ATC SCM11 SCM19 2007〜2008 NEW モデル スピーカー 音質 比較 試聴(3) |
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2008年2月に発売開始された、PMC iシリーズ TB2iに相当するATCのSCM11 SCM19を聞いてみました(ATC SCM11/19の発売は、2006年9月です)。 |
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左から、PMC TB2i、ATC SCM-11 SCM-19。それぞれのサイズの違いがよくわかります。 |
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シリーズの特徴 |
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プロのレコーディング現場では、ATC のモニタースピーカーは多くのエンジニアに十二分な高解像度とダイナミックレン ジを提供して素晴らしい評価を得ています。その高度なパフォーマンスを新しいSCM11は、ATC のややコンパクトなサイ ズのスピーカーで提供します。SCM19 は世界中の有名なスタジオに使われているATC のActive 20 Pro モ ニターのスペックに相当する性能で、その高度なパフォーマンスをミッドサイズスピーカーで提供します。 新しいシリーズはサブバッフルマウント方式のキャビネットで、新型ウーファー/ トゥイー ターをあしらっています。 広いダイナミックレンジと極めてアキュレイトな再生音、この小型モニターの高解像度能力は、すべてのレコーディングエ ンジニアの努力を尊重して再現します。 SCM11にはATC の最新「CLD (Constrained Layer Damping)」技術を取り入れています。ミッドバスドライバーには 中域に重要な意味を持つ45mm φのソフトドームを付けています。 特別にSCM11 に採用した新しいCLD 技術は、広い面積のウーファーでは避けられないコーンレイヤーの分割振動を制御 するもので、これはドライバーからシステムパフォーマンスそして音楽再生へのステップチェンジを表します。 その利点は、通常のコーン紙と比べてハーモニックディストーションを300Hz から3kHz にわたって減らし、伸長された 周波数帯域を持ち、クロスオーバーフィルターのスロープ上の制約を取り払い、スピーカー軸上を外れた範囲での周波数レ スポンスも向上させます。ウーファーのポールピースはアンダーカットされ、対照的な磁束の中でボイスコイルが正確に駆 動されます。 SCM19 のドライバーのMid/LF ユニットは、ATC 伝統の設計で世界でも類を見ない贅沢な内容です。強固なダイキャス トフレーム、システム重量のほぼ2/3 を占める重量9kg、低音域150mm 口径のポリエステル織りコーン、それに移植さ れた中音域75mm 径のソフトドームでメカニカル2Way を構成しています。磁気回路はOFC フラットリボン・ワイヤー で高密度に巻かれた75mm 径のショートボイスコイル、長く狭い磁気ギャップ、スピーカー口径と同径の強力マグネット、 「SL(Super Linier)」磁気回路による渦電流を排除した極低歪率、ハイパワーハンドリング、長期の高信頼性を得ています。 SCM19 の「SL(Super Linier)」技術は長年のピストンモーションドライバーの悩みであった磁気歪みを激減させたATC 独 自の磁気回路技術です。これには通信工業で生まれた革命的な材料を巧妙に処方、3 次高調波歪みを100Hz から3kHz に わたって10-15dB 減少させます、その結果、低域リニアリティを素晴らしく向上させ、男性ボーカルやピアノ音楽におい て極めて明瞭で正確な再生をします。 高域のソフトドーム・トゥイーターは、25mm 口径で、強力なネオジウム磁気回路と大型ヒートシンクを備え、強力な中 低域のエネルギーにも完璧な対応をし、また繊細な高域表現と指向性の為にATC 独自のアルミ精密ウェーブガイド備えて います。 ネットワークも余裕の耐圧を持つパーツで構成され、全帯域がフラットなインピーダンスになるようデザイン、ア ンプに優しい設計となっています。小型スピーカーにとって強度面で重要なバッフルは、厚みあるサブバッフルマウントで重量ドライバーを支えています。こ れらの構成要素はこの稀なニュースピーカーシステムにおいて、広いバンド帯域、広いダイナミックレンジに貢献していま す。 SCM11/19の指向特性は水平方向に80°の広さを持ち、ステレオやマルチチャンネルのインストールにとっても非常に有 効で、正確なモニタリングのバックボーンとなっています。キャビネットはフロントバッフルをしっかりと支える高密度 MDF で、本ツキ板のチェリー仕上げとなっています。 ATC の小型モニターとして、SCM11/19はブックシェルフ、スタンディング、ニアフィールド・モニターなど多くの用途で高 い音楽性を誇ります。
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使用機材と試聴ソフト |
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SCM19の音質 |
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タイタニック(CD) PMC TB2iと価格はほぼ同じだが、サイズが大きく重量もある。ウーファーには、凄くお金がかかっている。二つを並べてどうぞ!と言われれば見た目豪華なSCM19に心が動かない人はいないだろう。 そこでこの2機種を実際に聞き比べてみた。 タイタニックのソフトを連続で6時間ほど演奏した後、試聴を開始する。スピーカーの前に陣取って一音が出た瞬間に高域の繊細さ、切れ味、透明感はTB2iの方が優れていることがわかる。バッフルの幅が広いためか、あるいはツィーター周辺の構造的に反射が多いためなのか、SCM19の高音部はTB2iほど開放的に広がらず、バッフルから押されるように前に出てくる。圧迫感を覚えるが、中域の厚み感押し出し感に優れるSCM19のウーファーとのマッチングは悪くない。 個人的な好みでは、やはりストレスの少ない(その分厚みが薄い)TB2iの中高域に魅力を感じるが、聞こうとする楽器の種類や中低域をよりしっかりと聞きたいならSCM19は、決して悪くはない選択だ。 低域に注意を集中して比較する。最低域の量感では、サイズは小さいがトランスミッションラインを採用しているTB2iがSCM19を上回る。ただ、SCM19の大型マグネットをしっかりドライブするためには、今回組み合わせたPS8500/Specialは、力が足りないのかもしれないし、エンクロージャーも密閉方式なので、エアーダンピングの影響でウーファーも動きが渋いはずだ。SCM19は、TB2iよりもしっかりとしたアンプで鳴らしたい。そうするとそのマグネットの強さやエンクロージャー剛性の高さが生きてくるはずだ。ウーファーがスムースに動くようになるとスピーカーの鳴りも開放的になり、音色も明るくなるだろう。 この価格帯を超える中高域の透明感を実現したTB2iに対し、中低域の厚み感を達成したSCM19。鮮やかなTB2iに対し、じわりと渋みのあるSCM19。同じモニタースピーカーでも、音質傾向はハッキリと異なっている。 ヒラリー・ハーン(バイオリン) タイタニックでも同様に感じたがSCM19の中高域は、TB2iのそれよりも穏やかだ。バイオリンの弦は、少しミュートがかかったような柔らかさが出る。コンサート会場が人で満たされると、吸音効果が高くなって弦の透明感や開放感が減じられれることがあるが、そういう音に近い。しかし、高域が穏やかに減衰することで中域の厚みは増す。 SCM19では、TB2iで聞くよりもやや小さく、デッドなホールで演奏しているように聞こえる。高域は穏やかなので、耳障りな音はほとんど聞こえない。駒のカタカタ音も耳を澄まさないと聞こえない。すべてがあからさまになったTB2iとは、そこが違う。 TB2iでは、ヒラリー・ハーンが勢いよくバイオリンの音をポーンと空間に放つように聞こえたが、SCM19では一音一音をしっかりと愛でながら引き込んでいるように聞こえる。演奏が少し大人びて温和しい印象へと変化する。1曲目は、エネルギー感と開放感に溢れるTB2iが魅力的だが、2曲目はじっくりと聞けるSCM19の味わいが良かった。 ソフトに応じて、曲に応じて、スピーカーを換えて味わう。どちらが正しく、どちらが正しくないのだろう?昔は、そんな風に考えていたが、今は気にしない。同じ演奏が、聞く位置で印象が変わるように、同じソフトを聞き返してもその日の気分で印象が変わるように、流れてくる音楽から受け取れる心象は、その時々で同じでなくていい。どんなに優秀な奏者でも指揮者でも、同じ生演奏を2度繰り返すことはできない。音楽との出会いは、まさに一期一会。でもスピーカーを変え、アンプを変えても「ヒラリー・ハーン」が素晴らしい奏者だという思いは揺らがなければ、それで良いと思うからだ。 オーディオセットの音が変わっても、演奏から感じ取れる「彼女の人となり」の印象が大きく変わることはない。不思議だけれど、事実である。きっと人間は、オーディオセットの音質の小さな違いなどものともせず、本質を受け取れる能力を持って生まれているのだろう。 ジルベルト(ボサ・ノヴァ) 高域と低域がシュン!と伸びて帯域バランスがフラットなTB2iに比べSCM19は、上端と下限がやや丸みを帯びた「かまぼこ形」のバランスだ。どちらの音が生に近いか?と問われれば迷わずTB2iと答えるが、SCM19でデフォルメされたこの演奏も悪くない。 帯域が狭くなるので、良い意味での「レトロ」な雰囲気が感じられるようになる。TB2iのように音を分析はできないが、雰囲気はきちんと伝わる。ゆったりとして心が和むような音。昔、JAZZ喫茶で鳴っていたレコードのような、そういう味わいを持っている。 声は、甘く太く、サックスも甘く太い。シンバルも厚みがあって、ふくよかな音になる。ギターは、ガット弦の柔らかさとちょっと曇った感じが出る。ピアノは、フル・コンサートサイズの大型ピアノではなく、小さめのグランドピアノがポロンポロンと鳴っている様子になる。アストラッド・ジルベルトは、唇が少し厚くなり唇のしめった感じが良く出てくる。 あっけらかんと明るくノリの良かったTB2iで聞くこの曲も良かったが、スモールライブハウスでカジュアルに演奏されているようなイメージになるSCM19で聞くこの曲の味わいもまた捨てがたい。プレーヤーが音と戯れているように鳴る厚みのあるサックスの音をいつまでも聞いていたくなった。 ホルショフスキー(ピアノ) ピアノのサイズがやはり小さく感じられるが、それは低音が足りないからだろう。もちろんこのサイズの密閉型スピーカーとしては、十分な量は確保されているが、最低限に留まっている。 先にも述べたようにAIRBOW PS8500/Specialでは、やはりこの重いウーファーをドライブしきれないようだ。このスピーカーをより良く鳴らすためには、低域の限界を以下に広げられるか?それを可能にできるアンプ選びがキーポイントになるだろう。 中域〜高域は、非常に素直で嫌な付帯音はない。やや開放感が足りないが、それもアンプのスピーカー駆動力が足りないせいではないだろうか?ピアノの音色の変化や奏者のタッチの変化は、とてもリニアに再現される。同じイギリスのモニタースピーカーB&Wが強い癖を持っているのとは対照的だ。 TB2iは、現代的。SCM19は、古典的にこのソフトを再生してくれた。 チャイコフスキー4番(交響曲) 導入部の金管の音には、しっかりとした厚みがある。高域も伸びているが、中域の厚みがあるのでうるさく感じられないのがSCM19の美点だと思う。続く木管の音は、愁いを帯びてもの悲しい。弦楽部の少し悲しい感じが上手く出ている。 再生周波数帯域が狭いので、このソフトは不得意なのでは?との予想を覆して、TB2iよりもより深みのある音が出る。他のソフトでは感じられた「SCM19の癖(持ち味)」が、このソフトでは全く感じられない。不思議だけれど、交響曲がこのスピーカーには最も似合っている。スケール感が小さくなるので「原寸大」ではないが、厳密に「スケールダウン」された「完全なミニチュア」として交響曲が再現される。楽器の位置関係、副旋律の構造、見事な描写能力だ。楽音の絡み合い、音場の立体的変化、そういったものが正に「生々しく」再現される。 聞いていてとても楽しい。ATCがこれほど上手くクラシック(交響曲は特に)を再現できるとは、今まで気付かなかった。記憶の中にあるスピーカーでは、BBCの小型モニターとして長く愛用され続けたLS3/5Aの持つ交響曲の鳴り方のイメージとSCM19は非常に近かった。この知的・繊細さが、イギリス製スピーカーの一つの持ち味なのだろうか? |
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SCM11の音質 |
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タイタニック(CD) 以前のテスト結果が良好で、展示導入し拡販しているSCM19の弟分、SCM11を引っ張り出してきてSCM19と同じ条件で聞き比べることにする。 高域の透明感、切れ込みの鮮やかさはTB2iと大きく変わらない。もちろんTB2iの方が性能は高いのだが、普通の人なら厳密に同じ条件で比較しなければ、多分その差には気付けないはずだ。 低域の量感や、伸びやかさはTB2iには及ばないが、SCM19で感じられた「中域の厚み=かまぼこ形のバランス」は、SCM11にはない。ウーファーの重量が小さくなった分、ウーファーが軽く動きPS8500/Specialでも問題なく駆動できるから、中域の癖が消えたと考えられる。 帯域バランスは、TB2iと同じくフラットで音の緻密さ、精密さは、TB2iに匹敵する。ちょっと乱雑だが、パワーで音楽を表現するイメージだったSCM19とは違い、SCM11はTB2iに共通する知的で繊細なイメージの鳴り方をする。タイタニックを聞いて、深く静かな海を縒り鮮やかに連想させるのは、SCM11の方だ。 PMCの音がお気に入りの私としては、この曲に関してはSCM19よりもSCM11で聞く方が好みに合う。しばらく聞いていると、低域が足りないことも忘れてしまい、自然に音楽に聴き入ってしまった。 ヒラリー・ハーン(バイオリン) SCM11の方が、やはりアンプに優しいのだろう。AIRBOW PS8500/Specialとの組合せでも、華麗にそして開放的に生き生きと鳴る。 タイタニック同様、SCM11の音はTB2iに非常に近い。カチッとしたやや細身のバイオリンの音と、遮るもののない乾いた空間に広がってゆく硬質な音。クリアなホールの音。ただ無心にバイオリンを奏で続けるヒラリー・ハーンの迷いのないきっぱりとした一筆書きで描かれた文字のようなバッハ。そのすべてが、とてもしっくりと身体になじむ。PS8500/Specialとの組合せでは、モニターとしての癖の無さは、SCM11のほうがSCM19よりも明らかに上手。 TB2iでもそう感じたように「スピーカーの存在感」を全く感じることなく、演奏に没頭することができた。 ジルベルト(ボサ・ノヴァ) それぞれの楽器の音やボーカルはSCM19に比べてスリムになるが、表情の違いはSCM11の方がハッキリとする。私にはSCM11の方が自然な音に聞こえるが、このあたりの「鳴り方」についての好みは分かれるはずだ。 SCM19で感じられたあの圧倒的なサックスの厚みのある音が「普通」に鳴ってしまったのはちょっと寂しい。ピアノも気の厚みが薄くなったように、響きの鮮やかさは増すが、響きの厚みは減ってしまう。全体に自然な音で違和感は少ないのだが、面白みがないという言い方もできる。 オーディオは、難しい。あちらを立てれば、こちらが立たない。両立の叶わない、アリ地獄のような苦しみにハマってしまったら大変だ。でも、とっかえひっかえスピーカーを聞いていると、どれもこれも欲しくなるから困ったものだ。 SCM19は、濃厚。SCM11は、軽快。どちらも悪くない。SCM19には、雰囲気を味わう楽しみがあり、SCM11には、音を聞く喜びがある。甲乙付けがたいと思う。 ホルショフスキー(ピアノ) 普段楽器のすぐ側で音を聞く機会が多い私は、楽器の高音部に着目して音を聞く癖がある。そのため、SCM19よりも中高域が素直なSCM11で聞くピアノの方が違和感が少ない。SCM19だとどうしても高域の倍音が少なくなっているのが気になってしまうからだ。しかし、高域だけではなく全帯域に注目して聞いた場合、中低音はSCM19がSCM11よりもリアルだと気付く。SCM11でこのソフトを聞くと「対峙する」感覚が強くなるが、SCM19の場合、音質に違和感があり「音以外の部分で演奏を捉えよう」とする意識が働くためか、雰囲気を味わうような聴き方になるからだ。 こういう「リスナーの内面の変化」は、個人差が大きいのだろうけれど、スピーカーによって演奏の「聴き方」が変わってしまうのが興味深い。 最近のメルマガで私が何度も取りあげた「脳内補完」のプロセスが切り替わるためなのだろうか?いい音が必ずしも音楽をより深く再現するのではない。TANNOYの存在と人気がそれを証明している。矛盾を秘めるこの命題が、オーディオという趣味の深さを良く現している。 SCM19は、重厚。SCM11は、クリアで明晰。スピーカーを変えると、ソフトを聞く「見る角度」が変わってしまう。同じメーカーのスピーカーなのに、これほど明確に性格が異なるのも、また興味深い。 チャイコフスキー4番(交響曲) 導入部の金管の厚みが薄く、楽器の数が少なくなってしまったように聞こえる。高域もややうるさい。木管の音にも「含み」が足りないように感じる。 透明感はあるのだが、重厚感やスケール感が物足りなくなる。演奏の流れは、スムースで濁りも少ないのだが、SCM19で感じられた「圧力感?」がSCM11にはない。 十分に音楽を理解し、納得できる音質なのだが、「遊び?」プラスアルファーはない。そこにあるのは、明晰に再現された過去の演奏。それ以上でも、それ以下でもない。 音楽を学び音楽をモニターするには、SCM19よりもSCM11がより適しているだろう。しかし、家庭で交響曲を楽しみたいとお考えなら、スピーカーにはSCM19をお薦めする。交響曲の持つ、圧倒的な厚み、重厚感がより克明に再現されるからだ。 |
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3日間で3社のスピーカーを一気に比較試聴しました。従来の私のリポートでは、自分の好き嫌いも含め比較的明確にそれぞれの製品を「善し悪し」で評価してきました。しかし、最近耳が衰えてきた?ためか、あるいは、自分自身の感性に変化が生じて聴き方が丸くなってきた?ためか、それともそれぞれの製品が良くなって差が小さくなってきた?ためなのか、今回のテストでは「全部欲しい!」と言う気持ちになりました。こんな感覚は、オーディオを始めた当初にしかなかったものです。 でも、従来の私の評価を「製品選びの参考」にしていただいている方には、この「変化」はとまどいの元となるかも知れません。そこで、今回のテストを振り返ってそれぞれの製品の印象を端的に書き上げて見たいと思います。 ■FOCAL 1007S 定位が良く、分析的だが、音は暖かい。ブックシェルフならではの精緻なサウンドが魅力的。 ■FOCAL 1027S 音楽を可視化できるほど濃密な音で聞かされたのは、このスピーカーが始めてだ。コクがあり濃密な音。フランスの作曲家ドビュッシーの音楽が「印象主義音楽」と呼ばれたように、音で映像を連想させるそれが「フランス流」と言うことなのだろうか? ■PMC OB1i 切れ味鋭く、ソフトに収録された音のすべてをありのままに再現するような音。生々しい音。しかし、時としてその音はソフトに厳しすぎることがある。聞き手も、ソフトも選ぶスピーカー。ただし、惚れ込んでしまうと抜け出せなくなる。 ■GB1i 音を精密に再現する能力では、OB1iに敵わない。ノリの良さの表現では、TB2iに敵わない。では、どっちつかずの中途半端なスピーカーなのか?というとそれは違う。使い手次第でそのどちらにでも「容易に染められる」癖の少なさが、その持ち味だ。鳴らし易く、親しみやすいが、音質は非常に本格的。 ■TB2i 今まで聞いたPMCのスピーカーの中では、最も明るく、最も楽しい音。響きが木質的で、耳に心地よい。PMCの最高峰BB5に傾向が似ているように感じる。TANNOY Autograph-miniならぬ、PMC BB5-mini。 ■ATC SCM19 中域の厚みとパワー感が凄い。音に癖があって、アンプを選びそうだが「臭いものほど旨い」の例えにあるように、その味が好きになってしまったら、他に選ぶスピーカーはなくなりそうだ。交響曲にとても良くマッチした。 ■SCM11 明晰で軽快。PMCの持ち味と非常に似ている。ペア20万円で手に入る「高性能モニター」をお探しならこのスピーカーを置いて他にはない。驚くべきしっかりとした作りのキャビネットとコストのかかったユニットを見てしまうと、思わず「安い!」と思ってしまうことだろう。 オーディオセットの音質を「善し悪し」で判断せず、その違いで「より深く音楽を味わう」ことができるのが、生演奏にないオーディオの楽しみなのだと、最近はそんな風に考え始めています。 |
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2008年 3月 逸品館代表取締役 清原 裕介 |