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Nottingham (ノッティンガム)レコードプレーヤー (詳細な組み立て方の説明はこちら) Interspace JR Spacedeck Phasemation
(フェイズメイション) PP-300 MCカートリッジ 音質試聴テスト 最近、再び注目を浴びつつあるのが「アナログレコード」です。レコードを聞くために必要なレコードプレーヤーは、1万円以下から1000万円を超えるまでの幅広い価格帯で発売されていますが、優秀録音盤でも一枚5000円もしないレコードを聞くためだけに、それほど高価なレコードプレーヤーが必要なのでしょうか? 私は次のように考えています。もし、愛聴盤が100枚程度なら、レコードプレーヤーに100万円を投資すると、レコード一枚あたり1万円の追加費用で「レコードの音が良くなる=通常録音盤が、優秀録音盤になる」。もし、愛聴盤が1000枚あるなら、一枚あたりの追加コストが「1000円」でやはり、通常盤を優秀録音盤にできる。単純に数字で割り切ると、このようになります。だから、所有するレコード枚数が多ければ多いほど、良いプレーヤーを使うメリットが大きくなるはずです。けれど、たった一枚のレコードを最高の音質で聴くためにどんな努力も厭わないのも、またオーディオマニアの性です。 私は、新旧を含め100個以上の名品と呼ばれる代表的なカートリッジをコレクションしています。売らないのは、一度手放すと二度と手に入らないからですし、それを聞けば「レコード(カートリッジ)の歴史」が学べると考えたからです。すべてを聞いたわけではありませんが、オリジナル(発売時の)ortofon SPUを初めて聞いた時は、本当に驚きました。現代の高価なカートリッジと比較しても、その音質は群を抜いたからです。歴代の「Shure」も聞き比べました。けれど、私のMMカートリッジはMCカートリッジに敵わないという概念を覆したのは、「Shure」ではなく、「Stanton」でした。針を糸で釣っている「Decca」からは、カンチレバーを持たないカートリッジの音を学びました。 様々なレコードプレーヤー(アーム)やフォノイコライザーも聞きました。国産最高の誉れ高い「Micro」やSMEのロングアーム「3012R」。リムドライブの「ガラード」やEMTの高級プレーヤー「927」や、現在発売中のEMT最高級フォノイコライザー「JPA66」など数え上げればきりがありません。こんな「贅沢」ができるのも、メーカーから試聴機を拝借でき、中古買取や下取りで様々な製品に直に触れることができる販売店ならではの役得です。 それらの経験から、私がもっとも信頼する(もっとも音が良いと感じている)レコードプレーヤーが、Nottingham(ノッティンガム)です。この製品は、「トム・フレッチャー」という一人の天才職人の手によって生まれました。10数年前に初めてその音を聞き、合理的な設計を見て、私はこれ以上のレコードプレーヤーはないと確信しました。それからも実に数多くのレコードプレーヤーを聞きましたが、その思いは今もまったく揺らぎません。 世界中のレコード愛好家に愛される素晴らしいレコードプレーヤーの数々を世に送り出した「トム・フレッチャー」ですが、残念ながら数年前に悪性腫瘍によって天に召されました。けれど彼はその余命の限り、弟子達に彼の素晴らしい技術を伝授したのです。 今回試聴したのは、彼の技術を引き継いだ弟子(社員)が、作り続けている製品です。彼亡き後も、その情熱が引き継がれているか、今回はそれをしっかり確認しようと思います。また、Nottinghamの販売てこ入れのために「逸品館オリジナルモデル」の製作を彼らに打診したところ、「Interspace JRに上級モデルSpacedeckのアームを移植したモデルを用意しましょうか」との返答がありました。嬉しい申し入れなのですが、特注モデルが「お客様にお薦めするメリットのある製品に仕上がるのか?」と言う疑問を解決するために、今回Interspace JRにSpacedeckのアームを装着した音質の確認も行いました。 Nottinghamの特長 トム・フレッチャーの代表作であり、ノッティンガム社の名を世界に広めることとなった「Spacedeck(スペースデッキ)」は、世界で50,000人もの愛用者がいます。ターンテーブルは“ただ静かに回り続ければ良い”、“シンプルイズベスト”という哲学の下に、造られた「Spacedeck」には、無駄なものが一切ありません。
極少ノイズの実現のため、採用されたトルクの小さい精密24極ACモーターは「プラッター(ターンテーブル)」をスタートさせる力がありません。レコードを演奏するには、プラッターを必要なスピードまで手で回転させます。この小さなトルクから安定した慣性モーメントを得るため、重量特殊アルミ合金製プラッターが使われます。さらに、モーターゴロを極限まで少なくする特殊なベアリングシステムなど、「Spacedeck」は、そのすべてのマテリアルの研究開発だけに、数十年を費やして完成された珠玉の作品なのです。 この「Spacedeck」の基本設計は、Nottinghamすべてのモデルに共通しますが、プラッターを支えるプラットフォームには、2種類の構造があります。最下級モデル(エントリーモデル)のInterspace JRのみ「アームとプラッター、モーター(フローティングされています)のすべてが一体となった構造」が採用されています。これは、コストを抑え、使いやすくするためでしょう。Spacedeck以上の上級モデルは、ベースボードの上に、アームベースとプラッターが一体となったターンテーブルを乗せ、モーターは別置きになっています。これは、モーターの振動を極力プラッターに伝えないようにするための配慮です。
初期のSpacedeckには「軽合金アーム」が使われていましたが、現在はすべてのモデルに「カーボンアーム」が使われています。さらに、アームの「軽合金支持部」、「真鍮ウェイト」、プラッターやボードなど、ほとんどのマテリアル(材料)が共通して使われています。プラッターには通常のプラッターと、慣性重量を増した(重くした)「HDモデル」の2機種があり、アームは9インチのショートアームと12インチのロングアームが用意されています。プラッターの重量は、モデルが上級になるにつれて「重く」なり、価格も高くなります。また、モーターは、モデルによってあまり大きな違いはありませんが、モーターを駆動する電源部は上級モデルの方が容量が大きく、さらに最上級モデルに近づくと「安定したACを発信する回路を搭載する安定化電源」が使われます。このように共通の設計思想と材料によって生み出された、「部品(パーツ)」をモデル毎に適時組み合わせることで、Nottinghamは35万円から500万円までのレコードプレーヤーをラインナップしています。 ラインナップは、モデルが上級になるにつれて「プラッターの振動が抑えられ」、さらに「アームの精度が向上する」という関係になっていますが、単純なパーツの組み合わせのように見える、最下級モデルから最上級モデルまでの「価格と音質の関係が完全に比例している」のは、見事という他はありません。 オーディオ設計では「最高のものを一台作る」よりも「価格と音質を比例させる」事の方が遙かに困難です。なぜならば、コストダウンした製品は、「最高級モデルよりもうんと悪くなる」か、あるいは「最高級モデルとそれほど変わらい」という結果になるからです。ラインナップされるすべてのモデルの価格と音質帆スケールを「比例させる」。これを実現するには、恐ろしいほど高度なノウハウが必要になります。 実際、販売価格と音質を正確に比例させることができている(できた)オーディオメーカーはほとんどなく、ラインナップの中に「おすすめ品」と「そうでないもの」が混在します。しかし、Nottinghamの製品は、すべてが「公平にお薦めできる」ラインナップに仕上がっています。これは、本当に驚くべき事です。だから、それを実に「エレガント」にやってのけた「トム・フレッチャー」の手腕こそ、まさしく「マジック」だと私は感じるのです。 試聴環境 今回の試聴には、「比較的色づけが少ない」という理由から、スピーカーに「Q Acoustics 40J」、アンプに「AIRBOW PM14S1 Master」を選びました。 また、レコードの音質を大きく左右する「フォノイコライザーアンプ」には、EAR「ティム・デ・パラビチーニ」が設計した「QUAD QC24P」を選び、カートリッジには「Phasemation」の新製品「PP-300」を使いました。昇圧トランスは使わず、QC-24PのMCポジション(内蔵昇圧トランス使用)で試聴しました。 Phasemation PP-300 メーカー希望小売価格 \125,000(税別) (Phasemation製品のお問い合わせ・ご注文はこちらからどうぞ) QUAD QC-24P メーカー希望小売価格 \360,000(税別) (QUAD製品のお問い合わせ・ご注文はこちらからどうぞ) Q Acoustics Concept 40J メーカー希望小売価格 \277,000(ペア・税別) (Q Acoustics 製品のお問い合わせ・ご注文はこちらからどうぞ) AIRBOW PM14S1 Master メーカー希望小売価格 \360,000(税別) (AIRBOW製品のお問い合わせ・ご注文はこちらからどうぞ) 試聴レコード
試聴したレコードは2枚です。「The LA4:Pavane Pourune Infante Defunte(亡き王女のためのパバーヌ)」。このレコードはダイレクトカッティングで非常に音が良く、演奏も抜群の1枚です。 もう1枚は、「Clair Marlo:Let It Go」。このレコードは、高音質なソフトのみを作り続けてきた「Sheffield Lab」レーベルから発売される「2トラックダイレクト録音盤」です。今回の試聴では楽器の音質や演奏そのものの旨さ(味わい)がLa4に届かないためか、録音そのものは抜群ながら、音質(演奏の質?)が1ランク落ちて感じられましたが、このような経験は今まであまりかったことです。 試聴時のPP-300の針圧は、精密な針圧ゲージを使って統一しています。
高域までスッキリ伸びた明快な高音が心地よく、中低音は、無理のない自然な音で鳴ります。
全帯域での速度感(音の立ち上がり)が一致しているので、まるで生音を聞いているような気分になります。
ギターの音、ウッドベースの音、特に高音部の滑らかさ、艶やかさ、伸びやかさは、アナログならではの良さが存分に感じられますが、他のレコードプレーヤーにありがちな「高音が鈍い感じ」はまったくありません。 美しく、鮮やかな色彩を帯びた音が、万華鏡のようにスピーカーから溢れ出し、音の数多さに驚かされます。この滑らかでシルキーな高音。この独特な透明感は、デジタルにはありません。中低音は膨らみはしませんが、デジタルほどの「リジッド感(しっかりした感じ)」は感じられません。 音の厚みや重量感では、デジタルがアナログを上回る印象です。しかし、 軽やかに美しい音が空中を舞い、アクリル画のような、リバーサルフィルムで撮影した映像のような、透明感溢れる美しく鮮やかな音色でクリアマローが鳴ります。同じ曲のCDを持っていますが、最高級のデジタルシステム(CDプレーヤー)で聞いても、この透明感と鮮やかな色彩感は再現されません。 試聴後感想 最初に書きましたが、ノッティンガムは私が最も高く評価するレコードプレーヤーです。写真を見ていただければおわかりになると思いますが、通常この価格帯のレコードプレーヤーにこれほど精密なアームは使われていません。少なくとも雨後の竹の子のように生まれてきた、国産の50万円クラスのプレーヤーや俄かアナログメーカーのプレーヤーに装着されているアームとは、質と精度がまったく違います。国産品のアームを乗用車に例えるなら、ノッティンガムのアームはレーシングカーの精度で作られています。Interspaceに搭載されているアームですら、SMEから発売されているアーム単体で50万円を超える製品を凌駕するように思います。 この高精度なカーボンアームを価格の安いエントリーモデルに搭載できるのは、それを上級モデルに共通する素材と技術で作ることで、合理的にコストダウンされているからです。さらにInterspace jrは、モーターもターンテーブルも、上級モデルから設計やパーツが流用され、音質を損ねず価格を下げるための合理的で徹底的なコストダウンが行われています。 Nottinghamのような小生産規模のメーカーでは、このようにラインナップ全体でパーツを共用する方がコスト面で絶対的に有利です。しかし、それは高額モデルと低額モデルに「同じグレードの部品(もしくはかなり近いグレードの部品)」を使うことになり、多くの場合「低価格モデルの性能が向上」し過ぎるのです。 Nottinghamがすごいと思うのは、こんなに素晴らしい品質と音質をエントリーモデルに与えておきながら、上位モデルにはそれを確実に凌駕する音質が与えられていることです。 最近、うなぎ登りにオーディオ機器の価格が上がり続ける中で、10年前と価格が大きく変わらない、Interspace JRは「安い」と思います。それもため息が出るほど「安い」プレーヤーです。今までに、100万円を超えるLinn LP12やMicroのプレーヤーなども聞いてきましたが、Interspace JRはそれらにまったく遜色がないばかりか、高域の抜けの良さ、解像度感の高さではそれを超えていると感じるほどの高音質を発揮します。 「雰囲気」は良くても、音の細かさや再生周波数帯域、S/N感ではデジタルに及ばないレコードプレーヤーの多い中で、Interspace JRは最高級のデジタルと比較しうる、「音質」を持っている希有なプレーヤーです。こんな技術を持つレコードプレーヤーメーカーを、私は他に知りません。 試聴を続けていると、「トム・フレッチャー」の情熱と、それを真摯に引き継いでいる「弟子達」の真心が伝わってきて、目頭が熱くなりました。
音を聞いた記憶が消えないように、レコードの順番を入れ替えてクリア・マローから聞き始めました。 正直、見た目やマテリアルがInterspace JRのオリジナル(純正)アームとそれほど変わらないSpacedeckのアーム(Space Arm)をInterspace JRへ付けたくらいでは、驚くほどには音質が向上しないだろうと侮っていました。しかし、その違いは想像以上でした。 低音は、重量級のプラッターに変えたようにしっかり伸びます。中音も密度がかなり向上し、音の粒子が断然細かくなりました。アームの精度と剛性が向上したことによって、音の密度感が様変わりしたのです。例えるなら、デジタルカメラの画素が400万画素が1000万画素以上になったような、高密度感が感じられます。ボーカルの実在感、楽器とボーカルの分離感、低音楽器の重み、一音一音の深み、それらの「質」が全く変わりました。空間を満たす音の粒子が、格段に細かくなるこの違いは、想像を大きく超えたものでした。 けれど、高域の伸びやかさだけは、Interspaceに装着されていたオリジナルアームが開放的な鳴り方で好印象でした。たぶん、それはInterspace JRのオリジナルアームが、僅かな共振(アームが生み出す響き)によって、響きや広がり、開放感を演出していたからでしょう。アームを変えると、Interspace JRの持ち味である、ふわりと広がる開放的な鳴り方がなくなりました。 導入部のウインドベルの響きの揺らぎ方が違って聞こえます。Spacedeckのアーム(Space Arm)は、Interspace JRのオリジナルアームと比べて、空気中に広がる「響きのさざ波」を格段に細かく、また抑揚も大きく再現します。フルートとウッドベースの分離感も改善し、それぞれの音がまったく混じらずに聞き取れます。けれど、それがバラバラになるのではなく、演奏には見事な一体感があり、綺麗に分離しながらしっかりと解け合っているその様は、見事です。 同じレコードなのに、楽器から音が出るタイミングの正確さが格段に向上し、演奏者の腕前が全く違って感じられます。 Space Arm(Spacedeckに標準装着されるアーム)は、音楽と対峙し、それを鑑賞しているイメージ。Interspace JRのオリジナルアームは、ライブを聴いているイメージ。音の密度感や精度は、圧倒的に違うのですが、醸し出される雰囲気の良さ、適度な響きの良さとふわりとした開放感を感じさせたIterspace JRのオリジナルアームも、私の心を引きつける良さを持っていました。
Interspace JRに取り付けたSpace Armをカートリッジを取り付けたまま、カウンターウェイトなど一切触らずにスペースデッキに装着(移植)しました。 ターンテーブル部を変えたことで、音の密度はさらに上がると想像していましたが、それは裏切られました。逆に、密度感は若干低下するではありませんか。しかし、この若干の密度感の低下と引き替えに、スペースデッキJRが持っていた開放的な響きの良さが蘇ります。 Interspace JR+Space Armは音は良かったのですが、音楽からやや生気が失われる印象がありました。言い換えるなら、ややモニター的にS/Nが上がりすぎたイメージです。それがSpace Arm を純正の組み合わせ(Spacedeckに取り付けた状態)で使うと、音に生気がみなぎり、演奏が大きく躍動するではありませんか。まるで翼を得た鳥のように、すべての音が自由自在に空を舞います。 フルートからは「管を通過する息」が聞こえ、ギターやウッドベースからは、弦を弾く指の使い方だけではなく、奏者の身体の向きまで見えます。ドラムは、スティックが当たって皮がたるみ、それが再び元に戻る様子が伝わります。楽器から「音が出ている」のではなく、プレーヤーが「楽器を使って音楽を演奏している」。Interspace JR+Space Armで不足していたのはこの感覚です。個別の音の密度感や精度が、驚くほど高かったInterspace JR+Space Armの組み合わせでしたが、音楽がどこか醒めて聞こえたのも事実です。けれど、Spacedeckでそれを聞くと、楽器本体の音だけではなく、本来なら「雑味」となり、S/N感を損ねるはずの「ノイズ」も含めたあらゆる音が「ひとつとして不必要なもの」とは感じられず、それがすべて「音楽を構成する要素」だと実感できるのです。 これ以上の音質は求めれば得られるでしょう。けれど、音楽を聞くためにこれ以上の音質は絶対にいらない。音楽を奏でる主役が、楽器や音質、ましてオーディオ機器ではなく、それは「人間そのものである」そう確信できる音でLa4が鳴りました。 けれど・・・。私がSpacedeckに覚えたこの際上級の満足感が、上級モデルを聞くとあっさりと覆されるのです。それが、「トム・フレッチャー」が作ったNottinghamのすごいところなのです。だから・・・。上級モデルを買える予算がなければ、決して上級モデルを聞かないでください。 音は素晴らしいレベルです。けれどLa4による比較試聴とは、少し感じ方が違います。クリア・マローのレコードでは、プレーヤーを変えても「音が良くなる」という感覚はありますが、La4で感じたような演奏の「旨さ」までまったく変わってしまう印象がありません。 Nottingham Spacedeck(Phasemation PP-300+QUAD QC24P)で2枚のレコードを聞き比べると、La4がどれほど素晴らしいミュージシャンだったかがわかります。これは録音品質以前の「ミュージシャンとしての技量の違い」が露呈しているのです。クリア・マローのレコードは、ダイレクト・カッティングで音は素晴らしい。けれど、聞くべき音、出すべき音がLa4よりも少ない。それは、ミュージシャンがそれを出し切れていないからです。ミュージシャンの力量の差が、露呈するのは残酷だけれど、それが事実なのです。どんなに努力しても凡人は、天才には敵わない。近づくことはできても・・・、決してイコールにはなれない。「芸術」の世界には、超えられない「才能の壁」が存在します。だからこそ、「一握りの天才の音楽」を録音で何度でも聞けるオーディオには、価格を超える大きな価値があるのです。逆説に言うなら、その「差を出せないオーディオ機器」には、価値はないのです。しかし、こういう音楽で最も大切な「演奏技量の違い」は、デジタルよりもアナログの方が、より大きな差となって現れるように思います。だからこそデジタルがこれだけ進歩しているにもかかわらず「アナログ」が消えないのです。 デジタルはオーディオを大衆化させました。それは素晴らしいことです。けれど、同時に「演奏の高い芸術性」を薄れさせてしまうのです。結果として、ソフトは売れなくなり(演奏で人を感動させられないのだから、売れないのは当然)、へたくそと名人がごっちゃになってしまいました。今の「アイドル」は、アナログ時代では「絶対に!」売れなかったでしょう。ヤマハが「ポプコン」をやっていた時代に輩出されたミュージシャンは、現に今も活躍しています。「井上陽水」、「佐野元春」、「長渕剛」、「世良公則」、「玉置浩二」、「中島みゆき」など、数え切れないほどの実力派ミュージシャンが羽ばたいていきました。彼らの「ミュージシャン」としての技量は、今のアイドルとは比べられません。デジタルレコーディオングの発達は、へたくそな素人をいっぱしのミュージシャンのように、それなりに聞かせます。へたくそな素人と名人の演奏に、それほど差がなくなる。これこそがデジタルのもっとも大きな問題です。デジタルばかり聞き続けて、忘れかけていた「演奏技術の大切さ」を、Spacedeckは一瞬で蘇らせてくれました。 Interspace JR+オリジナルアームでは、楽しいライブの雰囲気が伝わりました。これはこれで悪くない、「カジュアルで楽しい」音にまとまっています。「JR(ジュニア)」というネーミングがピタリと当てはまる、楽しくカジュアルな音質でした。 今回は、イレギュラーなテストとして、このインタースペースJRに上級モデル、スペースデッキのアーム(スペースアーム)を移植してみました。これは、インタースペースに上級モデルのアームを移植すれば、「一体型」の使い勝手の良さと、上級モデルの「音質」が実現するのではないだろうかと考えたからです。 試してみると、インタースペースJRはアームの交換で素晴らしく音が良くなりました。けれどインタースペースJRが本来持ってた明るく楽しい雰囲気が、少なからずスポイルされてしまったのです。「複合モデル」の音質は、それで悪くないのですが、「こういう音」なら他メーカーの製品でも実現します。私がノッティンガムに求めているのは、もっと「芸術的」な音質です。 次に、音質にもっとも大きな影響を与える「針圧」を一切変えないように、インタースペースJRから「カートリッジが装着されたまま」のスペースアームを注意深く外し、スペースデッキに装着しました。 Interspace JR+Space Armの組み合わせが想像とは違ったので少し緊張しながら、レコードに針を落とします。けれど音が出た瞬間、身体から力が抜けました。Interspace JR+Space Armであれほど「高精度で高解像度」の音質が実現したのだから、Spacedeckではそれがさらに大きく向上し、高い緊張を伴う音になるのではないだろうかという予想があっさりと裏切られたからです。 Interspace JR+Space Armと比べると、Spacedeck+Space Arm(純正の組み合わせ)の音質には、解像度感の低下による「若干の曖昧さ」が感じられます。僅かなソフトフォーカス感と言い換えても良いでしょうか。その僅かな「遊び(曖昧さ)」が、リスナーの想像力を喚起します。Spacedeckでレコードを聞くと、一瞬の間を置いて脳の中での音の処理が変わります。リスナーの意識が「音」から、「現場(演奏)」へ、集中が「音」から「演奏」に切り替わるのです。そうなると、音質は単なる「おまけ」のような存在になり、ノイズや様々な音質の瑕疵が全く気にならなくなります。良いテープレコーダだと、テープの「ヒスノイズ」が音楽を聞く時に、まったく邪魔にならなくなる(意識から消える)のと同じ感覚です。 Interspace JRで聞くレコードは、楽しいライブの雰囲気を持っていました。気の合う友人と一緒に食事でもしながら、楽しい音楽を聞いている雰囲気です。同じレコードをSpacedeckで聞くと、ステージ上の奏者の「動き」まで見えるような鳴り方に、ぐいぐい演奏に引きつけられ、食事や会話を忘れてしまいます。 Spacedeckで聞くレコードの音は、奏者の動きがわかるほど雰囲気が濃く、しだいに「音が云々という低いレベル」の話しはどうでも良くなります。Spacedeckが奏でる音楽の世界は、再生芸術を極めています。 私は、今までにすごいプレーヤーを数々聞いてきました。EMT、トーレンスの最上級モデル。そして素晴らしいカートリッジも数々聞いてきました。けれどその多くは、少なからず「メーカー色」を感じさせる個性的な音でレコードを奏でました。もちろん、再生音にメーカー色が反映されるのは楽しいことですし、まして悪いことではありません。けれどノッティンガムは、「生を彷彿とさせる音」、「生演奏を色濃くインスピレーションさせる音」は出しますが、その音に「ノッティンガムを思わせる音」を感じさせません。だから、機器の存在感が完全に消え、レコードの溝に刻まれた「演奏」だけがストレートに伝わってくるのです。 レコードに記録された音楽を着色することなく、これほどドラマティックに、これほど「雰囲気の濃い鳴らし方」ができるレコードプレーヤーを私は他に知りません。こんな「実在感のある雰囲気」でレコードを鳴らす、レコードプレーヤーは「国産品」にはありません。そして、こんな素晴らしい芸術品に、50万円を切るプライスが付いているのは信じられないことです。 人はなかなか、人の言うことを信じないものです。特にオーディオマニアは、自分の使う装置を自分自身で選ぶ傾向が強く、人一倍疑り深い傾向を感じます。もちろん、それは当然のことです。音には好みが反映されますし、「自分の好みを強く押しつけてくるマニア」や「メーカーに金をせびる評論家」の意見など、そこら辺の溝にでも捨てたほうがマシだからです。けれど、今回は「騙された」と思って、Nottingham製品を使ってみてください。そうすればきっとあなたにも、音と音楽の違いが伝わるでしょう。そして、演奏家の真実を伝えられるオーディオの本当の価値に目覚められるはずです。 あとがき アナログ関連製品は、「小規模生産」が可能なので、数多くのメーカーから、様々な製品が発売されています。国内の高級オーディオメーカーも、流行に乗って高価なレコードプレーヤーの発売(再生産)を開始しました。それぞれには、それなりの良さはあるでしょう。けれど、Nottingham
Interspace JRとSpacedeckで実現した今回の音を聞いてしまうと、それらには「本物の深みがない」ことがよくわかります。音質や機能、デザインやコンセプトは立派でも、音楽性や芸術性はNottinghamとは比べものになりません。アナログはデジタルよりも、遙かに本質的な音の違いを露わにし、そこにはメーカーではなく「作り手の腕前」そのものが、如実に反映されるのです。にわか仕立ての腕前で、良いアナログ製品など生み出せません。本物と偽物の違いは、聞き比べればハッキリとわかります。天国で「トム・フレッチャー」は、最近のアナログ再燃ブームを喜ぶと共に、それに乗って情熱(真心)のない製品を発売するメーカーの登場を、きっと苦々しく思っているに違いありません。 付け足すのなら、私は「トム・フレッチャー」が生きていたときのNottinghamの音よりも、今回試聴したInterspace JR、Spacedeckの音により深く感動しました。組み合わせた周辺機器の違いかも知れませんが、以前の音よりも「滋味」が深まっていたように思えたのです。トム・フレッチャーがこの世を去っても、彼の音楽を愛する心。そして、それを伝えられる機器を生み出したいという熱い情熱は、彼を愛する人たちによって、これからもしっかりと受け継がれて行くことでしょう。そう確信し、私の胸はまた熱くなりました。 2015年12月 逸品館代表 清原裕介 |
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