音質評価
Sinfoinaの上級モデルに心を躍らせながら、AIRBOW
SA10/ultimateとVienna Acoustics T3Gを組合せて電源を投入する。この組合せは、P70/P40の聞き比べで使ったのと同じ物だ。
CDプレーヤー AIRBOW SA10/Ultimate
スピーカー Vienna Acoustics T3G
通電直後の音は中域に厚みを感じるものの、低域がややどろどろして高域が抜けきらない、鼻にかかったような音だ。ディスクを数枚聞くと高域のもやもやが消え「ちょっと気になる音」が出始める。
"UVA" EPO TOCT-9148/49 (CD2枚組み)
“UVA(葡萄)”は、デビュー15周年を迎えたEPOが、1995年2月〜3月にかけて旅をした“中南米ツアー”の模様を中心に編集されたMADURA(ポルトガル語で完熟という意味)SIDEと、前後数年間のコンサートのレパートリーに織り込まれた作品を、スタジオライブ(いわゆる一発録音)で収録したVERDE(ポルトガル語で碧いという意味)SIDEにより構成された、2枚組のCD。編集を介さない自然な音楽の流れ、アコースティック楽器と彼女の美しいヴォーカルが心を暖かく癒します。“こんな音楽に出会えて良かった”それを実感させてくれるお気に入りのアルバムです。
彼女の声の厚みに肉声の柔らかさと、マイクを使って増幅した声や楽音の“独特の重圧感(厚み感)”が出る。ギターの分厚い押し出し感(ギターアンプでを増幅した時に感じられる体を押す音)が半端じゃない。
あらゆる音がきめ細かく、そして分厚く聞こえる様は、まるで最高級のV8ビッグトルク・エンジンでスピーカーを駆動しているようなイメージだ。
すべてを圧倒するほどの、もの凄いパワー感が印象的に残った。
CDプレーヤー AIRBOW SA10/Ultimate
スピーカー Zingali 1.12
このパワー感を生かすには、やはりスピーカーは「ホーン」しかない!と直感したのでスピーカーをZingali
1.12に変えて同じ曲を聴く。
ボーカルがさらに厚みを増し、これでもかというほどの説得力で語りかけてくる。明らかにちょっと行き過ぎだ。しかし、その「虫眼鏡で唇を拡大して見ているようなオーディオ的感覚」は、決して不愉快なものではなく、どちらかと言えば「快感」・「快音」と呼ぶべき種類のものだ。
EPOを充分に堪能してディスクを変える。
“ROMANTICO” 南佳孝 VICL-61441
南佳孝の楽曲で有名なのは「モンローウォーク(セクシー・ユー/郷ひろみ)」だと思う。歌手としては、あまり表舞台に出ない彼だけれど、アコースティックな響きを重視した濁りのない彼の生み出す“大人の味わい深い”サウンドは、私のお気に入りの一つ。このアルバムも電子楽器や、複雑な編集なしに作られている。彼は好んで原宿のライブハウス「スィート・ベイジル」でライブを行っている(残念ながら私は、彼のライブを聞いたことがない)から、東京近郊なら一度出向くのも良いかもしれない。スィート・ベイジルは、私が知る中でも音質が抜群によいライブハウスの一つだから。そういえば、EPOも時々スィート・ベイジルでライブをやっていたなぁ。大阪からスィート・ベイジルは遠いけど、足を運ぶだけの価値のある時間に出会える気がする。
低音のこの圧倒的な厚みはどうだ!ビルのガラス窓が震え、窓が枠から外れてしまいそうなほどの空気の震え。低域をブーストしたスピーカーから出る、ライブのあの感覚!重圧感たっぷりのこのすさまじい低域に、真空管ならではの柔らかさとニュアンスの濃い中高音が乗っかってくるから堪らない!
何とも言えない、ものすごく「ゴージャス」な味わいだ。同じゴージャス系のMcintosh真空管アンプですら、これと比べたらオモチャのように感じてしまうだろう。しかし、それはMcintoshの責任ではない。Mcintoshはあくまでも「常識の範囲内」で遊び心を聞かせてくれる。パフォーマンスは「非常識極まりない」。ちょい悪じゃなく、極悪なアンプなのだ!
余りのすごい迫力に圧倒されて、レポートを書くのを忘れてしまった。ギターやベース、ドラムだけではなく、ピアノが聴きたくなってきたから、ディスクを入れ替える。
“INSOMNIA” 鬼束ちひろ TOCT-24560
デビュー直後から話題になったミュージシャン“鬼束ちひろ”のファーストアルバム。根っからの天の邪鬼な私は、人の噂を信じない。だから、騒がれる新人のアルバムにはめったに手を出さないのだけれど、職業上それが許されないから、話題のアルバムは出来るだけ購入して聴くようにしている。でも、その多くが一枚を聴かない内に、ゴミ箱行きになる(もったいないから、捨てないけれど聴くことはない)。最近、それがとても酷い。ほとんどのアルバムは、一聴にすら値しないようなものばかりだ。“INSOMNIA”も音は良く歌も決して下手ではなかったけれど、曲調の「暗さ」が気に入らなくて、積極的に聴くことはなかった。それでも「ゴミ箱行き」にならなかったのは、どこか心を打つ所があったからだ。気に入らなくてCDラックに戻し、気になってCDプレーヤーにセットして、そんなことを繰り返している内に「彼女の主張」が何となく分かるようになってきた。彼女の歌は厭世的に聞こえるけれど、実は前向きな希望に満ちている。それに気づいたときから、彼女のファンになった。このアルバムジャケットの彼女は「素足」だ。それは靴下をはいて謳うと「声が濁る」ことを彼女が嫌うから。オーディオ機器がインシュレーターやボードで音が変わるように、ヴォーカリストは靴で声が変わる。私は前から知っていたけど、それを「自分の歌」に取り入れている歌手を知ったのは、彼女が初めてだった。そこまで「音=表現」にこだわる彼女だけれど、このファーストアルバムを越える作品は未だ作れていないように感じるのが少し残念だ。
ピアノの厚みがすごい。体を取り巻く空気感、エコー感もすごい。
音が濃い。本当にコンサート会場に居合わせていても、こんなに濃い音は聞けないだろう。
本物を越える「強烈な実在感」だ。それは、言うまでもなく明らかに「オーディオ的に作られた音」なのだが、こういう方向の着色、脚色を心地よく感じる人は少なくないはずだ。私もその一人だ。
私は通常アンプのテストは一人で行う。周りに人がいると、集中が阻害されるからだ。特にとなりで聞き耳を立てられると、たまらなく苦痛を感じる。だから、めったにライブには行かない。もっぱら音楽はオーディオで聴く質だ。
しかし、Performance(パフォーマンス)からはあまりに「面白い音が出る」。これは一人で聞くのはもったいないと、社員を呼んで一緒に聞くことにした。
音が出た瞬間、彼らも驚いている。その圧倒的な厚みと実在感に度肝を抜かれて興奮している。立て続けに、いくつかのソフトをかけてみるが、音楽的に誇張されたパフォーマンスのもつ過剰感と心地よさは変わらない。
このまま騙されている(騙している)のも「幸せ」なのだが、社員が誤解すると困るので私が気づいたPerformance(パフォーマンス)の「嘘」を暴くため、ソフトとシステムを切り替えて「比較」を行うことにする。
比較テスト
比較に用いたシステムは、AIRBOW UX1SE/LTDとCU80SP/MU80FTのAIRBOWトップグレードの組合せだ。
CDプレーヤー AIRBOW UX1SE Limited
アンプ AIRBOW CU80 Special MU80 Fine
Tuned
アンプ Unison
Research Performance
スピーカー Zingali 1.12
CD+アンプを換えると同時に、ソフトをそれまで聞いていた「音楽」から「フェラーリのエンジン音(雑誌カーグラフィックのおまけに付いてきたCDシングル)」が収録された「音楽でないもの」に変える。スピーカーはZingali
1.12を変えずに使う。
AIRBOWのアンプで聞くフェラーリF1マシンのエンジン音は、高域に切れ味があって今にも壊れてしまいそうな程刹那的だ。耳を劈くような「切れた高音」が出る。
アンプをUnison Research Performance(パフォーマンス)に切り替えるとどうだろう?音楽ではあれほど圧倒的なパワー感があったPerformance(パフォーマンス)で聴くF1フェラーリのエンジン音には、まったくエネルギーが感じられないではないか!F1ではなく、軽自動車のエンジンが無理をして回っているような苦しい音。こんな排気音はフェラーリではない。AIRBOWシステムと比較すると、高域の明瞭度立ち上がりの鋭さがまったく不足している。
F−1 Team Lotus PSCR-5042
もう一枚、今度はF1のピットで録音されたロータス(コスワースV8)とピットの音を聞く。
Performance(パフォーマンス)で聞くそれは、ラジオやTVで聞く「マイクと増幅器を通した音」でしかない。現場そのものの雰囲気は、全然伝わってこない。
アンプをAIRBOW CU80SP/MU80FTに変えると、社員の顔色が変わった。本当にピットに居合わせる雰囲気が出たからだ。
圧倒的な高域〜超高域のリニアリティー。工具の触れる硬い金属音もエンジンの爆音も、それらしく再現される。オイルの焦げる臭いまで感じられるほどだ。
Performance 総合結果とAIRBOW比較テスト
この二つのシステムで音が全然違う事が、「F1のエンジン音」という「リニアリティーを試すテスト」で明らかになった。
F1のエンジン音だけではなく、逸品館がお薦めしている「環境の音のCD」でも同じ結果になっただろうことは、想像に難くない。私が社員に「誤解して欲しくなかった」のは、この二つの「明確な違い」なのだ。
今一度アンプをPerformance(パフォーマンス)に戻し、今度は「音楽」を聞く。音楽を聞いている限りパフォーマンスのリニアリティーは非常に高く、その情報量の多さ(音が厚みを持って数多く聞こえる)や、エネルギー感は抜群だ。音の万華鏡の中心にいるような心地よい世界。その世界に見事に騙される。やっぱり抜群の音質だ!
すでにお気づきの方がいらっしゃるかも知れないが「音質評価」ではCDプレーヤーにAIRBOW SA10/Ultimateを使っていたが、F1エンジン音の比較では、UX1SE/Limitedを使った。そこで社員の勉強を兼ね、CU80SP/MU80FTでこの2機種プレーヤーの音質比較を行ってみた。
CDプレーヤー AIRBOW SA10/Ultimate
CDプレーヤー AIRBOW UX1SE Limited
アンプ AIRBOW CU80 Special MU80 Fine
Tuned
スピーカー Zingali 1.12
価格が大きく違うので仕方ないが、この2機種の比較も残念ながら勝負にならない。基本的な情報量が全く違うのだ。
SA10/ULの音は悪くないが「音にならない部分の音(音に隠れた音)」までは再現されない。従って、UX1/SE/LTDで感じられるような「現場にいるような臨場感」までは伝わってこない。
CDプレーヤーをUX1/SE/LTDに変えると、どうだろう?一瞬にして、レースの興奮が心の底からふつふつ湧き上がってくる。毛穴が開くような興奮が体を包む。圧倒的!としか表現できない。
CDプレーヤー AIRBOW SA15S1/Master
アンプ AIRBOW PM15S1/Master
さらに社員へのAIRBOW新製品のプレゼンを兼ねて、CDプレーヤーをSA15S1/MATERアンプをPM15S1/MASTERに変えてF1(ロータス)を聞く。
ピットの音がマイクで録音された雰囲気に変わる。音の細やかさや分離感はかなり高いが、中音の厚みや低音の力感が減退するため、相対的に中高音が勝ち気味に感じられ、雰囲気感が軽くなってしまう。実在感が弱い。
“INSOMNIA” 鬼束ちひろ TOCT-24560
F1を音源に使うことでCDプレーヤとアンプ、それぞれの個性と性能が明確になった。このテストで感じたこと、学んだことの復習を兼ねて、ソフトを音楽に戻してそれぞれを聞き比べる。
F1のような差は全く感じられなくなる。もちろん「価格なりの差」はあるのだが、F1の音で比較するほど“それ(音質差)”が気にならない。絶対的な性能ではなく、それぞれの音調(個性)で音楽を楽しめるようになるからだ。
オーディオは面白い。音楽をソースにする限り、原音と全く異なる歪みの多い音でも、そこで原音が鳴っているとしか思えないほど見事な音で鳴ることがある。スピーカーではタンノイがそうだ。
例えばタンノイ(同軸2wayの昔ながらのモデル)で聴く楽器の音は美しい。しかし、映画の効果音などはこもった音に聞こえ、今ひとつ冴えない音になる。
Unison
Research Performance(パフォーマンス)はTANNOYほど極端ではないが、やはりそれと同様に高域の音抜けは褒められたものではない。しかし、それに対して中低域は圧倒的な情報量と厚みを持つ。あるいは高域を減退させたために、低域の情報量が増えたとも考えられる。これは、初期のSACDが高域を伸ばしすぎたために中低域が薄くなったのと真逆の傾向であり、興味深い。
Performance(パフォーマンス)は、ハッキリと饒舌なアンプである。
演奏を生よりも生々しく、生よりも艶やかで華やかに聞かせてくれる。
このアンプには、「人を幸せにする魔法」がかけられている。
絶対的な性能を求めず、その魔法を暴かなければ幸せになれる。しかし、それに抵抗すれば120万円という高価なアンプを購入したことを後悔することになる。
付け加えなければならないのは「ノイズ」のことだ。そう切り出せば、普通「やはりノイズが大きいのか」と想像されるだろう。驚くべき事にパフォーマンスはZingali
1.12という高能率のスピーカーを組み合わせているにもかかわらず、ノイズが一切出ない。
ホーンに耳を近づけても何の音も聞こえないのだ!
もちろんウーファーからのハム音も全く聞こえないから、本当にアンプを繋いでいるかも分からないほどだ。
トランジスターアンプでもこれほどまでにノイズのない製品は、めったにお目にかからない。真空管でそれを実現したPerformance(パフォーマンス)は音のみならず、そういう意味でもすごいアンプだと思う。