DAC−1の音は癖がなくとても自然だ。すでにAIRBOWの製品を購入していらっしゃるなら、このDAコンバーターを追加購入する必要はないかも知れないけれど、一般的に見ればこの素晴らしくチューニングされた音質が20万円以下で手にはいるのは素晴らしいビッグニュースだ。
DAC−1は、非常にニュートラルでフラットなサウンドで、ある種スタジオモニター的だが決して冷たかったり、面白みに欠ける音ではない。日本的に薄味だけれどしっかり「ダシ」は効いている。有機栽培で育てられた野菜のような、自然塩のような、非常に複雑な「旨み」がバランス良く、どれもが突出しない「絶妙のバランス」で混じり合っている。噛めば噛むほど味が出る、そういう表現が似合うような「良い意味でプロっぽい音」である。実直で口数が少ないけれど、必要なことは深みのある言葉で語る。そんな感じの音だ。
DAC−1の音は万人に向くだろう。その音は「上流=音の入り口に色づけがあってはならない」という私の主張にピタリと当てはまる。一旦汚れた水(音)は元に戻らないが、綺麗な水(音)ならどんな味にすることも出来るから、DAC−1は、そのままの素直な音で聞いても良いし、アンプやスピーカーで「あなたの音」に加工しても破綻しないはずだ。
これだけの情報量と素直さを持って「たった20万円以下」。それは絶対に安い。確かに、外観は素っ気ない。いい音がしそうな気配は微塵もない。だが、その中身はあなたが思っているよりも「ずっと熱い」。今後は、さらなる高級機の発売が待ち望まれるが、DAC−1の音を聞いていると、そんなものが果たして必要なのだろうかと考えさせられてしまうほど良くできている。
DAC−1は、AR2000とDR3000を手がかりに、ムジカライザーで確実なヒットを飛ばし、ABS9999〜DAC−1でその技術力を見せつけたインフラノイズの製品だが、音楽を聴くための道具として、それ以上でもそれ以下でもないというコンセプトと音質は本当にAIRBOWと似ている。それは、私と秋葉さんに「大阪人」らしい虚飾を廃して中身を取る頑固な主張と、人情味が溢れる暖かい情熱が共通するからかも知れない。
注)INFRANOISE DAC−1は、トランスポーターの素性をそのまま音にします。CDプレーヤーと異なりDAコンバーターの評価が大きく異なるのは、トランスポーターとの相性がこの製品の音質を大きく左右するからです。いくら優秀なDAコンバーターでも、品位の低いデジタル信号を嘘のように美しく再生することは不可能です。AIRBOWも同名のDAC−1/LIMITEDという製品を発売していますが、この製品も同様の理由でDAコンバーター単体では、製作者が意図した音質に正しく?評価されないため、現在貸し出しは必ず「推奨トランスポーターとのセットに限る」ようになった経緯があります。
海外製品では、高額なCDプレーヤーやトランスポーターでもデジタル出力の品位の低い製品が多いです。実際に最近の海外製品は、たとえ100万円のCDプレーヤートランスポーターでも国産10〜20万円クラスのCDプレーヤーに搭載されているのと同程度のメカしか採用されていないケースが多く、このような製品は、DAC−1と接続しても良好な音質は期待できません。良いDAコンバータを作るよりも良いトランスポーターを作る方が製造コストが嵩むため、販売価格はかなり高額にならざるを得ないのです。ただし、例外的にTEACやESOTERIC、CECの製品なら低価格のモデルでも品質の高いデジタル出力が得られます。また、MARANTZ製品も伝統的にメカニズム部の読み出し能力が高く、これらのメーカーの製品は、DAC−1との推奨できる組合せとなります。