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逸品館お薦めのプリ/ヘッドホンアンプ"Soloist"と対になる小型パワーアンプ"Timekeeper"がBursonから発売されました。Timekeeperは高さがSoloistと同じで横幅は少し大きくなっています。放熱を考えて2cmほどの隙間を空けSoloistと並べると横幅が45cmと通常のコンポとほとんど同じになります。並べるとプリメインアンプでは味わえない格好良さが感じられて、セパレートアンプを使っている満足感を覚えます。
※SoloistとTimekeeperの本体高さは同じですが、試聴した個体は脚の高さが違いました。並べるTimekeeperが少し高くなっています(上写真)。
Timekeeperは小型パワーアンプですが、スペック上は80W×2(8Ω)、ブリッジ接続が可能でモノラルだと240W(8Ω)の高出力が発揮されると説明されています。しかしサイズは重量、放熱板の大きさを考えるとその出力は連続最大出力ではなさそうです。カタログなどに記載されるオーディオ機器のスペックですが、その単位や測定方法は公的機関ではなくメーカーが自主的に定め測定しているため、単純にメーカー間での数値比較はできません。例えば最近発売された、Esoteric Grandioso P1のカタログには、最大出力3000W(1Ω)と記載されています。しかし、家庭用コンセントから供給できる最大電力は100V/15A、つまり1500Wしかありませんから、どう考えても3000W(1Ω)を連続出力することはできません。P1の3000W(1Ω)は、理論的な「瞬間最大出力」だと考えられます。これに対しAIRBOWの生産完了モデル”TYPE-1”の最大出力60W×2(8Ω)は、実際に計測した24時間連続出力可能な出力でした。アンプでは周波数特性はともかく、少なくとも最大出力はアンプ購入の指標にされやすいので統一して欲しいと思います。また実際にどれくらいの残留ノイズが出ているのか判断できるように、ノイズレベルはデシベルではなく、電圧や電流値(出力)で表示して欲しいと思います。
話をTimekeeperに戻します。このパワーアンプはアナログ回路を重んじるBursonらしく、デジタル回路や素子を一切使わないフルアナログアンプとして設計されています。またコンパクトな外観から想像できるようにパーツ点数の少ないシンプルな回路を採用しています。小型化、省パーツ化で実現したコストダウン効果を生かして、Timekeeperは高級オーディオパーツを多用しながら低価格を実現できたと彼らは主張しています。
Burson Audio HA160、AB160R、DA160 音質テスト ・ Burson Audio Soloist 音質テスト
Burson Audio Soloist メーカー希望小売価格 ¥125,000(税別)生産完了 (Burson製品のご購入はこちら) |
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Burson Audio Timekeeper メーカー希望小売価格 ¥250,000(税別)生産完了 (Burson製品のご購入はこちら) |
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音質テスト
このレポートの前に実施したスピーカーやケーブルの試聴に使ったMarantz SA8005とPM8005のセットからPM8005を外し、Burson Soloist+Timekeeperをアンプとして設置、通常通りSA8005に接続し多iPod Touchを全曲リピートにセットしてウォーミングアップを開始しました。
最初はPM8005よりも少し帯域が広く音に艶がある程度でしたが、20分程度鳴らすとレンジが広がってパワー感も俄然アップしてきました。そのまま1時間ほど聞き続けると、PM8005とは世界が違う音が出始めます。低域の密度感と力感が向上し、中域は滑らかさと厚みが出ます。高域は鋭く伸びるイメージではなく、柔らかく繊細に伸びる感じです。
SoloistとTimekeeperの優れているのは、ハーモニーの複雑な美しさを再現するところです。ハーモニーが複雑になると、楽音に深みが出ます。ハーモニーが音楽性を高める(響きを複雑にして音楽的な情報量を増やす)のは、単純に「楽器単体の音」が増えるからだけではありません。複数の楽器の音が互いに干渉する(和音が生まれる)ことで、楽器からは出ていない新たな音(より複雑な響き)が生じるからです。
ハーモニーから新たな音を生み出すために重要なのが「余韻の長さ」です。楽器の響きが短すぎると「音が合成」されず、和音が生じません。余韻が長すぎる場合は「不要(過剰)な和音」が生じ、音場が濁ります。Burson SoloistとTimekeeperの優れている所は、それらが持つ適度な余韻により、「和音が豊富に形成される」ことです。一つずつの楽器が自然に(無理矢理でなく)分離して聞き取れるのは、Burson ペアが楽器毎の音の特長をきちんと再現するからです。
Timekeeperは高出力アンプだとからラーは主張しますが、コンベンショナルなアナログ回路を使う以上、どうしても絶対的な物理特性は物量に比例することが避けられません。8.0kgと軽量なTimekeeperは、30kgを超えるようなアンプ並の低音は出ません。しかし、それが生み出すハーモニーは美しく、音楽をより情緒的に深く再現します。
Focal 1028BE |
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高域は刺激が少なく滑らかですが、弦と弓の引っかかる感じ(アタック)はきちんと再現されます。柔らかい音の中でもアタック感が明快なので弓を返す瞬間の鮮やかな切り返しが鮮やかに再現され、演奏者の身体の動き見えるようです。伴奏とコンサートマスターの分離も鮮やかで、それぞれの奏者が互いに音を聞きながら、掛け合いで演奏している様子がリアルに伝わります。
1曲目から2曲目に変わる時、PM8005では楽章で区切られた曲が同じ場所、同じ時刻に連続で演奏されるように聞こえましたが、Bursonでは1曲目と2曲目が演奏された「時間と空間」が異なるかのように、コンサート会場(レコーディング会場)の雰囲気が変わるように聞こえました。どちらが本当かは録音に立ち会っていないのでわかりませんが、Bursonは「音の変化」を超える「雰囲気感の変化」を1枚のCDから引き出す能力を持っています。CDプレーヤーをランクアップしたように音が良くなりました。
Burson Soloist+Timekeeperはセパレートアンプと聞いて想像するようなゴリゴリした音ではありませんでした。最上級のプリメインアンプをさらに磨き込んだような繊細さと、向こう側が透けて見えるような美しいハーモニーが特長です。心地よい響きと豊富なニュアンスが、ヒラリー・ハーンのCDから引き出されました。
Madonna “The Immaculate Collectiono” から Like a Virgin
高域はしっかりと伸びて金属系の響きも非常に美しいのですがキツくならず、繊細さと滑らかが保たれて1028BEが搭載するベリリウム逆ドーム型ツィーターが、まるでVienna Acousticsのスピーカーが搭載するスキャンテックのシルクドーム型ツィーターとのように滑らかに鳴ります。
低音は量感・力感とも十分ですが、若干ウェットに感じます。中高域は明るく、温度感も高めです。きめ細かく暖かい中高域は、良くできた純Aクラスアンプの雰囲気です。
このソフトでも分離感の鮮やかさが十分に発揮され、メインボーカルとサイドボーカル、コーラス、伴奏が美しい層状になって聞こえます。このハーモニーの美しさこそSoloist+Timekeeperの最大の魅力でしょう。しっとりと説得力のあるボーカルで、マドンナが語りかけてくるように感じました。
orange pekoe ”10th Anniversary Best Album SUN&MOON “ から やわらかな午後
低音は量感がたっぷりとしています。ウッドベースは比較的ゆったり立ち上がり、重厚な響きを伴って収束します。シンバルの金気は、少し柔らかすぎます。ビブラフォンも、金属板を打ち付ける”ばち”の表面がフェルトで覆われているように少し曇った音で鳴ります。前後方向への広がりが少し不足して感じられますが、それはソフトの録音が原因かも知れません。
魅力的なのは「ボーカル」です。ヒラリー・ハーンの弦楽器に感じたのと同じように、ボーカリストの発声の変化がとても細かく明確に伝わります。楽音の強弱に音色の変化がきちんと伴うので、音楽が大きく躍動します。
少し響きすぎる真空管アンプのように、曲全体が響き過ぎるように感じられますが、こういう鳴り方がお好みならば「はまる」と思います。
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1028BEのベリリウム逆ドーム型ツィーターをシルクドームのように鳴らすSoloist+Timekeeperでシルクドーム型ツィーターを搭載するBeethoven Concert Grand(T3G)を鳴らすと、高域の伸びやかさが失われ解像度感も低下します。バイオリンを薄い布で覆ったように高域の美味しい角が失われ、音楽の切り返し部分が曖昧になります。悪い音ではありませんが、明らかに高域が伸びたりません。高域の伸びない真空管アンプを聞いているような音です。
Madonna “The Immaculate Collectiono” から Like a Virgin
低音が遅すぎます。リズムが遅れ、盆踊りのような雰囲気です。POPSはもっと低音がリズミカルに弾まなければ、その楽しさが出てきません。
高域の切れ味が不足し、解像度が低下します。Beethoven
Concert Grand(T3G)の良さが全然出てきません。嫌な音は出ませんが、美味しい音も出てきません。
パンパンと弾けるはずのドラムの音がペタペタという音になり、マドンナが演歌歌手のように聞こえました。
orange pekoe ”10th Anniversary Best Album SUN&MOON “ から やわらかな午後
この曲でも高域が伸びず、解像度がガクンと低下します。音が分離せず、空間が濁ります。
楽器の音も丸く、力がありません。ボーカルは滑らかですが単調で、表情も乏しく感じます。
お腹が減った楽団が、投げやりに演奏しているような感じです。元気とやる気が感じられず、まったく面白くありません。
試聴後感想
Burson Soloist+Timekeeperのセットは、ウォーミングアップで使ったFocal
1028BE、SA8005+iPod Touchとの組み合わせが最高でした。
SA8005にCDをセットすると、Focal 1028BEではやや角が立ちすぎました。しかし、それでも良い音で音楽を楽しめました。スピーカーをVienna Acoustics Beethoven Concert Grand(T3G)に変えるとCDでも高音の角が丸くなりすぎて、とても音楽を楽しめる音ではなくなりました。
ヘッドホンアンプとしては高く評価したSoloistをプリアンプとして評価するなら、採点は「落第」です。なぜならば、アッテネーター型ボリュームを一つあげるだけで、通常のアンプでボリューム8時くらいの音量になり、もう一段上げるとそれが9時になり、3段目ではすでに10時くらいの大きな音になってしまうからです。Soloistはゲインを3段階に変えられますが、最小のゲインでもこの有様です。本来音量を調節するために使うプリアンプなのに、音量調節ができないのでは音質を評価する以前に以前に落第です。また組み合わせるパワーアンプ Timekeeperの入力感度が240mVとかなり高い(小さい入力出音が大きくなる)のも、純正の組み合わせなのに「なに考えてるの?」と文句の一つも言いたくなるほど、アンバランスです。Soloistをプリアンプとして使う場合には、入力で音量を変えられるパワーアンプか、もしくは出力で音量を変えられるプレーヤー(音量調節出力付きDACなど)が必須です。
Soloistの音質は高く評価しました。しかし、Timekeeperの音質を採点するなら「プロが作った製品ではない」という判断になります。Timekeeperが無帰還回路で構成されるかどうかは調べませんでしたが、Timekeeperは無帰還回路の「悪い見本」のような音質です。一部のオーディオマニアは未だに無帰還回路を信奉していますが、私は回路を完全無帰還にするよりは適度な負帰還(ネガティブ・フィードバック)がかけられることを好みます。その方が,アンプの音質が安定することが多いからです。もちろん”良くできた無帰還回路”には、独自の良さがありますから無帰還回路を完全否定するつもりはありません。ただTimekeeperは、下手なアマチュアが組んだアンプのように強い癖(個性)を持っていると言いたいのです。Timekeeperは、組み合わせるスピーカーでアンプの音がまったく変わってしまいました。アンプの音が決まらない不安定な性質では、安心してお薦めできません。Timekeeperを単体で評価するなら、癖の強いアンプだと思います。組み合わせるシステムによっては、驚くほど良い音を発揮する可能性があります。しかし、大失敗する可能性もあります。一言でTimekeeperを説明するなら、それは「真空管アンプ」です。
「癖」が良い方向に働けば、このリポートの最初に書いたようにSoloist+Timekeeperには高い評価が与えられます。この「癖」とSoloist+Timekeeperの「欠点」を消すための確実な方法は、プレーヤー側での音量調節が可能で音が硬いという欠点を持っているPCネットワークオーディオ・プレーヤーとの組み合わせでしょうか。Bursonのもつ甘くて柔らかい響きが、硬く痩せたPCの音を緩和し優れたマッチングを発揮するはずです。
2014年2月 逸品館代表 清原 裕介
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