I03は「特別なアンプ」だから、ウォーミングアップに時間を掛けてソフトやスピーカーも複数を組み合わせてじっくりと聞きたいのだが、生憎発売直前と言うこともあってセールスが一台のI03を持ち回らなければならず、数時間という非常に限られた時間しか聞けなかった。そのためこの音質評価はあくまでも「インプレッション」として考えていただければ幸いだ。
デジタルプレーヤー AIRBOW SA15S2/Master
まずプレーヤーに聞き慣れたAIRBOWSA15S2/Masterを繋いで試聴を開始した。
ボーカルは端正だが冷たくはない。ピアノも同様に響きがやや淡泊な印象。ウッドベースはやや乾いた感じで響きが薄めに感じるが、全体的なバランスは良好だ。
スピーカーから少し離れたポジションでは、BGMとして非常に上質に感じられる音質だ。しかし、「あちら」から訴えてくる“熱い”感じは薄い。
ポジションをスピーカーの正面に移してしっかりで聞く。すると音が一段と細かくなった。訴えてくる感じはそれでも薄いのだが、「こちら」から聞きに行くとしっかりと答えてくれる音が聞こえる。
Accuphaseほど淡泊ではなく、Luxmanほど厚ぼったくもないこの音の印象は、やや中性的で癖のないイメージだ。
細かく滑らかだが、どこかぬるりとして生暖かい音。私の好みではやや“熱さ”が物足りないが、素直なこの音は「自分なりの音」を作るベースとしては最適だと思う。しかし、海外製品のように「訴えてくる音」を求められるなら、この製品は違っていると感じられた。
デジタルプレーヤー AIRBOW X05
Ultimate
ここでCDプレーヤーを音の堀が深いEsotericベースのAIRBOW
X05/Ultimateに変更する。
デジタルアンプの癖なのだろうか?CDプレーヤーを変えても、その音の違いが反映されにくい。
クラスD(デジタルアンプ素子)は音質に優れているといううたい文句で登場し、脚光を浴びた。しかし、それが今では「デジタルアンプ搭載」はネガティブな評価になってしまった。逸品館では、初期のデジタルアンプを頑として評価しなかったが、結果として時間と共にそれが立証された形だ。デジタルアンプを褒め称えた評論家は、今はどんな記事を書いているのだろうか?それはともかく、デジタルアンプ=音が悪いという評価が確立した頃になって、皮肉にもデジタルアンプの音質がめきめきと向上してきた。
しかし、目の前のI03から出る音は、これまでのアナログアンプを超える音質を時折聞かせるものの、アナログアンプの魅力を超える音は出せていないように思えた。すこし前にテストした、TADのデジタルアンプ、Specのデジタルアンプにも同様の印象を持ったが、デジタルアンプは全般的に「高域の抜け」が悪いように思う。
私が初期のデジタルアンプの音質を評価出来なかったのも高域に問題を感じたからだ。デジタルアンプから音を出すためには、アナログ信号をデジタルに変換しなければならないが、初期のデジタルアンプではD/A変換処理の細かさが不十分なため、アナログ信号をデジタルに変換する時にbitが不足して過大な量子化誤差が発生していた。また、サンプリング周波数が低すぎたため、かなり強力なハイカットフィルターを出力段に用いなければならなかったもの高域がなまる原因だったと思われる。
ところがデジタル技術の進歩は想像以上に早く、現在では十分な量子化ビットと高周波のサンプリング周波数の獲得により良くできたアナログアンプ並の「可聴高域特性」を獲得し、音質も大幅に向上した。しかし、残念ながら今回持ち込まれたI03は、アナログアンプに比べ超高域が再現性が物足りなく感じられた。空間に薄い靄がかかったようで、高次倍音がミュートされたように聞こえるからだ。そのために音楽の「美味しい部分」を再生しきれないようだ。CDプレーヤーを変えても音が変わらなかったのは、高級機ならではの「高域の美味しいところ」がスポイルされてしまったからだろう。残念ながらI03には、まだ少し「デジタル」ネガティブな部分が聴き取れた。
しかし、音を聞いている限りではそれは根本的なものではなく、例えばAIRBOWによるカスタマイズであるとか、ユーザーによる使いこなしであるとか、そういう手の入れ方で「何とかなる範囲」だと感じられる。現実にアンプではないが、EsotericデジタルプレーヤーK01やK03は十分聴き応えのある音で音楽の表情を再現し、高域の伸びたりなさを一切感じさせない。
最新のデジタルプレーヤーK01/03と同様に、I03の音質は「癖のないニュートラルな音」に仕上がっている。私にはやや無機的に聞こえることがあるが、決して無機的な音ではない。逆にK01/03/I03を「正解」と考えるなら、私の好む製品は「癖が強い」とも言える。
現実を超えた“熱い音”を望むのか?あるいは、癖のないニュートラルな世界の中から自分なりの音を見つけ出すのか?オーディオに求める音、世界観によってI03の評価は変わるだろう。Esotericらしいデザインと質感の良さ、それに相応しい現代的(良い意味でも悪い意味でも)で高品位音質、発熱の少なさなど高く評価できる部分もある。後は実際に商品に触れて、インスピレーションを得て選んで欲しいと思う。
ここまで書いて一端筆を置いた所へ、アンプを届けてくれたEsotericの営業が戻ってきた。実はI03に火を入れた直後の音は到底評価できるレベルになく、とりあえず一時間ほどウォーミングアップを行うことにした。その一時間営業マンが3号館にいてもすることがないので、他の仕事をしに出かけて席を外していたのだ。
戻った営業にこれまでのI03の評価を述べた。お互いややふがいなかった音質評価に感じる所があったので、持ち込まれたI03は、どれくらいの時間鳴らしたのか?と尋ねると、まだわずかに数十時間だという。それで納得した。K01/K03も例外ではないが、最新の処理能力の高いデジタル回路を搭載した製品は、エイジングの影響を大きく受ける。動作周波数が高いことが原因だと思われるが、エイジングが不十分だと高域が曇ったり、音が粗かったり、不十分な音しかでないことが多い。
AIRBOWの最新モデルAV7005/Spceialも32bitという高性能のデジタル素子を搭載するが、例外に漏れずいい音が出るまでかなりの時間がかかるが、I03もたぶん同じだろう。生産後少なくとも100時間、出来れば200時間以上鳴らさなければI03の本当の音は聞けないのかも知れない。生産が十分に行き届いた頃に展示導入を行い、新製品のLuxman A590AXとの比較など、さらに徹底した音質テストを行うつもりだ。
今回のテストでは音質が芳しくなかったI-03だが、2011年7月23日に行ったイベントでは見違えるようなすてきな音を聞かせてくれた。このクラスの製品として群を抜いて素晴らしいのは、その低音だ。小型〜中型スピーカーは無論、試聴会ではTannoy
Kingdom
Royalの38cmウーファーすら見事に駆動し、すごい低音を出した。低音はデジタルアンプの名に恥じない。しかし中高音はデジタルアンプの悪癖である「硬さ」が見事に払拭され、スムースで柔らくそして暖かい。当日は発売されたばかりのAIRBOW
PM11S2/Ultimateと比較を行ったが、I-03の中高域の細やかさとしなやかさはAIRBOWに比類するほどのレベルに達していた。
音場はAIRBOW PM11S2/Ultimateがスピーカーの後方に音を広げるのに対し、Esoteric
I-03はスピーカーの前に音を押し出す。そのためかJAZZ系のソフトにより良くマッチするようだった。詳しくは「試聴会アンケート結果」に詳しいが、当初行ったこのインプレッションは、I-03本来の音とは少なからず違っていた。エージングとウォーミングアップが終了すると、I-03は素晴らしい音を奏でてくれた。