Luxman
D-06 + Come Away with Me “Norah Jones” CD
このソフトに収録されているボーカルは子音が荒れていて、サシスセソがややきつく感じられることがある(それはそれで悪くはない)。Luxmanの製品らしくD-06は、そのきつさを全く感じさせない。
ボーカル帯域のふくよかで肉厚なイメージは、従来のラックストーンを踏襲する。ノラ・ジョーンズの声は、耳当たりが柔らかく肉感的でセクシー。肉付きの良い女性が歌っているようなイメージで聞こえる。楽器の音も響きや音色が美しく、色彩感が濃い傾向を持つ。それは、他のラックス製品に共通する良さだ。
CD/SACDだけではなく、LUXMANのサウンドは、無闇に音質だけを追求する国産品の中では異色の存在で、音楽を安心して聞ける海外製品に近い味わいを持っている。ラックスマンのファンの方なら、ラックストーンという言葉をご存じだろうと思う。その言葉の存在自体が、ラックスマン・サウンドの他の日本製品と違いを最も端的に表しているのではないだろうか?その良き伝統がD-06にもしっかりと引き継がれている。柔らかく響きの豊かなサウンドは、従来からのラックスファンの期待を裏切ることはないだろう。
しかし、旧来のラックスートンは「まろやかすぎる」ためか、ともすればROCKやハードなJAZZにはミスマッチの傾向が感じられた。これに対し、ラックスマンはセパレートアンプの1000シリーズから音作りを変化させ、そのわずかな弱点を克服することに成功した。当然、D-06も“新世代ラックスマン”のサウンドに仕上げられている。
ギタリストの爪が弦をはじく瞬間の乾いた衝撃音、ブラシがドラムのスキンを打つ瞬間の圧迫感、ウッドベースの低音もぐんぐん前に出てくる。同じ国産品でもEsotericの持ち味だった“切れ味”や“輪郭の明瞭感”をD-06は見事に再現する。しかも、それがラックストーンの軟らかさを損なわない。このチューニングは見事だと思う。
音場の自然な広がりと、ボーカルの確かなセンター定位。楽器の煌びやかな音色の鮮やかさ。音楽を美味しく聞かせる音が、見事にバランスし適所に配置される。D-06はこれまでの国産製品にないと断言できるほど音楽を上手く聴かせてくれるプレーヤーに仕上がっている。
Luxman
D-06 + Come Away with Me “Norah Jones” SACD
D06には、SACDの信号をネイティブなDSD(ワンビット)のまま出力するか、マルチビットのPCM信号にデシメーション変換するかを切替られる機能が搭載されている。
[PCM]モード
CDで感じられなかった空気感(耳には聞こえない音、気配感)が再現されるようになり、音場はさらに大きく広がる。ボーカルは一歩前に出てノラ・ジョーンズとの距離感が縮まり、ギターやベースなど楽器の音は実在感を増す。
音が細かく情報量が豊かになって、音の自然さと深みが増すが、それは指摘されて聞かなければわからないほどの小さな差でしかなく、例えば音源の圧縮/非圧縮ほどの大きな違いは感じられなかった。
D-06のCD再生実力の高さが伺える。CDの音が良いSACDプレーヤーだ。
[DSD]モード
[DSD]モードでは、ノラ・ジョーンズの声が[PCM]よりも滑らかになる。子音の荒れがほぼ完全に押さえられる。スムースで暖かなこのサウンドこそ、ラックスマンファンの期待を裏切らないものだ。
しかし、音が滑らかになることから懸念される楽器の音の切れ味の低下はまったく感じられない。楽器のアタックは繊細さを増すが、角は丸くならない。
欲を言えば、さらなる透明感がほしい。それがあれば完璧なのだが、それをこの価格帯で求めるのは無茶だろう。
総じて器楽の音はPCM、ボーカルはDSDが良かった。
Luxman
D-08 + Come Away with Me “Norah Jones” CD
D-06との比較では、高域の明瞭度(アタック感)が向上し、低音もより厚みがある。音の細やかさも向上するが、それよりも質感の向上がより顕著だ。
アンプの600/800の比較では、上位モデルの800によりラックスらしい音作りを感じたが、D-06/D-08の比較ではD-08のラックストーン味付けはD-06よりも小さい。上位モデルらしく再現される音もより細やかで、さらに低域〜高域方向に音が伸びる。
音楽がより伸びやかに浪々と鳴る。
ほんの少し濁りを感じる柔らかな音は、D-08独特の持ち味だ。他メーカーのCDプレーヤーの音質を透明な日本酒に例えるなら、D-08は濁りを僅かに残した清酒の味わいをもつ。ほっとするような穏やかで深みのあるサンドだ。
Luxman
D-08 + Come Away with Me “Norah Jones” SACD
CD/SACDの差を“雰囲気”で味合わせてくれたD-06に対しD-08は、CDは聞こえなかった“音”をはっきりと再現するようになる。CDの音もD-06よりも確実に良くなっているが、SACDの音質差はそれよりもさらに大きく、D-08で聞くSACDの音はD-06を大きく上回る。
[PCM]モードでは、CDと類似するDVDオーディオのような切れ味のある透明な音を出し、[DSD]モードでは、真空管を使ったCDプレーヤーのように柔らかく滑らかな音が出る。ボーカルにスポットを当てたような聴き方をしたいなら[PCM]モード、伴奏もしっかりと聞きたいなら[DSD]モードがお薦めのポジションだ。
Luxman
D-05 + Come Away with Me “Norah Jones” CD
D-08/06との比較では低音が軽くなり、引き締まり感も弱くなって、ベースの音像がやや膨張する。ピアノのアタックも軽くなる。シンバルもやや軽く、薄い音になる。
電源部が弱くなったためか?あるいは、アナログ増幅回路がグレードダウンされたためか?音が希薄になり、エネルギー感が小さくなる。
その反面、回路がシンプルになった良さが出て、音楽表現の素直さが引き出されている。音楽を自然に聞けて、聞き疲れしない良さがある。海外製品に通じるような、色気もある。Luxmanの持ち味をコンパクトに集約したようなサウンドに感じられた。
Luxman
D-05 + Come Away with Me “Norah Jones” SACD
D-05で聞くSACDは、D-06で聞くCDに近いが記憶の中の比較でもD-06のCDに僅かに及ばないように感じる。
CDで感じた音の希薄さ、低音の緩さなどは大きく改善されるが、それでも私が求めるレベルには達していない。価格を考慮すれば仕方のないことなのかも知れないが、SACDでこの音質なら、私は迷わずD-06を選ぶ。
AIRBOW SA10
Ultimate + Come Away with Me “Norah Jones” CD
SA10、X-05には、DF(デジタルフィルター)特性切り替えスイッチが搭載され、フロントパネルからの操作でデジタルフィルターの特性を「Wide(スロー・ロールオフ)」と「Narrow(シャープ・ロールオフ)」の2段階に切り替えられる。
このソフトで聞き比べてみると、“DF:Narrow”ではタイトで引き締まったサウンドが得られ、“DF:Wide”では響きは豊かになったが、音の輪郭が甘くなった。そこでノラ・ジョーンズの試聴には“Narrow”を使った。
DSDのモードも切り替えられるのでチェックしたが、“Direct”は音の鮮度が上がって感じられたが、音量がかなり小さくなるため、音量を合わせるために今回は“Normal”で音質チェックを行っている。
D-06+SACDと比べてもSA10
Ultimate+CDの音の細やかさはそれに劣らない高いレベルに達している。確かに高域の空気感や楽器の倍音の情報量などでは、さすがにD-06+SACDに敵わないが、ノラ・ジョーンズの息づかいや声の調子の変化はSA10
Ultimate+CDがD-069SACDをわずかに超えて感じられる。
音調は少しクールになってボーカルの温度感もやや下がるが、逆にそれが適度な緊張感となって音楽の表現を引き締めている。アマチュアからプロ。ノラ・ジョーンズのボーカルには、そんな変化が感じられた。
CD同士の比較でも、ギターの金属的な音、パーカッションの音の芯の強さでSA10
UltimateはD-06をはっきり上回る。特にギターの連続的な音色の変化、弦をチョーキングする力加減の様子などは、非常にしっかりと再現されて心地よい。ピアノの打鍵感、ベースの胴鳴り、中低音の質感と量感もSA10
UltimateはD-06よりも、しっかりと太く再現する。
穏やかな暖かさの中にボーカルが浮かび上がり、心地よいひとときの夢のような雰囲気でこのアルバムを再現してくれたD-06に対し、SA10
Ultimateはより細部まで克明に、そしてより現実的な音(ありえる音)でこのアルバムを再現する。聴き応えがあるというのか?生演奏をより彷彿とさせるのは、SA10
Ultimateだ。
しかし、オーディオの目的を生演奏の再演に求めるのではなく、ソフトに収録された音楽をより積極的に自分の聞きたい音に変えたいならば、D-06の「味」も捨てがたいと思う。
AIRBOW SA10
Ultimate + Come Away with Me “Norah Jones” SACD
音調はCDとSACDでほぼイコールなので、音質特徴としてSACDのコメントに付け加える部分はない。
音のきめが細かくなり、空気感が再現されるようになる。楽器の音も繊細さを増し、音色の美しさも際だつ。その変化の傾向はD-06のCDからSACDで感じたものとほとんど同じだが、SA10
Ultimateは、D-06よりもCDとSACDの落差がさらに小さい。
特に今回テストに使ったノラ・ジョーンズのソフトでは、「それと指摘されてもわからないかもしれない」と感じるほどその差は僅かであった。時にはCDの方が「よけいな音」が聞こえない分、より深く音楽に集中することができるように感じたほどだ。
AIRBOW X-05
Ultimate + Come Away with Me “Norah Jones” CD
X-05にもSA10と同じデジタルフィルターカーブの切り替え機能が搭載されている。このソフトで聞き比べてみると“DF:Narrow”では音が引き締まりすぎて窮屈に感じられた。“DF:Wide”では響き成分が増えて心地よいバランスとなった。SA10
Ultimateとは逆の結果だがX-05 Ultimateでは、“DF:Wide”を使った。DSDは“Normal”だ。
X-05
Ultimate+CDは、CDの演奏にもかかわらずD-06とSA10 UltimateのSACDよりも再生周波数の帯域レンジが広く感じられる。特に低音方向の拡大が顕著だ。プレーヤーをX-05
Ultimateに変えるだけで、ベースやドラムなどの低音楽器の実在感と押し出し感が大きく向上する。スピーカーのウーファーの口径をワンサイズ上げたくらいの大きな変化がある。
低音がしっかり出るので聞こえない低音を出すサブウーファーの効果と同じように、演奏全体の音の芯がしっかりする。音の分離も大きく向上し、楽音やボーカルの明瞭度と表現力が際だってくる。
音調はSA10
Ultimateと似ているが、X-05 Ultimateは音像の輪郭がより明瞭で定位がシャープに決まる。VRDSメカの良さが出てくる感じだ。ボーカルはセクシーで心地よいが、声の芯が太く、プロ・ボーカリストの素人との声の違いが如実に感じられるような聴き応えのある素晴らしい音で鳴る。
揺るぎない低音の安定感と、一切の揺れや濁りを感じない高域の圧倒的な透明感。ギターの音は、さらに明瞭にしっかりと前に出てくる。パーカッションの打音、ピアノの打鍵音の芯もびしっと引き締まっている。オーバーダビングで収録された、ノラ・ジョーンズのハーモニーの分離も3台中もっともクッキリしている。
演奏されたスタジオの様子やミキシングの音が手に取るように明確に感じられるような感覚を覚える緻密なサウンド。このサウンドがCDで得られるなら、ほとんどのSACDをCDで凌駕できるのではないだろうか?
AIRBOW X-05
Ultimate + Come Away with Me “Norah Jones” SACD
CDで相当なサウンドが得られたにもかかわらず、X-05
Ultimate+CDとX-05 Ultimate+SACDでは、D-06やSA10 UltimateよりもCDとSACDの音質差が大きく感じられる。
周波数レンジはさらに広くなり、音の細やかさも確実に増大する。ノラ・ジョーンズがすぐそばで謳っているのでは?と感じるほど細やかで密度の高い音が出る。
子音の再現の正確さは3台中もっとも高い。楽器の音も、3台中もっとも生演奏のそれに近い。生演奏を聴いているのと錯覚しそうだ!というのは、ちょっとに言い過ぎかもしれないが、そう言いたくなるほど音が生々しい。
ピアノの鍵盤にピアニストの爪が触れる硬い音、ギターの弦に触れる爪(ピック?)の音など、ディスクに収録されている音のすべてが再現されているようにすら感じられる。
「オーディオが目指すべきは生演奏の再演ではない」。それを承知していても、この音のおいしさはオーディオマニアには堪えられない種類のものだ。
抜群の音質と自然さ。聴き応えはあるが、聞き疲れることはない。音の良さにおぼれて気づけば、ディスクを一枚聞き終わっていた。そういう種類のいい音が聞けた。