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Focal 40周年記念 国内40ペア限定スピーカー SPECTRAL 40th、AIRBOW CLT-5 音質試聴
2019年8月、Focalから設立40周年記念モデルとして日本国内限定数40ペア(世界限定400ペア)「SPECTRAL 40th」の輸入が、国内正規代理店のラックスマンより開始されました。価格は96万円(ペア)、仕上げはサイドパネルがウォールナット、フロントバッフルがブラックハイグロス、天板はガラスとなっています。 製品概要 製品紹介動画へのリンク SPECTRAL 40thは、1990年代を代表するFocalのヒットモデル「SPECTRAL 913.1」を最新技術でモディファイし、“ネオ-レトロ(neo-retro)”コンセプトで企画されました。現代のモデルにも通じる、曲面で形成されるフロントバッフル、後ろ側に向かって絞り込まれる台形形状のエンクロージャーやガラストップなどを採用する3ウェイ・バスレフ構造のフロア型で、ウォールナットの突板仕上げの側面とブラックハイグロスに磨いたフロントバッフルは、高い強度とダンピング性能を実現するために最厚部50mmのMDFで構成される独自のガンマストラクチャ構造が取り入れられています。 一目で分かる、特徴的なイエローコーンユニットはAramid fibre(アラミド繊維/ケブラー)の素材そのままのカラーです。アラミド振動板は、ツィーター、スコーカー、ウーファーのすべてのユニットに共通して使われています。すべてのユニットに「同一素材」が採用されるのは、YAMAHA NS-5000と同じです。効果は非常に高く、ベリリウムを振動板に使う上級モデルと比較すると、高域の鮮度感や切れ味ではやや譲りますが、それを凌駕するシームレスな繋がりの良さとナチュラルな音色の再現が実現しています。スピーカーの存在感が小さく(オーディオ的な違和感がない)、体にスッと入ってくる心地よさはこのモデル独自の魅力です。 k2ミッドレンジと名付けられる、165mm口径のスコーカーには、アラミド振動板がシングルレーヤー(一層)で使われています(上写真左)。Focal伝統のインバーテッドドーム(逆ドーム)形状のツィーターは34mm口径で、Focal社フラッグシップヘッドホンから採用が開始された「M形状(中央がくぼんだ形状の逆ドーム)」が採用されています(上写真右)。 180mm口径のWウーファーには、ケブラーの背面をグラスファイバーで強化した「ダブルスキンk2ユニット」が採用されています。バスレフポートは、前側に“パワーフロー”と名付けられたたハイスピードで切れのある低域のフロントポートが1つ、ゆったりとした量感溢れる低域を再現する大型リアポートのツインポート構成により、正確かつダイナミックな低域表現をリスニング環境に左右されずに実現することに成功したと主張されます。 スピーカーターミナルには、上級モデルと共通の高品位パーツが用いられ、40周年記念モデル専用パネルが取り付けられます。主な特性は以下の通りです。 Focal(フォーカル) SPECTRAL 40th メーカー希望小売価格 960,000円(ペア・税別)
音質チェック 今回の音質チェックは、TAD D1000 Mark2にTAD M1000を直結したシステムで行いました。音源は、AIRBOW ミュージックPCフラッグシップモデル「Enterprise」から、USB(DSD 5.6MHzアップコンバート)で入力しています。 音質評価は記載していませんが、比較として「Focal Sopra No.2」を聞きました。SPECTRALの評価は、Sopra No.2と比較して書いたものですが、34mmと大口径で重量もベリリウムよりも重いケブラー振動板を採用するツィーターを搭載するSPECTRALの高域が、ベリリウムツィーターを搭載するSopra No.2に比べて「やや伸びたりなく感じる感覚」を補うため、AIRBOW波動ツィーター「CLT-5」とのコンビーネーションもチェックしています。 試聴した楽曲は、プリアンプ:パワーアンプ音質テストと合わせていますので、TAD D1000 Mark2+M1000でSPECTRALを鳴らした場合の評価としても参考にしていただけると思います。 AIRBOW Enterprise 販売価格 1,400,000円(税別)〜(現金で購入)・(カードで購入) AIRBOW CLT-5 販売価格 175,000円(ペア・税別)〜(現金で購入)・(カードで購入) TAD D1000 Mark2 1,800,000円(税別) (現金でのお求めはこちら) (カードでのお求めはこちら) TAD M1000 1,400,000円(税別) (現金でのお求めはこちら) (カードでのお求めはこちら) 比較試聴動画へのリンク 試聴ソフト (CDからリッピングしたWAVファイルを使用) 音質評価
ベリリウムツィーターを搭載するSopra No.2と比べると、どうしても「上」はやや伸びたりず、解像度も甘い印象があるが、中低域はしっかり太く、チェロの太さや甘さが上手く醸し出されてくる。 いい意味でレトロさを感じる音質だが、チェロの響きも心地よく、明るめの音質も好印象。 音の輪郭に独特な強調感を覚えるが、これはB&Wなどにも共通する「ケブラー」の癖なのだろう。試聴したSPECTRALは、まだ100時間程度しか鳴らしていないのでもうすこし鳴らすと緩和されて、音質の深みが増すだろう。
低音はとても良く出て、この曲らしいダイナミックな動きが大きく再現される。ツインバスレフポートの効果もあるのか、低音はだらだらと膨らまず響きの収束も早い。このリニアな低音の感覚は、このクラスのフロア型スピーカーではトップクラスだろう。 弦楽器の分解能はやはり、ベリリウムツィーターを搭載するSopra No.2と比べると物足りないが、中低音の量感や質感の良さはSopra No.2に全く引けを取らない。 SPECTRAL 40thの「地に足が付いたどっしりとした鳴り方」には、安定感や安心感がある。 KANTA No.2を聞いた時の感覚と比較すると、SPECTRALはそれよりも快活な音質で音楽を聞いていて楽しい。色彩感も豊かだ。低音は明らかに量感が多く、音場はスピーカーの後方に大きく展開する反面、打楽器や弦楽器の「切れ味(メリハリ)」は、若干譲る。
楽器の音は明瞭でメリハリも効いているが、超高域が出ないのでディティールがやや甘めに感じられる。極薄いカーテン越しに生演奏を聞いている雰囲気だが、その生々しさには独特の魅力がある。 それぞれの楽器の特徴は良く再現され、特にバンジョーとバイオリンの違いは良く出る。高域は今一歩物足りないが、中低域の再現性は抜群で、色彩感の再現にも優れるのでリズムが元気よく弾け、楽しくこの曲を聴ける。 色彩感に優れ、高域が現代スピーカーほどしゃしゃり出ないこの「レトロ」な音質には好感が持てる。すべての振動板に同じ材質を使う「YAMAHA NS-5000」がそうであるように、SPECTRAL 40thもレコードを聞くとその素晴らしさが際立つだろう。
冒頭の「ハーモニカ」は、耳当たりが少し柔らかいが「奏者の息づかい」までしっかりと伝わってくる。 ボーカルの子音はそれなりに明瞭だが、さしすせそを荒らさないので女性ボーカルの艶やかさや、湿り気が強く出る。 若干「滑らかさが足りない」と感じる事もあるが、プリアンプを使わずに「TAD D1000 Mark2とM1000を直結」していることを考えれば、SPECTRAL 40thの滑らかさ、ユニット間の繋がりの良さは素晴らしいのだろう。 ピアノノ打鍵感はしっかりと出る。余韻の甘さや響きの長さも心地よい。これで後一歩解像度感が向上すれば文句なしだ。 木質的な楽器の良さ、ボーカルの艶っぽさが引き出される、良い意味で「レトロ」なサウンドでこの曲を楽しめた。
中音が張り出してくるドライなイメージは、ケブラーコーンを使っていた頃のB&Wに共通する「味わい」がある。ボーカルに「ケブラーっぽいピーキーさ」を感じる。 この曲では分解能力の不足感はないし、指打ちの音やウインドベルの「輪郭」もしっかりと再現される。 低域は量感と力感がたっぷりだが、50mmという極厚バッフルとツインバスレフポートが効いているのだろう、一切の膨らみがなく、響きの収束も早い。
チェロの最高域の倍音までが聞き取れるほど、高域の「切れ味」が一気に向上する。 古い録音に避けられない「ノイズ」とチェロの音が綺麗に分離する。 カザルスのこの演奏特有の「歌うように奏でられるチェロ」の雰囲気が見事に再現される。 高域のベールが離れ、楽器(ステージ)に一気に近づいた様な感覚。リアルさが全然変わり、生演奏さながらの音になった。
冒頭部分の「迫力」が、数割以上向上し、フォルテシモの爆発力が増した。演奏にメリハリが出て、流れがよりスリリングになる。 低音の押し出し感や実在感も驚くほど向上し、立体感やそれぞれの楽器の分解能力が大きく向上し、ホールの「空気感や気配感」までハッキリと伝わってくる。あらゆる音が冴えて生き生きと躍動し始める。 CLT-5の追加で高域の不満は完全に解消される。弦楽器のピッチカートの効果がハッキリと感じ取れる。 CLT-5の追加で中低域も改善する。高域が伸びても中低域の密度感や厚みは変化しない上で、低域のもやつきが消えて低域の解像度感(クリアネス)が大幅に向上した。
弦の弾ける感じ、バンジョウの乾いた響き、すべての楽器の音が一気に「本物」らしくなり、メリハリがハッキリして曲のスピード感がアップ、演奏の熱さや楽しさがグッと来るようになる。中低域の密度感が向上し、最低域の音階も一段と下がって感じられる。 低域の安定感やどっしり土地に足が付いた感じはそのままに高域のベール感が完全に消えて、全部の音の冴え感、スピード感、躍動感が大幅にアップする。 プリアンプを使わないシステムから、ここまでの表現力・生っぽさが引き出せるとは思わなかった。
ハーモニカの弱音部分での変化がハッキリと聞き取れる。ボーカルにはさらに艶が出て、滑らかさも増している。ピアノは重厚感がグッとアップする。このピアノのぶ厚い音は、SPECTRAL 40thならではの魅力でもある。46kgというKANTA No.2を大きく超える重量と、50mmの分厚さを持つフロントバッフルの良さが出ている。ウッドベースの低音も一段と伸びている。 分離感もハッキリと向上し、伴奏からボーカルがスッと抜ける心地よさがある。 プリアンプを使わないので「ウェット」な音質ではないが、色気は十分に伝わってくる。 揺るぎない安定感と高い実在感からは、キャビネットが金属になる前の初期のMAGICOに通じる良さが感じられると言っても言い過ぎではないだろう。
ウインドベルの「鋭さ・音の冴え感」は、全く変わってしまう。指打ちの音の明瞭度も大幅にアップしている。 ボーカルは「ケブラーの強調感」のようや圧迫感や押し出しの強さが緩和され、滑らかになっている。 プリアンプを使わないので、ドライで輪郭が明快なサウンドだが、色彩感はとても豊富でデリケートな表情の変化もきちんと再現される。低音はあいかわらず素晴らしい実在感と重量感で、お腹にドシンとくる。 プリアンプを追加すれば、音楽を聞くためのコンポーネントとしては「完成」するだろう。 低域から高域までの統一された音色感、どこまでも低く伸びて行く低域、CLT-5の効果による天井なしに伸びる高域。SPECTRAL 40thとCLT-5のコンビネーションから醸し出されるのは、めちゃくちゃ実在感が高く、一切違和感がない圧倒的に自然で、それでいて薄っぺらさとは無縁の高密度な音。スピーカーシステムとしては、ほぼ完成に近い。 もし、この音を価格で表現するならば、2〜3倍上の価格帯のスピーカーに確実に相当するだろう。 SPECTRAL 40th 総合評価 SPECTRAL 40thは、Focalの高級モデルに関わらず現在高級スピーカーの主流となっている「ベリリウム・ツィーター」をあえて使わず、他のユニットと同一の材質を振動板とするツィーターを使ったことで、高域はそれらに比べて「おとなしく」なっていますが、その代償としてYAMAHA NS-5000に通じる「圧倒的な繋がりの良さ」と「違和感の少なさ」を実現しています。 その「全帯域での音色の統一感」を言葉にするのは難しいのですが、楽器の音に敏感な方なら一聴した瞬間にその良さをご理解いただけるでしょう。 圧倒的に高密度な中低域に音楽性再現のウエイトを置き、なだらかに減衰する耳障りの良い高域をそれに乗せる。SPECTRAL 40thは、スピーカーの理想とされるおむすび型のバランスに仕上がっています。 FocalのSopraシリーズをTANNOYのPrestigeシリーズの「KengingtonやTurnberry」に例えるなら、SPECTRALはLegacyシリーズ的な位置づけになるのでしょう。 Focalが推奨するSPECTRAL 40thの世界統一価格は「10,000 USドル」それに対して、日本国内価格は「96万円」。さらにそこから値引きも考えられるとすれば、SPECTRAL 40thの国内価格は世界で一番安いはずです。そして音質は、園価格を遙かに凌駕するほど素晴らしいのです。 SPECTRAL 40thは、日本国内40セットという限定モデルだと言うことが惜しまれる、素晴らしいスピーカーでした。 2019年8月 逸品館代表 清原裕介 |
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