3つのスピーカー、3つのコンポで3種類の音楽を聴くという合計27回にわたる試聴を行った。最も大変だったのは、27もの寸評を“書き分ける”ことだった。本来言葉に置き換えられない「音を言葉に翻訳する」ことのしんどさと「読み手を飽きさせない」ために可能であれば、毎回違う表現を選ばなければならなかったからだ。結局、試聴テストは1日で終わらず、2日にまたがってしまった。
テストが2日に及び気づいたのは、空気の湿度で音が明らかに違ったことだ。初日の天候はこの時期の典型的な梅雨空で、雨が降り湿度も高かった。二日目は晴れこそしなかったが、雨は止みエアコンで室内は初日よりも乾いた状態に保たれた。空気中の湿度が高いと空気の粘性やバネ定数が高くなり、高音がより大きく減衰して音が「曇る(高音が籠もる)」。それは理解していたが、初日に聴いたJ-POPで「ベールがかかったような」という表現が多くなったは、湿度が高かったせいだろう。空気が乾いた2日目に試聴した1028BEはT3Gに比べ高音がしっかりと伸び、明瞭度も高く聞こえたが、湿度の違いも多分に影響したに違いない。こういうことがあるので普段レポートは短時間で一気に書き上げ環境の影響は受けにくいのだが、今回に限り「環境(天候)」の変化も加味してレポートに目を通して頂ければと思う。
試聴の始めに「音の違い」は、スピーカーとコンポの「それぞれの相関関係によって生じる」と感じられたが、聞き続けると、それぞれのスピーカーの個性と、コンポの個性が完全に独立したものと判断できるようになった。つまり、スピーカーはコンポを変えても、コンポはスピーカーを換えても「基本的な音調が変わらない」と感じられたのだ。
一般的に考えられている「コンポとスピーカーの相性」は、確かに存在する。しかし、それは「組合せが悪いと上手く鳴らない」と言うのとは違う。しっかりとした「ある一定以上の水準」でコンポとスピーカーを選べば、どのように組み合わせても良い音が鳴る。私が感じる「相性」とは、スピーカーとコンポ、それに楽曲の組合せが「特別にマッチしたとき想像できないほど良い音が出る」ことを言う。今回の試聴では、1028BEとM6/SETで交響曲を聴いたとき、Minima
VinatgeとSYN/TRLでJAZZを聴いたときがそれに該当する。しかし、驚いたことにS2/Masterはすべてのスピーカー、すべての楽曲をほとんど公平なイメージで鳴らしてしまった。だからS2/Masterはある意味で「相性」が存在せず、弱点のないコンポだと言える。
S2/Masterは自分自身が音を決めたせいもあるのか、最も癖のない音に感じられた。逆に言うなら、組み合わせるスピーカーや楽曲によってその個性が左右されない(すべてにおいてフラット/公平な表現をする)部分こそがS2/Masterの個性だと言える。M6/SETやSyn/Tyrで楽曲を聴くときは、何となくワクワクしたり時にはちょっと落ち着かない気分になったが、同じ曲をS2/Masterで聴くとは自然と背筋がしゃんと伸びる気分になった。それは決して緊張するという意味ではなく、あえて例えるなら禅における「無心の境地」で音楽に触れるという意味合いが近いのかも知れない。
それぞれに個性的なM6/SETとSyn/Tyrを比べると、私はSyn/Tyrの明るく優しい音が好きだ。M6/SETは太くパワフルだが、楽器間近で聞く機会の多い私にとっては高音の伸びやかさがもの足りなく感じられる。音楽表現にしても観客席寄りの音が出るM6/SETよりも、中高音が美しく奏者寄りの音が出せるSyn/Tyrが好みに合うようだ。ただ、Syn/Tyrは組み合わせるスピーカーと組み合わせる楽曲によっては「上手く鳴らない」と感じることもあった、つまり「相性が悪い」と感じられたことを付け加えておきたい。
料理の盛りつけに例えるなら、M6/SETやSyn/Tyrは洋食のように「自由奔放」なイメージ。定まった形を持たず、組み合わせるスピーカーや楽曲を変えると持っているイメージがある程度自由自在に変化する。S2/Masterは割烹の「正確で精緻」なイメージ。判で押したような正確な音は、組み合わせるスピーカーや楽曲を変えても、イメージを一定の枠から逸脱させない。
徹底的な聞き比べを行った結果、どのスピーカーもコンポも間違いのない製品だと確認できた。どれが一番優れていると結論づけられず、それぞれの「表現の流儀が違う」と言うのが正しい「まとめ」だと思う。
M6CD/M6iには、流行のUSB入力が装備されている。PCと繋いでその音質をテストした。CDと比べると音質は確かに劣るものの、十分音楽を楽しめる音質に仕上がっていた。また、M6CDのUSBにPCを繋いでM6iで聞いた場合と、M6iに直接PCを繋いで聞いた場合では、前者の音が明らかに良かった。最後に近日発売されるM3シリーズを聞くことができたので、簡単なインプレッションを追加してレポートを終える。
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まず始めに1028Beで試聴を開始した。一般的なこのクラスの水準品と比べると音質の透明感が高く、低域も少し力強く感じられる。しかし、M6に比べると全体的に音楽が単調に聞こえ躍動感が小さい。A5.5やM6で私が感銘を受けた、「ワクワク感」が少ないのだ。エージングが足りないように感じたので、とりあえず36時間ぶっ通しで鳴らしてから、もう一度聞くことにした。
少しは改善したが、それでもM6に比べると音が固く、音楽にボリューム感やエネルギー感が少ない。音は細かく綺麗だが力がないイメージの鳴り方に聞こえる。
スピーカーをBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)に換えてさらに12時間鳴らし込んで再試聴を行った。1028Beとの組合せから比べるとかなりエネルギー不足の傾向は改善されたが、仮にM6で鳴らすBEETHOVEN-CONCERT-GRAND(T3G)を100とするなら、せいぜい60-70程度の音でしかない。音楽を聞く面白さ、ワクワク感という意味では、私なら価格差を考えても迷わずM6を選ぶ。
Musical
Fidelityは、低価格でM6と同等の音質をM3で実現したと主張するが、私はそれは言いすぎだと思う。M6とM3の間には、価格差なりの音質差は確かにある。M3が良くできているとしても、Musical
Fidelityをお考えなら上位機種のM6をお薦めするという結論は覆らない。