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PMC FACT8 音質 試聴 テスト

PMCの代理店、ヒビノインターサウンドからPMC初のコンシューマ専用モデル「FACT 8」の試聴機が届きました。コンシューマ(家庭)用途を強く意識したこのモデル最大の特徴は「スタイル重視」です。

スタジオでの使用を前提にスピーカーを作ってきたPMCで、初めて家庭の使用を前提にデザインが施されてたFACTシリーズですが、そこは質実剛健を旨とするPMCらしく、端子や脚、フロントパネルなどに上質な意匠が採用されているだけで、B&Wのようなモニュメント的に柔らかい曲線は使われていません。その多くは、トランスミッションラインという音響迷路を持つ複雑な内部構造が原因だと思うのですが、質感は向上したものの「角張った箱のスピーカー」というPMCらしい無骨な外観は変わらず「そのまま」です。

FACT 8のエンクロージャーは、4種類の仕上げから選べます。届いた試聴機の色は、Light oakです。確かに美しくはなっていますが、それでも仕上げの良さはB&Wにはやや譲り、やはりPMCは「音で勝負」のイメージは俄に覆らないようです。ただしインテリアとのマッチングを考えるなら、B&Wのような強い主張を持たないFACTが不利とは言えないでしょう。確かにSonusfaberのように、あれほど美しいなら音が出ていなくても部屋の雰囲気が向上する副次的なメリットが感じられるようになるのは事実ですが、個人的には強い主張を持たず、前面を小さくコンパクトにまとめたこの仕上げは、Good Lookingだと思いました。

FACT.8 

FACT.8は二つのウーファーと一つのツィーターから構成される、2Wayスピーカーです。

クロムめっきされた脚部が、直接本体に取り付けられています。

トランスミッションライン方式の低音開口部は、前面下に設けられています。このサイズで28Hzからの低域再生がギャランティーされるのには驚きます!

端子は銀めっきされた高品位なものが使われ、スペードプラグも使いやすくなりました。端子の上には、高域と低域を2段階に変えられるスイッチが付いています。

FACT.8 主な仕様 (PMC海外ページより抜粋)

Frequency Response 28Hz – 30kHz
Sensitivity 89dB 1w at 1m
Effective ATL 
(Advanced Transmission Line) Length
3m (9.8ft)
Impedance
Drive Units LF: 2 × fact 140mm (5½") precision drivers
HF:: 1× fact 19mm (0.75") high-res SONOMEX™
 soft dome ferro-fluid cooled with 34mm wide surround
Crossover Frequency 1.7kHz
Crossover Filters 24dB
Input Connectors 2 pairs 4mm PMC Ag terminals (bi-wire or bi-amp)
Dimensions Height: 1030mm (40.55") + 25mm (0.98") spikes
Width: 155mm (6.1") + 80mm (3.15") ingot feet
Depth: 380mm (14.96") + 23mm (0.9") Ag terminal
Weight 20.0kg (44lbs)
Light Oak Rich Walnut Graphite Poplar Tiger Ebony
Light oak Rich walnut Graphite poplar Tiger ebony

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音質テスト

アンプはたまたま試聴機として手元にあったMusical Fidelity A5.5を繋いでいます。

 Musical Fidelity A5.5

デジタルプレーヤーには、音質に絶対の自信を持つAIRBOW UX1SE/LTDを選びました。

AIRBOWマルチプレーヤーUX1 Supreme emotion AIRBOW UX1SE/LTD

 Antelope Audio Clock Generater OCX

 “A CHILD IS BONE” 峰純子 TDCN-5127

このディスクは、録音が良い。日本で本格的なJAZZアルバムを作りたい!そう言うアーチストやエンジニア達の意気込みと職人技が感じられる素晴らしい一枚だと私は思う。

Fact.8から出るウッドベースの低音は、PMCらしくかなり低い帯域までしっかり伸びている。生演奏に近い音量にするとやや過剰と感じられるほどだが、音量を絞っていってもウッドベースの音が細くならないのは素晴らしい美点だ。また、最新モデルらしく低音のレスポンスが改善され、PMCの悪癖とされる低音の遅れや響きが残る感じはほとんどない。

ピアノは高域がやや霞んだように感じることがあるが、これはツィーターの保護グリルの影響だ。B&Wの高級機では、このグリルを外して高域をスッキリさせることができるのだが、Fact.8のグリルは外せない。では、それが悪いのか?というと決してそうではなく、このグリルによる適度な高域の拡散効果がPMCのスタジオモニター系にありがちな「神経質さ」を上手く緩和している。この「グリルを使った高域チューニング」は、家庭での音楽鑑賞目的にPMCが確信犯的に行っているに違いないと感じた。

中域はかなり太い。ボーカルは肉厚だし、ピアノの厚みも出る。変な癖はもちろんない。シンバルの切れ味は抜群で、音にはきちんと芯が感じられる。ハイハットを打つスティックと、シンバルを操る脚の動きが見えるように感じられるほど、リアルな高域が出る。これは新たに採用された、19mmツィーターの効果だと思われる。

中域〜高域にかけての繋がりは悪くないが、時としてクロスオーバーよりも少し低い周波数帯域に「薄さ」を感じることがある。ウーファーの音に対し、ツィーターの音がやや鋭すぎるのかもしれないし、今回のアンプとの組合せのせいかもしれない。あるいは、付属のスパイクを使わず床に直置きしているせいかもしれない。唯一、気になったのはこの僅かな部分だけで、それ以外はPMCらしいパーフェクトな音で素晴らしいJAZZを聞かせてくれた。

 “Dangerous” Michael Jackson EK 45400

冒頭のガラスが割れて飛び散る部分の「立体感」が素晴らしい。ガラスの欠片が、一つ一つどこに落ちたか聞き取れそうなほどだ。簡易にセッティングしているにもかかわらずこれほど立体的な音が出せるのは、優れたネットワークを持つPMCならではの美点だろう。

楽曲に入っても前後方向の立体感が深く、いろいろな音がいろいろな場所から飛んでくる。遠くの音は薄く、近くの音は濃く、その実在感のスケーリングも素晴らしく、まるでプラネタリウム入ってしまったかのような立体的な音場が実現する。

ボーカル、コーラスの歌詞の聴き取りが非常に容易だ。マイケル・ジャクソンの独特なリズム感の再現も素晴らしい。決して挑戦的にぶつかってくるような音ではないのだが、再生全帯域での音の速度が見事に揃っているので、音楽がこれ以上はない!と思えるほど精密なスケールで再現される。時として映像の中に飲み込まれたような錯覚を覚えるほど、実在感のある音がリスナーを包み込む。

JAZZではあまり意識しなかったが打ち込みや効果音の低音を聞いていると、このスピーカーの低音再現性が桁外れにすごいことが理解できる。TANNOYやJBLの大型スピーカーに匹敵するほどの量感と、それらを遥かに凌ぐスピーディーな低音がこんなスリムなボディーから得られるのは、本当に驚きだ。Fact.8の持つ立体感の素晴らしさとスケール感の大きさは、このスーパーな低域があるからこそ実現するのだろう。

 “TITANIC” SACD

映像が見えてきそうなほどリアルなマイケル・ジャクソンを聞いていると、どうしても「Fact.8」でTITANICが聞いてみたくなった。しかし、CDを使うとジャンルがマイケル・ジャクソンとかぶるのでSACDを聞いてみた。

音量をかなり絞っているにもかかわらず、音が無理なくリッチに広がるのがすごい。一音一音はリッチだが透明感や分離感も高く、ハーモニーは綺麗に分離する。小音量の再現性も素晴らしく、大きな音に隠れた小さな音、複雑なハーモニーの構造をリスニングルームに美しく描き出す。このS/N感の高さ、分離感の素晴らしさもFact.8ならではの美点だ。

アンプとの組合せかも知れないが、今までのPMCの中では最も暖かく、PMCの持ち味であるニュートラルな温度感を超えた高い温度感でTITANICが鳴る。感じ取れるのは、氷上ではなく春風の吹く海上だ。それは、決して今の季節が春だからというのではなく、Musical Fidelity A5.5の影響に違いない。Fact.8は、音質にアンプの性格をストレートに反映する。この点でも、しっかりとPMCらしいスピーカーに仕上がっている。

映像を可視化させるそのリアリティーの高い音質、サブウーファーの助けなしに実現する重低音、豊かな立体感、そのどれをとってもFact.8と映像を融合させない手はない。2chで十分なサラウンド感を実現できる素晴らしい能力をFact.8は持っている。

 “ELGER Violin Concert” hilary Hahn sacd 00289 474 8732

試聴の締めくくりにシンフォニーを聴く。

スケール感がすごい!ホールの最良の席でコンサートを聴いているような自然な音の広がりと、あらゆる楽器の音がカラフルに満天から落ちてくるように、美しく見事に躍動する。

最初からずっと感じている「高域の曇り」は試聴したすべてのソフトで感じられる。そのため、SACDらしい高域のキーン!と抜けたクリアさはないのだが、逆にその「高域のチューニング」が細かい音まで神経質に拾い上げる「マイクの癖」を上手く隠し、演奏のリアリティーをより高める。

音質を追わず、音楽の雰囲気を大切にする音作り。音質を犠牲してもリアリティーを優先させる音作りは、世界最高のモニターサウンドを実現する従来のPMCの文法から外れるようにも思える。しかし、PMCフラッグシップBB5の音を知っていれば、Fact.8が目差しそして実現したこの音も、PMCの世界観からまったく外れていないことを知るはずだ。PMCが目差すものは「正確な音の再現」ではなく、「音楽の正確な再現」なのだから。

Fact.8が奏でるスペクタクルに繰り広げられるシンフォニーを聴いていると、オーディオの存在は完全に頭から消える。時空と場所を越え、演奏会場にワープしたような音楽ファンが最も求めたい「音楽」が鳴る。

総合評価

Fact.8の日本での発売価格は未決定だが、OB1iより少し安いくらいの値付けが予定されている。もしそれが実現すれば、実売で60万円(ペア)程度の価格が実現する。その価格帯には逸品館ベストバイスピーカー、Vienna Acoustics BEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)がある。どうやら、Fact.8はそれとガチンコのライバルになりそうだ。

この二つのスピーカーを比べると、両者の「音質(スピーカーとしてのクォリティー)」に大きな違いはないが、常にスピーカーの存在を感じさせるBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)に比べ、Fact.8は存在感をほとんど感じさせない。また、前者は明らかに甘いが、後者には余計な甘みがない。

サイズは、Fact.8がやや小さいが、それでも低音の量感や質感はBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)を時に上回る。中域の厚みや質感は、ほぼ同等だ。

仕上げは?好みが別れこそすれ、Fact.8がBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)に劣ることはない。

どちらを選ぶか?

 

PMCが本気を出して家庭用スピーカーに取り組めば、1号機から最高の製品が作れる。Fact.8はそれをあなたに教えてくれるだろう。

PMCには、同価格帯にOB1iと言うモデルがある。このモデルは、やや細身でストイックな音を出す。そう言う音が好きならお薦めするが、個人的には音に余裕が出る一つ上のPB1iの方が好きだ。そのPB1iと比べても、Fact.8の性格ははっきり違う。音楽の内面をストイックに抉るような聴き方をしたければPB1iがお薦めで、音楽をもっとフレンドリーに味わいたいなら、Fact.8を選べば良い。PB1iは音楽家の苦労と苦悩が昇華して生まれる美を、Fact.8は音楽家の心の温かさを、あなたに伝えてくれるだろう。そのどのどちらもが、最高の芸術表現には欠かせないファクターだ。

それぞれの違いは同じ山頂を目差し、PB1iは厳しい北面から、fact.8穏やかな南面から登るようなものだと私には感じられた。

2010年 4月 清原 裕介

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