A1
CD Proの試聴テストは、FOSTEX
HP-A3のテストに続いて行ったので、まずMusical Fidelity A1 CD ProとPC+HP-A3の音質比較の続きからスタートする。試聴したのは、世界と日本を代表する2枚のPOPSだ。
マイケル・ジャクソン “History”
安室奈美恵 “BEST
FICTION”
最初に自作RCAケーブル(HCR-LINE
TYPE-B、プラグはノイトリック)を用いてPCにリッピングしたCDの音声をHP-A3(USB接続)、A1
Integrated(USB接続)で比較すると、音の細やかさ、再生周波数帯域の広さでHP-A3がA1
Integrated内蔵USB/DACを大きく上回った。
次にHP-A3とA1
CD Proを比較すると、PC+HP-A3を音源とする場合に比較して、A1
CD
Proでは高域の透明感や音の品位が大きく向上した。その質感の差を例えるなら、プラスティックがクリスタルガラスになったほどの違いがあった。各楽器の分離が向上し、楽音のエネルギー感もぐんと大きくなる。しかし、時としてそれが災いし、高域がやや強く感じられるが、それはソフトの素性がよりストレートに出たためだと思った。
ここでケーブルをAIRBOW
X-Tensionに変更し、A1 CD Proを聞いてみた。
RCAケーブル:AIRBOW
MSU X Tension
驚いたことにRCAケーブルでこれくらいまで音が違うか!というほど音が変わった。低音の量感がアップして輪郭もしっかりする。高域の透明感は一段と向上するがエッジの荒れが緩和され、高域はしっとりと滑らかになって、耳障りだった高音がそうてなくなった。ボーカルも透明感が向上すると同時に、繊細な表現がよりデリケートになって、音楽のグレードが1〜2段階向上したように感じられた。
この組合せで聞いている限り、昔のA1で不満に感じられた低音の緩さや高域のピントの甘さはまったく感じられない。低音の骨格はシッカリし、高音も切れ味鋭く伸びきって聞こえる。ボーカルもピントがシャープだ。音の分離にも優れそれぞれの音がほとんど混じらず綺麗に分離する。しかも前後方向への奥行きは充分に深い。日本製品にありがちな分離は良くても平面的で無表情なな音ではなく、クリアでHiFiだがとても有機的なサウンドだ。
Musical
Fidelityが21世紀の!と称する新型A1には、昔のA級アンプのマイナスイメージである「トロさ」は、微塵も感じられない。
ディスクを換えてさらに試聴を続ける。
ノラ・ジョーンズ “Come
Away With Me”
A1
Integratedは、薄型のボディーに似合わない厚みのある重心の低い音でベースを鳴らす。確かに大型アンプのような重量感はないが、音楽の骨格としてのベースの役割は充分に果たせているパワフルで太い音だ。
ピアノは、響きの音色が美しい。
ゆったりと、ウッディーに響くベースに、きらめくようにピアノが入り、ギターが美しい余韻を奏でる。その一連の流れ、コンビネーションに容易く心が奪われる。
ベースの弦のこすれる音、弦をリリースするときのノイズも綺麗に再現され、臨場感を高めてくれる。
ノラの声は、きめ細やかで質感が高く上品な艶を持って語りかける。
ソフィスケイトされたことでデビューモデルA1の「暖かい音」のイメージからは少し離れたが、楽器やボーカルの「音色」がとても美しく、心酔できるサウンドだった。初代にはない「煌びやかさ」が音に宿った。
ヒラリー・ハーン “バッハ無伴奏バイオリン”
バイオリンが「タップリ」と木質的に響くが、ピントはシャープに保たれ音像は一切肥大しない。間接音が多いのに定位がぼやけないのは素晴らしい。コンサートホールの響きが空気のように広がって部屋を満たす。バイオリンのシャープな音が、それに呼応しながら骨格を作る。まるでコンサートホールの最上席でバイオリンを聞いているような、芳醇さとハードさが絶妙にマッチした音。心地よいサウンドだ。
このソフトは好きでよくAIRBOWで聞いた。中でもTERAで聞くウルトラシャープな音は私のお気に入りで、店でもよく鳴らしていたから、その音の切れ味の鋭さが耳に焼き付いてしまったお客様も少なくないと思う。それと比べるとA1
Integratedは切れ味が穏やで、高域のタッチはソフトだ。しかし、バイオリンの音は充分に「シャープ」に聞こえる。それは、全体の「速度の対比」が上手く保たれているからだ。この「相対感覚のスケールを大切にした音質チューニング」は、私の好きなBLADELIUSの音にも共通するが、Musical
Fidelityのタッチはそれよりも僅かにハードだ。それはともかく、Musical
Fidelityの音楽的なチューニングの巧さには、いつも舌を巻かされる。
カーペンターズ “Greatest
Hits”
響きの色彩が美しく、楽器の音が部屋の中に漂うようだ。
ボーカルはピントが良いが、ハードにならず声は甘い。
私の印象では、カレン・カーペンターの声は太陽と言うよりは月の光のイメージで決して明るいとは思えない。だから、下手なコンポで鳴らすと、重く暗い「寒い音」になってしまう。
しかし、Musical
Fidelityはカレンの声を実に優しく、女性的な柔らかさを持って鳴らす。まるで、子守歌を聴いているように時間を忘れて聞き入ってしまった。
このセットにマッチしそうな楽曲として、この曲を選んだのは大正解だった。シンフォニーらしく音場が広大に広がるが、音像には微塵の甘さもなく楽器の分離が素晴らしい。あるべき音があるべき所から出てくる。なんて素晴らしいサウンドなんだろう。
低音には十分な厚みと広がりがある。オーボエやクラリネット、フルートやピッコロ、それぞれの管楽器の微妙な音色の違いが見事に描き出され、交響曲の持つ雄大さ、楽器の多様性が体全体に伝わってくる。
T3Gとのマッチングも素晴らしく、一糸乱れぬ素晴らしいオーケストラレーションで「新世界」がリスニングルームに展開する。今聞いている音は、オーディオの一つの「ベストサンド」と言って差し支えないだろう。悠久の楽曲の流れに身を委ねていると、あっという間に12分が経ってしまった。時を忘れるというのは、まさにこれを言うのだろう。
フォープレイ
今度は苦手だと思われる曲を選んで聞く。
音のエッジがビシビシ切れてぐんぐん前に出てくるようなパワフルさはA1にはないが、TUBEアンプを使ったエレキギターの甘さが出て、真空管アンプで鳴らしているような「鮮やかで美しい音」で聞ける。
穏やかに美しく流れる、こういう「フュージョン」の聴き方もそれはそれで悪くない。BGM的に聞き流すつもりなら、この音でもOKだろう。