システムコンポとして音決めされているブルメスターの「素の音」を聞きたかったので、電源ケーブルは付属品を使い、電源は通常の壁コンセントから取った。接続にも標準的なバランスケーブルを使い、特殊に高価なケーブルなどは使わなかった。
最初に聞き慣れている、Beethoven
Concert Grand(T3G)を接続し、音を出した瞬間はやけに低音ががんがん出ることに驚かされたが、しばらく鳴らしていると中高域の見通しが良くなっり音が上に伸びるようになった。時間の経過と共にバランスが改善し、レンジが広く透明なサウンドでスピーカーを鳴らし始めた。
そこで慌てずに一晩音を出したままにして十分なウォーミングアップの後、翌日試聴を行った。
Nora
Jones
Vienna
Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
試聴時にまず気づいたのは、小音量の調整が難しいことだ。音量調整はアッテネータール(リレーによる抵抗の切り替えだと思われる)方式で、ステップは60段階ある。しかし、最小のゼロからわずか二つボリュームを上げた「2」ですら、日本の平均的な一般家庭では十分な音量になる。「3」では、深夜は聞けない。つまり3/60しかボリュームが生かせない。「10」では、かなりの音量になる。
音量調整と共に気づいたのは、このアンプはある程度音量を上げないと「いい音がしない」と言うことだ。もちろん、音量を絞っても絶対的には十分いい音で鳴るのだが、音量を上げた時と比べるとどうしても「しょぼしょぼ鳴っている感じ」が強くなる。ブルメスターを鳴らすためには、「音量を上げられるそれなりの環境」が求められると言うことなのだろう。とりあえずボリュームを「4」にセットして、試聴を開始した。
最近テストしたブルメスターと同等の高級アンプにPassがある。Passが暖かみのあるクリーミーな音を出すのに対し、ブルメスターの音は「透明感」が高い。濁りがなく澄み切ったみずみずしい音だ。
ブルメスター設立者のディーター・ブルメスターは、ロックバンドのギタリスト/作曲家として活躍した後、医療用測定器の設計・製造に乗り出し、その後、理想の音を追求するためにハイエンド・オーディオに専心することを決意しブルメスターを設立したのだが、ギタリストの求める「透明なサウンド」が「医療機器レベルの精度に仕上げられた回路」によって見事に実現し、濁りのない透明なサウンドがスピーカーから溢れだしてくるように思える。
ノラ・ジョーンズの声は、上品で艶がある。明るいがわずかな憂いも感じられ、ぐいぐいと引きつけられる魅力がある。伴奏のギターは、澄み切った純度の高い理想的な音で鳴る。ピアノも高次倍音がよく伸びて、音色が鮮やかで美しい。ドラムのブラシワークも出しゃばりすぎず、引っ込みすぎず、良い感じに奥で鳴る。
主張し過ぎることなく、控え目すぎることもなく、BGMにならないぎりぎりの範囲で演奏がバランスよく再現される。まさに「高級」という言葉がぴったりと当てはまる音だ。ブルメスターのピカピカしすぎない程度に派手な外観がマッチするような音楽表現が感じられる。完成度が高く、おもてなしが見事に行き届いた音質だ。
しばらく音を聞いてその世界に浸っていると、ブルメスターは苦労して買う製品ではなく、数百万円が財布からすっと出るような超富裕層のために作られたようなコンポに感じられた。
Focal 1028BE
高域が金属ツィーターらしい切れのある音に変わる。低音はこんな小さなパワーアンプから出ているとは思えないほど重心が低く、他のアンプで鳴らすよりも一オクターブ低い音階まで感じ取れるように思えるほどだ。
高音の切れ味の変化、低音の量感のアップでスピーカーを切り替えたことはわかるが、ノラ・ジョーンズのボーカルと楽器の音は、スピーカーを変えてもほとんど変化せず、注意しなければスピーカーがVienna
AcousticsからFocalに変わったことが聴き取れない。
それはアンプがスピーカーのユニットをほぼ完全にドライブ(動かして止める)しているからだろう。Passも同様に感じられたが、さすがにこの価格のコンポになると、スピーカーに対する支配力が大きくなるようだ。それでもFocal
1028BEでは、Beethoven Concert Grand(T3G)と比べると重心が少し低く、ノラ・ジョーンズの声もややハスキーになった。
Beethoven
Concert Grand(T3G)では一切の汚れを知らない少女が歌っているように感じられたノラ・ジョーンズだが、1028BEでは人生経験が豊富な大人の女性に感じられる。女性的な魅力、好みという意味では1028BEで聞くノラ・ジョーンズが好きだ。
ベースの低音は量感が大きくアップ!ギターの切れ味と透明感も増す。ボーカルと楽器の分離も向上し、よりストレスなく自然に音が出る。やや客観的で試聴しすぎない演奏という印象はそのままだが、音源(ミュージシャン)までの距離が近くなり、雰囲気がグッと濃くなる。少し広いホールでBGM的に聞こえた演奏が、もう少し小さなライブハウスの舞台袖で聞いているような印象に変化する。それでも、高域がきつくなったり、ソフトの粗を暴かないのは、さすがのチューニングだ。ぎりぎりのところで誘惑を躱す、そういう大人の艶のあるノラ・ジョーンズが聞けた。
Tannoy
Turnberry/SE
TannoyにJAZZは向かないと言われる。確かにVintageスタイルのTannoyは低域の反応の遅れや膨らみが原因で、ベースラインがぼけてしまうことが多くJAZZを上手く鳴らせない。そのためクラシック向きスピーカーと称されている。驚いたことにブルメスターは、このTannoyからJAZZのノリの良さを見事に引き出すことに成功した。
VintageスタイルのTannoyの欠点である、低域の遅れや膨らみはほとんどない。また、同軸ホーンの欠点である、中域〜高域の繋がりの違和感や指向性によるリスニングエリアの狭さも感じられない。ノラ・ジョーンズの声は、「やや紙臭く」感じることはあるが、自然で暖かい。ベースはずしんと腹に響く。ドラムは少しチープな感じだがドライに鳴り、エンクロージャーの鳴きによる共鳴は生じない。ピアノは、最高域がややマスキングされるが音色の変化は大きく鮮やかだ。ギターはホーンらしく切れ味がよく、透明感も高い。
ウッドベースの輪郭ががわずかにぼやけることを除けば、Beethoven
Concert Grand(T3G)や1028BEで鳴らせたノラ・ジョーンズと大差ない印象でTurnberryが鳴る。Beethoven
Concert Grand(T3G)/1028BEとTurnberryは全く違うスピーカーだがその差が感じられず、スピーカーが切り替わったことがわかりにくい。Turnberryからこんな音が出るとは想像したことはなかったし、ブルメスターがTurnberryをこれほどまでに見事に手なずけられることも想像できなかった。
Turnberryは「鳴らない」だろうと思って繋いでみたのだが、これほど見事に鳴らされると、文字通り舌を巻くしかない。良い悪いは別にして、Turnberryのこういう鳴り方は、ちょっとショックですらあった。
Zingali 1.12
普通ならスピーカーをZingali 1.12に変えると「やっぱり大型ホーンは良いな!」と思えるのだが、ブルメスターはこのスピーカーを悪い意味で「普通」に鳴らす。
低域は1028BEよりも出て来ないし、中高域にもホーンらしさがあまり感じられない。中域〜高域の繋がりに少し違和感を生じる。絶対的にはかなりいいいい音なのだが、Zingali
1.12らしいイタリア的情熱、鳴りっぷりの良さがうまく引き出せない。ミスマッチとは言い切れないが、この組み合わせはグッドマッチではなかった。
Vienna
Acoustics The Music
Zingali 1.12がまるで小型スピーカーだったと感じるほど豊かな低域が出ることにまず驚かされる。高域は滑らかで繊細。全帯域で非常にリッチな音が出る。
今回の組み合わせでは文句なくベストの音だが、1028BEのあの独特な「色気」がThe Musicには感じらず、ノラ・ジョーンズが汚れを知らないまま、少女から大人になったような雰囲気になる。分離感も抜群で自然で細かい音でソフトが鳴る。
でもこのソフトには1028BEの「濃縮」された感じがよく合っていた。スピーカーを変えても再生される楽器の音色はほとんど変わらなかったが、醸し出される雰囲気には少なからず差が感じられた。再生周波数帯域が上下に拡大されたため、ボーカルの帯域がやや薄く感じられるのが、このソフトは1028BEで聞きたいと感じた原因だろう。
1028BEのあの独特な濃さは、いかにもフランス的だった。ノラ・ジョーンズとのマッチングは、1028BEがベストだった。
Eric
Clapton
ここでソフトを「ギター演奏=エリック・クラプトン」に変えてみる。ブルメスター氏はギター奏者だから、このソフトを上手く鳴らせるスピーカーの組み合わせが、ブルメスターのベストパートナーかも知れない。
Vienna
Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
昨晩からBeethoven Concert Grand(T3G)をずっと鳴らしていたせいか、このスピーカーとの組み合わせでは、ユニットやスピーカーの存在を感じさせないように音が軽く出る。見事なまでに「馴染んで」いるようだ。
ギターは透明で美しいが、ボーカルは子音がやや荒れる。心なしか声もやせて聞こえる。オーディオで聞くエリック・クラプトンを私はあまり好まないが、それは「弱々しい」と感じることがあるからだ。残念ながらブルメスターで聞くクラプトンは、すこし弱々しい。音は綺麗だが湿っぽく、力がない。
しばらく聞き続けていると「余韻が少ない」ことに気づいた。ユニットの制動が効きすぎるせいなのか?音が整理されすぎて、音と音の間にある「非共和音成分」が少なくロックらしい「雑味」がうまく出ない。それが原因で音数が少なく感じられ、音楽にエネルギー感が不足するようだ。ただ、このようなことは「わずかなチューニング」で解決することが多くい。絶対とは言えないが、電源や接続ケーブルを選ぶことでほぼ完全に解決するはずだ。
Focal 1028BE
同じアンプで同じ曲を聴いているとは思えないほど音が変わる。低音は重量感とパワー感が出て、前に押し出してくる。ギターの切れ味は向上し、声にも力が出てくる。音の数もかなり増えて、聴き応えのある音に変化した。
Beethoven Concert Grand(T3G)と共通して感じられるのは、1028BEでもボーカルよりもギターにスポットを当てたような鳴り方をすることだ。通常はボーカルが前に出てギターは後に下がるが、ブルメスターで聞くとボーカルよりもギターが前に出る。ギターが主役で音楽が展開して行くイメージだ。それでも、まだ少し力(パワー感)が弱いようにも感じるが、しばらく聞いているとあまり気にならなくなる。
今、大阪は丁度低気圧が通過しつつあり、気圧の低下湿度の増加が同時に起きている。スピーカーの音が弱々しく聞こえるのは、こういう「環境の変化」によるものも非常に大きい。今日は、どうやらロック日和ではないらしい。
Tannoy
Turnberry/SE
驚いたことにこのソフトでは、Turnberryの低音が1028BEより量が多い。ちょっと膨らんではいるのだが、この量感の多さはなかなか心地よい。
最近、ウーファーやスコーカーには、分割共振を抑制する目的で紙よりも内部損失の大きい樹脂が使われたり、ダンピング材が塗布されていたりする。特性的には良くなるのだろうが、ユニットが重くなることが避けられず、下手をすると中低音が重くなってしまう。その点余計な混じりものがない「素の紙」で出来ているTurnberryからは、歯切れの良い乾いた低音が出る。たぶん、ウーファーの分割共振(暴れ)も良い影響(分割共振は、波動ツィーターと同じ効果を持つ)を与えているのだろう。先に聞いた2本のスピーカーとは、明らかに違う「明るい音」でクラプトンが鳴る。
それでも随所に「紙臭さ(紙臭さの発生こそユニットが分割共振している証拠)」を感じるが、音楽の鳴り方としてはTurnberryが一番ロックらしく、パワフルで楽しく聞けたことに驚いた。歴史が証明する(現代まで生きながらえてきた)VintageスタイルのTurnberryの実力は侮れない。これはこれで、見事な音楽スピーカーなのだ。
Zingali 1.12
ノラ・ジョーンズでは振るわなかったが、この曲では一転してZingali 1.12がその力を存分に発揮する。
コンサート(ライブ)に使われるPAスピーカーの多くは「音の飛び」と「能率」を重要視して「ホーン型」が使われるが、そのPAスピーカーを家庭用に衣装替えしたようなZingali 1.12は、こういった電気音楽系ソフトを鳴らすのが実に上手い。まるでコンサート会場で音楽を聴いているようなパワフルかつ濃い雰囲気でエリック・クラプトンを見事に鳴らす。ギターは切れ味があり、張りもある。ボーカルは力強く、ベースはぐんぐん前に出る。
特に前に聞いた3本のスピーカーと違うのは「音の消え際」まで、しっかりと音が残って聞こえることだ。ボーカルの声が消えた所の「息吹」。ギタリストが音の余韻が完全に消えるまで「左手で弦を操作している様子」など、音にならない雰囲気まできちんと再現される。これはZingali
1.12だけの魅力だ。
Vienna
Acoustics The Music
ノラ・ジョーンズではBeethoven Concert Grand(T3G)とほとんど変わらない音色で再生周波数帯域と音の細やかさがアップしたが、ソフトをクラプトンに変えると音楽の鳴り方そのものが変わるのに気づく。
Beethoven Concert Grand(T3G)で感じたパワー不足感が全くない。音のエッジが鋭く、アタックが腰砕けにならずきちんと立ち上がる。ただそれだけのことなのだが、このアタックの再現というのがなかなか難しい。AIRBOWではそれを補正する目的でCLT-3FVと名付けた「波動ツィーター」をラインナップしているが、The Musicは波動ツィターの助けなしにアタックを再現する。それは、超高域用に使われた村田製作所のセラミックツィーターの効果かも知れないし、あるいはスパイダー構造を持つ特殊な平面ユニットの効果かも知れないが、とにかくロックがきちんとロックらしく鳴ることに驚かされた。
低域はかなり低い帯域まで伸び、パンチ力もある。ボーカルは滲みが少なく、フォーカスがきちんと合っている。ギターはボーカルよりも少し後に下がり、ボーカルの邪魔をしない。コーラスは分離が抜群で、一人一人の発声の違いが聞き分けられる。淀みもなく、歪みも無く、見事なHiFiサウンドでエリック・クラプトンが鳴る。Zingali 1.12の荒削りでパワーのあるクラプトンも良かったが、The
Musicで聞く端正で自然なクラプトンもそれに負けず魅力的だった。
「新世界」
平均音量レベルが高いJAZZやROCKと違って交響曲はダイナミックレンジが広い。そこで十分な音量を得るために、ボリュームを「12」に上げると心なしか音の透明感や細やかさが向上したように感じられた。バランスも改善し一段と音が良くなったようだ。いずれにせよブルメスターの本領を発揮させるためには、やはり「それなりの音量」で鳴らすことがポイントのようだ。
Vienna
Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)
見事に過不足ない音で新世界が鳴る。音の広がり感、細やかさ、立体感、分離感とハーモニーの美しさ・・・、あらゆる部分に全く違和感がない。弦楽器の厚みと倍音構造の完璧さ、管楽器の切れ味とパワフルさ、打楽器の重量感と圧迫感、それぞれの分離と融合が実に見事で聴き応えがある。
絶対的、刹那的な「音質」でブルメスターを上回る高級コンポを見つけることは出来るかも知れないが、音楽再現のバランスと絶妙なバランスのチューニングでブルメスターに比類するのは、海外製品ではFMアコースティック、国産コンポならば、Digital
Domain B1aくらいしか思い浮かばない。
ヨーロッパ最強の高級オーディオメーカーという称号は、決して伊達ではない。少なくとも日本のいびつなオーディオ市場に君臨する「コマーシャルとそれに迎合する耳の悪いアドバイザーが作り上げた名ばかりの高額ブランド」とは、完全に一線を画することは間違いない。この組み合わせで、いつまでも演奏を聴いていたかった。
Focal 1028BE
1028BEとBeethoven Concert Grand(T3G)のサイズはほとんど同じだが、低音の出方はまるで違う。完全に一回り大きなスピーカーで聴いているような感覚で1オクターブ低い音程まで伝わってくる感覚がある。
ハーモニーの形成(混ざった感じ)はBeethoven Concert Grand(T3G)が1028BEを上回っていたが、音の分離は逆に1028BEが優れている。だが先に書いたように、これは「鳴らし込みの時間の違い(なじみの違い)」も大きく影響するので断定は出来ない。
自製ベリリウム振動板を採用したツィーターの威力で、高域の分解能・アタックの鮮やかさでBeethoven Concert Grand(T3G)を圧倒する。切れ味が増した弦楽器のパートはとてもスリリング。それでいて中音は滑らかで厚みがあり、バイオリンとチェロの音色をきちんと描き分ける。ベースの音には弾力と圧力が感じられ、低音部が独立したパートとなって心地よく分離して聞くことができる。低域、中域、高域のパートが見事に鳴らし分けられて、交響曲はかくあるべし!という教科書的なオーケストラレーションが再現される。
ここでふと気づいたのだが、ブルメスターの試聴のはずが、書いている内容がスピーカーの聞き比べに変わっている。これは、どんなスピーカーでも瞬時にその持ち味を発揮させられるブルメスターのスピーカードライブ能力の能力の高さの証だ。アンプの存在が感じられないことが、ブルメスターの最大の長所であり、他の類のない希有な能力なのだ。
Tannoy
Turnberry/SE
VintageスタイルのTannoyの音には、ハッキリそれとわかる癖が存在する。先ほどから言及している「紙臭さ」はその一つだが、低音部の箱鳴き(エンクロージャーの共鳴)など、HiFiと呼べない歪みは決して少なくない。しかし、その音楽再現能力は、驚くほど高い。
Beethoven Concert Grand(T3G)や1028BEでは「SS席の良い音」で交響曲が聴けた。Turnberryは少し悪い席(響きが濁る)になるが、オーケストラの実力が十分に高いこと、演奏が素晴らしいものであることはより強く感じとれる。
音楽は音(空気の振動)でしか伝わらないはずだが、Tannoyは音(空気の振動としてではない)にならない部分でも音楽をひしひしと伝えてくる。言い換えるなら、音質に頼らずに音楽を伝えることが出来るから、Vintage
Tannoyがソフトの録音の善し悪しに左右されにくいのだろう。
音質よりも何かもっと本質的な部分で、心の琴線を振るわせる何かをTurnberryはソフトから引き出す。生演奏を聞き慣れた音楽ファンや、オーディオ嫌いの演奏家がVintage
Tannoyを選ぶ理由は、正にそこにある。HiFi性能ではなく、ストーリーテラー(音楽の語り手)」としての資質をつよく持つスピーカーがVintageスタイルTannoyなのだ。
Zingali 1.12
スピーカーをTurnberryから切り替えたせいもあるが、Zingali
1.12が実に「晴れやかな音」に聞こえる。
シンフォニーホールには一点の濁りもなく、空気は澄み切っている。先に聞いた3本のスピーカー、Beethoven Concert Grand(T3G)や1028BE、そしてTurnberryで聞く新世界が、湿っぽくやや冷たい大地(北ヨーロッパのような)を連想させるのに対し、Zingali
1.12は地中海側の暖かく乾いた大地を連想させる。国内録音のソフトと海外録音のソフトは音が違うが、Zingali 1.12はLA(アメリカ西海岸)で録音された「明るく乾いた音」で新世界を鳴らす。
弦楽器は、タッチが正しくハードで元気がよい。管楽器のセクションは、一歩前に出てパワフル。金管楽器が実にそれらしく聞こえるのはZingali
1.12ならではの良さだ。
音はスピーカーを中心に前後左右に広がる感じで、音場(ステージ)がスピーカーの後方に展開したこれまでの3本とは明らかに違っている。演奏の抑揚は大きく、メリハリと躍動感がある。どちらが正しく、どちらが違っているという問題ではなく、明らかに好みで判断すべき問題だが、私にはどちらも甲乙付けがたく感じられた。
Vienna
Acoustics The Music
コンサートホール、交響楽団のスケールが一段と大きくなる。透明で澄み切った音、濁りのないホールの音からは、ウィーンフィル(生で聞いたことはないが)を思い起こさせる。
CDの再生を開始して1分も経たない間に、これからどんな音でこのソフトが鳴るか?完全に予想がつくが、それはThe
Musicの音が完全に違和感がなく自然(変な癖がない)な音だからだ。この素晴らしいThe
Musicの音を聞いてさえ「新世界」の再生でブルメスターと最も相性が良かったのはBeethoven Concert Grand(T3G)だと思う。しかし、それはやはり「鳴らし込み(馴染み)」の影響も大きいし、スピーカーの設置環境(ルームアコースティック)も原因だろう。オーディオは一筋縄ではいかない。
The Musicとブルメスターの組み合わせでは、透明感と潤いに溢れる音、広大な広がりと緻密な構成を感じさせるオーケストラレーションの再現性を生かせる「ブルックナー」を聞いてみたくなったと言えば、どんな音が出ているか想像して頂けると思う。インスピレーションが働いて、ブルックナーをウィキペディアで調べて驚いた。Viennaで生まれたThe Musicとベルリンで作られるブルメスターでブルックナーを聞くというのは、まさに「ご当地」の組み合わせだったからだ。ブルメスターは、高級な音楽でその真価をより大きく発揮するのは間違いない。