに情報量の多い「口伝」によって伝えられてきたため、楽器に求められる「絶対的な音質までも含めて伝えらてきた」のでしょう。これらの音楽をオーディオセットで再生するときには、相対的な音質だけではなく「絶対的な音質」も強く求められるのは、当然のことです。それらの音楽には質の対比だけではなく、「音自体に大きな意味がある」からです。

言い換えれば、西洋音楽の要素である「メロディー」、「リズム」、「ハーモニー」自体が、「相対的なスケールによって表現される」ものであり、それらを再生するためには最低限、「相対的な音質が整っていれば問題がない」と考えられるのではないでしょうか?(少し乱暴な結論ですが、一定の示唆はあると思います)

このような考えで、それぞれのアンプの音質をもう一度評価してみましょう。

Performance(パフォーマンス)は「音色」の表現に長けていますが、民族音楽のような「瞬時のアタック」で構成される「切れ命」の音楽は苦手です。そのため、クラシックのように楽器とリスナーとの距離が離れていて「間接音(アタックの弱い、柔らかい音)」を主体とする音楽や、電気的に増幅されてアタック自体が不明瞭になっている、POPSなどに適しています。

AIRBOW UX1/SE/LimitedとCU80Special/MU80Fine Tunedの組合せは「瞬時のアタック」も含め、音を非常に正確に再現するため、Performanceが苦手とする「民族音楽」も正しく再現します。特にガムランやターラなどの東南アジア系の民族音楽を聞くなら、AIRBOWでしかダメ!と断言して差し支えないほど、今回テストしたオーディオセットの中で「生音に対する絶対的な精度」は群を抜いて優れていました。そういうと正確一本槍のつまらない音のように聞こえますが、虚飾を廃し真実を暴き出すその音にはPMCと同じように、過剰な色を抜いた事から生まれる「美」や「艶」が感じられます。

AIRBOW SA15S1/Master、PM15S1/Masterは、一般的なオーディオマニアがまず最初に望む「解像度の高さ(細かい音までハッキリ聞こえること)」を大切にしながら、それに負けない中音低音の厚みを実現し、音楽的にも癖がない方向の音作りが感じられます。

海外製品に比べると細かいけれど味が薄いような、国産製品にありがちな音のようにも聞こえますが、さらに聞き込んでゆくと、音のみならず音楽表現のデリケートさも非常に細やかだと分かるはずです。音量を下げてもハッキリといろいろな音が聞こえるので、その音を聞いていると知らない間に音楽に引き込まれている。そういう不思議な魅力のある音質です。

そういう、AIRBOWの「整った音」を聴いた後に改めてPerformance(パフォーマンス)聴くと、そういう「精度」とは全く無縁であるが故に、いきなり体が揺れ出すような、一緒に歌いたくなるような、もの凄く情熱的なエネルギーが感じられます。それこそがイタリアの血、イタリアの音なのです。

AIRBOWが実現している「音楽的な高忠実度」と、Unison Researchに感じる「表現的な過剰さ」は、全く異なる要素です。両立させられれば一番良いのでしょう。しかし、あえて音の「何かを欠落させる」ことが音楽の表情をより豊かにすることでPerformance(パフォーマンス)の音は、あれほどまでに魅力的なのです(ただし、ツボにハマればですが!)。

AIRBOWも含めてどの製品を選ぶか?それは、相当に悩ましい問題です。

重要なのは「それぞれの個性」をきちんとお客様に伝えることです。その責任の重さを改めて実感した、比較試聴となりました。「オーディオ選び」は、まず「お店選び」から!オーディオは楽器に最も近く、家電から最も遠い製品なのですから。

2008年11月 逸品館代表 清原 裕介

その他の UNISON RESEARCH 音質テスト

○ S6NEW 、 S9 、 Sinfonia(6550)

○ Performance(パフォーマンス) 、 S8 、 S6 音質比較テスト

○ P70 、P40 、sinfonia 音質比較テスト

○ UNICO 100 UNICO CDE 、 Bladelius Syn Tyr 、 AIRBOW PM/SA15S1 Master 音質比較テスト

○ UNICO SECONDO 2 (ユニコセコンド)  音質評価テスト

○ UNICO CDP (ユニコ CDP) 音質評価テスト 

○ P70 、 P40 、 Sinfonia(シンフォニア) 音質比較テスト

○ Sinfonia(シンフォニア) 、 Preludio(プレリュード) 音質比較テスト

  
 

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