同軸2Way方式というユニットの特徴について簡単に解説します。同軸2Wayユニットとは、ウーファーの中央にツィーターを配置する(図1)ことで、音源からリスニングポイントまでの「距離誤差」を減少し(音源を点音源に近づける)、ピントの合った(定位に優れた)音像イメージを実現する方法です。
(図1) ウーファーの中央部にツィーターを配置することを同軸2Way方式と呼ぶ。
この考え方は、理論的には申し分のない方式なのですが中央部に配置したツィーターから出る高音が、周囲のウーファー・コーンに反射し(図2)、それが定位に悪影響を及ぼすという欠点を持っています。
(図2) ツィーターから出る音が赤い矢印の示す部分でウーファーと干渉する。
この同軸2Wayユニットの中で、中央部の高域ユニットに「ホーン型」が採用されたものが「ホーン型同軸2Wayユニット(図3)」です。「ホーン型(ホーン・ツィーター)」とは、ドライバー(振動板)の音をホーン(朝顔の用な形状の筒)によって囲い込んだ形状の高域ユニットでホーンを持たないツィーターに比べて音が遠くまでハッキリ伝わるという特徴を持っています。しかし、同時にユニットの横側に音が届きにくい(広がりにくい)という欠点も合わせ持っています。スピーカーではありませんが、声を遠くまで伝えるために使う「メガホン」も同様の原理なので、ホーン型とは、「メガホン」の付いているスピーカーだと考えていただければ、イメージしやすいかも知れません。
(図3) 高音発生部がホーン方式を採用しているユニットをホーン型同軸2Wayユニットと呼ぶ。
TANNOY社は、伝統的にこの二つの方式を組み合わせた「ホーン型同軸2Wayユニット」を音楽再現に適した方式と位置づけて、高級モデルに採用しています。今では、TANNOYのお家芸とも言えるこのホーン型同軸2Wayユニットですが、その登場はかなり過去に遡ります。著名な所では、真空管時代の同軸2Way型ホーンスピーカー(タンノイやアルテックなど)が有名だと思います。この時代のスピーカーの多くは、低出力の真空管アンプとのマッチングを考え、高能率のホーンと高能率の大口径のウーファーが組み合わされていました(図4)。大口径のウーファーの中心にホーンを納めるのは、物理的にそれほど難しくはなかったと考えられますから、理想的な点音源を目差してユニットが「同軸型」に発展していったのは、技術的に自然な成り行きだと思われます。
(図4) 大口径のウーファーを採用したホーン型同軸2Wayユニット。
そして、幸いなことに大口径のウーファーの中央にホーン型ツィーターを配置するというこの時代の「ホーン型同軸2Wayユニット」では、ツィーターの高域がウーファーのコーンで反射して引き起こされる悪影響は、ほとんど問題ではありませんでした。なぜなら、ウーファーの口径が30cm以上と十分に大きいとコーン紙のカーブが緩やかになり、中央部に搭載されるホーン型ツィーターの出口との角度の差が大きかったため、ホーンから出る音がウーファーとほとんど干渉(反射)しなかったからなのです。
※ウーファーが十分に大きいとホーン型ツィーターからでた音は、ウーファーのコーン紙と干渉しない(図4)。
そのため高域がウーファーで反射して「音が濁る」という問題点を感じることがありませんでした。初期のアルテックの同軸2wayユニット(マンタレイホーン時代)では、ウーファーよりもホーンの開口部が突き出した形になっていますが、これもホーンから出る高音をウーファーと干渉させたくなかったからだと思われます(図5)。このように同軸2Wayユニットが成功するかどうか?は、高域がウーファーのコーン紙の影響から逃れられるか?にかかっていると言ってよいと私は考えています。
(図5) ウーファーよりもホーンの開口部が突き出た形状のホーン型同軸2Wayユニット。
しかし現在、同軸ユニットを設計する多くのメーカーが、この重大な問題についてほとんど無関心なことにはあきれるばかりです。初期のKEFのUNI-Qユニットは、メーカー側の理想的な説明とは裏腹に、良好なはずの中高域が、ベールがかかったように濁っていました。それもそのはず、UNI-Qが搭載しているツィーターは、通常のドーム型でホーン型と比べると遙かに指向性が緩やかです(横方向に高音が出ます)。その上、小口径ウーファー・ユニットのコーン紙カーブは、この高音にホーンロードを掛けるのに最適なカーブに設計されています。もし、このウーファーが「全く動かない」のならこの理想的な設計に勝るスピーカーはないでしょう。しかし、ウーファーのコーン紙は「入力される信号に応じて前後に振動」し、さらに動きを素早くするために「軽く」作られているために、ツィーターの高域と盛大に共鳴を起こします。振動するホーンと、盛大に共鳴するホーンをもつ「ホーン型ツィーター」の音が良いはずはありません。KEFと言えば、イギリスのスピーカーメーカーの老舗で過去に素晴らしい製品を送り出しているメーカーだけに、このUNI-Qの欠点を見過ごしているのは驚くべき事だと私は考えています。もちろん、現在のUNI-Q型ユニットは、初期のようなひどい欠点はありませんが、彼らが言うほど理想的には動作していないのも事実ではないでしょうか?
(図2’) ツィーターから出る音が赤い矢印の示す部分でウーファーと盛大に干渉する。
ウーファーは、前後に激しく振動しているため、高音が乱れ、音が大きく濁ってしまう。
一見、理想的に見える「同軸ユニット」ですが、それは諸刃の剣のように「功罪」を合わせ持っています。その「罪」の少なかった「ホーン型同軸2Wayユニット」ですが、最近はスピーカーの小型化の影響から小口径のウーファー・ユニットを採用するものが増えたため、ホーン・ツィーターから出る音がウーファーのコーン紙に反射して悪影響を与える事が多くなっています。
(図3’) 高音発生部にホーン方式が採用されている場合は、同じ口径のウーファーでも
干渉する度合いが低くなり音質への悪影響が小さくなるが、大口径の同軸ユニットよりも悪影響は大きい。
15インチ以上の口径のウーファーを搭載しているTANNOYなら、これまでの説明からもおわかりいただけるようにウーファーによる高音の濁りは、ほとんど問題となりません。しかし、12インチ以下の口径のウーファーを搭載している製品では、ウーファーからの高音の反射の悪影響が避けられないのです。
ウーファーとツィーターの音が干渉を始めると、問題は複雑になります。それは、「口径が大きい=悪影響が少ない」という簡単な論理が通用しなくなるからです。なぜなら、干渉が生じるとその悪影響の大きさは、量ではなく「人間にとってそれが耳障りかどうか?」という質の問題になるからです。質の問題は、音響理論では明確になりません。ウーファーのサイズはもちろん、コーン紙の材質や厚み、表面の状態などによって、大きな影響を受けるからです。唯一それを確かめる方法は、現在の所「実際に聞いてみる」以外にはないのです。
この「ホーン型同軸2Wayユニット」の功罪を思い描きながら、「Revolution
Signature Series」の試聴記事をお読み頂ければ、この製品への理解をより深めていただけるのではないだろうかと思います。