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バーソン・オーディオ社は、オーストラリア・メルボルンのオーディオ界中心人物である マーク・バーソン氏の元に集う人々により1996年に設立された比較的新しいオーディオメーカーです。彼らが生産する製品は、必ずしも商業化を目的として開発されているわけではありません。妥協を許さぬ彼らのこだわりが随所にちりばめられた良い意味でアマチュアライクな設計は、オーディオファイルによるオーディオファイルのための製品と言えるでしょう。
輸入代理業務は、ALR/JORDANなどを取り扱う今井商事が行います。この新進の製品を早速テストしてみました。今井商事から届いた試聴機は、ヘッドホンアンプHA160、バッファアンプ(音量調節とゲインを持たないプリアンプ)AB160、そしてUSBインターフェイスを備えるDACのDA160の3つです。
先ず最初にこれらの製品の特徴について説明したいと思います。
※Burson Audioの製品は、仕上げが少し雑でパネルなどに非常に小さな傷が付いていることがあります。しかし、すべての製品がそのような状態ですので初期不良としての交換には応じられません。予めご了承のほどお願い申し上げます。また、傷などを気になさる場合、Luxmanなど仕上げの綺麗な製品をお選び下さいますようお願いいたします。
Burson Audio製品の特徴
Burson Audioの製品には、この価格帯ではあまり使われることのない高音質にこだわる回路やパーツが採用されています。それが低価格で高音質を実現している特徴です。
ディスクリート増幅回路 | 固定抵抗式アッテネーター | 安定化電源 | 厚アルミシャーシ |
Burson Audio製品には、OPアンプ(IC)による増幅回路ではなく、本格的なディスクリート構成の純A級増幅回路が採用されています。滑らかで緻密な音を実現します |
ヘッドホンアンプのボリュームには、固定抵抗を組み合わせたアッテネーターが使われています。この方式のボリュームは振動に強く、高域が透明で情報量が多いのが特徴です。 |
電源回路は、アナログとデジタルが分離され、レギュレーターを使った安定度の高い回路が使われています。コンデンサー類も吟味された、オーディオグレード品が使われています。 |
筐体は5mm程度の厚みのあるアルミニウムが使われ、音質劣化の原因となる振動を防止します。アルミニウムは放熱にも優れ、熱安定度も高い設計になっています。 |
Burson Audio HA160 メーカー希望小売価格 ¥90,000(税別) 生産完了 (Burson製品のご購入はこちら) |
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Burson Audio AB160R メーカー希望小売価格 ¥80,000(税別)生産完了 (Burson製品のご購入はこちら) |
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Burson Audio DA160 メーカー希望小売価格 ¥125,000(税別) 生産完了 (Burson製品のご購入はこちら) |
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音質テスト
まずヘッドホンアンプのHA160から音質テストを始めました。Burson Audioにはゲインを持たないバッファアンプ「AB160」がありますので、まずiPod(iPod Touch 第4世代)をソースとしてヘッドホンアンプによる出力改善能力と、バッファアンプを追加する事による音質改善をテストしました。
音源には矢野顕子さんのCD「Super fork song」からWAVEでリッピングした「中央線」を使いました。
ヘッドホンアンプ、バッファアンプに続いてDA160のテストを行いました。使い慣れたPC(i-TunesでiPodと連携しているPC)とUSBでDA160を繋ぎ、iPodに集力しているのと同じ音源ファイルを内蔵HDDから、WIN-Ampを使って再生しました。
DELL Bostro 3700 | → | → | → | |||||||||
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DELL Bostro 3700 |
audioquest MINI-3 |
→ | Burson HA160 | |||||||||
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DELL Bostro 3700 |
audioquest MINI-3 |
Burson AB160R | Burson HA160 | |||||||||
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DELL Bostro 3700 | audioquest USB Carbon |
Burson DA160 | Burson HA160 | |||||||||
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DELL Bostro 3700 | Burson DA160 | Burson AB160A | Burson HA160 | |||||||||
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総合評価
PC/ネットワークオーディオに初めて触れたとき、物珍しさも手伝って「これは案外いける!」と思いました。事実ハイエンドショウ東京2009春には、AIRBOW AV8003/Specialを持ち込んで早々とネットワークオーディオを取り入れたデモンストレーションを行い好評を博したほどです。それから現在に至るまでハイエンドショウのプログラムには、必ずPC/ネットワークオーディオ関連を加えてきました。
しかし、2010夏に中古でBMWを購入しそのカーステレオ用としてiPod Classicを使い始めた頃から事情が変わります。BMW純正装着のカーステレオとiPodの組み合わせの音が「気に入らなかった」ので、2010年のお盆休みはiPodの音を良くする実験に没頭していました。その実験から、iPodはClassicもしくはTouchのアナログ出力の音質がずば抜けて良いこと(Nano以下は良くない)、音源ファイルをMP3/320bpsに圧縮しても音がほとんど変わらないことが分かりました。iPodの音が以外によいとわかったその時から、AIRBOWのAVアンプやネットワークプレーヤーの開発には、必ずiPod(USBデジタル接続)による音質テストを加えています。
さらに体調維持が目的でトレーニングジムに通うようになり、トレーニング中に少しでも良い音で音楽を聞くためにiPod Touchと最も相性の良いカナル型ヘッドホンを探し、audio technicaのATH-CK90PRO MK2を見付けました。TouchとCK90PROの音質は非常に素晴らしく、今回と同様に音質にこだわって過去に選んだSONY WM-D6C+Sennheiser HD650のセットを超えました。しかも、それらよりも圧倒的に軽く、長時間再生が可能で、遙かに安いのです。
ざっとのこのような経緯でそれまで目を向けることもなかったiPodにインスパイアされた私は、通常なら加えられることのない高価なPC/ネットワークオーディオのテストに常にiPodを加えるようになりました。そしてMarantzのネットプレーヤーNA7004の改良モデルAIRBOW NA7004/Specialを作ったときに、多くの場合iPodの方が高価で複雑なPC/ネットワークオーディオよりも音が良いと確信します。今回のテストでもそれを裏付ける結果となりましたが、今回のテストでのPCとiPodの音質差は想像を遙かに超えていました。
PCの音質が芳しくないのは、動作に起因するノイズ(デジタルノイズ)が非常に多いからだと考えています。CDプレーヤー発売の初期に、表示パネルを消してでもノイズを減らし、音を良くしようという努力がなされていました。最近のAV機器にも表示パネルを消すスイッチが付いていますが、それは煩雑なディスプレイを消すという意味と、もちろん音質改善の意味も持っています。高価なDVDプレーヤー(ユニバーサルプレーヤー)には、映像回路のスイッチを切る(映像出力をカットするスイッチ)が設けられていますが、これもデジタル映像回路から発生するノイズを低減し音質を改善するのが目的です。PCやネットワーク関連機器が発生するノイズは、これらとは比べものにならない大きさです。音質の実現に欠かせない高性能なアナログ回路は敏感で、PCやネットワークの環境で発生する様々なノイズに非常に弱く、複雑なPCやネットワークを使用する限り高音質が望めないか、もしくはそれらのノイズを完全に低減する装置(回路)が発明されない限り不可能だと現時点では考えています。
話を少し戻しますが、iPodは通信機能(電話機能やWiFi機能)をOnにしたままでは、アナログ回路に「高周波ノイズが電波の形で混入」し今回テストしたPCと同じように高域が曇り解像度や広がりが阻害されます。iPodやiPhoneは設定メニューで「機内モード On」にするとすべての通信機能を遮断できます。そうすることで、明らかな音質改善が実感できます。この簡単な実験からPC/ネットワーク関連の通信ノイズ・データー伝達ノイズが、アナログ回路の品質を大きく損ねている事が伺えます。
新しい装置、複雑な装置、高価な装置は魅力的だと思います。しかし、オーディオに限っては「最新が最良」ではありません。また「高額が最高」でもありません。特にPC/ネットワークオーディオのような最新のデジタルシステムの価格を決めるのは「生産台数」と「重量(材料の多さ)」なので、多く作られて質量も軽いiPodが、汎用の大型PCよりも音が優れていても何ら不思議ではないのです。逆に動作電圧が低く、消費電力の小さなiPodだからこそ、PC/ネットワークオーディオで一番の問題となる「ノイズ」の悪影響が軽微だとも考えられます。
PC/ネットワーク環境から発生するアナログ回路への悪影響を抜きにして音質向上の手段はありません。ハイビット/ハイサンプリング、オーディオ専用PCなど様々な取り組みが行われていますが、どれもこれも的外れです。現時点では、PC/ネットワーク環境とDACを効果的に分離することが高音質への近道だと感じています。高音質の追求で連綿と培われてきた高度なアナログ技術や、高音質CDプレーヤーの開発によって完成度を大幅に高めたデジタル・オーディオ技術の深さを知ることなく、机上(NETで知り得た知識)の空論(理論)ばかりを先行させるのは、CDの黎明期に「スペックが優れる」と言う理由だけで、アナログやレコードを否定したのとまったく同じだと思います。そういう意味では情報の拡大に反比例して、PC/ネットワークオーディオにおける高音質の追求は逆行しているのではないでしょうか?少なくとも進歩しているようには思えません。
真空管300B比較のページにも書きましたが、音楽は響きが命です。響きを損ねるノイズ、美しい響きを発生しないデジタルをとことん追求しても、響きを損ねるノイズを発生せず、音楽をさらに美しくする響きすら生み出せるアナログを超えることは、なかなか実現しないのではないだろうかと思います。逆にiPodのように量産された能力の高い専用機を上手く使いこなせれば、従来の概念を覆す低価格でかなりの高音質を実現できることがわかりました。今回のヘッドホンアンプのテストでは、特にそう感じられます。
デジタルは信号を改質するために生まれた技術ではなく、信号を損ねないために生まれた技術だということを忘れてはなりません。デジタルがアナログに比類し、それを超えるためには「原音に近づく」だけでは不十分です。アナログのように「原音を超える」必要があります。
最後に付け加えます。今回のレポートのように最近PC/ネットワークオーディオを否定するような言動の多い私ですが、PC/ネットワークオーディオの存在を否定し、その変化の流れを堰き止めようとしているのではありません。個人的には、すでにiPodをかなり活用しておりますし、その簡便さからCDがレコードを駆逐したように、近未来にはPC/ネットワークオーディオがオーディオの主役になることは間違いないと考えています。私が危惧するのは新技術や新商品の導入、黎明期にありがちな「間違った選択(間違った情報の取り入れ)」をお客様がなさって、割に合わない高価な出費を後悔して欲しくないと思う一点です。
2012年4月 逸品館代表 清原 裕介
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