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TAD-D1000 ・  D1000 Mark2の試聴記事はこちら D1000 TXの試聴記事はこちら

その他の音質テストはこちら

生産完了モデル 発売時メーカー希望小売価格 150万円(税別) ・ 

TAD-D1000 仕様

メーカーホームページより抜粋 (TAD製品のご注文はこちらから承ります

アナログ音声出力
バランス出力端子/XLRステレオ1系統
アンバランス出力端子/RCAステレオ1系統

デジタル音声入力

バランス入力端子/XLR1系統
同軸入力端子/RCA2系統
光入力端子/角型1系統
USB入力端子/標準B型1系統

●入力サンプリング周波数
バランス・同軸:44.1kHz〜192kHz
光:44.1kHz〜96kHz
USB:44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96 kHz、176.4kHz、192kHz、352.8kHz、384kHz

※USB入力はWindows 8/Windows 7/Windows Vista/Mac OS 10.6以降に対応・352.8kHz、384kHzはMac OS 10.6以降のみ対応

デジタル音声出力

バランス出力端子/XLR1系統
同軸出力端子/RCA1系統

電源

AC100 V、50 Hz/60 Hz

消費電力

43W / 待機時消費電力 0.5W以下

最大外形寸法

440 mm(W)×150 mm(H)×406mm(D)

質量

18.5 kg

D1000の概要

CDプレーヤーとは思えない音の厚みと暖かさを持つアナログ的な音質が魅力で好評を博している、TAD-D600から音質の決め手となる「超高C/N、マスタークロック、UPCG」、読み取りメカニズムなどを継承し、電源を一体化したEvolutionモデル D1000が発売されました。

このD1000には既発売のEvolution Series、C2000やM2500、M4300とは異なるデザインが採用されていますが、これは海外からのリクエストに応え「塊感」のあるReference Seriesとの調和を図るために変更されたそうです。今後プリアンプ、パワーアンプのシリーズもモデルチェンジで順次、D1000のデザインに統一される予定だそうです。

超高C/N、マスタークロック、UPCG

デジタル機器の音質の決め手は「クロック」だと言われています。それに異存はありません。しかし、音質の決め手が「ジッター」というのはちょっと違うんじゃないか?と感じています。

デジタル機器の音質を担うクロックで重要なのは「ジッター」という数字よりも、得られる「波形」の精度と綺麗さです。TADが生み出したUPCGクロック回路とは、超高C/N(Career/Noise Ratio)水晶発信子と歪みの少ない発信回路を組み合わせ、音質の決め手となる「クロック発振波形を綺麗にする」ことを目的とする技術です。発信される矩形波が美しいUPCG回路だからこそ、ICが受け取る「時間軸」が安定し高音質が得られます。その理由を説明しましょう。

デジタル機器に使われるクロックは「矩形波」という形状のアナログ波形で供給されます。

 クロックとして供給される矩形波

ICは供給される「波形の角(電圧が急激に変化する部分)」でクロックのタイミングを認識します。しかし、発信回路が作り出す「矩形波」にはノイズやオーバーシュートなどが含まれ、歪みが発生します。波形の角が丸い場合と尖っている場合、また髭(オーバーシュート)が発生している場合でクロックを受け取るタイミングは変わり、結果としてデジタル機器の音質は大きく変化するのです。

 

この写真は矩形波を撮影したものですが、周期Tが一定(ジッターが小さい)でも波形が歪めば、伝送されるクロックのタイミング(ICに供給される時間軸)が揺らいでしまうことが分かります。私がAIRBOWのデジタル機器チューニングで「クロック」をカスタマイズする場合には、水晶発振子を取り替えず回路の部品や次定数を変更して音作りをする場合が多いのですが、それは写真のようなクロックの「発振波形」が音質に大きく影響を与えるからです。

クロックではジッターの少なさ(周期Tが一定)と共に発信する矩形波がどれだけ「理想の形に近いか」が重要です。最近は外部からジッターの少ないクロックを入力し音質を改善することが流行ですが、いくらジッターが小さい発信子(ルビジウムなど)を使っていても、発信する矩形波の歪みが大きいと音質は向上しないばかりか悪くなることもあります。

この写真は、D600とD1000に使われている水晶発振子です。その大きさが分かりやすいように、D1000(上写真)の天板に彫り込まれているTADの文字の上に水晶を置いて撮影しました。その巨大さがおわかりいただけると思います。それもそのはずTAD-D600が搭載するUPCGに使われる水晶は、一般的な水晶発振子に使われている水晶の直径2mm程度に対して12mmと圧倒的に巨大です。

クロックは水晶を電気的に振動させ、得られる振動を増幅して生成します。TADが大型の水晶を採用するのは、水晶が持つ固有の振動数(Career)にくらべて不要な振動(Noise)が小型の水晶よりも小さくなるからです。C/N比(Career/Noise Ratio)が改善すると、回路が生成する矩形波はよりクリーンで理想の形に近づきます。さらにD600/D1000(UPCG)では水晶発振回路にも工夫が凝らされています。UPCGが採用する発振回路は、通常の回路よりも簡略された回路を採用することで、発生する波形のレスポンスを高める、部品が増えることによる余計なノイズの発生を抑えるなどの対策が行われています。

では、クロックの源である水晶が大きいからD600は厚みのある音が出るのでしょうか?定かではありませんが、直感的に「そうだ」と感じられる圧倒的に揺るぎない厚みのある音が他メーカーのデジタル機器と異なるTAD-D600の特長になっていることは間違いありません。

またTAD-D600は立体感(音の広がり)に優れ、2chのスピーカーからサラウンドのような身体を包み込む音場が実現しますが、それはCPCG回路のノイズが驚くほど小さく、これまでのクロックではノイズに埋もれてしまう程のデリケートなエコーまで再現できるからです。

このようにTADの考えるUPCGクロックは、ジッターの低減による高音質化からさらに一歩進んだデジタル機器高音質化の考え方なのです。また、D600/D1000は外部クロック入力を持ちませんが、これはUPCG回路からICまでの「クロックを伝達する回路や配線」も最適化されているため、外部からのクロック入力を設けるとそれにより音質を損なう恐れがあるため採用されていないのです。

必要以上のハイレゾは音を悪くする

最近、ハイレゾやDSDという言葉がオーディオ市場を賑わしています。しかし、それらは必ずしも音質改善という結果を生みません。

その根拠をいくつか挙げましょう。

まず、録音現場で使われている「マイク」ですが、ほとんどのマイクの周波数上限は20kHz強です。録音機の周波数上限は30kHzでマイクが捉えた音はほとんど収録できます。もっと高い周波数まで録音できるマイクがあるのに使わないのは、音が悪いからです。

ご存じのようにマイクは「膜」で空気の振動を拾い、それを電気信号に変換しています。空気の振動を捉えるためには、マイクの振動膜に空気を捉える程度の面積が必要になります。しかし、膜の面積が大きくなると収録しようとする音波の一波長を超えてしまい位相がずれます。

20kHzの一波長の長さは、約340m/20,000=1.7cmです。つまり20kHzを上限とするマイクの振動板の直径は、1.7cm以下でなければならないのです。周波数を上げると振動板の直径をさらに小さくしなければなりませんが、そうすると空気を受ける膜の面積がどんどん小さくなり、マイクの感度が低下し細かい音を拾わなくなります。測定用のマイクでは100kHz程度の周波数まで対応する製品がありますが小さい音が収録できず、音楽の収録には使えません。

マイクという物理的な変換機を使う限り、微小信号の解像度を高めるには「空気を捉える膜の面積」が必要になります。高い周波数を収録するには膜の面積を小さくしなければならず、結果として音楽を収録するためのマイクの周波数上限は20kHzを大きく超えられません。録音段階マイクの周波数上限によりで20kHz以上はフラットに録音できず、精々30kHz程度までしか音波は拾われていません。つまり、必要以上にサンプリング周波数を拡大しても高域は改善しないのです。

次に量子化ビット数の問題を考えましょう。

量子化ビット数を拡大すると、より小さな音の変化が録音できるようになります。すでに録音されているアナログ信号をデジタル化するだけなら、量子化ビット数は16bitでも使えます。しかし、アナログ録音機では録音可能な最大音量を超えても歪みが徐々に大きくなるため「音量オーバー」は致命的な問題になりませんが、デジタル録音機は「設定した最大音量を超えると音が急激に歪む」という性質を持っているため、音量オーバーが一度でも発生すると録音が致命的な影響を受けてしまいます。そのためダイナミックレンジが非常に大きな交響曲などのライブ録音(演奏がやり直せない録音の場合)では、最大音量時の16bitから余裕を見て、MAX14bit程度しか使えません。そうなると小さな音量では、わずか数bitという非常に小さなbitで音をデジタル化しなければならなくなります。

しかし、使用できるビットが増えると、この微小録音時のリニアリティー(段階)を大きく改善できます。例えば16bitから24bitになると、その差8bitを微小音量の録音に割り振れます。数ビットしか使えなかったbitに8bitを加わえると、使えるbit(段階)は10bitを越え、微小信号のリニアリティーが飛躍的に改善できるのです。

10年ほど前にいくつかの業務用マイクと96kHz/24bit精度の業務用A/Dコンバーターを使って、バイオリンとピアノの録音実験を行ったことがあります。A/D変換されたデジタル信号を録音せず、直接D/A変換して出てくる音を「生音」と比べる実験です。

最初にサンプリング周波数を44.1kHz、量子化ビット数を16bit、つまりCDのフォーマットで聞いてみました。明らかに楽器の高次倍音が減衰し、高域に膜を張ったように音が曇りました。サンプリング周波数を48kHzに上げると高音の減衰感はほぼ解消し、生楽器とほとんど変わらない高音が再生されました。さらにサンプリング周波数を96kHzに上げてみましたが、48kHzとほとんど変わりがなく驚いたことを覚えています。

次に量子化bit数を16から20,そして24と段階的に上げると「楽器を取り巻く空気の振動」のような気配感が向上してゆくのが分かりました。16と20では微少音の再現に明らかな差がありましたが、20と24はあまり差を感じませんでした。以上のような理由から、録音現場では48kHz/24bit以上のフォーマットは必要ないという結果となりました。

CD発売当時と比べるとデジタル機器は進歩し、従来扱えなかった大きなデーターを扱えるようになりました。その結果、CDの規格44.1kHz/16bitを大きく超えるハイレゾデータを低価格の機器で再生できるようになりました。しかし、これらの理由により、ハイレゾは音のない領域に数字が伸びただけの「絵に描いた餅」でしかありません。逆に録音時にサンプリング周波数を不要に拡大すると「マイクがギャランティーできない余計な高周波」、すなわち不必要なノイズまで録音され音が悪くなる可能性すらあるのです。以上のような結果からCDを超えるハイレゾとして必要なのは、96kHz/24bitまででしょう。

もし、ハイレゾやDSDに唯一音質改善の意味があるとすれば、アナログ回路がプアな低価格の音響機器のアナログ回路の負担を軽減する事だけです。間違っても高音質を追求するハイエンドオーディオや録音現場に必要以上のハイレゾは不要です。

TAD-D600 TAD-D1000は、DACの動作を88.2KHz24bitに固定

豊富な業務機器の開発や発売を通じて、TADの開発陣は必要以上のハイレゾが音質改善に無意味だと知っています。さらにハイエンドオーディオメーカーらしく、オーディオ回路技術的な観点から音質を考え、D600/D1000の内部でDACの動作を「88.2kHz/24bit」に固定しています。

その理由を説明します。

紙の上に書かれた理論ではなく、トランジスターという素子を「現実的」見た場合、その応答速度と歪みには関連が見付けられます。トランジスターの速度には物理的限界がありまずから、当然速度を上げすぎれば「歪み」が大きくなります。つまり、トランジスターには「使用できる音の良い速度」が存在するのです。この回路の物理的な応答速度を無視してサンプリング周波数を上げると音質は劣化します。TAD-D600は、音の良い「動作周波数」を聴感で探り、「88.2kHz」という動作周波数を決定しました。これがD1000にも採用されています。

現在は最大32bitが使われる量子化ビット数ですが、TADは24bitを採用しています。それは、24bitを超えて量子化bitを細かくしても、それが音質向上に影響しないという理由からです。安価な機器や増幅回路にICを多用する機器では、24bitと32bitの音質差が反映されることがあります。しかし、DAC以降のアナログ回路の感度を十分に高めれば、DACの出力が24bitであったとしても32bit出力+不十分なアナログ回路の性能を大きく上回ることが可能です。

これらの理由からTADはD600/D1000のDACの動作を「88.2kHz/24bit」に固定しています。

さらにこれらの考え方に基づいてDACチップを選ぶとすれば、必ずしも高いサンプリング周波数、細かいbitに対応する必要がなくなります。その結果、「使えるDACチップ」の種類が増えます。多くのDACチップを試聴により検討した結果、TADはPCMで動作するDACチップを選び、それの動作を「聴感で決めた最も音の良い、88.2kHz/24bit」に固定して使っています。

D600やD1000では、再生されるCD/SACDディスクに加えデジタル入力されるハイレゾ信号もDSD信号もすべて内部では「88.2kHz/24bit」に変換されます。しかし、それでも他メーカーのハイレゾやDSDを圧倒する高音質が得られていることから、彼らの現実に即した「物作り/音決め」の正しさが裏付けられます。

やたらと数字を追いかけてばかりのメーカーと、業務機メーカーらしくきちんと現場を踏まえた決断、さらに最先端オーディオメーカーらしい「音の良い回路」にこだわった結果、たどり着いたのが「88.2kHz/24bit」という結論なのです。また、TADの出した「88.2KHz/24bitが最も高音質という答え」が、10年前に私が行った実験と一致することから、私は彼らを強く信頼しているのです。もちろん、これはTADの考え方と物作りであって、これが最高というわけではありません。また、彼らがこの情報を積極的に公表していないのは、市場の「混乱」や「無意味な議論」を避けてのことだと思います。

このようにDACの動作を「88.2kHz/24bit」に固定すれば、トランジスターやICが不可避的に発生する「歪み」が「固定」され、クロックは無論、すべてのデジタル・アナログ回路を極限まで作り込むことが可能になります。

目的に向け、見かけ上のスペックや新技術に流されることなく、また一部の海外製品のように音色や雰囲気の良さに逃げるのではなく、理論と現実を徹底的にすりあわせて作り上げられたTADのデジタルプレーヤーは、日本の匠が生み出す音質と雰囲気が非常に高い次元で両立した優れた製品だと思います。

音質

TAD-D1000は発売前の展示店向け発表会でその音を聞くことができました。

ご覧のように試聴会が行われた部屋はカーペットが敷きで各機器はその上に直接設置され、天然石で作られたテーブル(反射物)が目の前にあるという理想とはかけ離れた環境でした。また全体的にデットで、反射音が少ない部屋でした。

しかし、カーペット敷き+デットという環境はD1000そのものの音を把握するには好都合でした。この試聴会では、逸品館で行ったD600のイベントでも聞かせて頂いた「ボズ・スキャッグスのMy Funny Valentine」も聞けたのですが、センターに揺るぎなく定位するボーカルとふわりと広がるエコーが印象的でした。

聞かせていただいた個体は、正式発売前の未完成のプロトタイプと言うことでしたが、D600が持っている低重心で厚みがあり、立体的に広がる「あの独自の世界」を十分に感じさせる出来映えでした。

アナログに近い。とはデジタル機器の褒め言葉として私が何度も使ってた言葉ですが、現時点の市販CD/SACDプレーヤーで最もアナログ(レコード)に近い音を出すのがTADの製品だと思います。D1000もそれに漏れず、熱い音で音楽を奏でてくれました。尚、D1000からメカニズムを外したデジタル入力専用モデル(DAコンバーター)として、DA1000/120万円(税別)が発売される予定です。

D1000は発売後できるだけ早く試聴機を導入する予定ですが、もし機会があればTAD渾身のデジタルプレーヤーの音を一度聞いてみて下さい。デジタル機器でアナログレコードの音が聞けるという、新たな世界にお気づきになるかも知れません。

(TAD D1000 試聴会

2013年9月6日 逸品館代表 清原 裕介
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