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Sonus
Faber 新製品のVenere 3.0とVienna Acoustics
新製品のMozart Grand Symphony Editionの音質比較テストを行いました。
※Venere
3.0のテストと詳細はこちらにもございます。
今回のテストにはAIRBOW Master Set (SA15S2 Master、PM15S2 Master)を使いました。
Sonus Faber Venere 3.0 | ||||||||||||||||||||||||
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Vienna Acoustics Mozart Grand Symphony Edition | ||||||||||||||||||||||||
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・外観と特長 Mozart Grand Symphony Editionは、Mozart Grandの改良モデルです。28mm口径のシルクドーム型ツィーターに152mmのスコーカー、さらにスパイダーコーンを使う152mmのウーファーが組み合わされています。 グリルには高音拡散体(黄色矢印部のスリット)が設けられ、グリルのあるなしで音の広がりを調整できるように配慮されています。こういう細かな気配りがVienna Acousticsの高音質の秘密です。 Venere3.0と同じように「人造大理石のあるなし」をまず試しました。Mozart Grand SEは人造大理石ボードを敷くことで高音がスッキリと伸びやかになり、低音も引き締まり量感が増えました。人造大理石ボードの使用で「通常通りの改善」が感じられたので、Mozart Grand SEは人造大理石ボードを使った状態で試聴しました。 Michael Jackson ”Dangerous”:14曲目 Dangerous Venere3.0に比べ、低域方向のレンジ感は若干狭くなりました。しかし、帯域内での音の密度感は大きく向上しています。 高音の切れ味や、低域がふわりと広がる感じはVenere3.0がMozart Grand Symphony Edition(以下MG/SE)を上回ります。しかし、一つ一つの音に「高い質感」が備わるMozart Grandの密度感や質感はVenere3.0を寄せ付けません。 量ではVenere3.0、質ではMG/SEですが、音楽を聴いた感じはどう違うでしょう? Venere3.0はサラウンド感や豊かな低音感を伴う「エンターティメント」性の高い音。MG/SEは、質感と表現のデリケートさ、プロっぽさを感じる「インテリジェンス」の高い音。 陽気なイタリアと物静かで優しいイメージのオーストリア。そういう違いが音に出ているように感じました。 Grace Mahya ”Last Live at DUG”:4曲目 Kiss of Life イントロのベースは密度が高くスムースです。ボーカルはデリケート。静かに曲が始まって行く感じです。 イントロのベースから全開の楽しさで音楽を鳴らすVenere3.0は、血が沸き、肉が踊る音でした。MG/SEは遙かに知的で物静かです。しかし、音や表情が暗くなる印象はありません。Venere3.0は、カラリとした熱い音、MG/SEは、しっとりとした涼しげな音。そういう違いを感じます。 Venere3.0で聞く「Last Live」は、燃え上がるような熱いライブ。MG/SEで聞く「Last Live」は、知的で求道的な雰囲気です。雰囲気が違っても、そこに流れる情熱はどちらも熱く音楽をそれぞれ違う角度からライブを楽しませてくれます。 雰囲気と音質の違いでは、雰囲気は生々しく楽器の音にはやや違和感を感じるVenere3.0に対し、雰囲気はややオーディオ的に感じられても楽器の音には違和感を感じないMG/SEという印象です。 善し悪しではなく、好みの問題だと思います。私は、どちらも「あり」の好きな音です。 Hilary Hahn ”Bach-Concertos”(Hybrid Disk):1曲目 〜 ・SACDレイヤー Venere3.0で感じた中域の薄さ、倍音密度の薄さは消えました。空気が濃くなり密度感が向上、リッチな音で弦楽器が鳴ります。 また、ややキャビネットの響きが過剰であったVenere3.0に比べキャビネットの鳴きが少ないMG/SEは、弦楽器の倍音構造を濁らさずにきちんと再現します。 Venere3.0では「やや薄く感じたSACDの音」がスピーカーをMG/SEに変えると完全に解消します。 バランス的にはVenere3.0+CDに近いのですが、MG/SEで聞くSACDは、遙かに音が細やかで響きもクリアでリッチ。良質なコンサートホールで演奏を聴くイメージに近い音でバッハコンチェルトが鳴りました。 交響曲とVienna Acousticsは、鉄板のベストマッチです。 ・CDレイヤー 高域の美しい響きと倍音の伸びやかさがやや失われ、空間が少し濁りました。音質という意味では、後退しています。 感じるのは、楽器が奏でる楽譜(スコア)の違いです。SACDではバイオリンのエネルギー感がやや強く、それにチェロとコントラバスが混ざった2つにパートが分離している感じでした。CDではバイオリンの高域エネルギーが若干抑えられるために、バイオリン、チェロ、コントラバスとパートが3つに分離して聞こえます。演奏としてはパートの数が多い方が楽しめるので、演奏を聴くならCDレイヤー、音の良さを味わうならSACDレイヤーと使い分けられそうです。 こういう違いが生まれるのは、人間が耳で聞き取れる音が限られ、その中にどのようなバランス(構成)で楽音を配置するか?がSACD/CDで変わるからです。 試聴後感想 Vienna Acoustics Mozart Grand Symphony Editionの魅力は「質の高さ」です。レンジも広いのですが(スペックではVenere3.0を低域で上回る)、音を無理矢理引き伸ばしで密度感がやや希薄になってしまった印象のあるVenere3.0に比べ、帯域内の密度感(音の細やかさ)が2倍くらいある感じです。 質感が高く滑らかな音は、電子楽器を多用する「量感が重要なPOPS」よりもアコースティック楽器で構成される音楽、中でも「交響曲」にベストマッチします。ミキシングにコンプレッサーが使われる最新POPSはVenere3.0、アコースティック楽器で奏でられるクラシックやバラード系の音楽は、Mozart Grand SEで聞きたいと思いました。 |
AIRBOW SA11S3 Ultimate、PM11S3 Ultimate | ||||||||||||||||
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スピーカーをそのままにして アンプとCDをAIRBOW 15S2 Masterの組み合わせから 11S3 Ultimateの組み合わせに変えてみました。 Michael Jackson ”Dangerous”:14曲目 Dangerous アンプでこれほど変わるのか?と思うほど低音の出方がまったく変わりました。15Masterだとサイズの小ささを感じさせたMG/SEですがアンプを変えるとVenere3.0を超えるほど豊かな低音が再現されます。低音は密度感も非常に高く、低音がぐんぐん前に出てくる感じです。 高域のパーカッションの鮮やかさはそれほど変わらない印象ですが、音に芯が出て力強さは格段に向上しています。 ボーカルも激変、声のデリケートな再現性が大きく向上しマイケルが話す声、歌う声の違いが明確に聞き取れます。さらに一人で歌っているように聞こえたパートが、オーバダビングによるハーモニーとわかるなど、細やかさだけではなく質感の分離も大きく向上しました。 中低音が分厚くややウォーミーな音調はMasterとUltimateではそれほど変わりませんが、密度感、エネルギー感、躍動感が大きく向上し、同じスピーカーを聞いている印象ではなくなります。ワンクラス、あるいはツークラス上位のスピーカーで同じ音楽を聴いているくらい印象が向上しました。 Grace Mahya ”Last Live at DUG”:4曲目 Kiss of Life イントロのウッドベースのサイズ感がまったく変わってしまいました。ウッドベースが2倍くらい大きくなって、音程が1オクターブ下がる感じです。出にくかったピアノの重厚感も出るようになりました。 ボーカルと楽音は完全に分離して聞こえます。 ボーカルが完全に浮き出て、それぞれの音源の位置関係が明瞭ですが、それぞれのタイミングや音調が見事に調和しています。ミュージシャンが互いに寄り添いながら一つの音楽を奏でている様子が強く伝わります。 オーディオ的質感だけではなく、音楽的表現力、臨場感が大きく向上し、目の前にライブ演奏(楽団)が現れたと感じられるほど濃くて生々しい音です。 このソフトではデンジャラスで感じた差よりも、さらに遙かに大きい違いがMasterとUltimateの間に感じられました。 Hilary Hahn ”Bach-Concertos”(Hybrid Disk):1曲目 〜 ・SACDレイヤー 中低域の密度感とエネルギー感が大きく向上することで、今まで感じていた「高域より、音場が薄く感じる違和感」が完全に解消します。 再生される音のどの部分、再現される音楽のどの部分を切り取って聞いても、残された部分と綺麗にマッチングしていることが感じられるだけです。完全なバランスで「普通の音」が出るので、オーディオ機器を評価するという感覚が消え、評価できるのは「演奏そのもの」になります。 このソフトは録音が余りよろしくないのですが、その違和感も最小限に抑えられている感じです。 それぞれの楽器の「心地よい音」を追いかけていると、知らない間に演奏に聴き入っている。そういう自然で高い密度の音が出ました。 ・CDレイヤー 音の細やかさ、分離感はSACDとそれほど変わらない印象です。バイオリンの音は音色がやや濃くなった感じです。音の数はやや減少しているかも知れません。 密度感(音ががぎっしりと詰まった感じ)は、やや損なわれました。 しかし、やはり余計な高域がなくなった?ためか、中低音がクリアに感じられホールの透明感やサイズ感が向上します。SACDに比べるとより音質に優れた大きなホールで演奏を聴いている印象です。 またSACDでは若干残っていたマルチマイク録音の悪影響、混濁感も解消しました。 音の数は減りましたが、さっぱりとしたり知的な音に変化し、よりバッハのコンチェルトらしいキリリと澄んだ音で演奏が聞けました。 ただ、UltimateではCD/SACDのどちらにも軍配を上げたい感じがあります。同じ演奏を2度楽しめる感じです。 試聴後感想 SA11S3/PM11S3 Ultimateが完成しSA15S2/PM15S2 Masterと聞き比べたときは、正直価格ほどの差はないかな?と感じました。 しかし、エイジングが進みUltimateを鳴らし込めば鳴らし込むほど、間違いであったことを痛感するようになります。ハイエンドショウ東京 2013でもUltimateは、PMC MB2SEを見事に鳴らし切りました。そして、今回の比較試聴で15S2Masterとの差をまざまざと聞かせてくれたのです。 11S3 Ultimateの魅力は、セパレートアンプに負けない低音と中音の厚みが出せることです。高音は初期のAIRBOW製品(例えばTera)のように圧倒的なリニアリティー(本物っぽさ)を追求していませんが、それはソフトによって差がある録音によって音質が左右されないためです。 音楽的な表現力をあえて高域に求めるのではなく、中低域のリニアリティーを高めるだけ高め、高音はリスナーの耳に任せる(耳が自然に補完できるように)ことで暖かく力強く濃密な音楽表現が実現しています。 セット価格110万円は絶対的に安くありませんが、「スペースファクター(省スペース)」で良い音を、あるいは「仰々しいシステムを部屋に置きたくない」とお考えなら、Ultimateはご期待を裏切らないと思います。 |
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Audio Design DCP-210 DCPW-200 | ||||||||||||||||
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次にアンプをAudio Designのセパレートアンプ DCP-210 DCPW-210に変えてみました。 Michael Jackson ”Dangerous”:14曲目 Dangerous Audio Designの魅力は、セパレートアンプという「いやらしさ(誇張感)」が少ないことです。無理なくスムースでナチュラルに音が出ます。回路も吟味されているのでしょう。帯域バランスだけではなく音の広がり(立体感)もナチュラルで、入力された音がそのままスピーカーから出てくるイメージです。 ただし、大きすぎる容量の電解コンデンサーを搭載している影響だと思いますが、全体的に音がやや重く鈍いイメージがあります。今聞いている音は電源投入後30分程度ですが、一晩鳴らして明日聞くと印象が変わるかも知れません。 ラックスマンのサウンドから癖を取り除いて、ナチュラルにしたようなイメージの音に感じました。 Grace Mahya ”Last Live at DUG”:4曲目 Kiss of Life AIRBOW PM11S3 Ultimateと比べ、ベースの音に濁りが感じられます。ウッドベースが薄い毛布で覆われているような印象です。それを除けば分離も良くクリアな音です。 ボーカルは厚みがやや不足し、若干線が細く感じられますが高域はスッキリと伸びています。 ピアノはアタックが鮮明で、打鍵感が良く出ます。響きは乾いていますが、キラキラと美しい音で鳴ります。ドラムもミッドハイのアタックが鮮明でクッキリしています。シンバルも鮮やかです。ただやはり、バスドラムのパワー感はそれほど出てきません。中低音のエネルギー感と厚みでは、PM11S3 UltimateがAudio Designを凌駕する印象です。曲が終わった拍手の部分でも、ボディー(中音)がやはり少し薄い感じです。 そのまま5曲目が始まったので続けて聞いてみました。 5曲目では空間の透明感、ギターの美しい響きが上手く再現されます。S/N感も高く、静けさが感じられます。音も細かく透明感も高く、非常に上質なクラシックギターが鳴っているイメージです。その美しさと繊細さに聞き惚れます。 これでもう少し中低音に厚みがあれば・・・。そういう印象でした。 Hilary Hahn ”Bach-Concertos”(Hybrid Disk):1曲目 〜 ・SACDレイヤー 不思議なことにPOPSやJazzでは不足気味に感じた低音が、交響曲では比較的良く出ます。 このテストを寸前にタイミング良くAudio Designを聞きたいというお客様がいらっしゃって、違う交響曲でFocal 1028BEをスピーカーに使って、真空管プリメインアンプのUnisonrisearch Sinfonia 25thとAudio Designを比較したのですが、Sinfniaよりも低音はより良く出る印象でした。 リポートのため試聴を始めた時、PM11S3 Ultimateよりも低音が出ないことを不思議に思っていたのですが、なぜがソフトを交響曲に変えると低音がしっかり出てきました。不思議です。 POPSやJAZZを聞いている限りでは、それほど突出して優れたアンプという印象は受けず、すくなくともPM11S3 Ultimateよりも良いとは思えなかったのですが、交響曲では印象が変わります。バイオリンの音が繊細でスィートです。チェンバロの音もはっきり聞こえます。聴いている音楽がバロックであるということがはっきり伝わる音です。それはAudio Designの音が比較的「タイト」で、大きなホールではなく比較的小さめのホールで演奏されている印象を持つからです。凝縮された空間表現により「バロック感」が強くなったようです。このソフトにはAudio Designの音場感が実に良くマッチします。 高域はそれほど伸びすぎず、ほどほどのウェルバランスです。プリアンプにはさらに高域をカットするポジションが装備され、通常はそれをONで使うように説明されていますが、3号館の環境(複数のシステムでチェック)では、それをONにすると高域が明らかにドロップし伸びやかさが失われました。このアンプは、比較的高域エネルギーの強いソースか、あまり低音のでないスピーカーで音決めがなされたのかも知れません。 ・CDレイヤー 高域の伸びやかさが抑えられたことで、中低音の厚みが増しています。少なくともこの曲を聴く限り、Audio Designのアンプはこのソフトとは非常にマッチングが良く、良い仕事をしています。ある種の完成度の高さを感じさせる見事なサウンドに仕上げられています。 私が求める方向の音とは違い、また生演奏とは明らかに違っています。しかし、不思議なリアリティーを持っています。すべてのソフトやシステムにマッチングするのではありませんが、特定の環境や特定のジャンルの音楽を聴くのであれば、高い満足感が得られそうなサウンドです。 試聴後感想 一晩じっくり鳴らしてからもう一度デンジャラスを聞きました。低音の量感が少し増えて、このクラスのアンプの標準的なレベルにまで向上しましたが、やはり絶対的な低音の量感は少なめです。このアンプの魅力はS/N感が高くきめ細やかな高域です。 DCP-210/DCPW-200は、アンプが付加する響きが少なく角の立たないマイルドで滑らかな音質に仕上げられています。ほのかにミネラル分を感じる、熱くもなく冷たくもない、人肌の「白湯」のような音。まさしく「何も足さない」、「なにも引かない」という言葉が当てはまるサウンドです。 今回はプリアンプとパワーアンプをセットにして試聴しましたが、どちらのアンプもソースの音を素直に反映しそうな印象です。また、ケーブルなどのアクセサリーにも敏感に反応するでしょう。 国産製品らしく「熱い音」を出すのはやや苦手なようですが、外装や仕上げも丁寧でスイス製のコンポーネントに通じる「清らかさ」を感じられます。「アンプで音を作りたくない」。そうお考えなら、Audio Designのアンプは良いチョイスだと思います。 |
2013年11月 逸品館代表 清原 裕介
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