全機種を一度に!と行ってもさすがにこれだけ多くのモデルを相互に組み合わせてテストするのは非効率的なので、まず3機種のプリメインアンプと2機種のCDプレーヤーを組み合わせて音質をテストすることにした。まず最初に選んだのが新製品のH100である。
HEGEL H100 + CDP2A-MK2
HEGEL製品にはすべてバランス入出力が装備されているので、テストに際しバランスとアンバランスの音質比較を行った。H100とCDP2A-MK2の組合せでは、透明感・繊細さなどあらゆる部分でアンバランスがバランスを明確に凌駕したため、CDP2AとH100の試聴はアンバランスで行った。
カサンドラ・ウイルソン Belly
of the son TOCJ-66137
一枚目には、録音が優秀なカサンドラ・ウイルソンのJAZZを選んだ。カサンドラ・ウイルソンのソフトの多くは「空間表現」が非常に巧みで、楽器やボーカルの定位がコンパクトにまとまり、おるべき音があるべき場所から出てくる。音楽的には、やや前衛的で好き嫌いは分かれると思うが、少なくとも「音源」としては非常に優れていると思う。
このディスクに使われているパーカッション(多分コンガだと思われる)の皮がたわむ様子〜音が安定するまでの一連の物理的な流れが正確に音に反映され、まったく無理のない自然な音で鳴る。
パワフルだとか、細かいとか、低音がとか、高音がとか、そういう誇張感は、すべての音に一切感じられない。本当に無理のない自然な音だ。もちろん、ボーカルもとても自然に聞こえてくる。ずば抜けた自然さだ。輪郭の誇張感がないから、このソフトの持ち味である「立体感(定位)」も自然に出る。
この価格帯の他メーカーのプリメインと比べるならH100よりも音が細かい製品や、中高域に魅力的な艶を持つ製品もある。例えばLuxmanなどとの比較は面白いと思う。しかし、H100はそういう製品と対照的に「個性を持たない」ことが最大の「個性」だと思う。
その音は、撮像管時代のIKEGAMI通信の放送局用ビデオカメラの絵作りに通じるような、HR-10000を作っていたときのVicotrの放送局用ビデオデッキの絵作りにも通じるような、派手さのないいぶし銀のような"渋さ"と"深さ"が感じられる。車の乗り味に例えるなら、同じ北欧生まれの"VOLVO"に当てはまるだろうか。北欧家具のような質実剛健な落ち着いた雰囲気を持っているアンプだ。
交響曲“シェーラザード” PHILIPS 470 618-2 CD/SACDハイブリッド盤
弦の音はすこしくすんで湿り気が感じられ、ややウェットな傾向。ファゴットやクラリネットの音には、木管楽器らしい温かみと柔らかさが感じられる。ピッチカート?で奏でられる弦も耳あたりは柔らかいが、アタックの部分はきちんと再現される。コンサートマスターの音もオイストラフのように柔らかい。
演奏はとても静かで深みがあり、優しく聞こえるが、ほのかな色気も感じられる。カサンドラと同じように絶対的な性能は高いと感じられないが、それぞれをきちんと再現する能力、色づけなく音楽を隅々まで再現する能力は驚くほど高い。
この価格でシビアな音楽ファンや耳の良い演奏家のリクエストに答えられる性能を持つアンプは、ほとんど無いがH100は数少ないそういったアンプの一つだ。必要にして十分。必要にして十分以上。音楽の表現能力は抜群だ。
ニーヨ THE
Collection UICD-9062 HM-CD盤
H100の音を質実剛健と表現したが、ニーヨをかけるとどうしてどうして、なかなか色っぽいことがよくわかる。北欧美女の白く透き通る肌のような、何とも言えない色気が感じられる。優しさの中に秘められた、静かな色香。上手く表現できないが、これは間違いなく大人の色気だ。女優に例えるなら吉永小百合?そういうイメージになるのかも知れない。清楚で上品。控えめだけれど、時にはキュート。
ベースもぐんぐん前に出てくるのではないのだけれど、リズム感はきちんとある。音色は鮮やかなわけではないのだが、色彩の表現は素晴らしく細やかだ。音色表現のコントラストが高くないのでハーモニーの分離はクッキリしていないが、色彩が細やかなのでユニゾンの各パートの音色の違いは明確に再現される。
今までに知っている「デジタル」の音とは明らかに違って、刺々しさが微塵も感じられない。レコードのように鮮やかではないが、色彩の微妙な違い、陰影の微妙なグラデーションは驚くほど細やかに描写する。
オーディや音楽を知り尽くした玄人を唸らせる絶妙なバランスがH100の最大の魅力だが、色づけの少ないデリケートな音を持つこのアンプを使う時には細心の注意が求められる。そのデリケートな音色の表現を引き出せなければ、ただの性能の悪いアンプと誤解されかねないからだ。
HEGEL H100 + CDP4A-MK2
アンプをそのままにして、CDプレーヤをCDP4A-MK2に変える。
カサンドラ・ウイルソン Belly
of the son TOCJ-66137
まずはアンバランスで聞いた。音が出た瞬間からCDP2A-MK2よりもベールが剥がれて、クリアで細やかなサウンドが聞こえてきた。しかし、念のためアンバランスの音質もチェックする。結果は、CDP2A-MK2と全く同じ傾向でアンバランスの方が鮮明でレンジも広く、音場もクリアに広がった。特にパーカッションのアタックの切れ味は、アンバランスがバランスを大きく凌駕した。
結論を先に言うと、CDP2A-MK2とCDP4A-MK2の違いは「デジカメの画素数」に例えられる。ノーマル放送とハイビジョンほどの差はないが、すべての部分が着実にグレードアップしている。同じCDプレーヤーの電源ケーブルをグレードアップした感じにも似ているだろうか?音調は全く変わらないが、音の木目が約2倍くらい?細やかになった感じだ。音の広がりも大きくなり、それぞれの音もよりハッキリ聞き分けられるようになる。CD2A/MK2に比べ、ステージに一歩近づいてライブを聴いているようなイメージに音質が変化した。
交響曲“シェーラザード” PHILIPS 470 618-2 CD/SACDハイブリッド盤
低音の響きが数段大きくなり、中高音の分離感が一気に向上する。それぞれの楽器の音の特徴が明確になり、すべての音が美しくなる。音色のコントラストが一気に上昇し、鮮やかさを感じる音になる。
静けさは相変わらず素晴らしいが、CDP2A-MK2では感じとれなかった空気の動きのような部分が出てくる。楽器の数も数割以上増えたように感じられる。
音調は全く変わらず、情報量だけが増える。この音色の完全なコントロールはオーディオ的面白みは薄くても、音楽的にはとても素晴らしい。上級機を購入するだけで、後は何の苦労もなく音楽が良くなるからだ。
すこし高いチケットを買って、ホールの良い座席へ移動したようなイメージに音質が変化した。
ニーヨ THE
Collection UICD-9062 HM-CD盤
低音のパンチ力、音のしっかりした感じが大きく向上する。しかし、この程度の音質ならばAIRBOW
PM15S2/Masterで充分に超えることができる。CDプレーヤーのグレードアップで音が良くなった結果、ニーヨではH100の絶妙なバランス感覚の魅力が消えてしまった。今聞いている音は、価格をやや疑問に感じる「くぐもった緩い音」でしかない。
CDプレーヤーをグレードアップしたにもかかわらず、POPSが逆につまらなくなった原因はアコースティックサウンドとエレクトリックサウンドの「音の性質の違い」だ。同じ楽音でもアコースティックサウンドとエレクトリックサウンドは、水と油ほど性質が異なっている。一言で言えば「自然な音」と「人工的な音」の違いだ。アコスティックサウンドに必要なのは「質」で、エレクトリックサウンドに必要なのが「量」だ。「質」を高めても「量」が伴わなければエレクトリックサウンドは良くならない。HEGELの上級機では「質」が高められたが、低音の量感や高音の切れ味が質ほど向上しなかった結果、アコースティックサウンド(シェーラザード)に比べ、エレクトリックサウンド(ニーヨ)がよくならなったのだ。「質」と「量」のバランスが崩れると音が良くなっても、音楽が悪くなる。あるいはその逆も度々経験するが、これがオーディオの難しく面白いところではないだろうか?
最後にパソコンに取り込んだ「ニーヨ」のアルバムをH100に新設された「USB接続」で聞こうとしたが音が出ない。何度かやり直してもやはり音が出ないのも、もしやと思い「仕様」を調べるとやっぱり!対応しているPCは"MAC"だけ!私は"MAC"を持っていない。う〜ん、折角のUSB入力なのにWindowsに対応していないとは・・・。
HEGEL H1-MK4 + CDP2A-MK2
まず、ディスクをそのままにしてH100とH1-MK4を入れ替えて、CDP4A-MK2とH1-MK4をアンバランスで聞いた後に、接続をバランスに変えてそれぞれの音質をチェックしたが印象はH100と全く同じだった。H100でニーヨは、CDP2A-MK2との相性が良かったので、H100と似た傾向を感じたH1-MK4でもCDプレーヤーをCDP2A-MK2に変えて見るとどうだろう?ニーヨに色気が戻ったではないか。H1-MK4との相性はCDP2A-MK2が良しと判断し、H1-MK4の試聴はCDP2A-MK2との組合せで行う事にした。
カサンドラ・ウイルソン Belly
of the son TOCJ-66137
CDP2A-MK2とCDP4A-MK2の比較で感じた音調は全く変わらない傾向は、H100とH1-MK4との比較でもまったく同じだ。僅かに音の輪郭の鋭さや解像度感でH1-MK4がH100を上回る様に感じるが、それはウォーミングアップの差かも知れない。
ほんの少し厚みが後退し、リズムが軽快になった感じを受けるが、それもアンプを切り替えたと知らされなければ、気付かない程度の僅かな違いでしかない。カサンドラ・ウイルソンでは、H100と比較できる部分がほとんど感じられないので早々にソフトを変えた。
交響曲“シェーラザード” PHILIPS 470 618-2 CD/SACDハイブリッド盤
H100よりも弦がやや軽やかで、曲調の雰囲気が明るくなった。シェーラザード姫が5才くらい?若返った感じを受ける。
各楽器の分離感はH1-MK4がH100よりも良好だが、厚みや味わいの部分はやや後退したようにも感じられる。
何れにしてもH100とH1-MK4の差は非常に僅かで、電源ケーブルなどのアクセサリーによって完全に微調整が可能な差でもあると感じられる。結論としてUSBが要らないのなら、アンプはH1-MK4で十分ではないかと思う。
H1-MK4ですでにHEGELの魅力は十分に極められている。
ニーヨ THE
Collection UICD-9062 HM-CD盤
H100よりも高域の鮮度感が僅かに高いので、英語の子音がより明瞭に聞き取れる。明瞭度が高いH1-MK4は、音量を下げたときH100よりも音がボケにくいはずだ。小音量で音楽を聞く機会が多いなら、H100よりもH1-MK4の満足度が高いのではないだろうか?しかし、明瞭度が上がったことでH100の独特なアンニュイな魅力がすこし薄れたかも知れない。
H100、H1-MK4と試聴したがHEGELのアンプは薄味を身上とするだけに、接続方法や組み合わせるCDプレーヤーを変えるほんのちょっとのスパイスが、大きく利きすぎ調理が難しい。こんなに少しの環境変化に敏感に反応するなら、他店の店頭や自宅でHEGELを聞いた場合、今回の試聴結果が容易に覆ることが予想される。とにかくH100とH1-MK4の本質は、癖のない自然な音とだけ覚えて頂ければ間違いないはずだ。
HEGEL H200 + CDP4A-MK2
H100/H1-MK4同様にまず、2台のCDプレーヤーとアンバランス、バランスの2つの接続の合計4通りの音質を比べてみる。CDP2A-MK2とCDP4A-MK2の2機種の比較では、音の細やかさ、品位、音楽的な表現力で明らかにCDP4A-MK4が勝っていた。アンバランスとバランスもH100/H1-MK4と同じケーブルを使って比較したにもかかわらず、バランスの方が透明度が高く音楽の表現能力や情緒でも勝っていると言う、全く逆の結果となった。そこで、H200はCDP4A-MK4をバランス接続で組み合わせて(以下H200と記述)試聴を行った。
カサンドラ・ウイルソン Belly
of the son TOCJ-66137
H100/H1-MK4と比べて音の数が圧倒的に違う。パーカッション、特にシンバル系の繊細さや切れ味が大きく向上する。ボーカルも芯がしっかりとし、楽器との分離が明確になる。一般的な「高音質」のイメージと一致する鳴り方になるが、癖のなさ自然さは、そのまま引き継がれている。
H100/H1-MK4では音の輪郭が僅かに不明瞭になることで「生演奏を聴いているような自然さ」が演出されていたが、H200では「生演奏以上に音が細かく聞こえる」というオーディオ的な醍醐味が感じられるようになる。パーカッションはより力強く、ピアノの音色はより鮮やかに、ボーカルの口元はより引き締まり、H200では演奏だけでなく、音も鮮やかで心地よい。とてもリアルなサウンドだ。
交響曲“シェーラザード” PHILIPS 470 618-2 CD/SACDハイブリッド盤
ホールのサイズが大きくなり、空気も澄み切る。H100/H1-MK4では「綺麗にデフォルメされた演奏」を聴いているような感じがあって、それはそれで音楽再生の一つの完成形として魅力的だったが、H200では生演奏を聴いているようなリアルなサウンドが実現する。
雄大な海に向かってシンドバッドを乗せた船が出帆する第一楽章のイメージ、シェーラザード姫の悲哀をコンサートマスターのバイオリンの音色にのせて表現する、第2楽章の美しく儚い音、動と静のイメージが見事に描き分けられる。このダイナミズムはH200でしか味わえないものだ。
H100/H1-MK4で聞いたのがCDなら、H200で聞いたのはSACD。それくらいの違いを感じさせる、クラスが違う素晴らしいサウンドが出現した。
ニーヨ THE
Collection UICD-9062 HM-CD盤
すでに聞いた2枚のソフトで感じた印象と全く同じで、H100/H1-MK4で聞いたのがCDなら、H200で聞くそれはSACDやDVDオーディオの様に感じられるくらい音が良い。ハーモニーの分離、低音楽器の力感と引き締まり方。ボーカルの細やかさ、あらゆる部分が大きく向上し、この差であれば音が出た瞬間にその違いが分かるだろう。
しかし、それでもHEGELが基調とする癖のなさ自然さがH200にも完全に当てはまるから、H100/H1-MK4に桁外れに高いケーブルを電源に使ったら、同じくらいの音になる可能性はある。逆に言えば、それほど高いレベルで全モデルの音が統一されていると言えるだろう。
そしてHEGELの本当の良さは、その「統一性」にある。音色が統一されているからこそ「ラインナップされる高価な機器」に買い換えるだけで、何の苦もなく装置のグレードアップが実現する。簡単なようでいて、これがじつはなかなか難しい。HEGEL以外でそれを実現しているのは、スピーカーメーカーになるがPMCやウィーンアコースティックが思いつく。意外にCDやアンプなどのメーカーの名前は浮かばない。モデルを変えても音のイメージが変わらないというのは本当にすごいし、HEGELの技術力が高い証拠でもある。