ELAC BS243 Limited
ヨーロッパで見学したブルメスター(ドイツ)のスピーカーのツィーターには、ELACの“JET3”が使われていた。同じドイツのメーカーという理由もあるのだろうが、音にこだわるブルメスターが選んだからには、音質的に優れているという理由も大きいはずだ。ブルメスターの説明によると、JET3が採用している「ハイルドライバー」は、音量を大きくした時のひずみが少なく音がヒステリックにうるさくならないという。原理から見ても、その説明は納得できるし、今までいろいろな種類のツィーターを聞いた私も、「ハイルドライバー」が理想のツィーターに近い方式の一つという考えには、まったく同感だ。
今回テストする“BS243 Limited”には、標準でいくつかの音質調整装置(付属品)が付いている。比較テストを行う前に今回の最適な組み合わせを探ってみよう。
同梱パーツ
左から、ジャンパー線、ゴム脚。
右上から、バスレフポートを塞ぐためのスポンジ、ツィーター周りに取り付ける反射防止用のスポンジと
取り付け金具。
●ネットのあるなし
多くのスピーカーには、埃などからユニットを保護する目的で「サランネット」が付属している。一部の例外としてSonus
Faberの上級モデルのように音質を全く阻害しない方式(その代わりユニットも保護できない)やVienna
Acousticsのようにサランネットで積極的に音質の改善に取り組むメーカーもあるが、ほとんどの場合「サランネット」をつけると細かい音が聞こえなくなったり、高域が濁ったりと良いことがない。
付属のサランネットの影響をElacでテストしてみたが、驚いたことにこのスピーカーは、サランネットによる音質の変化がほとんど感じられなかった。吟味されたサランネットが採用されているのか?あるいは、ハイルドライバーという方式がサランネットの影響を受けにくいためか?確認はしなかったが、私は多分サランネットが優秀なためと思っている。なぜなら、これほどまで細部にこだわった付属品を同梱しているスピーカーメーカーは、他に類がないから、きっとサランネットにもこだわったのだろうと考えるのだ。
しかし、サランネットの影響は、ほとんどないとはいえやはり高域の解像度や明瞭度は低下するので、今回の試聴は「ネットなし」で行うこととする。
●接続
Bi-Wireに対応しているスピーカーに一本のケーブルをつなぐ方法は、4通りあってそれぞれ音が違うのは、これまでにも説明してきた。今回も聞き比べを行い、最適な接続を探った。
プラスを高域、マイナスを低域につなぐタスキがけ(スタッガー接続)が音質バランスと音の自然な広がりに優れていたので、この方法を採用することにする。
●バスレフポートを塞ぐスポンジ
バスレフのポートの調整用に中央に穴の開いたスポンジが付属している。穴を閉じたスポンジでバスレフポートをふさぐと密閉型に近くなり、穴の開いたスピン時でポートをふさぐとカットオフ周波数が変化する。詳細はどうあれ、これを使うことで低音が変わる。どのように変わるのか?テストしてみた。
解放(塞がない)を基本とすると、バスレフポートの穴を完全にふさいだ場合、低音の量感が減るが中域の押し出しが強くなり、音がやや前に出てくる。
中央に穴が空いたスポンジをつけた場合は、低音の量感は少し減るが、開放的で引き締まった音に変わる。
完全にふさぐと閉鎖的な音がするので、あまりお薦めできないが、中央部に穴の開いたスポンジでふさぐのは、低音がふくらみすぎる場合には良好な解決法となるだろう。ボーカルを含めた中音の押し出しが強くなるので、音を前に出したい場合にも使えそうだ。
今回のテストは、もっともこのスピーカーの素性を自然に出している(あたりまえだが)と感じられる、スポンジなしで行うことにした。
●ツィーター周りの反射防止用スポンジ
BS243シリーズには金属ピンを使って取り付け、ツィーターの周りの反射を抑えるためのリング状のスポンジが付属している。
最近発売されたPMCのiシリーズもツィーター周りの反射をコントロールするための薄いパネルが取り付けられている。ツィーターの周囲の反射にメーカーが注目し始めたのだろうか?それは違う。LS3/5Aのような古いモデルを例に挙げるまでもなく、ツィーター周辺の反射を考慮したスピーカーは過去に多くの例がある。
AIRBOWからも、ツィーター周囲の反射をコントロールして音質を改善する目的を持つSweet-ringを発売しているように、ツィーター周辺の一時反射は高域の解像度や輪郭の強さ、見通しなどに大きく影響する。
BS243に付属するリング状のスポンジは、表面に植毛が行われている。より効果的に反射を低減するためだろう。このスポンジを装着することで高域は透明感を増し、音場の見通しがはっきりと向上する。しかし、その反面ハイルドライバーの持ち味であるエネルギー感が後退するように感じた。スポンジの取付を改善と考えるか?あるいは、改悪ととらえるか?ソフトやシステム、個人差によってその感じ方は分かれるはずだ。
今回はハイルドライバーらしさをより感じられる、スポンジなしでこのスピーカーを評価することにする。
●ジャンパーケーブル
付属しているバンデン・フルの極太ジャンパー・ケーブルをジャンパープレートと交換して音質をチェックする。
中域が太くなるが、やはりハイルドライバーらしいパンチやエネルギー感、切れ味の良さが後退した。ジャンパープレートも交換しないことにする。
●付属品総評
BS243シリーズに付属している音質調整アイテムは、それぞれよく考えられたものであるが、このスピーカー本来の持ち味をより伸ばすためのものではなく、ハイルドライバーのエネルギーの強さをコントロールする目的(音のエッジを柔らかくする)で付属していると考えた方がいいと思う。少なくとも私は、それらを使わない「素」のBS243の音を好む。
もし、これらの付属品をメーカー自身が本当にすばらしいと迷わないなら「付属品」ではなく、標準品という形をとればよい。そうしないのは、彼らにも迷いがあるのではないだろうか?
◆ヒラリー・ハーン
小型スピーカーらしく、BS243
Limitedの定位感と立体感は抜群だ。ハイルドライバーは、見た目はリボン型と似ているが指向性は案外広く、特に左右への広がりに関してはドーム型と比べても大差がないから、設置もそれほど神経質にならなくて済む。
音質感はSonus
Faberの2機種に比べるとさすがに少し落ちるように感じられる。しかし、AIRBOWとの相性は案外良く、質感の低下は“音楽を聴く”ためには気にならない。
見かけの“硬質感”とは裏腹にBS243
Limitedの音は柔らかい。もちろん、歯切れは抜群にいい。
低音は少し控えめだが、中高域とのバランスはうまくとれている。
エンクロージャーが少し低級な響きを出すのが気になるけれど、それに気付く人は多くないだろう。
バイオリンは弓がすれる音が少し強めに出るが、中音の軟らかさやデリケートな感じもうまく出てなかなか魅力的に鳴る。4〜8KHz付近のエネルギーが少し細い?感じがするけれど、それもわかる人は少ないはずだから、問題にはならないだろう。
音量を下げてみるが、ほとんどバランスが崩れず、音も細くならないのは、小さな音で音楽を聴かなければならない方にとって嬉しいことだと思う。
逆に音量を上げると、高域のやはり4〜8KHz付近に何らかのピークがあって、バイオリンが少しヒステリックに聞こえるようになる。音量をさほど上げなければ問題とならないが、音量を上げると低域も緩くなり音のタイミングも微妙に狂い、うるさい感じが強くなる。これは、アンプとの相性の問題かも知れない。どうやらこのスピーカーは、大音量に向いていないか?あるいは、もっとグレードの高いアンプを使わなければ、良い大音量が出せないようだ。
◆ノラ・ジョーンズ
ボーカルは、表情が豊かで心地がよい。
ピアノも響きが美しく、色っぽい。
ベースの量感も不足はないが、質感が伴わない。低音が弱く、質感が軽いからハイルドライバーの持つエネルギー感や色彩感、解像度感とうまくマッチしない。全体的な音のバランスは悪くないだけに、このウーファーの質感の低さが悔やまれる。ベースの押し出す力が弱く、どこかでエネルギーが抜けているようだ。エンクロージャーの剛性が足りないか、あるいは材質が悪いのだろう。この価格なら仕方がないが、それが惜しまれる。
その低音の質感不足を除けば、中高域の質感とエネルギー感、きめ細やかさ、色彩の豊かさは抜群だ。逆に、あまりにも中高域の音が良すぎるため、低域に不満が感じられるのかもしれない。
蛇足だが、ブルメスターではELACのハイルドライバー(同じものかどうかは不明)を搭載した自社製スピーカーに100万円〜1000万円!という高額なプライスをつけている。今年からドイツで販売される「ポルシェ」にブルメスターのスピーカーが搭載されるとも聞くが、そのツィーターもやはりJET3なのだろうか?とにかく、ブルメスターも認めるJET3の実力はたいしたものである。
BS243
Limitedに感じる低音の質感の物足りなさであるが、ブルメスターは多分それに気付いていて、それを問題と考えているのだろう。彼らのスピーカーのエンクロージャー(箱)は例外なく、強度の非常に高い無垢材や集成材で作られている。工場見学でMr.ブルメスターは、ブルメスターのスピーカーには“低級な音がするMDFは絶対に使わない”と断言していた。
ブルメスターが作ったスピーカーを彼らの試聴室でたっぷり聞いたが、BS243
Limitedで感じた“低音の質感不足”の不満はみじんも感じられなかったから、彼らの主張は間違っていないはずだ。
とにかく、このスピーカーをうまく鳴らすには、いいスピーカースタンドを併用するか、もしくは低域に強いアンプを組み合わせて低域の質感を少しでも上げることである。そうすればBS243
Limitedは、その価格が信じられないほど良い音で鳴ってくれるだろう。